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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七編 集団暴走

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第523話 なぞの物質

 出来あがった妖精の家の中も見せて貰ったが、木のぬくもりがある素敵な空間だった。

 さらにリアがパパッと生活に便利な魔道具も設置したので、これで不便も無いだろう。

 そうして妖精の家見学を済ませて外に出ると、少し離れた山でサバイバルをしているスッピーこと聖竜スプレオールが、妖精樹の大きさとそのエネルギーに目を丸くしながらやって来た。



「エーゲリア前皇陛下様たちは、もう行ってしまわれたでござるか?」

「ああ、昼前には帰ったよ。なんだ、やっぱり会いたかったのか?」

「いやいやいやっ、それがしごときがいてはお目汚しでござるよっ」

「そんな事は無いと思うがなぁ」



 実はスッピーにも妖精樹の件について見学に来るかどうか話したのだが、どうやらスッピーにとってエーゲリアとは、直に見る事すら不敬だと思う程に天上の竜──もはや信仰の対象として崇めていた。


 ならイシュタルは良いのかという話になってくるが、そちらは偶然とはいえ既に会ってしまっているので耐性が少なからず出来ているのだろう。

 それにイシュタルの即位を知らなかったし、なによりエーゲリアとは残してきた実績も年季も力も違いすぎる。

 だからまだ近くに来ることが出来るのだろう。



「それじゃあ、スッピーさんは何しに来たの?」

「いやあ、ここに御身がいらしたとあっては、是非参拝に参らねばと思ってな。

 ちなみにどの辺りに立っておられたのでござるか?」

「あのへんっすよー」

「おお、アテナ殿、かたじけないでござるよ」



 いそいそとエーゲリアが立っていた付近まで歩いていくと、スッピーは両の手を合わせて祈り始めた。

 「えぇ……」と新参のイェレナやその従魔ミロンとシードルも含め、全員がドン引きしていた。


 満足いくまでお祈りが出来たのか、すがすがしい顔で振り返ると、スッピーは突然大きな声でこう言ってきた。



「タツロウ殿! ここに社を建ててもいいでござるか!」

「良くないでござる!」



 そう竜郎が返すと、残念そうにしてスッピーは久しぶりに蒼太との模擬戦に向かった。

 しかし結果はボロ負けで、ニーナともやったがボロ負け。

 あらゆる意味でダメージを負ったスッピーは、再びサバイバル修行へと戻っていったのだった。


 さて、スッピーがそんな事をしている間に、竜郎達は次の目的について話し合っていた。



「次は今から23年前。リャダス領リャダスの近郊──らしいわ」

「なんだかヘルダムド国の領土内の発生確率が高い気がしますの……」

「アムネリ大森林を保有する国だからってのはあるかもしれないわね。

 弱体化させようとしている世界力に近いから、影響も受けやすいのかもしれないし」

「ん~なんにしても次は過去って事かぁ、しかもけっこう最近の。

 その頃って私たちはダンジョンの中にいて、時間をすっ飛ばしちゃった時だよね」

「ダンジョンに入ったのが確か992年だから、それから14年後って事になるな」

「……なら、リアの件も片付いて風化し始めている時期ですの」



 アーレンフリートと言う狂人とは会っていない時期なので、完全に終わっているとは言えない。

 けれど少なくとも、その頃にはモーリッツという商人はアーレンフリートに連れ去られ捨てられた後だろう。



「けど、その頃にはいなかったはずの私たちがウロチョロするのも不味い気がしますね。

 私の件が無かったとしても」

「それはそうっすね。なら今回は呪魔法で姿を隠しながら探し回るのが賢明かもしれないっす」



 この頃に誰かに会っていたという情報を現在、竜郎達は持っていない。

 だったらなるべく誰にも接触しない様に動いた方が得策だろう。

 それで会ってしまった、または知り合ってしまった人がいたとしたら、それはもう運命だ。会うべくしてあったと思うしかない。



「姿をくらませるのなら私の魔道具を使っておけばいいですし、パパッと人数分用意しておきます。

 それと吸血鬼戦で皆さんの装備も大分やられていたと思うので、今日中に私の《アイテムボックス》に送っておいてください」



 魔道具製作と装備品のメンテナンスで明日1日使い、本人はいらないと言ったが無理やりリアの休息日を1日取って準備期間2日を設け、明々後日に出発する事が決まった。



「ところでタツロウ。確かニーナの件で水神が新しいスキルを取れるようにしておいたと迷宮神が言っていたが、取ってみたか?」

「え? あっ、すっかり忘れてたな……。ちょっと見てみるか」



 他の事に気を取られていてすっかり忘れていた竜郎は、自分のシステムのスキル取得覧を立ち上げ何が増えているのか確かめてみる。



「《水神の加護》、《超水圧縮》、《竜水力収束砲》の3つだな。

 加護も気になるが、何気に竜種のスキルがあるんだが……」

「全竜神も感心していたみたいなことも言っていたしな。

 その辺が関わっているのではないか?」

「あーそうかも知れない」



 まあ、貰えるのなら貰っておこうと竜郎はSPをそれぞれ100、60、50の合計210支払って、水系スキル3つを新たに手に入れた。

 効果としては《水神の加護》は、水魔法のレベルを+1、レベル10までの水魔法の攻撃完全無効化、水魔法の消費&制御力軽減。水系統のスキルを取得しやすくなる。

 《超水圧縮》は水を水魔法で出来る以上に圧縮することが出来る。

 《竜水力収束砲》は超強力な水の収束砲──と言った所。



「《水神の加護》は、私たちクリアエルフが持っている寵愛系スキルを弱体化させたような感じね」



 レーラや他のクリアエルフが持っている《○○の寵愛》スキルは、魔法レベルを+3、属性装備(レーラは氷のドレスと王冠)による防御と吸収能力、属性に応じた環境耐性(レーラは寒冷地帯に完全対応)、消費&制御力軽減、スキル取得難易度超々低下など、その属性に限れば完全なチートスキルとなっている。


 それだけ聞くと《水神の加護》は大したことのないように思えるかもしれないが、初期スキルでこれを与えられれば、その人物は努力次第では凡人を圧倒できるようになれる程度には破格のスキルである。



「あれ? でもこれってとーさんなら、《魔法域超越》も併用すれば水魔法を24レベルまで上げられるようになったって事っすよね。

 そう考えればそれだけでもかなりお得っすね」

「水魔法に限れば常時+1されているみたいですし、十分優秀なスキルです」

「それに超水圧縮は恐らく、以前ダンジョンのエクストラステージで戦ったダンジョンの個と同じようなことが出来るようになったかもしれませんの」

「ああ! あのやたらと硬い水の壁だね。あれは厄介だったなぁ~」



 あれでも本気ではなかったのだろうが、ダンジョンという高次元存在がやっていた圧縮された水壁の強度は半端ではなかった。

 今の《超水圧縮》を得た竜郎ならば、天照の演算能力と月読の助力もあればアレに近い事は容易に可能となるだろう。



「他にも応用がききそうだし、いろいろ考えてみるか」



 レーザーがあるので収束砲は無くても困りはしないが、竜種のスキルなので強力だ。持っていても損はないだろう。

 そうして竜郎が新たにスキルを覚えた所で、のんびり一服してから各々自分の作業に戻っていった。




 あっという間に出発の朝になった。

 竜郎たちはいつもの地下室までやってくると、認識阻害のネックレス型魔道具を首にかけ起動する。

 36年前──いや、あれから暦も変わり37年前にこの世界に来てはいたが、23年前のこの世界の記憶はないのでレーラ頼りだ。


 竜郎はレーラの記憶を頼りに過去転移を発動させ、23年前のオウジェーン大陸。

 朝日が昇るかどうかといった頃あいの、天魔の国ゼラフィムの港町にやって来た。

 どうやらこの頃にはレーラは既にこの国にやってきていたらしい。



「クリアエルフとしての封印を解いてしまっていたから、とりあえずこの国で過ごそうと思ってたのよ」

「まあ、他の国だと信仰の対象にされそうだからな……」



 というわけでここから目的地のヘルダムド国、リャダス領のリャダスまでは海を超えて行く必要がある。

 さっそく広い場所に向かいジャンヌの空駕籠に乗り込むと、ヘルダムド国のあるイルファン大陸へと飛んで行った。


 認識阻害は発動しているのでジャンヌはガンガン飛ばしていき、1日もかからずにリャダスの町の真上までやって来れた。



「それじゃあ、ジャンヌ。この近辺をぐるりと見まわってみよう」

「ヒヒーーン!」



 空駕籠から出て、全員各々の方法で空を飛びながら世界力溜まりが無いかを探していく。

 解析系のスキルを持っていない愛衣やジャンヌ達なども、変な地形や物体、存在がないか肉眼で見て探す。


 しかし夜が更けるまで近郊──そう呼ばれるであろう範囲内を空からぐるぐると見回ってみても、別段おかしなところは見当たらなかった。

 なのでとりあえず人気の無い場所にマイホームを出して、一泊しながら作戦タイムだ。



「空から探しても見つからないという事は……地下、もしくは地中かもしれませんの」

「どっちにしろ地面の下ってのが一番可能性が高そうだな」



 精霊眼は物質を無視してエネルギーを見ることが出来るスキルである。

 けれどそれだと、どっちが前でどっちが上なのか空からだと解らなくなりそうなので、地表に出ている世界力の濃い場所のみを観るようにしていたので地中までは調べていない。

 カルディナも地中まで範囲に入れてしまうと、地上の探査範囲が狭くなるので同じだ。



「なら明日は地道に地中捜査だね」

「また組み分けして調べた方が良さそうね」



 地上にあれば空から見つけられるのに、地中にあるとなると地面を歩いた方が効率的だ。

 けれどその分時間がかかるので、明日は面倒くさそうだと皆微妙な顔をして寝室に向かっていった。


 翌日。早起きして朝食をとると、すぐさま竜郎、カルディナ、レーラ、イシュタルを主軸にした4チームに別れて、地中の中に何かないか捜索に出かけた。


 地表を駆けまわりながらかなり深い場所まで探っていると、《アイテムボックス》を通してカルディナから他チームに連絡が入った。

 どうやら何かを見つけたらしい。現在地を書いた簡単な地図が送られてきた。


 場所は街道からかなり逸れた場所にある、ややじめっとした苔むした岩や木が生えた荒れ地だった。

 急いでそこへ向かうと竜郎と愛衣、天照、月読チーム以外は全員既にそこへ揃っていた。



「何が見つかったんだ?」

「この下になんか変なエネルギー?があるらしいんすよ」

「何で疑問形?」



 不思議に思いながらもまずは観てみようと精霊眼を発動させると、確かに世界力っぽい色をした何か平べったい円盤状の巨大物質が、地中深くに埋まっていた。

 解魔法で調べても似たような事しか解らず、ここから詳しく調べるには無理がある様だ。

 だが直接観ることが出来れば、リアなら大概何か解るだろう。



「ってことは、とりあえず掘り出してみるしかなさそーだね」

「ですね。まだ何か良く解りませんし、慎重にいきましょう」



 土魔法が高レベルで使える竜郎、カルディナ、イシュタルを主軸に、アテナのサポートも加えて地面を掘り進めていく。

 前のニーナがいたダンジョンを埋めた穴よりは全然浅いが、それでもかなり深い場所に謎物質がある。

 リアが言っていた様に何か解っていないので、慎重に物音一つ立てずにゆっくりと謎物質に向けて穴を広げていく。


 時間にして1時間くらいかけて、謎物質まで数メートルという所まで穴をあけたが何の反応も無い。

 3メートル、2メートル、1メートル……まだ反応はない。



「このまま完全に穴をあけてみるか。月読、念のため障壁を頼む。

 他の皆も直ぐに動けるようにしておいてくれ」



 全員が身構えたのを見てから、竜郎も慎重に最後の一堀りを土魔法で行使した。

 謎物質の一部が完全に掘り起こされて剥き出しになった──が、特に何も起きなかった。


 一応警戒はしたままだが、イシュタルは拍子抜けしたかのように穴を覗き込み口を開く。



「何も起きなかったな。これは下まで降りてみるしかないんじゃないか?」

「だな。それじゃあ、もう一仕事行こうか」



 竜郎はそう言って杖で地面を指すと、謎物質と繋がっている穴を中心にすり鉢状に周囲を広げ、滑らない様に階段も作っていく。

 どうせ誰も住んでいないし来ている人もいなさそうなので、多少地形を荒らしても問題ないだろう。

 特に何もなさそうなので、穴を掘っていた時よりも遠慮なしにやったので今回は直ぐに作業が終わる。



「それじゃあ、れっつごー!」



 愛衣の掛け声とともに、竜郎たちは謎物質に向かって階段を下りていくのであった。

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