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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六編 ダンジョンと妖精樹

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第522話 シュルヤニエミ

 竜郎の魔力を貰って満足した妖精樹の化身の大ガメ──ルトレーテは、じっと竜郎を見つめて目線だけで礼をすると、もう用事はないとマイペースに妖精の子供たちを乗せて妖精郷へと帰っていった。

 その際には、あのコーンコーンという音も聞こえ、どうやら空間を繋ぐためには音がなるような共振と共鳴をしないと駄目らしい。

 幸い騒音と言う程大きい音でもなければ、何分も続くようなモノでもないので問題はないだろう。

 いざとなればリアのノイズキャンセラーを設置すればいいし、これはこれでインターホンの様で便利かもしれない。



「さて、これで今回のイベントは大体終わりですかね。楽しんでいただけましたか?」

「ええ、この歳になってこんなにも初めてのことが経験できるとは思わなかったわぁ」

「ほんとですねぇ、エーゲリア様ぁ」



 今回のゲストである重鎮二人も大満足な様子で、竜郎も肩の荷が下りた思いだった。



「そういえば私たちもルナちゃんに頼めば簡単に妖精郷に行けるの?」

「行ける……けど……兄の許可も無いと……向こう側の入り口が開けない……」

「念話みたいので今いいかどうかくらいは聞けるんだよな?」

「うん……。いまから……行ってみる……?

 管理者さんたちなら……兄もいいっていうと思うし……」

「私たちもぉ、歓迎するわよぉ~。

 前に来てって言ったのにぃ、全然来てくれないんだものぉ」

「すいません。こちらも色々忙しくて……」

「ふふふっ、別にいいのよぉ。いつでもいいって言った気もするしぃ。

 でも来る気はあるのよねぇ?」

「ええ、素晴らしい所だと聞いていますし、行き来も簡単に出来るようになったので近いうちに是非行ってみたいと思います」

「あらぁ、それなら私たちも準備をして待っているわぁ。

 リアちゃんのためにも、あなた達のためにも本格的に敷地を用意させておかなきゃぁ。

 そうすればダンジョンも作ってくれそうだしぃ」

「妖精郷にもダンジョンが欲しいんですか?

 いるというのなら飛地を作るくらい全然いいのですが」

「ダンジョンって危険もあるけどぉ、その分見返りもあるからぁ、実力者からしたらいい稼ぎ場なのよぉ。

 うちには血気盛んな子達も大勢いるから、そう言う子達のガス抜きにも使えるしねぇ」



 さらに竜郎達のダンジョンは死ねば失うモノも大きいが、本当に死ぬことは無い。

 それは国民を愛するプリヘーリヤからすれば、いざという時の保険として嬉しいシステムだと思えた。

 その上で資源や宝が手に入るのだから、竜郎達のダンジョンは非常に魅力的なのだ。


 竜郎はその時には飛地を作る事を了承し、その代わり竜郎たちならいつでも妖精郷に遊びに来ていいと改めて確約して貰った。

 ただ今すぐ妖精樹からというのは妖精郷の人達も驚くだろうから、来るのなら数日後くらいにして欲しいと側仕えの人からお願いされたので、そこも了承しておいた。


 妖精郷には、そこにしかない素材もあるだろうし、最終決戦へ向かう前に一度は寄っておこうかなと竜郎は思ったのだった。




 その夜はカルディナ城で、お客たちにララネストや極上蜜などで作った料理をふるまい、酒は無いが宴会の様に皆で盛り上がって新たな妖精樹の誕生を祝った。


 そして夜が明けると、エーゲリア達は帰る支度を既に始めていた。

 なんだかんだ言っても二人ともやる事も多いので、いつまでものんびりしている事は出来ないのだ。

 昼前には帰りの支度も整い見送りの時間となった。


 行きは竜郎の記憶が必要だったが、帰りはエーゲリアの転移で帰れるのでついていく必要はない。



「それじゃあ、これを設置すればいいのね。

 こっちが受信でこっちが送信であっているかしら?」

「ええ、それであってます。発動の方法は──」



 リアとレーラの方はエーゲリアとプリヘーリヤが転移装置を竜郎達の領地、エーゲリア島、妖精郷の三つに設置して、性能テストや互いの親交を深めようと画策中。


 ただしせっかく閉じているセキュリティ万全な妖精郷に別口を開くには、それなりに考えなければいけない事も多い。

 人によって識別できるような使用制限や鍵を付けるなどして、万全を期してからの方がいいだろう。

 けれどちゃんと相互に距離がかなり離れた場所へ行けるかどうか、実地で試す必要はある。


 その間にイシュタルは──。



「イシュタル様。どうか御無事で」

「解っている。ミーティア。そちらも私がいない間、母上を支えてくれ」

「はっ!」



 眷属の紅鱗の女性竜人──ミーティアと別れの挨拶をしていた。


 それから皆で別れの挨拶をかわし、エーゲリアが転移で帰ろうという所で思い出したかのように口を開いた。



「ねぇ、タツロウ君。ニーナちゃんに、また会いに来てもいいかしら?」

「ええ、ニーナもきっと喜びますよ。それに、こちらがお邪魔するときにも連れていきます」

「それは嬉しいわ、ありがとう。ばいばい、ニーナちゃん。また来るわ」

「ギャァ~」



 エーゲリアが手を振ると、真似するようにニーナも手を振り返した。

 昨晩もエーゲリアはニーナと遊んでいたようだし、よほど気に入ったらしい。


 というのも、実はニーリナはエーゲリアにとって第二の母の様な存在であり、姉の様な存在でもあった。

 さらに彼女は生涯にわたってイフィゲニアやエーゲリアにつくし、自分の子孫は1体も残していない。

 だからだろう。唯一ニーリナを継いだ存在として、叔母心に火が付いたというのか、とにかくニーナが可愛くて仕方がないようだ。



「それじゃあ、本当に行くわね。面白いものを見せてくれてありがとう──」



 最後に大切な娘──イシュタルにも微笑みかけて「頑張りなさい」とだけ言い、プリヘーリヤ達も連れて帰っていった。




 しかし今現在、ここには一人の妖精種の女性が2体の魔物を連れて残っていた。

 彼女こそ、今回この領地に止まって妖精樹の経過観察を任された人物であり、プリヘーリヤの護衛をしていたうちの一人である。



「改めて自己紹介を。普段は妖精郷で妖精樹の管理を任されている、イェレナ・シュルヤニエミと申します。

 そしてこっちの子はミロンとシードルです。よろしくお願いします」



 イェレナが連れてきていた2体の魔物のうち、3メートルサイズの緑色の大蛇をミロン。

 葉が生い茂る木の枝が角となっている、高さ2メートルの大鹿をシードルというらしい。

 2体ともなかなか強力な樹属性の力を持っているようだ。



「ええ、よろしくお願いします。

 ……ところでイェレナさん。つかぬことをお聞きしますが、シュルヤニエミという名字は妖精種の中では多い方なのでしょうか?」

「はい? ……シュルヤニエミ家は、由緒正しい妖精樹の管理を代々任されている一族です。

 なので、その名は他家の妖精たちは名乗っていないはずですが……それが何か?」



 唐突に切り出された質問に、イェレナはキョトンとしながら首をかしげる。

 けれど竜郎は、それじゃあもしかしてと、ある人物の顔が脳裏に浮かび上がっていた。



「ヨルンと言う亜竜を連れた、マリッカ・シュルヤニエミという名前の女性に心当たりはありますか?」

「あら? マリッカちゃんとお知り合いなんですか? あの子は私の姪っ子ですよ」

「ああ、やっぱり親族の方だったんですね。以前、お世話になった事がありまして」

「えぇ!? そうなんですか~。世界は狭いですね~。元気にしてましたか?」

「最近は会えてませんが、とても元気にしてましたよ。

 今はこの大陸にあるヘルダムドという国の、リャダス領の主都で町長をやっているはずです」

「へるだむど? 聞いたことのない国だけど、一都市の町長なんて流石マリッカちゃん。

 私たちの一族の子供たちの中でも特に優秀だったから、妖精郷に帰って来る頃にはきっと凄く立派になっているんでしょうね」

「会いたいのなら暇になった時にでも転移魔法でお送りしますけど?」

「う~ん。それなら妹のマルファ──マリッカちゃんの母親なんですけど、その子も一緒でいいですか?

 しばらくは妖精樹にかかり切りになるので、まだ先の話でしょうが……」

「ええもちろん。僕らも久しぶりに会いに行きたいですしね」



 マリッカにもだが、エンニオにも久しぶりに会いたいなと愛衣と目と目で語り合った。

 それからイェレナにはカルディナ城の空いている部屋にでも泊まって貰おうと思っていたのだが、出来るだけ妖精樹の近くの方が落ち着くという理由でダンジョンの入り口がある平原に家を建てることになった。


 カルディナ城に近いので、蒼太や地中にいるワーム隊なども対処できるとは思うが、それでも危険ではないかと意見した。

 しかし実際には妖精郷の妖精樹の管理者筆頭だったのでここについて来たのだが、イェレナもプリヘーリヤの護衛を任せられるほどの実力者でもある。

 

 例え勝てないまでもミロンとシードルという相棒と共に戦えば時間稼ぎくらいは出来るし、直ぐに助けに来られる距離なので問題はないということになった。

 さらに、妖精樹の近くにいるという事はルナも近くにいるというのを忘れていた。



「私がいれば……だいじょーぶ……」

「頼りにしてます、ルナ様」

「まかせて……」



 彼女もまたルトレーテ同様に莫大なエネルギーを秘めた存在であり、どうやらダンジョンのボスとして設定した女性幽霊の超々強化版の様なスキル構成になっていた。


 なので一時的にだが強力な植物系の魔物を眷属として召喚しまくり、尚且つ広範囲にわたって強力な障壁を張ったり相手の動きを封じたりと、防衛に非常に特化していた。

 さらにこちらはエネルギー切れを起こす事はほぼないので弱点すら無い。

 妖精樹の周辺にしか行けないという制約を除けば、こんなに心強い味方はいないだろう。

 イェレナは彼女の力も見越したうえで、そこに住めると確信していたのだ。



「この辺りに家を建ててもいいですか?」

「舗装してない場所だったらどこでもいいですよ。どっちみち空き地だらけですから」



 イェレナは妖精樹から10メートルほど離れた場所に家を建てる様だ。

 そう。今回は竜郎や月読ではなく、彼女自身が妖精の家を建てるところを見せてくれるらしい。


 イェレナは《アイテムボックス》から植物の種を1粒取り出すと、建設予定地に置いた。

 そして彼女の身の丈約150センチ近くある杖を取り出し両手に持った。



「ミロン、シードル。いくよっ」

「シャーー」「クーーン」



 イェレナは大蛇のミロンと大鹿のシードルに何かのスキルを使ったのだろう。

 一人と二体の体が緑色に発光し始め、その光エネルギーが混ざり合い高め合って輝きが増していく。



「せーのっ!」



 イェレナが杖をブンッと振り上げると、それに遅れてニョキッと種から芽が出て、すぐに苗になる。

 杖を下にゆっくり降ろしてまた振り上げると、苗はニョキッと長く太くなる。

 杖の上げ下げを繰り返すたびに立派な木に変貌していく。



「どっこいしょ~!」



 高さを2階建ての家くらいまでにすると、今度は杖を横に振り始める。

 すると木がどんどん太くなっていき、最終的には傘状になっている上部と同じくらいまで周囲が広がった。



「おもしろーいっ」

「竜大陸では妖精建築と言われているな。だが、アイ。面白いのはここからだ」

「えっ!? なんだろなんだろ~」



 無邪気に先を楽しみにする愛衣を微笑ましく見守りながら、竜郎はそっと彼女を抱き寄せ一緒に続きを見ていく。


 イェレナは木を満足のいく高さ、太さ、形に調整し終わると、一度杖を降ろして魔力を練って周囲に蓄積させていく。それは従魔の2体も同じだ。

 そして十分に必要なだけの魔力を練り終ると、3つ分のエネルギーを混ぜあって杖に集めて木に向かって放出した。



「ぐ~るぐる! ぐ~るぐる!」



 150センチくらいの小柄で可愛らしい顔立ちの女性が、長い杖を持ってピョンピョン飛び跳ねながら、杖を指揮者のタクトの様にあっちへこっちへ振っていく。

 その姿は客観的に見て、かなり和やかな光景だった。


 しかしそれとは対照的に、ダイナミックで非現実的な事象が目の前で繰り広げられる。

 まず木の根元の辺りがボコッと内側に凹み始めたかと思えば、玄関口らしく穴が出来あがる。

 ゴリゴリと大よそ木がたてるような音とは程遠い異音が中から聞こえてくる。

 けれどイェレナは気にした様子も無いので、これで正しいのだろうと竜郎たちもそのまま見守っていく。


 するとボコッと凹んで穴が開いたかと思えば数か所で窓枠が出来あがり、窓枠の向こう側には大樹をくり抜いたかの様な空間が広がっている。

 そのままイェレナはぴょんぴょこ大樹の前で杖を振り回し小躍りすると階段、木のテーブル、木の椅子、木のクローゼットと家具類が作られ思うがままの場所へと設置されていった。



「ふぅ~。これでおーしまいっと!」



 最後に杖をピッと上に掲げると、穴だけだった玄関口に入り口がボンと嵌り、あっというまにファンシーな木の家が出来上がった。



「すごいすごーい!」

「ほんとにな。樹魔法とは少し違う気がする」

「ふふふ、うちの家系は木に強いので、こういうのも得意なんですよ」



 見事な建築っぷりに竜郎や愛衣も思わず拍手をしていると、照れくさそうにイェレナは笑ってそういった。


 どうやらシュルヤニエミの家系は、木を思うがままに扱うスキルを高確率で所持しているらしい。

 またその関係か、樹属性の魔物に非常に好かれやすいという特性まで持っているとの事。



「でも窓は自分で買ってこないといけないんですけどね」

「ああ、ならプレゼントしますよ」



 そう言って竜郎は竜水晶の窓と窓枠を木の家に嵌めこんでいき、一時的にとはいえ新たな住民を歓迎したのであった。

次話から集団暴走編始動です。

次回、第523話は7月11日(水)更新です。

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