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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六編 ダンジョンと妖精樹

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第521話 ダンジョンの変わった点

 途中リアが連れ去られるというハプニングはありながらも、最終的にはリアはエーゲリアやプリヘーリヤに転移装置の技術提供を、そしてエーゲリアやプリヘーリヤはリアに竜大陸や妖精郷だけが持つ技術提供を──という事で決着がつく。

 3人とも自分にとって満足のいく結果が得られたことで、ご満悦の様子。



「それじゃあ、ルナさん。続きをお願いできますか?」

「わかった……」



 ダンジョンとリンクした妖精樹の化身ルナ。

 彼女が喋る事が出来るおかげで、自分たちで調べるよりも早くダンジョンの現状について情報が入ってくるのでありがたい。


 まず変化した部分の1つ目は、先にも言った飛地を作れるというもの。


 そして2つめは、当初リアが予想していた様にトータル値の上昇。

 ダンジョン全体で使える魔物の数や強さ、領域の広さ、罠の数や危険度を今よりも上に設定できるようになった。

 これによりダンジョンレベル5で実質4.5の規模しかなかった竜郎たちのダンジョンは、ルナの補助が付いたおかげで実質5.8くらいまで成長したと思っていい。


 3つ目は、ダンジョン内の魔物の知能レベル上昇。

 これは任意で個々に設定出来る事だが、他のダンジョンにはない新設定枠といってもいい項目だ。

 管理者は魔物の外見はいじる事は出来るが、頭の良さまではいじる事は出来ない。

 やれたとしても、命令してこうしろと機械的に動かす事がせいぜいだった。


 けれど妖精樹の影響で本来ならどんなに成長しても強化しても本能でしか動けない魔物も、理性的に合理的に状況を考えて攻略者と戦うことが出来るようになったのだ。

 なので例えば単体でただ突撃してくるだけだった魔物も、群れで統率の取れた動きをして狩りをするようになるかもしれないし、罠を自分で作り始めるかもしれない。



「これは面白いな。特に力はあるが頭の方は……という魔物が、ちゃんと考えて襲ってくるとなると難易度も上がる。

 ある程度自分で自分に制限を付けて入れば、私にとってもいい訓練になりそうだ」

「そうね。自分たちの設定していない、思いもよらない事が起きる気がするわ。

 私の階層を実験施設にして研究してみようかしら」

「もし面白い事が起こったらレポートよろくね、レーラ」

「ええ、解ってるわ。任せておいてエーゲリア」



 4つ目は管理者がダンジョンの魔物に同期して、VRゲームの様に操作できるようになった。

 なので竜郎が幽霊魔物になって攻略者と戦う事も出来るし、なんなら逆に攻略者側になって魔物と戦う事まで出来てしまう。



「闘技場でも作って、そこで自分の好きな魔物を選んでバトル──なんてやったら、ちょーリアルな格闘ゲームになりそうだね」

「面白そうっすね! あたしやってみたいっす~」

「それに魔物の体を動かせるという事は、その魔物についてより深く知る事も出来そうですね。

 こういう動きが得意だとか、こういう動きはできないとか、ここは死角になっているだとか」

「そういう視点で研究してみるのも面白いかもしれないわね!」

「うぅ……羨ましいわ……。ねえ、イシュタル。お母さんに管理者権限譲ってみない?」

「絶対に嫌だ!」

「ケチーー」

「ケチで結構!」



 5つ目は管理者がルナに頼めば、好きな階層へ好きな様に行けるようになった。

 レベルが上がるほどに階層数も増えて狙った階層に行きにくくなっていたので、自分の作った階層や他の誰かが作った階層の○○に行きたいといった時には便利だろう。



「いきなりボス戦! ってのもできるのか?」

「できる……けど……それでクリアしても……SPは貰えない……」

「まあ、それはしょうがないよな」



 さすがにボスだけ倒してSPを~などと言う事は迷宮神も許可できない。

 なのでそれだけは正規クリア者だけに送られる様になっている。


 そして6つ目。

 これは死者の出ないダンジョンにすることが出来る──というもの。



「それじゃあ、ダンジョン内で死んだらどうなるというんですの?」

「強制的に……出口に送られる……」

「それじゃあ、ただのゲームになってしまいますの。

 安全に訓練できると思えばいいのでしょうけれど」



 もちろん死人が出て欲しいなどと奈々も思っていない。

 だがダンジョン内で死んだとしても何も無いとなると、せっかく作ったのに緊張感がなくなってしまいそうだと残念そうに呟いた。


 けれどそこまで都合よくは出来ない様だ。



「けど……ダンジョン内で死んで……復活した場合……。

 レベルは最大で……4分の1まで……しか残らない……。

 それに……《アイテムボックス》内にある物……システム内の所持金……。

 身に着けている装備……衣服に至るまで……、全部ダンジョンに吸収……もしくは没収される……」



 そもそもダンジョンにとって、中で死んだ人間がシステムに蓄えていたレベルという名の世界力は収益になる。

 それを使って自身のレベルを上げたり、魔物や宝物を作ったりすることもできる。

 もはや死者の物を貰うというのは、ダンジョンの基本構成として組み込まれている事なので死んだのに何もなし──とは妖精樹の力を持ってしてもできないらしい。



「ダンジョン内で死亡判定されたら、これまで蓄えてきたレベルや経験値からなにまで身ぐるみ剥がされてポイって事か」

「でもまあ、死んじゃうよりはいーよね」



 ただ死ぬ直前に負った傷は無かった事にしてくれるが、例えばその前に死ぬ原因にならなかったけれど大怪我を負っていた場合、そちらは癒えないので治療をしないと死ぬという事はあるだろう。



「そういえばレベルは最大で4分の1と言っていたけれど、人や行動によって減り幅が違ったりするのかしら」

「そのへんは……ランダム……。運が悪いと……死んだときレベル100の人でも……レベル1になる事もある……。

 運が良ければ……レベル25ですむかもしれない……けど……」

「レベル100の人がそうそう死ぬとは思えないけどぉ、それはいやねぇ~。

 それまでの人生で必死に上げたレベルでしょうしぃ」

「ですね……。私だったら絶対に嫌ですもの」



 プリヘーリヤの言葉に、護衛の妖精たちも同意していた。



「何にしてもノーリスクではないって事か。

 でもそれならある程度自己責任って事で飛地を領地の端の方に作って、そこからよその冒険者を招き入れてもいいかもしれないな。

 自分たちの作ったもので死人が出るってのも嫌だなと思ってたし」

「それは良いかもしれませんね、兄さん。

 言いかたは悪いかもしれませんが、内部で死んでくれれば、こちらの使える世界力が増えるわけですし、外部の人ならそれほど罪悪感もありません。

 何せ本当に死ぬわけじゃないんですから」



 さらっとリアが身も蓋も無い言いかたをしたが、挑むかどうかは向こうに選択権があり、順当にクリアできれば魔石や宝物などの利益もあるのだから、失敗した時に徴収しても文句はないだろう。命までは奪わないのだから。


 以上がダンジョンにおいて現状変わった点である。

 しかし今後、妖精樹が成長しルナが経験を積むにつれて、出来る事は増えていくかもしれない。



「世にも奇妙な死なないダンジョンって事で、有名になるかもしれないわね。

 ふふっ、いろいろ調整が楽しみになって来たわ」

「何とかしてダンジョンと妖精樹を手に入れられないかしら……。

 妖精樹の方は私でもなんとか……でもダンジョンは……ぶつぶつ……」

「母上……まだあきらめてないのか……」



 エーゲリアはここにきて、これまで自分が経験したことのない事象がいくつも起きたことで非常に好奇心が刺激されたようだ。

 そんな母親の姿を半ばあきれた表情でイシュタルは見つめていた。


 と、そんなことを話し合っていると、ルトレーテが竜郎の方へと顔をにゅ~と伸ばして目の前にやって来た。

 とくに敵意も感じなかったので逃げはしなかったが、それでも10メートルクラスのカメの頭が目の前にあるというのは、なかなかに圧迫感がある。

 竜郎は思わず一歩下がってしまう。



「えっと……なんですか? ルトレーテ様?」

「これ……やる……」

「ほんとにしゃべったよっ」

「あらぁ~私も久しぶりに、喋っているのを聞いたわぁ」



 愛衣が驚き、プリヘーリヤが呑気に喜んでいると、ルトレーテが大きな口をパカッとあけて、喉の奥から大きな水色に深緑が混ざった綺麗なガラス玉のようなものを吐き出した。

 そしてそれが『これ』を指していると言わんばかりに、鼻先で竜郎に押し付けてきた。

 吐き出したものなのでばっちぃのではと失礼な事を考えはしたが、別に涎や胃酸がついているわけでもないので触ってみる。

 シルクの様な滑らかな手触り、それでいてグミのようにぷにぷに。なかなか触っていて気持ちが良い物体だ。



「ありがとう……ございます? というか、これは何なのでしょうか」

「それはルトレーテ様の宝珠と妖精郷では言われているわぁ。

 どうやら妖精樹内部で余剰分のエネルギーを固めて体内で保存し、いざという時のエネルギー源にするために溜めこんでいるらしいのぉ」

「人間でいう脂肪みたいなものなんですね」

「たつろー……もっといい例えは無かったの?」



 愛衣は勿論、妖精郷では国宝扱いの代物なので妖精たちは残念そうな顔で竜郎を見ていた。

 プリヘーリヤだけはクスクスと笑っていたが……。



「なんだか貴重なものの様ですが、僕が貰ってもいいんでしょうか。

 妖精郷にとって国宝なんですよね?」

「いいのよぉ。ルトレーテ様が直にタツロウ君に渡したのよぉ?

 それを私たちが貰うなんて恐れ多くてできないものぉ。

 だからぁ、遠慮なく貰っておいたらいいと思うわぁ」

「はあ。ならありがたく貰っておきますが……何故ルトレーテ様はこれを僕に?」

「……………………」

「えーと……」



 理由を問いかけてもじっと大きな眼で見つめて来るだけで、黙ったまま返事をくれない。

 竜郎は困ってしまい、どうしたものかと視線を巡らせているとルナがフワフワと近づいてきて教えてくれた。



「妹……つまり私が生まれた……お祝いだって……兄が……いってる……。

 あなたに渡したのは……あなたが管理者の代表みたいだったから……って……」

「お祝いですか。ならお返しを上げたいところですが、何か僕に出来る範囲での事はありますか?」

「……………………」

「なら……あなたの魔力を注いでくれ……って、いってる……。

 沢山の属性が混ざってると……なおいい……」

「魔力を?」

「妖精樹は魔力を栄養にすることが出来るからぁ、妖精郷では妖精たちが果実のお礼に魔力をあげるのが習わしになってるのよぉ」

「そうなんですね。ならルナも欲しいか?」

「貰えるのなら……ほしい……」



 ルナも欲しいそうなので、二人同時にあげることにした。

 魔力はエーゲリア達を連れてくるときに使ったが、もう全快しているのでたっぷり渡しても問題ない。

 竜郎はルトレーテの鼻先に手をおき、握手するようにルナの手を取って12属性の魔力をガンガン流し込んでいく。

 愛衣は魔力回復のために竜郎の背中にくっ付いて来てくれたので、回復速度も上がって送れる量も増えていく。



「「…………♪」」

「ふふっ、なんだか気持ちよさそうだね」

「だな」



 竜郎は後ろから抱きついてくれている愛衣と視線を合わせ、二人で微笑みあった。

 やがて「その辺でいいんじゃないかしらぁ」という、プリヘーリヤの呼びかけがあった所で竜郎は魔力を止めた。



「なんて魔力量だ……」

「いったい私何人分なのかしら……」

「あれだけあればもっと従魔を……」



 竜郎もレベル1000を超え、魔法職であり魔神の系譜と言うクラスでもあるので魔力の上がり幅は非常に大きい。

 なのでこれでもまだ余っているのだが、妖精郷の護衛の者達は竜郎が与えた魔力量に慄き、ドン引き、憧れてと三者三様の反応を見せていた。

 それに苦笑しながらも竜郎はルトレーテとルナへと視線を戻すと、温泉に入って気が抜けた時の様なだらしない顔でぼ~っとしていた。

 どうやらお気に召したようだ。



「……………………」

「あなたの魔力……他の人より量も多いし……何か美味しい……。

 だから……また食べに来ていい? って……兄が言ってる……。

 あと……私も欲しい……」

「ええ、もちろん。いいですよ。それにルナも」



 そういうと、ぱぁっと嬉しそうに二人の顔に花が咲いた。

 もしかしたらここでも魔神の系譜の魔力が効いているのかもしれないなと、密かに竜郎は思ったのであった。

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