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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六編 ダンジョンと妖精樹

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第519話 妖精樹

 本日は晴天。お日柄もよく、妖精樹の種を発芽させるのにもってこいの日となった。

 竜郎はイフィゲニア帝国の城で待つエーゲリアとプリヘーリヤ達を迎えに行き、軽く挨拶を交わしてから領地内のいつもの砂浜まで転移した。


 そこでまず目にするのはやはりカルディナ城で、総竜水晶で出来た美しい城を美術品を見る様に暫し眺めていた。


 ちなみに今回ここに連れてきたのはエーゲリアとプリヘーリヤの他に、竜大陸からはイシュタルの今いる場所をどうしてもみたいと申し出てきた紅鱗の女性竜人のミーティアが一人。

 妖精郷からは護衛の妖精達が3人──魔法使い2人に二体の魔物を連れたテイマー1人。側仕えが1人。

 大勢で押しかけるのも悪いだろうと、必要最低限の人数で来てくれたらしい。


 ただプリヘーリヤ自身はエーゲリアもいるし、自衛も出来ると1人でいいと言ったのだが、御身を一人きりにさせられない──という気持ちもあったものの、妖精樹が生まれる瞬間に立ち会いたいと志願者がうじゃうじゃいたので、絞りに絞って今回の人数になったようだ。



「あら? あの子は……」

「ギャゥゥゥゥ…………」



 カルディナ城を見ていたエーゲリアが、ふと竜郎の側に来たそうにしていながらも、知らない人ばかりなのでどうしようか遠巻きで迷っているニーナに目線を送った。

 ニーナはエーゲリアと言う世界最強の生物に視線を送られて、ビクッとした後に砂浜で待っていたレーラの後ろに隠れた。



「懐かしい気配が微かだけどするわ。ニーリナに関係のある子かしら?」

「あー……、実はあの子は──」



 良く解ったなと思いながら、竜郎はニーナの心臓がニーリナのものだと告げた。

 すると紹介してほしいと言われたので、竜郎はニーナの元まで行って安心させるように首筋を撫でながらエーゲリアの元までやって来た。

 けれど竜郎がいてもエーゲリアが恐いのか、完全に委縮してしまい竜郎の後ろに隠れてしまった。

 実際には大きさ的に隠れられていないのだが……。


 そんな態度に幼子を優しく見守る母の様な目でエーゲリアが「こんにちは」と微笑みかけると、それで少しは余裕が出てきたのか「ギャゥ?」と頭を竜郎の体の横から出して覗き込んできた。


 その姿が可愛くて皆がホッコリしていると、おもむろに手を伸ばしてエーゲリアはニーナの頭を撫でた。

 初めはビクッと体を硬直させたものの、大きな手で撫でられる感覚が良かったのか、気持ちよさそうに身をゆだねて目を細めた。



「人見知りのニーナがこんなに早く懐くなんてびっくりだな」

「ニーリナと母上は仲が良かったからな。心臓だけだとしても、何か感じるものがあったのかもしれない」



 心臓移植された人の性格が変わったり、覚えのない記憶を思い出したりなんて話は地球でも耳にしたことがあった。

 竜郎は、そういうものもあるのだろうと納得しながらニーナを見つめた。


 ひとしきり撫で終わって満足したのか、エーゲリアは手を戻してもっと撫でて欲しそうにしているニーナをじっと見つめてから、竜郎へ話しかけてきた。



「この子を戦わせたことはあるかしら?」

「戦うというより、その辺の魔物を食べるために~ってのなら何度かありますが……何か不味い事でも?」 

「う~ん……。不味いと言えばまずいのかしら。

 あのね、タツロウ君。この子はまだ全力で戦わせない方がいいわ。

 心臓の方は完全に馴染んだようだけれど、おそらく今のこの子の体だと全力に耐えられないでしょうから」

「今──という事は、将来的にはそれも出来るようになるのでしょうか?」

「そうねぇ。今の段階だと7割が限界で、レベル200で8割、300で9割、500で10割だしても平気って感じかしらね」

「全力が出せるようになるまでに500……遠いですね」



 これが普通の魔物でも遠いのに、必要な経験値が他よりも多い竜種であるニーナはさらに遠い。



「いくら格が上がったと言っても、それでもニーリナの出力に耐えられるようになるまでには時間がかかるのよ。

 といっても今のニーナちゃんでも、そこいらの連中なら7割も力を出せれば十分だとは思うけれど」

「まあ、それは言えてますね。なんにしても、その辺りは気にかけておきます。

 助言ありがとうございました」

「どういたしまして、タツロウ君」

「ギャゥォウ?」



 自分のことを話しているというくらいは解ってはいるようだが、それが何かまでは解らずにニーナは首を傾げた。




 ニーナの心臓移植の話は妖精郷の面々も興味深そうにしていたが、今日のメインはそちらではないので、皆をゾロゾロつれてダンジョンの前までやって来た。

 ただし今日のダンジョンの周辺は、いつもと違った雰囲気を見せている。

 ダンジョンの光の湖の縁の辺りには黒色の柵のようなモノが一周囲っており、そこから正面左側に位置する箇所に種が3つ置かれていた。


 また真ん中に棒が付いたパラボラアンテナのようなものが、種を柵と挟み込むようにして設置されており、そのアンテナの後ろには巨大な箱型の魔道具が繋げられていた。

 そしてさらに柵からもコードが等間隔に繋がっており、それは先に述べた魔道具に繋げられていた。


 他に変わったものと言えば、ギャラリーが見えやすい位置に種の状態がリアルタイムに映し出されたモニターが設置されており、近くでは危ないため小さくてよく見えないという人たちにも、録画もしながら中継出来るようになっていた。



「では皆さん揃ったようなので、始めたいと思います」



 魔道具の近くで奈々と一緒に待っていたリアが前に出て、そうそうたるメンバーが興味津々といった感じでそちらに注目していく。

 それにリアは緊張しながらも、お腹に力を入れて大きな声で説明していく。


 この柵は妖精樹とダンジョンをリンクさせるために備え付けたもので、終われば取り払われるらしい。

 そしてパラボラアンテナのようなものは、後ろの箱型の魔道具の魔力頭脳が調整して放たれるエネルギー波を種に当て、正常な形で発芽させられるようになっているのだとか。


 種自体は仮死状態になっていたものの、それでも経年劣化という事なのか古くなって質が落ちていた。

 けれどそれは竜郎が3粒ともに《復元魔法》で真新しい状態にまで戻すことに成功したので、現在は非常に状態のいい種となっている。 

 なので妖精樹になっても問題はないだろう。



「あとはこの魔道具を起動させるだけで、自動的に発芽が始まります」

「それじゃあリア、頼んだ」

「えっ、でもこういうのは代表者である兄さんがやった方が──」

「代表者になったつもりはあんまりないってのは置いておくとして、これはリアが考えて作り上げ、リアが完成させたものだろう。

 それを魔法をちょっとかけただけの俺なんかが、いきなり横からでてきて最後の部分だけやるなんてできない。

 だからリア。これはリアがやるべきだ」



 この装置を起動するという事は、妖精樹と言う現在世界に一本しかない特別な存在を生み出すという事。

 それを自分がやってもいいのかと、リアが馴染みのメンバーたちの顔を見れば皆、笑顔で頷いてくれていた。

 だから彼女も胸を張って起動ボタンの前にまでやってきた。



「解りました。でもそれを言うのならナナと一緒です。

 これは奈々と一緒に作ったものですから。いいですよね、ナナ」

「わたくしはただ手伝っただけなんですけれど……でも、リアがそう言うのならやってあげますの」



 引こうと一瞬思った奈々だったが、リアの目は本気で言っていて引いてくれそうにない事を察し、苦笑しながらリアの横に立った。

 そして二人で起動ボタンに手を置いて、せーのっと小さな声でタイミングあわせてそれを押した。


 すると途端に虹色の光の波紋が種めがけて送られていき、エネルギーを受けた種は徐々に虹色に輝き始める。

 そして鼓動を打つ様に明滅し始め、やがて3つの種から根が出て地面に広がっていき、全く同時に芽がピョコンと飛び出した。



「あ、芽が出たよ! たつろー!」



 遠見で種から出てくる芽をみて、愛衣は竜郎の右腕にギュッと抱きつきながら指差した。

 それを竜郎もモニターで見ながら頷きでこたえた。


 芽が出てきたかと思えば、その芽の先端が他の2つの芽の方に伸びていき、3つの芽が絡み合い始める。

 絡んだ芽は互いにグルグル巻き付き絡ませ合いながら、やがてそれは融合して一つの大きな芽になった。


 その芽は虹色に明滅しながら伸びていき、葉をなし枝を伸ばし幹を伸ばしグングン成長していく。

 妖精達は皆感動に目を潤ませ、他の面々も瞬きすら忘れてその光景に見入る。


 3つの種が融合して出来上がった木は最終的に、上に100メートル以上、幹の直径は10メートル以上。

 枝葉を伸ばして遠目に見ればキノコのように見える、でっぷりとした超ド級の大木と化していた。


 さらに妖精樹自体は虹色の輝きは止んで白みの強い灰色になっているが、全体からキラキラと光の粒子が舞っており、風が吹けば光がかき回されて非常に美しい。

 また枝にはリンゴそっくりな形をした実がなっていて、白、黒、赤、薄青、緑、茶、深緑、黄、青、透明、黒灰、白灰のいずれかの色に光り輝いていた。


 後で聞いた所によれば、この実は妖精たちにとって非常に栄養価の高く美味な実で、強力な魔力が宿っているそうだ。

 色はそれぞれの属性の魔力を現しており、火属性の妖精は赤い実を好み、風属性の妖精は緑色の実を好むらしい。

 そう言った意味でも、妖精樹は妖精たちに愛されているようだ。


 と、皆が巨木に気を取られている間、ふと目線を下にやったアテナが声を上げた。



「とーさん! ダンジョンの入り口の色が変わっていってるっす!」

「え? ……ほんとだな。リンクし始めたと思っていいのかもしれない」

「妖精樹もだけど、あっちも綺麗になってきてるね」



 現在、ダンジョンの入り口となっていた白光する湖は、一部分を妖精樹の巨体が侵食した状態になっていた。

 そしてその湖の色は白から虹色に変化して、様々な属性の色と力に満ち溢れていた。



「あらぁ~。妖精郷の泉みたいになってるわねぇ~」

「え? 妖精郷の泉もダンジョンなんですか?」



 ダンジョンの入り口に目をやったプリヘーリヤが開口一番にいった言葉に、竜郎は直ぐに反応して問いを返した。



「ふふふ。そう言う意味ではないんだけどぉ、私たちの泉は外界と内界を繋ぐ役割をしているからぁ、ちょっとダンジョンの入り口に似ているのよぉ。

 ああでも、うちの泉はダンジョンの入り口と違って湖の中を見渡せるわよぉ~」

「へぇ。確かに少し似ているかもしれませんね」



 わりと重要事項だと思うのだが、簡単に言ってもいいのだろうかとも思ったが、竜郎は黙って頷いておいた。

 それだけ信用してくれているのだろう。


 などと考えていると、コーンコーンと金属を打ち鳴らした時のような音が妖精樹から響き渡る。

 妖精樹と共に暮らしているプリヘーリヤなら何か知っているだろうと、竜郎が話しかけた──のだが。



「いいえ、こんなの初めてよぉ」

「え? じゃあ、うちのだけ──ん?」



 不意に音が鳴りやんだ──かと思えば、妖精樹のダンジョンの泉とは反対側の幹の空間がグニャリと歪み始める。

 かと思えば、そこから10メートル級の緑色の甲羅を持ち、植物を体の至る所から生やすカメが、のっしのっしとやってきた。



「でっかいカメさんだねぇ」

「いや、愛衣、そんな呑気な事を──」

「あらぁ~? ルトレーテ様じゃな~い? 何でこちらにぃ~?」

「るとれ? え? 誰……っていうか、誰か説明をプリーズ!」



 竜郎がなんのこっちゃと取り乱していると、プリヘーリヤの護衛の一人でテイマーの女性妖精が答えを教えてくれた。



「あれはルトレーテ様といって、われわれ妖精郷にいる妖精樹の化身です。

 妖精樹は普通の植物ではないので、自己防衛や自分の自由意思で動ける体を欲したから作ったのではないかと言われています」

「天照たちの属性体みたいな、仮初の体だと思えばいいんですかね?」

「そのようなものと思って貰っても構いません」



 竜郎は説明をしてくれた護衛の女性にお礼を言って、改めて巨大ガメ──ルトレーテを愛衣と共に仰ぎ見た。



「ん? それじゃあ、あのカメさんは私たちの妖精樹の化身って事でいーのかな?」

「いいえ、アイちゃん。あれは私たち妖精郷のルトレーテ様で間違いないと思うわよ~。

 ほら、甲羅の上の方に妖精郷の子供達が乗っているものぉ。

 ルトレーテ様は子供たちと遊ぶのが好きみたいで、しょっちゅう乗せてあげてるからぁ」

「ほんとだ……。ちっちゃい妖精ちゃんがいる」



 愛衣が遠見で亀の甲羅の上に目線を送ると、小さな1メートルそこそこの妖精の子供たちがここは何処だと周囲を見渡していた。

 その子達も一体何が起こったのか解っていない様だ。


 しかしそんな事をしていると、鳥型の魔物が空からやって来るではないか。

 竜郎は急いで杖を構えて子供たちを守ろうとすると、プリヘーリヤが一言「大丈夫よぉ~」と言って止めた。


 何が大丈夫なのだろうと怪訝な顔で子供たちの方を見ていると、にゅ~っとルトレーテの首が蛇のように伸びたかと思えば、バクンとその魔物を食べて飲み込んでしまった。



「ね? 言った通りでしょ~。ルトレーテ様はとっても強いのよぉ~」

「みたいですね……」



 竜郎が精霊眼で見てみれば、そのエネルギー量は上級竜すらはるかに超えていた。

 おそらく竜郎たちが全力でやっても、まだ勝てる相手ではないだろう。


 だがそれよりも、この状況を誰か教えてくれないかなぁと竜郎は密かに思ったのであった。

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