第518話 魔王種100体できるかな計画推進中
吸い出し作業を行っている空白の間。複製ポイントも溜まって来たので、これまで倒してきた強敵達の素材のどれかを使って魔卵を産みだし、魔王種100体できるかな計画を進めて行く事にした。
カルディナ城周辺で好き勝手に暮らしている子パンダの内、自分たちの名を取ったタンタン、アンアンを捕まえて抱っこすると、竜郎と愛衣は二人で砂浜まで歩いて向かう。
他の主要メンバーはダンジョンに潜ったり、新階層作り、または改良に勤しんでいるのでここにはいない。
また眷属の爺や、ウリエルは交代でルシアンを見ながら城でお仕事中。
彩人&彩花は豆太とシャチ太と一緒に、子パンダのヤンヤンとジイジイを抱いて、お散歩に出かけた。
「100体は無理かもだけど、魔王種だけでも結構素材は集まったよね」
「けど今は世界力溜まりを処理しているから集まっている感じだし、それが終わったらそうそう現れてはくれないだろうな」
「そうなると素材入手は難しそーだね」
魔王種などというものがこの安定したご時世にポンポン生まれるはずも無い。
そうなると今後現れる世界力変換魔物が全て魔王種だったとしても、残り数回しか有力なチャンスは無くなるという事になる。
「頑張って探せば候補ぐらいは見つかるかもしれないけどな」
「それに魔卵の合成でもチャンスはあるかもね」
「そうそう」
などと話していると、砂浜でお食事中の蒼太とニーナの二体とワニワニ隊を見つけた。
蒼太とニーナが仲良く一緒に食べているのかと思いきや、微妙に距離があるところ見る限り、まだまだ心の距離は縮められていない様だ。
「ギャァ!」
「クィィィロロロゥ……」
しかも竜郎を見つけるや否やさっさと魚介系の魔物を一飲みにして、蒼太の元から去って行ってしまう。
蒼太は少しさびしそうにしながらワニワニ隊に慰められていた。
「おはよう、ニーナ」
「おはよー」
「ギャゥウギャウ!」
おはようと返すように嬉しそうに口角を上げて返事をし、ニーナは撫でて撫でてとばかりに頭を竜郎に押し付けてくる。
それに呼応して愛衣も「撫でて撫でて~」と逆サイドから頭を押し付けてきた。
竜郎は微笑みながら抱っこしていた子パンダを頭の上に乗せて、一人と一体の頭を撫でた。
そうしてひとしきり撫でまわし、愛衣とニーナが満足してくれたところでさっそく今回の魔卵元になる魔物を考えていく。
「さて今日はどんな魔物を作る御予定なのかな?
昨日、ベッドの上でなんか考えてたみたいだけど」
「それで愛衣が悪戯してきたんだよなぁ」
「ちょっと耳をかじっただけだよ」
「あれがちょっと……?」
「ちょっとじゃーん! あの後たつろーなんて私の──」
「ご、ごほんっ。──まあ、それはお互い様という事で良いじゃないか。
それでえーと……そう、今回の魔物についてだったな」
言っていることは殆ど理解できていないだろうが、純真無垢な瞳をしているニーナや子パンダたちには何となく聞かせたくない内容だったので、竜郎はさくっと話を切って先へと促していく。
「あー! ごまかした~。このこのっ」
「がぶっ──」
「ぎゃーかまれたー!」
それに対して愛衣は抗議するかのように竜郎のほっぺを笑いながらツンツンしてくるので、竜郎は顔を横にずらしてその人差し指に噛みついて甘噛みしてしゃぶりついてから離した。
愛衣は「おのれ~」と言いながら、竜郎のポケットに入っていたハンカチで指を拭った。自分のハンカチは持っていないからだ。
竜郎はそんな愛衣の腰を抱き寄せながら、今日の予定を纏めていく。
出来るのなら今まで出てきた全ての魔物を魔卵化したいところだが、そんな事をすればあっという間に複製ポイントが底をつく。
さらに魔卵の合成などで等級を上げたい。となった時にも、複製する必要が出てくるので無駄遣いは出来ない。
「まだ魔神さんから連絡はないんだよね?」
「ああ、でもダメだったとも聞いてないから、SPの複製ポイント変換スキル交渉はまだ続いているんだろうな」
こちらから連絡するのも催促しているようで悪いので、ここは黙っているのが吉だろう。
「よし、決めた。とりあえず今日は魔王種+魔王種でどんな卵が出来るか実験してみよう」
「ほうほう。面白そーだね。それでレシピはなんじゃらほい?」
「何となく似ているからって理由で、もう作成済みの8腕黒鬼の魔卵と吸血鬼の魔卵を作って混ぜてみようと思ってる。
まあ、吸血鬼の方も作ってみないと等級が解らないから、まだ何とも言えないが」
「でも黒『鬼』と吸血『鬼』っていうくらいだから、相性は良さそうだね」
「だが生者と不死者っていう大きい違いがあるから、その辺がどう作用してくるかが少し心配かもしれない」
という事で竜郎はさっそく既に復元魔法で綺麗に修復した素材を使って、パパッと吸血鬼の魔卵を作ってしまう。
すると8腕黒鬼の魔卵が6.8と金水晶の熊と同じ等級なのに対し、吸血鬼の魔卵は5.9と約1もの開きがあった。
「あれ、吸血鬼のやつは魔王種の中では等級が低い魔物だったのか。
真祖なんて書いてあるスキルを持っていたから期待してたんだが……」
「種族的な弱点もあるし、それを考えるとしょうがないかもしれないね」
「貧血になっちゃうと弱体化するってやつか。
確かにあれはレベル300オーバーで魔王種化していたうえで、個体レベルは1700近くあったから、もの凄く強く感じたが、魔王種化する前だったら真祖でもそれほどじゃないのかもしれないな」
などと竜郎と愛衣は考察するが、同じ吸血鬼で魔王種に至れる種は2タイプに分けられる。
その内1タイプ目は、生まれながらに真祖として産まれる吸血鬼魔物。
そして2タイプ目は、真祖ではないけれど魔王種化したことで真祖と同等の格に上がった吸血鬼魔物。
竜郎たちが戦った吸血鬼は後者であり、魔王種化した後の実力は真正の真祖の魔王種とも大差がなくなるので素材的価値もほぼ同等となる。
けれど魔王種化する前では、かなり格の違いが出てしまう。
だからあの吸血鬼を魔卵にしてしまうと、等級6に満たない魔物になったというわけだ。
「複製ポイントが若干もったいないが、合成で合わせればいいか」
竜郎は黒鬼の魔卵を一度合成して等級7まで押し上げる。
同じ魔卵合成で上げられる等級の限界はプラス2までだが、黒鬼を8にしてしまうと吸血鬼が7までなので合わなくなる。なのでこちらはここで打ち止めだ。
等級を合わせるために、10数回合成を繰り返して吸血鬼の方も7にまでギリギリ押し上げた。
これでピッタリ同じ等級の魔卵同士になったので、あとはこれを複製して原本は残し合成するだけだ。
「ほいっとなっと」
「うわ。真っ黒な魔卵だねー。なんかやばそう」
「等級的には7.2か。微妙にしか上がってないな」
「そんなに相性が良くなかったのかもね」
「とりあえずシミュレーターで見てみよう」
魔卵だけ見てああだこうだ言っていても始まらないので、竜郎はすぐさま《強化改造牧場》に魔卵を取り込み、このまま何もしなければどんな魔物が生まれるのか目で確かめていく。
「……カ○ナシ?」
「……に、見えない事も無いが……なんだこれは」
「なんか弱っちそうだね」
真っ黒な球体に白い人の顔を模ったような仮面がついたような姿で、その漆黒の球体からは陽炎のように黒い靄が吹き出しているように見えた。
「鬼要素どこいっちゃったの?」
「…………鬼要素どころか鬼ですらなくなったみたいだぞ」
竜郎はシミュレータで種族を表示させて見てみれば、魔王科闇精種と書かれていた。
どうやら生者でもなく不死者でもない、闇の魔力が精神を宿した存在──闇精の魔王種候補を作り上げてしまったようだ。
「闇精の王様って事だね。そう言われるとなんか強そうに見えてきた」
「カ○ナシでも十分強いと思うけどなぁ」
どうでもいい事を言い合いながら、どんなスキルが覚えられるのか見て、魔物の特性を確かめていく。
「まず目を引くのは《常闇の魔眼》かな」
「なにその胸湧き立つ中二なスキルっ。どんな効果か教えて教えて!」
「これを発動中に相手と目を合わせると、対象者の視力を奪う。
ようは目くらましの上位版って所か」
「うへぇ~。それってずっとそのままなの?」
「スキルのレベルが上がれば、魔法抵抗が弱い相手なら死ぬまで──ってのも出来るみたいだな。
ただ高レベルの解魔法使いなら解けるらしいが」
「ほうほう。戦闘中にそれをやられたら結構厄介かも──ん? でもこの子、何処に目があんの?」
「え? ここに…………ないな」
白い仮面のある位置を顔だとするのなら、その目の部分になるのだろう。
が、そこには眼球も無く闇が入っているだけだ。
ただそれでも覚えられるという事は発動できるという事は間違いない。
なので、ここに目が無くても出来るのだろう。
また臭覚を奪う《常闇の魔粒子》。触覚を奪う《常闇の魔水》。聴覚を奪う《常闇の魔音》。味覚を奪う《常闇の魔玉》などの五感を潰すスキルが揃っていた。
他に目を引くものはと言えば、100メートル以内で目視できる暗闇なら何処にでも転移できる《闇転移》。
気配を薄め探査魔法に引っかかり難くする《気配遮断》や《闇同化》。
ダメージや消耗を癒すスキルとして《闇喰い》。精神異常を起させる《精神汚染》。闇で包んで方向感覚を狂わせる《闇夜の方狂》などがある。
「攻撃するというより弱体化や足止めなんかが得意な子なのかもね」
「あんまり攻撃系スキルも無いしな。
けど《闇刃》とか《闇剣舞》、《不意打ち強化》なんてのもあるし、《気配遮断》と《闇同化》で闇に隠れて、相手の感覚を狂わせながら後ろからサクって感じでやれそうだ」
「確かに夜とか暗いとこだとかなり厄介な相手かも」
愛衣の場合は力押しでくる魔物なんかよりも、こういう魔法での搦め手で来られる方が厄介なのだ。
いざ自分が戦うとしたらと想像し、「めんどそ」と眉を顰めた。
「あとは隠し初期スキルで《光克服-1》ってのが勝手についてるな。
本来は光に耐性が出来るんだろうが、マイナスだからその逆ってことだろう。
ちなみに外すと他のスキルを付ける容量が減るみたいだ」
「弱点は無い方がいいんでない?」
「だが、あえて残して訓練させてプラス値に~ってのもありかもしれない」
「でもレベルじゃなくて、プラスマイナスで表示される奴って、なかなか変わらないよね。だったら外しちゃった方がいい気がするけど」
「確かに……。レベルの無いスキルの上げ下げは難易度が高い気がするな。孵化させるのなら外しとくか」
とりあえずどんな魔物なのか解ったので、《強化改造牧場》からまた手元に戻して改めてどうするか考える。
このまま産みだせば新たな魔王種候補が仲間になる。
だが恐らく等級8まで上げればクマの時と同様に神竜魔力による半神○種なんかに存在を強化が出来る気もする。
だが複製ポイント使って作りたい魔卵は他にもあるし、今後またやりたいと思っている魔物創造でも多く消費するだろう。
魔神はまだ何も言ってきてくれないので、もしだめだった時のことも考えて少し節約しておいた方がいい気もする。
そんな考えから今回、竜郎が選んだのは──このまま等級を上げずに孵化させる方だった。
「いいの?」
「ああ、そもそも魔王種100体計画だったし、やりたいならSPを変換できるようになってからでもいいだろう。材料自体は持っているんだし」
「それもそっか。そんじゃあ、ぱぱっと新しい子をつくっちゃおー」
愛衣に合わせて子パンダ2匹やニーナも良く解らないままに片手をあげて、真似をしていた。
それに微笑みながら、竜郎はスキルを調整して強化をしてから神力を少しずつ混ぜて孵化を促していく。
「それじゃあ、出してみるぞ」
「わくわく」
「グゥルルゥ」
期待の眼差しで見つめる中、《強化改造牧場》から出てきたのは先ほどシミュレーターで見ていた仮面に黒い球体がくっ付いているような不気味な魔物。
ただ神力の影響なのか、仮面の額の部分にプラチナ色の球体が埋まっており、さらに──。
「「でかっ」」
──シミュレーションでは標準状態で1メートルほどの大きさだったのに対し、3メートルくらいまで巨大化していた。
けれどこの魔物はどうやら体形というモノは特に決まっていないらしく、闇を圧縮すれば小さくもなれるし、人型の影のようにもなれる。
なのでその辺はあまり気にしなくてもよさそうだ。
それから軽くそこいらの魔物を捕まえて戦わせてみたのだが、やはり強力な状態異常で足止めしつつ忍び寄って殺害という手段が上手くかみ合うと、驚異的な魔物に成長することは間違いなさそうである。
「あとは強力なアタッカーと組ませてみるってのも手かもしれないな」
「あー、確かに相性良さそうかも。アタッカーを隠して敵を誘導して~なんてね」
そんな事を二人で話しながら、闇精──命名、黒田(性別は無いから名字にしてみたよ! by愛衣)を《強化改造牧場》にしまい、この日の魔王種+魔王種の合成実験を終えたのであった。
(今の魔王種の数はシュベ太、清子さん、武蔵、黒田で4体だけ。
だが孵化させていないオリジナルと所持している魔王種の魔卵、魔卵が作れる魔王種を全部合わせれば計8種。
これらを上手く組み合わせて行けば、まじで色んな魔王種が作れそうだな)




