第513話 吸血鬼
「ギャァッ────ャァッ──ァァァア…………アアアァァァ………………………………………………」
「脈拍正常、容体も安定……峠は乗り越えました。
それにダンジョンの呪縛もありません、完全に成功です!!
皆さん、お疲れさまでした!」
「────終わったかぁ」
リアの目で観た結果に張りつめていた空気が一気に弛緩し、全員がぐったりしながら床にお尻を付けて座り込んだ。
そして最初の頃と印象の変わった、安らかな表情で「クークー」と寝息を立てて眠る毒竜へと視線を送る。
「しっかし見た目が結構変わったなぁ」
「それに竜としての格も明らかに上がっているぞ、タツロウ」
「蒼太君がお嫁さんにするには、かなり頑張んないといけなくなっちゃったかもね」
「ソータさんレベルの竜でも現状釣り合わない格の竜って、もう何なんでしょうね……」
全身紫色の竜だった毒竜は、ベースの体色がニーリナの元の美しい白色の体が影響してか紫白色になっていた。
さらに美しい蝶々のような濃い紫色の模様が両翼に刻まれ、体の至る所にもスタイリッシュな刺青のように紫の模様があり、全身紫一色だった以前よりもオシャレな外見をした竜になっていた。
それと同時にイシュタルが言っていた様に格も強制的に数段上がってしまったようだが、それでも竜郎とのテイム契約によるパスは切れていないので問題ない。
ただ肉体的には完全に安定し今や傷一つないが、竜の強靭な精神力を持ってしても精神的疲労が深かったようで起きる気配はなかった。
「ひとまず《強化改造牧場》で眠っていてくれ。ここは、うるさくなるからな」
「クーーークーーーーー」
優しく毒竜を撫でつけると、竜郎はスキルの中へと取り込み退避させた。
「それじゃあ、まずは休憩がてら掃除だな」
「だねぇ。血の臭いがそこらじゅうに充満してるし」
周囲には毒竜の血と肉片が散らばっており、大きいものだと腕一本、歯茎と顎骨のついた数本の牙、まるごと尻尾一つと、それはもう酷いありさまだった。
「これを全部集めて復元したら、毒竜丸々一体分の素材になっちゃいそうね」
「とりあえず傷む前に回収だ!」
どうせもう毒竜には必要のないものだし貴重な竜の素材だという事も有り、竜郎は全力で鱗一枚、血の一滴、肉片の一欠片も無駄にしないで纏めて《無限アイテムフィールド》へと収納した。
「何気に毒竜も手に入れて、毒竜の魔石や素材まで手に入れちゃったっすね」
「前毒竜の魔石から魔卵にして、ボス竜のと合成してみるのも面白いかもしれないな」
「どんな竜が産まれてくるのか、想像するだけワクワクしてきましたの。
邪竜ではない様ですが、毒竜と言うだけでわたくしと似ていて好感度高いですの~」
「それじゃあ、ぜひ作ってみないとな」
「ですの~~」
無邪気に喜ぶ奈々を尻目に、イシュタルは心の中でどれだけあの領地に同胞を抱え込む気なのだ──と言いたくなりはしたが、その内《竜族創造》も覚えるだろう竜郎やその仲間たちに言っても今更だなと喉の奥に押し込んで苦笑した。
素材回収という名のお掃除も終わり、のんびりと回復を促しながら座っていると毒素もかなり薄くなってきた。
似非ダンジョン空間自体からも少しずつ出てきてはいるが、その為に必要な構成の中核となっていた魔石は、もう竜郎の《無限アイテムフィールド》の中なので、それも長い時間と共に効果も薄まっていき、やがて止まることだろう。
なのでもう後はここに溜まった世界力を消費してしまえば、嫌なイメージしかないこの空間とはおさらばだ。
「毒竜もちゃんとうちの拠点に連れて行ってやりたいし、そろそろ休憩も十分だろう。
最後の締めに入ろう」
竜郎がゆっくりと立ち上がると、他の面々も立ちあがって戦闘の準備をしていく。
「今回はどんな奴が出て来るかな」
「どんな奴かはわからないが、前の奴と同じかそれ以上の奴が出てくるだろうな」
最後の強敵に向けて竜郎達のレベリングも考慮したうえで調整した魔物生成なので、以前のサメを倒しより強くなったのに、それよりも下という事はまずないだろう。
「また油断が出来ない相手って事ですね。私も新兵器を導入しましたし、頑張ります!」
「それは心強いわね」
リアも機体に乗りこんで虎型フォームに、魔力体生物組も《神体化》。竜郎や愛衣、レーラにイシュタルも完全武装。
呪魔法による強化も事前にかけて、こちらに油断は欠片も無い。
竜郎は気持ちを引き締めながら天照の杖を構えて、スキルを発動し世界力をかき集めていく。
そして等級神が言った量だけ、そこから抜き取り周囲に散らしなおす。
『油断するでないぞ』
(解ってるよ)
もう何度聞いたか解らない等級神の忠告に、竜郎は力強く答えながら世界力の黒渦から杖を引き抜き急いで下がって距離を取る。
竜郎の制御から切り離された黒渦は、やがて形を取りだし魔物となった。
体躯は180センチほどで、軍人のようながたいのいい筋肉質な人型。
顔は生気が無く青白で、鋭く尖った長い犬歯が特徴的なゴブリンのような醜悪な人相。
服装はボロボロのズボンを履いているだけで、上半身は剥き出しだった。
「魔王種の吸血鬼です! 血を取られない様にしてください──」
「ヒヒヒッ──」
ニタァア──と吸血鬼が笑うと、体から血液が噴出し全身を覆って鎧と化す。
さらに両手に血の鉤爪、背中には血の翼もついており空中戦も可能とするようだ。
「──くるよっ!」
「──ヒャッーー!」
こちらが解析し終わるのを待ってくれるはずも無く、野太い筋肉質な足から繰り出される脚力と、大きな血の翼で空気を掻いて突っ込んできた。
蹴り足に力を込めるような沈み込む動作を愛衣が察知し、警鐘を鳴らしたことで竜郎たちはいち早くその進行ルートから離脱できた──のだが。
「──ぐっ」「──っ」
逃げた先へと血の翼から棘触手が無数に生えて、竜郎たち全員に追い打ちをかけてきた。
それにより竜郎は月読の防御を貫通されて脇腹を刺され、愛衣は持ち前の反射神経で躱そうとして太ももの辺りに浅い切り傷を負った。
魔法特化で物理攻撃に反応しにくい竜郎は一番負傷度合いが大きかったが、他のメンバーも大なり小なり血の棘によって負傷した。
けれど竜郎もただでは転んではいない。
愛衣に引っ張られるように逃げながら、自分たちのいた場所、吸血鬼の進路上に魔法で作った強力な機雷ならぬ宙雷を転移魔法で設置したのだ。
吸血鬼はそこに突っ込んでいき、多様な属性の混ざった爆発をお見舞いされて鎧の所々が吹っ飛んでいた。
吸血鬼自身には少し焦げ跡が付いただけであったが、それでも衝撃でややふら付いていた。
その間に竜郎は傷を治療していこうとする。
「傷が治らない──くそっ、呪いかっ!」
竜郎の場合は称号効果もあって非常に治りにくくなっているだけに止まっていたのだが、《呪傷》という吸血鬼のスキルによって、本来は呪いを解かなければ傷が治らないようになっていた。
すぐさま竜郎は横にいた愛衣と共に解と水魔法で呪いを解いてから、生魔法で傷を一気に塞いだ。
他のメンバーにもカルディナが縦横無尽に空を駆けて解呪していき、奈々がそれを癒していった。
だがその間にも突撃、血の翼による棘触手攻撃で地味に小さな怪我を負わされているのでイタチごっこ状態だ。
「皆さん、攻撃が当たるたびに血を取られている様です!」
さらに最悪な事に吸血鬼の攻撃で傷を負ってしまうと、その瞬間に《吸血》が発動して負傷度合いによって血を抜き取られる。
竜郎が最初の一撃で負った脇腹の傷はもろに差し込まれていたので、結構な血を吸い取られてしまっていた。
ただそちらは《呪傷》の対象外なので、エンデニエンテの称号が勝手に血を元に戻してくれたので問題にならなかった。
だが問題はないからと言って、血を取られ続けるとまずい事になる様だ。
「《増血無限強化》というスキルを持っていて、内包する血が増えるほどに力を増していきます!
なので出来るだけ傷を負わない様に! 負うにしても軽傷に留めておいてください!」
「はぁっ!」「「────!」」
竜郎が一番機動力が無い事を察した吸血鬼は、そちらに他よりも多くの血棘をお見舞いしてくるようになっていた。
けれどそれは愛衣と天照、月読によって、全て最低でもかすり傷程度に抑えてくれていた。
「それに《超増血》スキル持ちです!
兄さんはこのスキルだけでもいので、《レベルイーター》で何とかしてくれないとジリ貧です!」
「それまた難しい事を──」
竜郎も味方に誤爆しない様に慎重に探査を飛ばしながら宙雷を設置し、チクチクと鎧を吹き飛ばして相手の血を減らしている。
他のメンバーも遠距離攻撃で少なからず血の鎧や翼を壊して、吸血鬼の血を使わせているのもあって、まだそこまで強化はされていない。
けれどその血を減らす攻撃よりも、吸血鬼の血が増える速度の方がわずかに勝っていた。
攻撃の速度もジリジリと上がってきており、このままでは本当にこちらが蹂躙される側になりかねない。
(だが《レベルイーター》をするには、もっとあいつの近くに行かないといけない)
プラスαになったことで射程距離は伸びたが、それでも竜郎にとっては死を覚悟する距離まで近づかないといけないし、愛衣とてそこまで近づけば大怪我を負いかねない。
なんとか足を止める方法はないか竜郎は頭を回転させていく。
(捕縛も封印もレベルを吸っている最中に切れるのが落ちだ。
だが地面を泥沼にしても空を飛べる時点で大して意味がない──いや、機動力は落ちるんだろうが。
……まてよ? あの翼が無いとアイツは飛べないのか?)
《飛翔》などのスキルは翼を広げて羽ばたく事ができいなければ、発動できない事を思い出す。
(それならあの翼を絶えず奪い続ける様な事が出来れば、制空権を握って有利に事が進めるかもしれない)
「リアっ! あいつに遠距離攻撃は?」
「《血弾》と《血液操作》による血棘だけで、基本的に近接メインの魔物です!」
「そうか、解ったっ! なら──」
竜郎は今考え付いた作戦を大声で周知していく。そして全員に伝わった所で、竜郎はそれを実行していく。
「全員──上!」
竜郎の号令と同時に全員が上に飛び上がる。
それにつられる様にして吸血鬼も上を見上げ、足を深く沈めて飛び上がろうとしてくるが──。
「お前は床で這いずってろ!!」
「ヒッ──ヒヒッ!?」
竜郎、ジャンヌ、天照による全力の聖炎が、天照の《分霊:火力増幅輪》を通してさらに強化された状態で床から3メートルほどの高さまで埋め尽くす。
それ自体は大して吸血鬼本体のダメージにはなっていないし、こんな消費量を度外視した魔法の行使は長時間持たない。
だが、竜郎は宙雷による属性毎のダメージ量を全て測っていたので、聖炎が一番効果が高いのは実証済み。
そしてそれは本体だけでなく、血の鎧に対してもだ。
聖炎に呑まれた吸血鬼の血の鎧は苦手属性である事に加え、固体化していても血は血。
高温で溶けて蒸発していき、形成した翼は作る端から溶けて霧散していき、《飛翔》スキルが使えない。
これで聖炎の魔法が保つ限りは吸血鬼は空を飛べない。
竜郎は飛ぼうとして飛べないという無意味な行為をしている間に、密かに近づき《レベルイーター》を当てて射程ギリギリまで離れて吸出しを始めた。
他のメンバーの内、愛衣とアテナは竜郎とジャンヌの守護を優先。
残りはジャンプして逃れようとする吸血鬼を、モグラ叩きのようにぶっ叩いて落とせば本体は竜郎に接近できない。
そうして聖炎の海でもがいている間に、竜郎は魔法が切れてしまう前に急いで《超増血》スキルのレベルを吸収していくのであった。




