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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六編 ダンジョンと妖精樹

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第511話 毒竜説得

 毒竜がこちらに向かって猛攻撃を仕掛けてくる中、竜郎達は軒先で雨宿りをしているような雰囲気で真面目な事を話し合っていた。



「──というわけなんだが、どうだろうか」

「ん~確かにそれが出来ればいけそう……なの? イシュタルちゃん」

「いや、同じ竜種だからといって私にもそんな事が出来るかどうかなんて解らないぞ……」

「まさに一か八かといった所ですね。

 けどどうせ出来なかったら殺してしまうしかないのなら、やるだけやってみる価値はあると思います」

「例えそれで死んでしまっても、それはもうお父様のせいではないですの。

 陰険なダンジョン野郎のせいですの」

「そうっすよね。しかも失敗せずに成功したのなら、そのダンジョン野郎にざまあ見ろって言ってやれるっす」



 どうせ殺すしかないのなら、確証は無くてもやってみようという方向で話が付いた。

 楽に死なせてあげるという手もあるのに、苦しんで死ぬかもしれない方法を取るのもどうかと少し思っていた竜郎も、同意が得られたようでほっとしていた。



「それじゃあ、いっちょやってみますか」

「おー! 頑張って、たつろー」

「ああ。頑張ってくるよ」



 竜郎はそう言ってライフル杖を持つと、愛衣が張っている気力の盾から一人出て毒竜の方へと進んでいく。



「とりあえずこっちの言う事を聞いて貰えないと出来る事も出来ないからな。

 お前をテイムさせてもらうぞ」

「ギャァーーーー!!」



 本来ダンジョンボスとして置かれる予定だったこの毒竜はテイムできない様になっているはずなのだが、ここはダンジョンに似て非なる場所であり、毒竜もダンジョンボスではない野生の魔物と同じような存在になっているとリアからもお墨付きを貰っている。

 なのでこちらの実力を示し、テイムする事が出来れば移植もスムーズに行えるだろう。


 というわけでここからは天照も月読も、いつも影に潜んでいる武蔵も待機モードで、純粋に竜郎一人の力で毒竜と戦う必要がある。

 数ヶ月前の竜郎なら一人では厳しい相手だが、蒼太の相手も余裕を持って単独で出来るようになった今となっては、そう難しい事ではない。

 愛衣も自分が付いていなくて大丈夫だろうかと少し不安ながらも、信じて後ろから見守ってくれている。


 毒の収束砲を杖から放つ解毒レーザーで相殺しながら、竜郎はつかつかと毒竜へと歩み寄っていく。



「「………………」」



 互いの距離数メートルといった所で竜郎は止まり、涙を流し怒りに染まった顔の毒竜と無言で見つめ合った。

 そして、どちらからともなく開戦の火蓋が切って落とされた。



「ギャァッ!!」

「──ふ」



 《竜尾閃》の乗った尻尾の打撃が竜郎に襲いかかってくる。

 それに対し竜郎は空間魔法で距離を引き延ばして時間を稼ぎ、光、水、打の混合魔法による煌めく水の鞭を杖の先に作って振るい弾き返す。


 毒竜の尻尾が明後日の方角に弾かれやや体勢を崩した隙に風魔法で飛び上がり、水鞭から氷ハンマーに変わった杖先のそれで顎を下からかち上げた。

 どのくらいやっていいのか解らずに少し手を抜きすぎてしまったようで、やや怯みながらも毒竜は両手の毒爪を竜郎に向かって振り下ろしてくる。


 しかしその瞬間に後ろに短距離転移して躱すと、竜郎は後頭部を氷ハンマーで殴りつけた。



「ゴギャッ!?」



 顎を打った一撃よりもさらに威力の増した氷ハンマーの一撃に、視界を一瞬白く染めあげながら毒竜は地面に膝と手をついて固まってしまう。



「これで終いだ──」



 そんな隙だらけの状況を見逃すはずも無く、竜郎は捕縛と封印魔法を付与した植物の蔓で縛り上げて拘束。

 さらに闇魔法で氷と土を無理やり混ぜて極限まで固くした氷土を毒竜に浴びせて、ガチガチに固めて一切の身動きが出来ない様にしてしまう。



「ギャァーーー!」



 唯一動く首から先を動かして、竜郎へと吹き出す息に混ぜて毒霧を放ってくる。



「封印が効いてない? ああ、毒霧だけは似非えせダンジョンの影響で使えるのか」


 

 解魔法で冷静に状況を判断しながら、その《竜の息吹き》ですらないただの毒霧の息を、あっさりと解析し解毒魔法と風魔法による解毒の風で無効化。

 そのまま突っ込んでいき、溜めこんでいた神竜魔力で作った極太レーザーを射出して、顔面右横すれすれを通して床に大穴を開けた。



「ギャ……ァ……」

「ようやく冷静になれたみたいだな」



 余波だけで顔の横がヒリ付く力を目の当たりにして、ようやく目の前の人間が自分よりも強いのだと理解したようだ。

 自分が捕食される側になるとは思ってもみなかったのか、ただ茫然と近くに着地して歩み寄ってくる竜郎を見つめていた。



「なあ、お前もこんな所で閉じ込められて一生を終えるなんて嫌だろう。

 だから俺と一緒に来ないか?」

「ギャォ……?」



 《強化改造牧場》に内包されているスキル、《テイム契約》を発動すると一瞬何か解らず毒竜は首を傾げた。


 その姿がどこか可愛らしくて、竜郎は微笑みながら毒が噴き出す体に直接触れた。



「ギャッ!?」



 もはや戦闘の意志はないのに竜郎に毒を浴びせてしまったと慌てる毒竜。

 実際に竜郎の触れた手は一瞬で紫色に染まり始めた──のだが、直ぐに毒に体が適応して元の肌色に戻っていく。



「………………ギャォォオン?」



 何ともないの? とでもいうかのように竜郎を見つめてくる毒竜に、また笑ってしまいながら竜郎はその頬を撫でた。



「ギャァァァァォォォ~」



 その初めての感覚にむず痒くも思いながら、存外悪くないと毒竜は目を細めた。



「俺はそれくらいの毒は平気なんだよ。だからこうやって撫でる事も出来る。

 だからどうだ? 俺達と一緒に、こんなくそったれな空間から出てみないか?」



 優しく毒竜の頬を撫でながら、竜郎は《テイム契約》をより強く意識させるように、一緒に来てくれと気持ちを込めながら魔力を強めていった。



「グゥゥゥゥ…………グゥゥゥ…………………………ギャゥゥオオッ!」



 やはり生みの親が作った場所と言うのは、憎らしくても思い入れはあったようで少し悩んでいた。

 けれど暫くグゥグゥ唸った末に、竜郎のテイム契約を引っ張り寄せるように同意してくれた。



「ん。ありがとな。信じてくれて嬉しいよ」

「ギャゥ」



 ならもっと撫でて、と竜郎に頭を摺り寄せて来る。どうやら相当に優しさに飢えていたようだ。

 竜郎はそこで拘束していた魔法を全ていて毒竜を解放した。


 そんな光景に他の皆も安心したのか、毒竜に警戒されない様にゆっくりと近づいてきた。

 それでもびくりと動いて威嚇しようとするが、竜郎が大丈夫だからと撫でると大人しく言う事を聞いてくれた。

 だが大きな体を竜郎の背中に隠すように丸まって、チラチラと視線は送っていた。


 テイム契約で繋がっている竜郎の感情は伝わってくるから安心できるが、他の面々はそうでないので心から信用できないのだろう。



「ちゃんとテイムできてよかった~。これで第一関門突破だね」

「ギャゥオ!」



 愛衣が竜郎に近づこうとすると、竜郎に尻尾を絡ませ私のだとばかりに威嚇してきた。



「むむっ。たつろーは私のだよ!」

「ギャゥ!」



 愛衣の感情と毒竜の感情は好意は同じでも異性愛と父性愛くらいの違いがあるのだが、お互いにライバルだと認識してしまったようだ。



「まあ、とにかくこれで蒼太に弟分が出来たんだ。早く解決して紹介してやらないとな」

「……それには同意するが、タツロウ」

「ん? なんだイシュタル」

「言っておくがその毒竜はメスだぞ?」

「…………え? まじで?」

「まじだ」



 同じ竜が言うのだからその通りなのだろう──が、何故かそれを愛衣やカルディナ達も平然と受け止めている事に納得がいかなかった。

 なぜこの子達は雌雄の判別がつくのだろうかと、竜郎は不思議でならなかった。



「ま、まあ。それなら蒼太のお嫁さん候補が現れたと思えばいいな!

 あいつも喜ぶぞ~」

「やけっぱちだねぇ」



 蒼太と比べても格は劣っていない。魔卵を作る伴侶とするならば、これ以上に無いお相手ではないだろうか。


 そうなるともしかしたら夢の等級10の竜の魔卵が手に入るかもしれないと、竜郎の夢は広がった。



「よしっ。気合入ってきた! 絶対に何とかして見せるから、俺を信じて身を任せてくれないか?」

「ギャゥォ? ギャゥギャゥ!」



 今一状況を理解していない様だが、何となく言いたいことは理解してくれたようで大きく頷いてくれた。



「それじゃあ、第二関門──魔石移植を始めるぞ。皆も手を貸してくれ」

「もちろんだよ!」



 人間でいう心臓移植の様な非常にリスクの高い行為であり、やった事も無いので不安もあったのだが、愛衣含めここにいる皆の手伝いさえあれば何とかできるはずだと自分に言い聞かせる。


 そして竜郎は移植を受ける当の本人にも同意を得るべく、どこまで理解してくれるかどうかはおいておいて、とりあえず毒竜にも何をするのか詳しく説明していくのであった。

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