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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六編 ダンジョンと妖精樹

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第510話 毒竜

 川から穴の中に侵入すると、たちまち毒霧で視界を覆われながら落下し直ぐに着地した。

 毒自体は対策してあるので効かないが、気分的に良くないので解毒の風を巻き起こしながら換気をして視界を確保していく。


 するとやはり元ダンジョンらしく、落ちた深さよりも明らかに大きな空間が広がっている。

 全員がいる事をちゃんと確認してから、視界を確保しつつ奥へと続く広い空間を歩いていった。



「ピィィーーー!」

「ん…………これは竜か?」

「竜? どいうことですか? 兄さん」

「いや、この奥に竜らしき反応がある。しかもそいつの体から毒が噴出しているみたいだ」

「それじゃあ、その竜が悪さをしてるから世界力が溜まっちゃったってケースなのかもね」

「ということは竜退治っすか。腕が鳴るっす。どのくらいの強さなんすか?」

「今の俺達なら1対1でも大丈夫だが、スッピーさんよりも強いな。

 レベル的には多分100は超えてると思う」

「それはまた大物ね。でも魔竜かどうかはまだ判断が付かないから、先に様子をみた方がいいわよ。

 知恵ある竜が何かの理由でしかたなく毒を出しているという可能性もあるのだし」

「ああ、解ってるよレーラさん。ってことで、直ぐに突っ込んじゃだめだぞアテナ」

「了解っす~」



 魔力体生物組は全員が《真体化》して警戒しつつ、その竜がいる殊更大きく広がっている部屋を目指して歩いていく。

 するとしだいにその竜の鳴き声らしきものがハッキリと聞こえてくる。



「ギャァーーーーーー! ギャッギャッギャーーーー!!」

「凄い鳴き声だね……。もしかして怒ってるっぽい?」

「ああ、私にもそう聞こえるな。それも相当に怒ってるぞコレは」



 同じ竜種のイシュタルからしても、この先にいる竜はブチ切れているようにしか聞こえないらしい。



「俺達はまだ何もしてないし……。何か怒る様な物があるって事なのかもしれないな。

 もう少し急いで見に行こう」



 若干ペースを上げて凄まじい鳴き声のする方向へと進んでいくと、毒の濃霧が充満して何も見えなくなっている空間の中から、「ギャァッ! ギャァッ!」という怒りの声が空気を震わせる。



「これじゃあ何も解らないですの。お父様、霧をなんとかしますの」



 竜の状態が魔法ごしにしか解らないので、竜郎はカルディナと奈々と一緒に一気に解毒の風を起して換気していく。

 すると濃霧に包まれていた竜の姿が顕わになる。


 それは毒霧を全身から噴き出す紫色の毒竜。

 体長は6メートル程と少し竜にしては小柄だが、確実に聖竜スプレオール(スッピー)よりも格上の存在感。

 まだ竜郎達が蒼太の元となったダンジョンのボス竜を倒す前であったのなら、相当な苦戦を強いられていた事だろう。


 ──だが、そんな凶悪さよりも目を引く光景に竜郎達は思わず足を止めてしまう。



「泣いているのか?」



 その竜は怒りで叫びながらも、その大きな瞳からはボロボロと大粒の涙が流れだし、絶えず床を濡らしていたのだ。



「何かのスキルで泣いているというわけでもない様ですね。

 純粋な感情から涙が溢れていると言っていいと思います」

「どういうことかしら。イシュタルは何か解る?」

「いや、どうやら知恵ある竜(にんげん)ではない様だし、同じ竜種だからと言っても会話が出来ないと流石に解らないな……」



 竜の皇帝イシュタルとしては、その痛ましい竜の慟哭に応えてやりたいのは山々なのだが、さすがに何の情報も無しにその毒竜の事を解ってあげられず、悔しそうな表情をしていた。


 そんなイシュタルの顔に竜郎も何かできないかと思考を巡らせようとしていると、毒竜が口を大きく開いてこちらに向かって毒の拡散レーザーの様な《竜力収束砲・散》を撃ってきた。



「まっかせて!」



 毒の《竜力収束砲・散》は、見た目は派手で範囲は広いが、せっかく収束したエネルギーを散らすので、竜郎達からしたら一発一発は大した威力ではない。

 竜郎が反応する前に愛衣が張った鎧による気力の盾で、あっさりと弾かれていった。


 それを見た毒竜は一点集中した毒が付与された《竜力収束砲》を撃ってくるが、それも愛衣が盾で防ぎきってしまった。


 これなら問題なさそうだなと竜郎は改めて、あの泣きながら怒っている毒竜について知る方法を考えていく。



「リアはどうだ?」

「私が観た限りだと、どうやらあの毒竜はこの場所に縛り付けられているようですね」

「縛る? どこも拘束されている気配はないが……」

「いえ、どうやらあの魔物はダンジョンに生み出された存在らしく、魔石に呪いか何かをかけられて、この地を離れると死ぬようにされているみたいです」

「また呪いか……。カルディナ、ちょっと魔石の辺りを調べてみよう」

「ピュィィー。………………………………ピィィ?」

「なんだこれ……」

「何か解ったのか?」

「いや、俺とカルディナでさらに光魔法で強化してみても、魔石に何をされているのかさっぱり解らない。

 しいて解った事を言えって言うのなら、何かされているようだという事だけしか解らないんだ」

「タツロウとカルディナの解魔法でも解けない呪いだという事か?」

「いや、そもそも呪魔法の類ではない……と思う」



 歯切れの悪い解答にイシュタルも眉をハの字にして首を傾げるほかない。



「私も呪魔法ではないとは思っています。というか魔法よりももっと高次的な何か……例えばシステムの構成に近いものを感じます。

 私の目でも中途半端にしか観えないところが似ていますし」

「システムに似ているって……それじゃあ、あの毒竜は神々にああされた可能性があるわね……。

 でもそんな事、聞いてないわよ? タツロウ君は何か聞いたかしら?」

「いや、等級神も迷宮神からも何も聞いていない」

「そうよね……。だったら、一度そちらに聞いてみた方がいいかもしれないわ。

 下手に神のやった事に横やりを入れて恨みを買ってしまったら、たまったものじゃないもの」

「それは言えてるな。ちょっと聞いてみる。それまで愛衣も頑張ってくれ」

「あいあーい。まかせてー」



 今の愛衣にとってはレベル100ちょっとの竜の攻撃など大した負担にもならない様で、軽く竜郎に手を振る余裕すら見せていた。

 あんまり油断するなよと一声かけてから、竜郎は馴染みの深い等級神へとコンタクトを取った。

 軽く挨拶を交わし簡単に状況を説明していくと、等級神はなにやら難しそうな声音で唸った。



『う~む……。あれは確かに人間よりも高次的存在がやったもののようだが、神よりは低いのう』

(それじゃあ誰が?)

『こいつじゃ! とハッキリ断定はできんが、おそらくこの壊れたダンジョンを作っていた個がやった可能性が高い』

(それまた何で?)

『それは儂にも皆目見当が付かん。じゃが既に迷宮神に伝えておいた故、もうすぐ答えも──おお、来たようじゃな』

『こんにちは、タツロウ』

(あ、はい。こんにちは。それで迷宮神さんには何か解りましたか?)

『ええ、ついさっき調べてみたらすぐに解ったわ。

 どうやらあの子。私に破棄されたダンジョンの逆恨みで、あんな事をさせられている様ね』

(逆恨み……ですか?)

『そう、逆恨みよ。実は以前──』



 以前このダンジョンを作っていた個は非常に我儘で、まだダンジョンの運用試験段階でルールも甘かったせいもあり、滅茶苦茶な設定でダンジョンを作ってしまう。

 それはもう入った人間は絶対に殺してやると言わんばかりの、出口すら作らない攻略法の無いダンジョンを。


 しかし迷宮神はまだここは人を入れる予定もないし試験段階だからと、甘い注意しかしなかったのも良くなかった。

 どんどんと調子に乗っていき迷宮神がそこはダメ、そこは直して、そこはこうしてくれ、といった全ての要求を無視して、終いには無理やり人間を吸い込んで殺し魂を喰らうダンジョンを作り上げてしまった。


 さすがにこれはもう注意では済まされないと、迷宮神がすぐに修正しないようなら破棄すると最後通牒を投げかけた。


 それでもこれまでの迷宮神の態度から、ただの脅しだと思ったらしく、それすら無視して好き勝手に振る舞い続け、ついにはクリアエルフの一人を喰らってしまった。


 これにはそのクリアエルフと繋がりの深かった水神が大激怒。今すぐ自分の目の前で処分しろと迷宮神に直接言ってきた。

 迷宮神もまさかそこまでするとは思っていなかったのだが、現に起こってしまったことは事実だ。

 水神には深く詫びを入れると共に、即刻そのダンジョンの個を破棄した。



『私も初回の方で作った個だったから、心のどこかで処分したくないと思っていたのでしょうね。

 水神には悪い事をしたわ。もっと早く破棄するべきだったのに』



 そうして迷宮神は心機一転、新たなダンジョンを作るべくそのダンジョンの事を忘れ去っていった。


 ──しかしこれには、迷宮神も気がつかなかった続きがあった。


 どうやらそのダンジョンの個は、何故これほど一生懸命やったのに、たかが人間の一人を殺した位で自分が破棄されなければいけないのか。

 そんな逆恨みから、自分と言う存在が世界力へと分散される前に最後の力を振り絞り、自分とは切り離した似非えせダンジョン空間を生み出した。

 そしてそこへ自分が作った対人間殺傷用ボスとして丹精込めて作っていた、作りかけのレベル100越え毒竜を配置。

 さらにその似非ダンジョン空間には毒竜の毒生成能力を強化して自分の意志とは関係なく毒を生成するように魔石を弄って強制させた。

 さらにさらに、その毒は似非ダンジョンからも出て、外界もジワジワと侵してこの世界に人が住めなくなれと言わんばかりの設定までしていったそうだ。



(よくその破棄される間際に、それだけのことができましたね……)

『もともと、どのダンジョンの個よりも優秀ではあったのよ。

 ……ただ性格が異常だっただけで』

(一番重要な所だと思いますけど)

『まあそうね。私も、それからもう少し性格の形成には気を使うようになったから……。

 まあ、とにかくそれだけのことをしたうえで、さらにあの毒竜が出て行けない様にしたみたいね。

 具体的にはあの部屋から出ようとすると、気絶できないのに気絶しそうな程の激痛が全身を襲う。

 それでもそれを我慢して進んでしまうと、魔石が砕け散るように弄ったみたい』

(──それじゃあ、どうやってもあそこから出せないじゃないですか)

『そうね……。あの毒竜はダンジョンの個のきもりだったみたいで、相当期待されていた様なの。

 けどこれから、このダンジョンと共に一緒にやっていくんだと期待に胸を膨らませていた所でこの仕打ちでしょ?

 魔物の中では頭も良いみたいだし、怒りたいやら泣きたいやらで、ずっともがき苦しんでいるのでしょうね。

 だからタツロウ。あの毒竜を可哀そうだと思うのなら、一思いに殺してあげて』

(殺してくれって……。

 そのダンジョンの身勝手に振り回されて、一人ぼっちで閉じ込められて、挙句に苦しみの果てに殺されるなんてあんまりじゃないですか)

『でもそれ以外にあの毒竜を解放する手段なんてあるのかしら?

 少なくとも私の知る限りでは思い浮かばないけれど……』



 迷宮神とて毒竜を無碍にしているわけではない。

 ただそれしか方法がないから、殺してくれと竜郎に言ってきただけ。

 竜郎はそこまで思い至ったところで、一度頭をクールダウンさせていく。



(転移魔法で別の場所に移動させても、魔石は壊れてしまうんだろうな……)



 一人で考えているだけではダメだと、迷宮神との会話は一度打ち切って皆にも先の話をして相談していく。

 やはり他の面々も、ただあの毒竜を殺してしまうのは可哀そうではないかという意見がほとんどだった。

 けれど言うなれば、あの毒竜は心臓をこの場所に縫い付けられている様な物だ。

 それもその縫い付けは、人間の身では切れないほど高次的な手法でだ。


 神たちからしても一介の魔物に対して干渉するのは過干渉に当たるので、できない。

 世界力溜まりも似非ダンジョンとあの竜の魔石が中核となって起こしている現象なので、あの毒竜が死ぬだけで解決されるので神が出るほどでもないと世界は判断する様だ。


 なのでダンジョンよりも、さらに上の存在による縫い付けの解除は望めない。



「あーもうっ。魔石も心臓みたいに別のと移植できればよかったのにね」

「移植?」



 竜郎はふと愛衣がやっけぱち気味に漏らしたその言葉が引っ掛かった。

 地球で言うのなら、もし心臓を患った場合ドナーがいれば移植して取り換える事が出来る。


 そしてそれは魔石では出来ないだろうかと考えてみる。

 まず必要とされるのは、あの毒竜に合う魔石だ。



(レベル的にはあっちの方が上だが、格的には蒼太の元になったボス竜と同じくらいだよな……。

 あの魔石は使えないだろうか)



 そんな事は今まで誰一人としてやってこなかっただろうし、リアに聞いても解らないだろう。

 下手に希望を持たせても悪いので、より説得力を持たせるべく竜郎は頭の中で自分の持っている魔法などと照らし合わせながら、ひとまずシミュレートしていく。


 その結果。



「皆、聞いてほしい事がある」



 竜郎はある程度のプランを立てて、本当にそれが可能なのか検証していくためにも、皆へと概要を説明していくのであった。

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