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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六編 ダンジョンと妖精樹

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第509話 毒に侵された大地

「それじゃあ、吸出しを始めますね」

「ああ、頼む」



 スッピーが去ってから2日経った日の午後。

 竜郎たちは庭先の砂浜にて、妖精樹の種に宿ったエネルギーの吸出しをすべく、リアが魔道具のスイッチを押して起動させた。


 吸収するために今回リアが作った魔道具の外観は、直径5メートルの箱の左右に1メートルの箱と10メートルの透明な箱を置き、太い管でその3つを繋いだような代物。


 5メートルの箱の中には若干小型化されたニーリナの心臓を使った魔力頭脳バージョン2が搭載されており、魔法液供給用のホースが後ろに接続されている。

 1メートルの箱の方には妖精樹の種の結晶体が入れられ、そこから吸い出されたエネルギーが、10メートルの透明な箱の中へと液状化した状態でプールされていく事になる。


 ウイィィィイイイン──と塔杖の頃よりは小さくなったがまだ気になる音量の動作音を響かせながら、1分もすると虹色の水滴のようなモノが透明な箱の方へとポトポト落ち始めた。



「動作不良も無し。すべて順調に動いていますね。これで後は放っておくだけで勝手に吸出しが終わるまで動き続けるはずです」

「後は待つだけって事だね。けど……それまでずっとうるさいままなの?

 寝るときにもこれだと、さすがに爺や達が困ると思うけど……」



 今回は数日間このまま魔道具に頑張ってもらう必要があり、その間の調整と演算は全て魔力頭脳まかせである。

 しかし問題としては、ニーリナの心臓を使った魔力頭脳は巨大で動作音も大きく、バイクのエンジンをわざと鳴らして走り回る人達が終始うろついているくらいの騒音に見舞われる。

 これでは大人はまだしも、まだ小さなルシアンが気になって寝られないかもしれない。

 だがリアもそれくらいは考慮済みである。



「安心してください、姉さん。そこも考えていますから」



 そう言ってリアが取り出したのは、直径15センチほどの箱型の魔道具。

 魔力頭脳箱の魔法液のホースが接続されている場所の横にある起動ボタンの近くにある蓋をパカッとひらくと、その小さな魔道具が入れられるくらいの大きさの穴が開いていた。

 そこへ小さな魔道具をはめ込み、その魔道具の起動ボタンをリアが押すと──あら不思議。

 先ほどまでの騒音が嘘のように静かになり、ポトリポトリと滴が落ちる音だけがハッキリと竜郎達の耳に届いてくる。



「兄さんたちの世界で言うノイズキャンセラーです。

 音魔法と小型魔力頭脳を使って魔力頭脳の動作音とは逆の位相の音波をぶつける事で音を相殺しています」

「すっごーい。こんなに綺麗に消せるもんなんだね」

「まあ、コロコロ音が変わるようなモノじゃないですし、これだけに限定して音を消すように作るのはそう難しくないですから」

「それはリアちゃんだから言える事だと思うわよ。

 普通はそんなに簡単に音波なんて測定できないし、器用にその逆を正確に発生する魔道具を作るなんて一朝一夕じゃあ無理なんだから」

「そうですかね?」



 凡人にとっては難しい事でも、今のリアにとっては音魔法だけの魔道具など児戯に等しい。

 だからこそ本人はレーラにその凄さを言われても、今一納得できずに首を傾げていた。

 順調に竜郎たちと共に人外の道を歩み始めているようだと、レーラは苦笑するしかなかった。



「まあ音がなくなったんだからいいじゃないか。

 それじゃあ吸い出し作業も始まった事だし、予定通り明日の朝にでも次の目的地に行くってことでいいか?」



 すでに決まっていた事なので誰も異存はない。

 皆万全の状態で次の世界力溜まりの駆除に向かえそうである。



「蒼太やワニワニ隊の皆は、この装置を壊されない様に注意していてくれ」



 大きさや魔法液の供給などの観点から効率が良かったので外で行っているのだが、そうなると魔物にちょっかいをかけられる可能性も高くなる。

 普段でもここまで踏み込む前に蒼太たちのご飯になるので問題はないと思うが、それでも念のために竜郎がお願いすると快く快諾してくれた。

 これで心置きなく行けるだろう。



「それじゃあ、明日の朝出発だ。それまでは各自自由に過ごしてくれ」




 そして翌日の朝。光属の日ということで外は今も月夜に覆われているが、竜郎達はカルディナ城地下の転移部屋までやってきているので関係はない。

 いつものメンバーが集まり中央に集まった所で、竜郎はレーラの記憶を頼りに遥か昔へと向けて転移した。




 やって来たのは白銀の世界。

 雪吹きすさぶこの大地は、数メートル先は真っ白でもう何も見えないホワイトアウト状態。

 ここは北極よ、と言われたらそうなのかと信じてしまう極寒の地であった。



「うぅ……寒いです……」

「先に言っておくべきだったわ……。ごめんなさいね、リアちゃん。

 この時代で強く残っている記憶と言ったら、ここしかなかったものだから」



 竜郎は寒がるリアの為に月読の竜障壁で上下前後左右に結界を張って、火魔法と風魔法で温風を巻き起こし、この一か所のみ快適空間へと変えておいた。



「ありがとうございます、兄さん」

「どういたしまして。それでレーラさん。ここは一体どこで、俺達はどっちへ行けばいいんだ?」

「えーと……ここはカルテラント大陸と呼ばれている場所で、ご覧の通り普通の生物が暮らすには酷な場所だから、何か未発見の物がたくさんあるかと思って来た所なのよ」

「よくこんな所まで来れたっすね~」

「寒いのは得意だったしね。それでこれから私たちが行くのは、ここから南東の方角にあるイルファン大陸。

 そして現在ではヘルダムド国と言われている国の領地内よ」

「え? ヘルダムドって言ったら、私とたつろーがこの世界に来た時にいた国だよね?」

「ええ、そうよ。もっとも今はまだ影も形も無いけれどね」

「まあ、行き先が解りやすくていいと思えばいいか。

 それじゃあジャンヌ、視界は悪いが皆を乗せてそこまで飛んで行ってくれ」

「ヒヒーーン」



 《真体化》したジャンヌが背負った空駕籠に乗り込み、雪を風魔法で制御しながらカルテラント大陸を後にした。

 そのついでとばかりに、進路上で発見した魔物はカルディナに捕まえてきてもらい太古の魔物を2種類ゲットした。


 そんな寄り道をしながらも、かなりの速度で飛んでもらったおかげでスムーズにイルファン大陸までやってくることが出来た。

 そしてヘルダムド国が出来るであろう地帯にまで来ると、上空から大地を見下ろしながら竜郎達は『毒に侵された大地』を探し始める。


 すると大して苦労する事も無く、とある一点を中心にして木々が黒紫色に染まった森地帯を発見した。

 さらにその黒紫色の中心地点には霧状の毒が蔓延しており、目視ではそこに何があるのかも解らない状態だ。



「絶対にあそこだな……。カルディナは毒の解析を、奈々はその情報から全員に解毒魔法を呪魔法で付与していってくれ」

「ピュィーー」「了解ですの」



 すぐさま毒について解析していくと、かなり強力な毒素だと判明。

 その毒素が大地に染みわたり木々を侵し、ほんの一部の毒に適応できた魔物だけが住んでいるようだ。

 もしこのまま現代まで続いていたら、とてもではないがこの近くに人が住もうとは思わなかっただろう。



「とりあえずあのモコモコした霧が立ち込めている所から、ダンジョンみたいな反応があるな」

「じゃあ、あの中に入んないといけないんだね。

 私とたつろーは直ぐに適応できそうだけど、他の皆は大丈夫?」

「一応、毒対策魔道具は作ってありますよ」

「用意がいいな。あれから話を聞いてすぐ作ったのか?」

「いえ、奈々が毒魔法を覚えたあたりから毒の魔道具研究に手を出していたんです。

 なので元からあったものに少し手を加えただけですので、直ぐに用意できたんですよ」



 そう言いながら人間組の分だけ取り出し、使い方を教えながら渡していった。

 ちなみにカルディナ達は効く毒と効かない毒があり、効く毒は幽霊などのアストラル体にまで及ぼすような非生物にも有効な毒。

 しかし今回の毒素は通常の生物を殺すだけの毒なので、無対策で入っていっても問題はない。



「それでも一応アンチ魔法はかけていくつもりだけどな」



 油断して急に毒が変わった時にやられてしまっては元も子もないので、カルディナには常に毒を調べて貰いながら、奈々と竜郎は解毒魔法で毒除去空間を展開する予定となっている。


 奈々の呪魔法による解毒付与。リアの魔道具。アンチ魔法による3重対策で万全をきすと、いよいよジャンヌに地上に降り立ってもらう。



「酷いなここは、よくあの魔物は適応できたものだ」



 紫色の少し粘つく地面に眉を顰めながら、少し離れた所からこちらに走ってくる巨大なナナフシの様な昆虫魔物に感心するイシュタル。

 そして近づいた所で竜郎の転移レーザーで首を落とされ、何かの材料に使えるかもしれないと採集された。



「この環境に適応した魔物っていうのも珍しいかもしれないし、ちょっと他にも何匹か狩ってきていいか?」

「ならこの辺の土や木々も採集して貰ってもいいですか?」

「ああ、いいぞ」



 毒によって侵された土壌を数トン切りだして、紫に染まった木ごと《無限アイテムフィールド》に突っ込むと、竜郎は転移も使って巨大ナナフシ以外にもいた他4種の魔物の素材を5分ほどで入手して戻ってきた。



「よし、そんなに種類はいないっぽいしもういいだろう。

 それじゃあ、改めて目的地に進もう」



 少しネチャネチャする地面が気になりながらも森の中を突き進み、霧がより濃く立ち込める地帯に踏み込んでいく。



「視界が悪いな。カルディナ、奈々、一緒に頼む」

「ピィュー」「はいですの」



 竜郎は風魔法に解魔法で調整した解毒の風を巻き起こして周囲の霧を消し飛ばす。

 すると一気に視界がクリアになって、ここがどんな場所なのか一目瞭然になる。



「うわっ、これ川っすかね? ドロドロの沼みたいっすよ」



 直ぐ近くに川らしきものがあったのだが、ヘドロのようになってゆっくりと川下に向かって流れており、直接目で見なければ川だとは気が付けない程の酷いありさまだった。


 念のためにその水も採取してから、さらにその川上に向かっていくと、霧を吹き出す中心地点を目視でも発見できた。



「川の中にあったのか。道理であんなふうになるわけだ」



 川の底にはそれなりに大きな穴が開いており、その穴の中からボコボコと気体が噴き出し川を汚し大気中に毒霧をまき散らし続けていた。

 


「……もしかしてこのヘドロみたいな水の中に入って、その川底にあるっていう穴の中に行かなきゃいけないの?」

「いや、それはこっちで何とかしてみるよ」



 毒が効くことは無いと解っていても、愛衣だけでなく竜郎もあの中に入っていくのは抵抗があった。

 なので今度は解魔法で調整した水魔法と解毒魔法で、その辺一帯の川を浄化して綺麗な元の状態に戻していく。

 このまま放っておけばまた毒のヘドロ化するだろうが、直ぐに入るなら問題はないだろう。



「これならいいだろう。それじゃあ、さっそくあの中に入ってみよう」



 川の底と穴の境が壊れたダンジョンに繋がっているようで、何故かあの中には水が落ちていっていない事からもそこで間違いないだろう。

 探査魔法で穴の中を軽く調べてみると、そこに入ると地下へと3メートルほど落下して、その先に奥へと進む通路の様な物があった。

 毒もそちらから流れ出しており、どうやらそこを進んでいった先に今回の原因もあると考えていいようだ。


 竜郎たちはぽっかり空いた毒霧噴き出す穴へ入るべく、川に飛び込んだのであった。

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[気になる点] 毒ってエンデニエンテの称号で適応できんの?
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