第508話 今後の予定
ダンジョンを開放し入り口が開いたのを全員が確認した瞬間。
ダンジョン作成に関わった全員の頭の中に、称号獲得のアナウンスが流れてきた。
竜郎と愛衣には《称号『迷宮管理者 3/5』を取得しました。》と。
イシュタルには《称号『迷宮管理者 2/5』を取得しました。》と。
そして他のメンバーには《称号『迷宮管理者 1/5』を取得しました。》と。
「迷宮管理者ってのは解るが……5分の3ってのは何だ?」
「ん? 私は5分の2だったぞ」
「わたくしは5分の1ですの」
「あたしもっす」
「私もです」「ピィィイイーー」「ヒヒーーン」「「────」」「私もだわ」
「そうなの? 私はたつろーと同じだったけど、何の意味があるんだろうね」
などとお互いの称号について確認しあっていると、その答えを迷宮神が直ぐに教えてくれた。
『末尾の分数は元になったダンジョンの魂の吸収量を示していて、その数字が大きいほどダンジョンの決定権が強くなるの』
「迷宮神さん、決定権が強いと何かいいことあるの?」
『例えば決定権が強い方が、ダンジョンの設定なんかで揉めた時に優先権が与えられるわ』
つまり──竜郎とレーラが同じ階層をどうするか揉めたと仮定した場合、竜郎が無理やり決定してしまえばレーラのシステムからは変更できなくなる。
ただし例外もちゃんとあって、レーラがイシュタルを引き入れて合計5分の3にすれば竜郎とイーブンに持ち込めるので、再度話し合いのテーブルに着かせることが出来る様になる。
ただ竜郎達の場合は基本的に自分の意見を無理やり押し通そうとする者はいないので、これについてはあまり意味はないだろう。
『あと優先権が高い人物が設定した事を、それ以下の者が変更するときは設定者から許可を得るか、和が設定した人物と同等以上になるように迷宮管理者を集めないといけないわ』
「俺はカルディナの設定を勝手に変えられるけど、カルディナが俺の設定を弄る場合は愛衣やイシュタルの同意を得るか、またはジャンヌやアテナ達の中から2人以上集めないと出来ないって事か」
こちらも余程変な理由がない限り、全員他者に許可を出すつもりなので問題ないだろう。
『まあ、これらはあなたたちにはそれほど重要な事ではないかしらね。
けどもしダンジョンの階層を入れ替える場合、ダンジョンの入り口を一時的に封鎖する場合、ダンジョンボスを入れ替える時なんかは、合計の和が1以上になる様に同意者を得ないと変更出来ない様になっているから気を付けてね』
「大きい変更をする時は1人じゃできないってことっすね」
竜郎の場合、愛衣かイシュタルに同意を得られれば変えられるが、カルディナ1人の同意だけだと変えられない。
カルディナの場合、ジャンヌ、奈々、アテナ、天照から同意を得られれば5分の5=1なので大きな変更もできる──ということらしい。
なので一人の時に自分の階層を別の階層に差し替えようとした場合、出来ないとなっても慌てないようにしてくれとの事。
『私から説明する事はこれ位かしら。そっちからは、まだ何か質問はある?』
「あの、私たちはこのダンジョンの横に妖精樹を植えようと思っているのですが、それで何かしらダンジョンに影響させてしまうのは問題になりますか?」
実際に作って管理するとなった時、思っていた以上に世界力が投入できる量などがきっちりと設定されていたりと、ちゃんと考えられていた。
そんな所に横やりを入れるように妖精樹などで干渉してしまうのは、迷宮神的にはどうなのだろうとリアは気になってしまったのだ。
しかし「もしだめだったらどうしよう、もうダンジョンを設置しちゃいましたけど……」と不安な気持ちでの質問だったというのに、聞かれた迷宮神はといえば大して気にしていない様だ。
『別にいいんじゃないかしら。
むしろどんな風になるのか私も興味があるから、やっちゃっていいわよ』
「例えば今予想されている一番有力な説の一つは、ダンジョンのトータル値の増大とかなんです。
そうなるとレベルに見合わない規模のダンジョンになってしまう可能性もあるんですよ? それでもいいんですか?」
『ええ、いいわ。それはもう、あなた達のダンジョンの個性よ。
そうして私の見たことも無い新しいダンジョンが産まれるというのなら、歓迎すらしてあげる。
少しは安心できたかしら?』
「ええ、ありがとうございます!」
『なら良かったわ』
これでリアも安心して妖精樹の植え付けに取り組めそうだ。
他の面々も安堵しながら笑顔の戻ったリアに微笑みかけた。
妖精樹の件以外には懸念材料は今のところないので、とりあえずここで迷宮神との会話が終わ──らず、『ああ、そういえば』という枕詞から言葉を続けてきた。
『次にあなた達が行く予定地は確かまた壊れたダンジョンだったはずだから、上手くいけばそこのダンジョンの魂の残滓も吸収できるかもしれないわ』
「──え? そうなんですか?」
竜郎が思わず聞き返すと、肯定する返事が返ってくる。
『ええ。そうすれば規模が上がる可能性は高いから、強いダンジョンを望むなら頑張りなさい。じゃあね──』
「おぉぅ……。最後に重要な事ぶっこんで通信を切っちゃったよ、迷宮神さん」
愛衣がそう言って呆然とする中、竜郎は冷静に次の目的について聞いているであろうレーラに話しかける。
「で、レーラさん。実際にそうなのか?」
「私はただ31万年前に行って、毒の大地を探ってみてくれとしか聞いてなかったけれど、より詳しい情報が入ったのかもしれないわね」
どうやら向こうも調整しながらこちらのサポートをしているらしく、レーラに話した段階では解っていなかった事もあったようだ。
そして今、迷宮神が言ったことが本当なのだとすれば、毒の大地を探りながら壊れたダンジョンを見つければいいということになる。
「調べる手間がちょっと減ったっすね。でも31万年前って何気に戻りすぎじゃないっすか?」
「私も昔の研究資料や手記を取り出して記憶を思い起こしている所よ。
でも今回大幅にタツロウ君のレベルも上がったし、多少曖昧でも強引に合わせるくらいの事は不可能ではないはずよ。それとエネルギー量的にもね」
「前のレベルだとちょっときつかったかもしれないが、今なら俺も出来ると思う。
それに──」
「太古の魔物ゲットだぜ?」
「さすが愛衣、何でもお見通しだな」
「ふふっ、たつろーの事なら何でもわかっちゃうんだから♪
たつろーはどう? 私が今何を考えてるか解る?」
「んー……これかな──」
可愛らしく小首をかしげる愛衣に少しだけ考える様な素振りを見せてから、竜郎は形のいい彼女の唇に自分のそれを押し当てた。
「せーかい♪ でも──」
「一回じゃ足りないよ?」
「せーかい♪ ん──」
さすがに皆が見てるから自重しているんだ──とでもいうように、子供のような押し当てるだけのキスを何度もしているが、魔力体生物組以外からしたらそういう問題じゃない。
なぜ今の流れで突然ラブシーンが始まるのかと混乱するイシュタルに、リアはポンポンと肩を叩き、私も通った道ですよとでも言わんばかりの菩薩のような笑顔で見つめたのだった。
「それで、そろそろいいですかー? 兄さん、姉さーん?」
そろそろ自重のタガが外れそうだなという所で、リアは二人に呼びかけて話を進める事にする。
「ん? ああ、すまん。盛り上がってしまった」
「めんごめんご!」
「まあ、いいんですけどね」
なんだかんだとリアにとっても二人が仲良くしているのは喜ばしい事なので、苦笑するだけで軽く受け流し、これからの流れについて説明していく。
「まず私は、これから妖精樹の種からイフィゲニアさんのエネルギー吸収と貯蔵をする魔道具の作成に入りたいと思います。
これ自体は素材は貴重なものばかりですが、製作にはそれほど時間もかからないはずですし先にやっちゃいたいので」
「ああ、それについてはリアの都合の良いようにスケジュールを組み立ててくれ。
俺達はそれに合わせるし、手伝える事があれば何でも言ってくれ」
「ええ、その時はお願いします。
で、ですね。作成自体にはそれほど時間はかかりませんが、吸出しには多少時間がかかります」
「あれだけの、ばあ様のエネルギーだからな。
1日で全部吸い出すというのは難しいだろう」
「ええ、その通りです。イシュタルさん。
ですのでここは魔道具の完成、設置、吸出しと貯蔵──の間に、31万年前に転移、解決からの帰還、吸出しと貯蔵完了。
という流れにしたいと思っているのですが、皆さんどうでしょうか?」
「わたくしは良いと思いますの」
真っ先に声を上げた奈々をはじめ、他の面々もそれが一番効率がいいだろうと反対意見は無く満場一致で可決された。
「となると妖精樹の発芽は帰ってきてからという事ね。
その時は来られるかどうかはさておいて、エーゲリアや妖精郷のプリヘーリア女王陛下にも声くらいは掛けておいた方がいいかもしれないわね」
「だな……。特に母上は後から知ったら何で教えてくれなかったんだ! と文句を言ってきそうだ」
「後で揉めるよりも先回りして手を打っておいた方がいいか。
それじゃあ帰ってきてから発芽の準備と並行して、その二人にも声をかけてみよう」
こちらも特に反対意見は出なかったので、帰ってきしだいその2名には一報入れておくことが決まった。
頭の中にそれらのスケジュールをメモしていき、今後の予定についてもう一度簡単にすり合わせてから、本日は自由行動となった。
リアは竜郎に必要な素材をリストアップした紙を渡し、奈々と共に作業場へと去って行く。
竜郎はそれを複製しながらリアの《アイテムボックス》へと送信した後、愛衣と二人で先ほど作ったダンジョンへ飛び込んだ。
イシュタルは既にアテナとレーラを誘ってダンジョンへ行ってしまったので、ここにはいない。
他の面々もカルディナ&月読(属性体)&彩。ジャンヌ&天照(属性体)&ウリエルの三人編成でダンジョンへ。
皆、帰還石は《アイテムボックス》に十分に持っているので、帰りたくなったらいつでも帰ってこられるから安心だ。
そうして自分たちの作ったダンジョンを各々楽しんだのだった。
それからダンジョンをさくっと攻略してしまい、外に出ると聖竜スプレオールことスッピーが待っていた。
どうやら竜郎の領域管理をしてくれている従魔たちと邂逅と同時に実戦演習したり、お気に入りの場所を見つけたりと充実したピクニックとなったようだ。
「それで某に、そこでの生活を認めて貰いたいのだが、いいでござるか?」
「どのへんだ?」
「あっちの山をずっと行った先の──」
竜郎が《完全探索マップ機能》を観ながらスッピーのお気に入りの場所を見つけ、ストリートビュー機能を使ってどんな場所かウォッチング。
未開発の地だが、珍しい物や強い魔物を倒したら持ってきてくれるというので軽く許可を出した。
なら明日にでも家を建てにでも行こうかと竜郎がいうと、スッピーは首を横に振った。
「サバイバルは自分の力で生き抜いてこそでござる。
家も草木があれば自分で作れる。問題ないでござる」
「えっと、それじゃ大変だよ?」
「その大変をするためにここに来たでござる。
それで朽ちたとしたら、それは某の鍛錬不足だったというだけでござる」
まだ体もやせ細らえたままだというのに気概は十分。
既に魔物と幾度か闘った様子も有り、今でも十分この領地でやっていけそうではあった。
それにこのスッピーは、聞いたところによると恐ろしく環境適応能力が高いらしい。
なので水の中でも直ぐに呼吸や会話も出来るようになったのだ。
そして呪いに囚われる以前も幾度となく辺境で身を鍛えてきたので、まず死ぬことは無いだろうとの事。
「何かあったり、身の危険を感じたら直ぐに空に向かってこれを投げるか、この城のある場所まで来てくれていいからな。
そうすれば俺達や蒼太なんかが助けに行くから」
竜郎はそう言いながら、リアお手製の救難信号弾を手渡し使い方を教えていった。
「保険をかけるのは好きではないのだが……。タツロウ殿の厚意を無碍にすることも出来ぬか……。
あいわかった。ではその時は頼らせてもらうでござるよ」
「ああ、ヤバいと思ったら直ぐ使ってくれよ。それに暇になったら遊びに行くから」
「うむ。楽しみにしているでござるよ。
ああ、それと定期的にソータ殿と試合させてほしいでござる」
「蒼太と?」
「タツロウ殿の従魔たちと拳を交えた中で、彼だけはどうやっても勝てる気がしなかったでござる……」
レベルだけで言うのなら蒼太よりもスッピーの方が上である。
しかし蒼太は元々格の高い竜だったところに、《強化改造牧場》による超強化をほどこされて産まれてきた存在だ。
スッピーとて竜種としての格は高い方だが、それでもそんな蒼太に及ばず試合を申し込んだら手加減された上であっさりと負けてしまった。
それ故に高みを目指すスッピーにとって、蒼太という存在は目指すべき場所であり、手加減などされずに互角にやり合える好敵手になりたい存在となったのだ。
「そう言う事か。蒼太にも俺から言っておくよ」
「おおっ、それはありがたいでござるよ! いつか勝って見せるでござる!」
そうしてスッピーは城からそこそこ離れたところにある山へと向かい、まずはその地の魔物達を掌握するのだと意気込みながら空の彼方へと消えていったのであった。




