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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六編 ダンジョンと妖精樹

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第506話 つくったダンジョンを見てみよう

 最初にやって来たのは、自殺の名所になりそうな雰囲気のある樹海。

 見えないほど真っ暗と言うわけではないが視界はかなり薄暗い。



「ここは私が作った所ね」



 製作者はレーラ。攻略者はこの樹海を歩き回って鍵の欠片を持つ3体の魔物を討伐し、鍵を完成させることで次の階層への入り口が開かれる。



「ニャー」

「こんなとこにネコちゃん?」



 竜郎の腕に抱きつきながら、愛衣がキョロキョロと周囲を見渡しネコを探す。




「いや、愛衣。あそこをみてくれ」

「げっ」



 そんな愛衣に竜郎が上の方にある木の枝を指差した。

 それにつられる様にして愛衣がそちらへ目を向けると、人魂のような薄暗く発光する猫の頭が枝からぶら下がってこちらを見ていた。



「お化け屋敷と違ってマジもんだから迫力あるねー」



 これはシミュレーションなので厳密にはマジもんではないのだが、それでも実際にみたら恐いだろう事は伝わってくる。



「手だけの幽霊が地面から一斉に生えて地中に引きずり込もうとする──っていう魔物もいるわよ。

 あとは樹系の精神体の魔物が宿っている草木は、ちゃんと中まで調べないと普通の植物かどうか解らずに襲われる可能性もあるから要注意ね。

 けど広さを多めに取ったから、魔物の強さ的には難易度は低いかもしれないわ」

「まあダンジョンレベルも3だし、それが限界だろうな」



 そのまま少し歩いて見回ってみると、見ただけでは解らない草が生えた地面に突如底なしの泥沼が現れたりと、魔物は弱くてもちゃんと調べて進まなければ文字通り足元を掬われる──そんな階層になっていた。


 レーラの樹海階層を軽く見終ると、今度は深い深い大きな穴の底にやって来た。

 細かな亀裂の入った地面の隙間からマグマの赤光が漏れだしているのだが、気温は寒く0℃を少し下回っている。



「ここはわたくしが作った地獄の穴ですの!」

「また凄いとこを持ってきたねぇ」



 愛衣はそう言いながら上を見上げて、《遠見》で大よその高さを目算しようとしてみる。

 しかしその穴は延々と上に伸びており、その終わりがうかがい知れなかった。


 そこで今度は周囲を見渡してみれば、螺旋を描くようにグルリと壁にそって階段が設けられており、壁をクライミングしなくても登れるようにはなっていた。



「ここは昇り始めると下からマグマがせり上がってくるようになっていますの。

 そしてマグマの中には火の玉の魔物が現れ、上るのを邪魔してきますの」

「かなり高そうですが、どれくらいあるんですか? ナナ」

「この穴は途中でループしていて終わりはないですの。

 延々と登りながら、どこかに隠されている鍵の欠片を3つ手に入れなければ出られませんの。

 だから空を飛んで上に上がっているだけでは永遠に出る事は出来ませんの」

「ループなんて事も出来るんすね」



 また奈々が言うには火の玉の魔物はかなり弱く設定されているが、その分数が多い。

 さらに一匹だけ上限ぎりぎりまで強くした転移スキル持ちの幽霊鬼が潜んでおり、火の玉と下からせり上がってくるマグマ、鍵の欠片探しにばかりに気を取られていると、手に持っている棘付き棍棒で殴り殺されてしまうので注意が必要との事。


 奈々の作った地獄の穴階層を軽く見終ると、今度は真っ暗な夜の墓地へとやって来た。



「ヒヒーーン」

「ここがジャンヌの作った階層か」



 竜郎が光魔法で周囲を照らして良く見てみると、この墓地は西洋風ではなく日本風。

 苔むしたお墓や半壊したお墓。雑草も伸び放題で、うち捨てられた墓地をイメージしているらしい。



「やったことないけど、肝試しに来たって感じがするね」

「だな、なかなか雰囲気が出てる」



 愛衣が興味半分、恐れ半分といった顔で竜郎の腕に強く抱きつきキョロキョロと何かいないか探していると、目の端に幽霊の魔物がスーと通って行くのが見えた。



「ぎょえ~、やっぱ本物は凄いや」

「この階層はオーソドックスな幽霊系の魔物が多いみたいっすね」

「ヒヒン」



 アテナの言葉に《幼体化》状態のジャンヌは、ちっちっち──とでも言うように鼻先の小さな角を左右に振った。

 そして近くにあったお墓の前の地面をタシタシと前足で叩いた。

 すると──グワッと半分以上肉が腐り落ちたゾンビが飛び出してきた。

 だがシミュレーションなので、誰にも危害を加えることなく周囲をうろついた後に自分の墓へと戻っていった。



「ゾンビトラップか。探査無し事前情報なしでアレを食らったら、さすがに俺もビビりそうだ」

「ヒヒーーン」



 でしょーと嬉しそうに鳴くと、褒めて褒めてとジャンヌが足元に摺り寄ってきたので、竜郎は愛衣が絡み付いてない方の腕で頭を撫でてあげた。


 そこからさらに詳しくここについて聞いていくと、幽霊もお墓に設置されたゾンビ達もそれほど強くはないらしいが数は多いとの事。

 そんな幽霊とゾンビペアを躱しながら奥に進んでいくとお寺があり、その中に1体強力なお坊さん幽霊を仕込んでいるとの事。


 そしてそのお坊さん幽霊を倒すと巻物が魔石と共にドロップする。

 巻物の中には次の階層へ行くための鍵の在り処を記した地図が描かれており、それを見れば魔物に勝てる実力がある者ならあっさりと先へ進める。


 ちなみに鍵の在り処は大量にある墓のどれかの中にランダムで仕込まれているので、別に地図を手に入れなくても運が良ければ一発で引ける可能性もある。


 そういった運、または地図を用意する事でトータル値を下げて、その分お坊さん幽霊に世界力をぶち込んだらしい。

 なのでダンジョンレベル3の通常魔物にしては、結構強い中ボスクラスらしい。


 そうしてジャンヌの墓地階層を軽く見終ると、今度は夜の海の上に浮かぶ巨大なボロ船の上にやってきた。



「────」

「これは月読が作った幽霊船の階層らしいぞ」

「でっかい船だねぇ」



 船の大きさは高さだけでも200メートルは有りそうなほど巨大で、さらに所々穴のあいた木造。

 普通の船だったら確実に沈んでいるであろう階層だ。



「えーと、なになに~…………。ふんふん。そういう風になっているのか」

「どういう言う風になっているんだ?」



 竜郎が月読から具体的な内容を聞いていると、早く知りたいとばかりにイシュタルが目をキラキラさせて迫ってきた。

 先ほどのジャンヌの階層の時も密かに目を輝かせていたし、どうやらイシュタルはこういうホラーな雰囲気を楽しめるタイプの様だ。



「えっとだな。正規の攻略ルートは、この船内に入り迷路のように入り組んだ中を探索しながら、攻略者は途中で出てくる幽霊たちを倒し、どこかにいる幽霊船長を探す。

 んで幽霊船長を倒すと鍵と簡易的な船内地図を手に入れられる。

 その船内地図には次への階層へと進める部屋の扉と、宝箱の部屋の扉の位置が描かれているんだが、そこを開くには鍵がいる。

 けれど幽霊船長の鍵は、どちらか一方にしか使えないらしい。

 ちなみにその情報は、ご丁寧に地図に書いてある」

「む。それでは宝箱をとるか次へ進むかを選ばなくてはいけないという事か。

 なかなかに意地悪だな」

「まあでも抜け道はちゃんとあるらしいぞ。こっちは攻略者には教えてあげないみたいだが」



 船の中にではなく、海の中に沢山いる水の魔力で構成された魔物──水精の中に1体だけ他より強い個体が密かに存在する。

 その水精を倒すと、また次への階層へと向かう鍵が手に入れられるらしい。

 ただしこちらは地図を落としてくれない。


 また幽霊船長を倒してからこちらに向かうと強個体の水精は更に強化されているので倒しにくくなり、その逆に強個体の水精を倒してから幽霊船長を倒しに行くと今度は幽霊船長が強化されている──とのこと。


 だが実力に自信があるのなら得意な相手を残して両方撃破し、宝箱と次へのキップ両方手に入れる事もちゃんと出来るようになっている。



「それは面白そうだな。ダンジョンを開いたら是非攻略してみよう」

「────」

「是非そうしてみてくれ、だってさ」

「ああ、任せてくれ」



 そうして月読の幽霊船階層を軽く見終ると、今度は大きな屋敷が東西南北に等間隔に4つ並んだ中央に立っていた。

 屋敷は程々にボロがきていて、植物の蔓が壁にべったりと張り付いている様な雰囲気ある幽霊屋敷だ。



「ここは私が作った幽霊屋敷×4です」

「なぜ4つも作ったんですの?」

「最後には4つが合体して階層ボスになります」

「かっちょいいですの!」



 リアが用意した階層は、4つの屋敷に侵入し罠と雑魚幽霊や家具に宿った無属性の魔力で構成された魔物──ポルターガイストたちを掻い潜りながら家主に設定されている、やや強めの幽霊か精神体の化物を撃破する。

 すると鍵の欠片が手に入り、4つ全ての家主を倒す事で完成させることが出来る。


 しかし4つ目の屋敷を攻略し鍵を完成させると、全ての屋敷が合体して1体の魔物へと変貌を遂げる。

 その魔物は土の魔力で構成された魔物──土精で、巨大なイノシシのようなフォルムをしているそうだ。


 後はこのイノシシを倒すか、背中にある鍵穴に上手く完成した鍵を差し込むことが出来れば次への入り口が開く。



「倒さなくても次へ行けるという手段を用意する事で、ダンジョンレベルにしては強い魔物にすることが出来ました。

 でももうちょっと強くしたかったですね……残念です」



 もしダンジョンレベルが上がったら、優先的にその土精を強くしたいと最後にリアは語った。

 それに奈々も強く頷いており、長く一緒にいるから感性も似てきたのかなと思った竜郎であった。


 そうしてリアの幽霊屋敷階層も軽く見た所で、今度は廃墟が立ち並ぶゴーストタウンへとやってきた。



「ピィィー」

「ここはカルディナちゃんが作ったんだね」



 整備されていたであろう地面もヒビ割れ草は生え放題。

 建物もいつ倒壊しても、おかしくないほどにボロボロだった。



「ここもなかなかに雰囲気があっていいな!」

「だってさ、カルディナ」

「ピィユィィー」



 イシュタルもここがお気に召したようで、早く探索したそうにうずうずしていた。

 なので手早く説明を済ませていく。



「ここは簡単に言えばゴーストの住まう町で、幽霊町長を探して探索する階層らしいっす」



 しかし探索中には住民である幽霊の相手をしながら、空からやってくる鳥の形をした風精も対処する必要があるらしい。

 また風精は倒すと確率で幽霊町長のいる場所のヒントを落としてくれるので、闇雲に探したくないなら風精を倒す事に集中すると楽になるかもしれないとの事。


 幽霊町長は倒すと鍵をドロップし、それを持って町の入り口に行くと次の階層への入り口が開く事になっている。


 そうしてカルディナのゴーストタウン階層も軽く見まわした所で、今度は夜の日本庭園とでもいうべき白い砂利が敷き詰められた広大な、草木が植わる空間と日本式の大きな屋敷がある場所へとやって来た。



「ここは何だか綺麗な場所ね」

「────」

「ここは天照が作った階層か、確かに趣があって風流だな」



 レーラがウットリとした目で見つめる先には大きな桜並木が月に照らされ、下の池に映りこんでいた。

 これまでのおどろおどろしい雰囲気とはどこか違うが、それでもどこか不気味さを醸し出している──そんな階層だ。



「あそこにある井戸から女の人の幽霊が這い出してきそうだよね」

「ああ、そんな感じ──ほんとに出たよ……」



 白い着物を着た濡れた長髪の女が、愛衣の指差した屋敷の近くに置かれた井戸から顔を出した。

 目は片方無く、唇も下半分が削げて顎と下の歯茎がむき出し。手に爪は無く、左手はおかしな方向に折れ曲がっていた。

 そんな不気味な女が完全に井戸から出てくると、四つん這いになって竜郎達の方向に突っ込んできた。


 両足も折れているのか変な方向にねじれ曲がっている状態であるというのに、かなり早い。

 愛衣が「うひぃ~」と言いながら竜郎に抱きついて、それを見ているとそのまま竜郎たちの横を通り過ぎてどこかへ去って行った。



「迫力あるなぁ。滅茶苦茶魔物を作りこんでんね、天照ちゃんは」

「その辺は俺に似たのかもしれないな」

「────♪」



 ダンジョンの管理者はトータル値をほんの少し上げることになるが、設置する魔物の容姿もベースとなる魔物から改造する事が出来る。

 天照は凝り性の様で、日本庭園や家屋にでてきそうな幽霊を一体一体作りこんで、美しさと不気味さを合わせた階層を作りだしたらしい。


 なので基本的にここに出る魔物は、日本の怪談などに出てきそうな幽霊ばかりなのだそうだ。

 また攻略方法としては、紫色の着物を着て包丁を振り回す血まみれの老婆の幽霊を見つけて倒すと鍵を落としてくれるので、それを持って大きな屋敷の中に目立つように設置されている仏壇にある溝に鍵を嵌めると、庭の白砂利が次の階層への入り口に変わる。


 そうして天照の日本庭園階層を軽く見た所で、今度は真っ暗な遺跡の中にやって来た。

 暗すぎて何も見えないので、竜郎が光魔法で辺りを照らす。



「ここは私の作った階層だ。古代の遺跡をイメージしてみたぞ」

「おー、某インディーさんの映画とかでありそうな所だね、たつろー」

「ああ、まさにそんな感じだ」



 石造りの遺跡で通路は広く、壁面には細かな彫刻。

 もしここにいるのが映画の世界の冒険家だったのなら、どんなお宝が眠っているのかワクワクしていたことだろう。



「ここは呪精の魔物がそこらじゅうからやってきて、あらゆるステータスを下げにくる。

 そんな状況を打破しながら反応が鈍って罠にやられたり、徘徊しているゾンビにやられたりしないように奥へと進み、所々に隠された宝箱から財宝や鍵の欠片を集めて最奥を目指すんだ。

 そして最奥を守護する首なしの騎士に勝つことが出来れば、最後の鍵の欠片が手に入り次の階層へといけるようになっている」

「となると、もしかしたらこの場所が一番儲かるかもしれないわね」

「ああ。私はその辺も意識してみた。まあダンジョンレベルが低いから、たいしたものは宝箱に入れられなかったがな」

「そこは今後に期待だな」



 竜郎のその言葉にイシュタルが強く頷いた。

 どうやら恐怖あり驚きあり夢ありのダンジョンを作りたかったようだが、まだまだこれでは不満らしい。

 そしてこれまでの他の面々の作った階層にも触発されて、今後に生かす気満々なようだ。


 そうしてイシュタルの遺跡階層を軽く見た所で、次の竜郎が作った階層見学へと移っていくのであった。

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