第504話 ダンジョンについて聞こう
一先ず契約魔法の件はこれで終わりにして、さっそく現状システムに異常をきたした状態を何とかする事にする。
「ダンジョンをつくろーってことだけど、実際何処につくればいーのかな?」
「んー……前にも言ったが、この領地にしておいた方がいいだろうな」
「ここなら誰に許可を得る事も無く勝手にしていいっすからね」
「さすがにダンジョンを作るかどうかは王様に許可を貰った方がいい気もしますが、そうなると説明しなくちゃいけませんしね……」
「それならいざ見つかった時も、人跡未踏の地にダンジョンを見つけたって言った方が早いですの」
レーラやイシュタルも特に異論はないようなので、とりあえずこの領地内のどこかというのは決まった。
しかしふと思う所があったのか、イシュタルが口を開いた。
「場所を決めるのは良いが、ダンジョンを作るに当たって地理的な条件が有るかもしれない。
その辺の細かい所を聞いておいてから詰めていった方が、いいんじゃないか?」
「それもそうね。どんなダンジョンが作れるのかも解らない状態で決めて、後で出来なかったじゃ議論した時間が無駄になってしまうでしょうし」
「んじゃあ、とりあえず等級神に聞いてみるか」
さっそく等級神に連絡してみると、すぐに繋がった。
『おお、いいタイミングじゃのう。ついさっき全ての調整が終わった所じゃ』
(なら良かった。それで今みんなとも話していたんだが、俺達が作るダンジョンってのは、どんな感じになるのか詳しく教えてもらえないか?
場所決めとか、いろいろ事前に考えておかなきゃいけない事もあるだろうし)
『それもそうじゃのう。こちらも初めてのこと故、調整に戸惑ったが、概ねどんな風になるかも理解できておる。
では、その辺を語っていくとしよう。メモの準備はいいかの?』
(ん、大丈夫だ)
『まず──』
そうして等級神が語る事を書きとめながら、全員にも見えるように見せていく。
まず今回、竜郎達が作るダンジョンレベルは3。
元になっている自死したダンジョンは7レベルだったそうだが、所詮取り込めたのは魂の残滓なのでそこは仕方がない。
また最初からダンジョンだったモノと比べると、やや小規模にもなるらしい。
ここで言うダンジョンの規模というのは大まかに言うと──。
『階層の広さ』『魔物の数や強さ』『罠の数や難易度』
──のトータルで決まり、ダンジョンレベルが高くなるほどそのトータル値は大きくなっていく。
ダンジョン制作側はこのトータル値からはみ出さない様に、主に上記の3点を意識して製作していく必要がある。
つまり──。
一つの階層を広く設定するほどに魔物の数や強さ、罠の数や難易度は減っていく。
ダンジョンレベルに見合わない強力な魔物を設定してしまうと、階層に使える面積は狭く罠も少なくなる。
極悪な罠をいくつも仕掛けてしまうと、魔物は少なく面積も狭くなる。
──と言った感じだ。
『まあ魔物を強く設定しても、それを覆すほどの弱点を付ける事でトータル値を下げるといった抜け道もあるがのう』
(あー、そういえば前にそんなダンジョンがあったな)
以前、レベル3のダンジョンに行った時に、そこに出た巨大ガエルのボスは強かったが、その反面大きな弱点を2つも持っていた。
そう言う事をすれば、トータル値を上げずにダンジョンレベルに見合わない魔物を用意する事も出来る様だ。
また他の抜け道としては、環境を合わせるという手段も存在する。
(環境を合わせる?)
『そうじゃ。例えば水系の魔物を砂漠の階層に置いたりすると、その分トータル値が上がるが、水系の魔物を水の中に置けばトータル値は下がる』
(そんなことでいいのか? 当たり前の事だと思うが……)
『いいのじゃよ。ダンジョンレベルとは攻略者にとっては難易度を示すもの。
存在する魔物の生息地を常識的な範囲にする事で、攻略者はこんな魔物が出るだろうと予測しやすくなる。
しかし砂漠地帯の魔物を思い浮かべておったのに、魚の魔物が元気に襲って来れば咄嗟の対応が難しくなり難易度も上がるじゃろう?』
(確かに、予測していた魔物が出てくれた方が攻略する側としてはやりやすいしな。
そういう手段でもトータル値を下げられるのか。ふむふむ)
とはいっても、先の例で言うのなら砂漠系の地形に水系の魔物を置いて十全に力を発揮できない状況というものをわざと作りだして攻略しやすくするのなら、トータル値は下がったりもするらしい。
また環境を合わせるというのも、階層ごとに合わせるのと全階層で合わせるのでも変わってくる。
例えば全階層通して火をメインに据えた環境で、火の魔物が出るダンジョンであれば普通よりも大きい規模で作成できる。
しかし階層ごとに火、水、風などとコロコロと変えてしまうと、その分攻略者たちは対応に追われるので難易度が高いと判断されてトータル値も高くなってしまう。
『他にも攻略者にとって対応しやすくするほどにトータル値は下がっていく故、色々やってみたらよいと思うぞ』
(ちなみにそのトータル値は、こっちで簡単に確認できるんだよな?)
『うむ、お主達のシステムにそういったものも解りやすくみられるように、プログラムを組んでおいたからのう』
(色々とありがとな)
『なに。こちらがもっと注意深く予測しておれば、もっと早く対応できておったかもしれぬのじゃ。これくらいは当然のこと。
さて他に話しておくというと、アレじゃな──』
ダンジョンには毎日、神たちが設定した分だけ世界力が供給される。
それが許容量を超えるとレベルが上がったりもするが、魔物を新たに補充したり罠の修復、環境を維持するのに世界力は消費されていくので、真面目に運営し攻略されているダンジョンだとそうそう溜まらない。
ちなみに供給量はダンジョンレベルが高いほど多くなる。
また階層を増やしたり新たな魔物を設置するのにも世界力を使うが、保有世界力が月の最後にマイナスになっていた場合、迷宮神から警告がくる。
その時にやる気がなくなったと告げれば、その場で破棄され、やる気があっても警告を3回連続で受けるとダンジョンは強制破棄される。
(じゃあ連続でなければ2月の期間はマイナス状態でもOKって事か)
『そうじゃのう。ただし前月分のマイナスは取り戻さねばならない故、あまりにも度を過ぎた使い方をして、残り2月で取り戻せる量でなかった場合は強制破棄が決まってしまうということもある。
やる気があるのならギリギリの綱渡りはしない方が良いのう』
(それもそうだな)
ただしダンジョン側で予測できなかった事──例えば大量の人間が何故か突然やってきて、想定以上に減ってしまった──などのどうしようもない事態の場合は警告は取り下げられたりもするので、そこまで厳しいわけでもない。
のんびり無理なくやっていれば、いつまでもダンジョン運営は続けらるだろう。
また初回のみ最低限ダンジョンを開ける階層数が作れるだけの世界力は別口で供給されるので、最初は1階層しか作れない~なんてことは無いらしい。
『とまあ、重要説明はだいたいこんな感じかのう。何か質問はあるか?』
(ああ、ある。むしろ一番重要な事と言ってもいい)
『一番重要? はて、話してない事があったかのう』
(いや、ダンジョン運営とは少し違う事だから話してないのは当然だと思う。
でだ。聞きたい事っていうのは、自分たちで作ったダンジョンに、自分たちは入って攻略できるのかが聞きたい)
『おーそう言う事じゃったか』
もし自作自演ならぬ自作自攻略ができるのなら、竜郎は《レベルイーター》によるSP集めが非常に捗る。
なんせダンジョン内の事は全て知っていて、どの魔物が何処に出て、どの種から効率よくSPが得られるのかも事前に情報を得ている状態なのだ。
自分でも攻略者に回れるのなら、楽に安全に稼げるSP供給所としてダンジョンを利用できるだろう。
『うむ。出来るぞ。というか、そんな事を防止する機能などついていないからのう』
(まあ、ダンジョンの個は人間じゃないからなあ。想定する必要すらないだろうしな)
竜郎のメモを見てその事を知った面々も、自分で作って自分で体験できるとあって嬉しそうに笑っていた。
『他にはあるか?』
(そうだな……。ああ、そうだ。野生の魔物をダンジョン内に放流する事は出来るのか?
そうすれば世界力を消費しないで魔物の数を増やせそうだが)
『それはできんな。基本的に魔石の無い魔物はダンジョン内には入れんようになっておる。
入れるとしたらテイム契約を施された従魔くらいだったはずじゃ。
じゃがボスや特殊な条件下でのみ出現する以外のダンジョン内の魔物は、テイムしたりして外に出す事は可能じゃがのう』
(うーん。そうなのか。解った、ありがとう。あとは…………今のところは思い浮かばないな)
『お主達のヘルプでもダンジョンについて聞けるようにしておいた故、解らない事が有ったらそちらで聞くこともできる。
それでも解らない事があれば何でも聞いてくれてかまわんからの』
(解った。ありがとう)
『うむうむ。それでは場所が決まり次第また連絡を頼む。その時に作り方を教えるのでな──』
最後に竜郎がもう一度礼を言って、等級神との話は一先ず区切りがついた。
「自分たちでも攻略できるとなると、拠点近くに設置したいですね。ああでも──」
「でもなんですの?」
「そういえばベルケルプさんの理論を使って、転移装置の製造に成功しました。
なのでそれを近くに設置しておけば、誰でもそこまで一瞬でいけますよ。
さすがに兄さんの魔法みたいに時間の壁を越える事はまだ出来ませんが」
「そうなのか。だとするとララネストの卸し作業用に、入り口付近にもその装置を付けて貰いたいな」
「そう言うと思って既に複数個作り終ってますよ、兄さん」
「さっすがリアちゃん、仕事が早いね!」
愛衣がリアへ抱きついて、よしよしと褒め称えた。
「ということはこの領地内なら何処に設置してもいいのか。
とはいえ、タツロウ。そのダンジョンは他者にも開放する予定はあるか?」
「今のところ、身内とかスッピーさんみたいな住民限定で考えてる。眷属たちの訓練としても使えそうだし」
「でも将来的に開放するという事もあるのかしら?」
「時と場合によっては有りえるかもしれない。未来のことは解らないしな、絶対に無いとは言えない」
「なら、この領地の入り口近くに設置するというのも有りなのかもしれないわね」
「ダンジョンに外の人を入れたいってなった時に、お城の周辺にワラワラ来られても嫌だしね。それは言えてるかも」
距離の問題はリアの転移装置さえあれば問題ない。
それにいざ関係者以外にも解放したくなった時に入り口近くにあれば、動線も確保しやすい。
それらの意見から、ダンジョンはこの領地の入り口付近にするのがいいのかもという方向へ舵を切りだした──のだが、そこで何かを思いついたのか、リアがポンと手を打ち言葉を発した。
「いえ、やっぱりお城近くにしませんか?
それも妖精樹を植える予定地の直ぐ近くに」
「妖精樹? ダンジョンと何か関係あるんですの?」
「いえ、妖精郷と言うある意味、異空間と言える場所を支える事が出来るのなら、何かダンジョンとリンクさせて面白い事が出来ないかなあと」
「妖精樹は、そんな事が出来るんですの?」
「いえ、両方ちゃんと観ていないので『これが出来る!』なんてのは言えませんが、その逆に『何もできない』とは思えないんですよ」
確かに超が付くほど特殊な木な上に、使う予定のエネルギーは初代真竜イフィゲニアの物と言う最上級の組み合わせだ。
逆にそれだけの物が用意できるのに、何もできないとは考え辛い。
それにリアも、何の根拠も無く言っているわけでもないようだ。
「ベルケルプさんの研究の中には妖精樹について書かれている物もありました。
あの人もちゃんと調べられたわけではないのでしょうが、それでも確度の高そうな情報もいくつか見られました。
それらを加味した時、ダンジョンと言うモノへの干渉も出来そうだと思ったんです」
「なるほどなぁ。確かにそう言う事なら妖精樹の横に来るようにするのもいいかもしれないな」
他の人の意見も聞いていくが、そう言う事が出来そうならと賛成多数でリアの意見が通る事となった。
「となると転移装置は別のところで使えそうっすから、そっちはまた今度って事にしてダンジョンはお城の近くになるんすね~」
妖精樹を植えようと思っている場所は既に決めていた。
それは海を向くように建てられたカルディナ城のお尻の向き。
お城から出て領地の入り口方面へ、ほんの少し行ったところにある広大な草原地帯。
そこならば土地も広いし経過観察、枝や葉っぱなどの素材回収もしやすいだろうと既に話し合っていたのだ。
場所が決まったのなら善は急げだ。さっそく一行は草原地帯へとやって来た。
スッピーは自分とは関係なさそうであるのと、早く領地内を回ってみたいという事で既にここにはいない。
よっているのはメインメンバーと彩人、彩花、武蔵、ダーインスレイヴ、ウリエルだけ。
メインメンバーは予定地に立ち、サブメンバーたちは邪魔にならない様に少し離れた所で見学だ。
そうして準備も整った所で、具体的なダンジョン作成の方法を聞くために竜郎は等級神と話すべく心の中で呼びかけたのであった。




