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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五編 海底遺跡

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第502話 特別な種

 さて報告も済んだし、疲れている上にダンジョンについて早く聞きたいという理由からお暇しようとしたのだが、せめてお礼ぐらいはさせてくれと懇願されて、断りきれずに再びお城に向かうこととなった。


 その帰り道となるとやはり旧都市の上を通る事になるのだが、自ら進んで魔物船長門に入ることなく、その風景を見たいと言っていた聖竜スプレオールことスッピーは、未だに爪痕残す様を直に見たことでショックを受けたようだ。


 竜郎と愛衣も今度は船外から見てみたかったので、思わず泳ぎを止めて愕然としているスッピーに慰めの言葉をかけた。


 しかしそれでも悲しそうな顔をしていた。



それがしにもう少し力があれば、この大地だけでも浄化してみせたのだが……」

「力さえあれば浄化できるものなのか? だったらこっちで、ちゃちゃっと浄化してもいいが」

「うむ……。自分で出来るようになるまで待っていてもらうなど我儘でしかない……。

 頼めるでござるか? タツロウ殿」

「ああ、気にするな」



 ということで旧都市の中心部までやってくると、竜郎とジャンヌが前に出る。

 メンチッタカン王たちも、この地が再び生命に満ち溢れる様を見られようになるかもしれないと緊張した面持ちで見守っていた。


 そんな中、スッピーは奈々が竜郎、ジャンヌと共にいないことを不思議がった。



「ナナ殿は手伝われないのでござるか? ──というか、むむ? この気は邪竜?

 いやしかし、某を助けてくれた時は……」

「わたくしは一時的に聖竜になる事も出来るんですの。でも基本は邪竜ですの」

「でも私たちの仲間だから、安心してくれていーよ。奈々ちゃんはいい子だからね」

「ですの~♪」



 愛衣に頭を撫でられて幸せそうな顔をする奈々は、どう見ても凶悪な邪竜ではなかった。

 もちろんスッピーも邪竜=悪だとは思ってはいないし、それは一つの性質だというのも理解している。

 なので特に目くじら立てる事も無く、あの時は助かったでござるよ、と笑ってお礼を言ってくれた。



「では皆さん! これからちょっと驚かせる事になると思いますが、全部問題ないのでじっとしていてくださいね!」

「ヒヒーーン」



 竜郎やジャンヌが言う事なら間違いないだろうと、黙って頷く一同。

 それを確認した竜郎は、光魔法を変換して聖力をその身に纏わせていく。



「ジャンヌ。それじゃあ、頼む」

「ヒヒーーン」



 勢いよく頷くと、ジャンヌは《竜聖典第一節》を発動。無限の竜力がその身に宿る。

 そしてそのまま《竜聖典第二節》を発動。大量の悪魔の軍勢がその場に溢れかえった。


 その光景にスッピーやメンチッタカン王はギョッと目を見開いたが、愛衣やカルディナ達は普通に見ているし、悪魔たちもウロウロ水中を徘徊するだけで襲ってくる気配も無い。

 なるほどこれが『驚かせる事』なのだなと冷静さを取り戻し始めたのだが、《竜聖典第三節》を発動した時に現れた巨大な聖なる太陽を見せられ、そしてそこに宿るエネルギー量に驚愕した。



「俺の聖力も使ってくれ」

「ヒヒーーン」



 「わかってるよー」とでも言いたげな声音で鳴くと、ジャンヌは竜郎の纏っている聖力も吸い取り太陽に融合させていく。

 するとその太陽はただでさえ大きいというのに、さらに巨大化していく。


 そしてパンパンに膨れ上がった所で、ジャンヌはそれを海底へと叩き付けるように落とした。

 「──まっ」と、恐れをなしたメンチッタカン王たちが何かを言おうとしていたが、それは視界一面を真っ白に染め上げる光によって中断させられた。



「こっ──これはっ」

「「「「「おおっ」」」」」

「凄いでござるなっ」



 聖なる太陽はジャンヌが破壊したいと思う対象だけを燃やし尽くす。

 ちょうど先の戦闘でも使わなかった事も有り、自分たちで解析して汚染を除去するよりも手っ取り早いと採用した形だ。


 そしてそれは功を成し、物質を蝕み生気を奪い光を吸収する暗黒土と化していた大地は、元の太陽土──どころか、聖なる気に満ち満ちたそれ以上の土壌に変化していた。



「ま、眩しいねぇ……。これで良かったのかな」

「いいんじゃないんですか? 姉さん。

 皆さん喜んでるみたいですし、ちょっと明るすぎるのは問題ですが夜になれば消えるみたいですし、効果は太陽土のとき以上の様ですし」



 暗黒土から太陽土に戻ろうとしていた様に、これも時間と共に普通の太陽土に戻るであろう。

 けれどそれにはまた数千年単位で時間がかかる上に効果は絶大で、海藻一本生えていなかった海底が緑に溢れ、魚たちもこの地を目指して沢山やってくるのが見えた。

 この調子なら、半年もかからず生命で溢れかえる事だろう。


 しきりに喜びお礼を述べる,メンチッタカン王たちやスッピーを宥め、竜郎達は今度こそお城に帰っていった。


 先触れが出されていたのか、竜郎達は勿論、スッピーも盛大に都市の人々に歓迎されながら入国し、今はお城の中の応接間。

 スライムのような不思議な感触の椅子に座らされると、今回の謝礼の話となった。



「謝礼と言っても我が国はきんと金銭はあるが、それ以上に珍しいものというのはそれほどないのです。

 しかしタツロウ様方なら、それらを得るのは難しい事ではないでしょう」



 きんならきんよりも上質な聖金の殻の卵を、ジャンヌの眷属である軍鶏が毎日のように生んでくれる。

 なので別にそれほど貴重なものではないし、お金も養殖業で儲けたばかりであるし、もともとこれまでに稼いだ額も半端ではないので困っていない。

 それらを見越したうえで、メンチッタカン王は遺跡の前で待っている間、色々と考えていたらしい。



「そこで色々と側近たちとも話し合った結果、これならと思う物があったのです。

 おい、アレをここに持ってきてくれ」

「はっ」



 側に控えていた人魚がスーと泳いで扉の向こう側へと去って行き、また直ぐに戻ってきた。

 そうして持ってきたのは、大きなスイカほどの大きさをした虹色の水晶体。

 目の前の机にそれを置いてきたので良く見てみれば、その水晶体の中には黒い種の様な物が3粒ほど入り込んでいた。



「これはその昔、金を掘りだしている時に偶然発見した物らしいのですが、我々も一体なんなのかは解っていません。

 けれど少し調べて貰えば解る様に、非常に強力な力を内包しています。

 これを使えば何でも出来るのではないかと思わせるほどに……。

 ですがそれだけに下手に手を出す事も出来ずに、他者に渡す事も出来ずに我が国の宝物庫で眠らされていたのです」

「確かにこれは……ヤバいですね……」



 竜郎が水晶体を精霊眼で観てみれば、十二属性の力が綺麗に合わさった非常に強い力の塊だと理解できた。

 しかしそれは、中に入っている黒い種のようなものに比べれば可愛いもの。

 その謎の種からは、それを覆っている水晶体などとは比べ物にならない程、膨大なエネルギーが込められていたのだ。

 それはまるで真竜エーゲリアを思い起させるほどの。


 勿論。ちゃんと観ればそれほどではないと解るのだが、竜郎やレーラ、イシュタルも寒気が走るほどのエネルギーを持っている事だけは確かだった。


 もしこれを使って爆弾か何かが作れるような人物がいたのなら、一国どころか一大陸まるごと消失しかねない。

 そうじゃなくても、何かに悪用出来る手段があったのだとしたら厄介な事になる。

 故に厳重に守りを重ねて秘匿し、この国で守ってきたのだそうだ。



「けれどタツロウ様方なら何かに使えるのでは──、間違った事には使わないのでは──と思いこの場に出させていただきました。

 勿論こんな危険な物はいらないというのであれば、直ぐに別の物を用意させますが……いかがでしょう?」



 考えようによっては厄介物を押し付けようとしているだけなのではとも思えてしまうが、メンチッタカン王の瞳にそういった色は無い。

 そしてそう思われても仕方がないとも解った上で、これを出してきたのだろう。

 竜郎たちなら必要とするかもしれないと。


 何やら珍しそうであるし、ここに置いたままでは危険かもしれない。

 使えないにしても適切な処理をして、消滅させる必要が有るかもしれない。

 そう言った面でも貰った方がいいのではと竜郎は思った。


 けれどそれは、奈々の横に座りながら空色の目で水晶体を観てから微動だにしないリアの意見を聞いてからの方がいいだろう。



「……リア?」

「────っは、はい。何でしょう、兄さん」

「リアから観て、これはどうだろうか?

 俺達が持っていた方が良いものだと思うか?」



 竜郎の呼びかけでようやく固まっていた体も動きだし、もう一度水晶体を観るリア。

 そしてニコリと笑った。



「是非、貰って下さい」

「解った。陛下、これを頂けるとおっしゃるのであるなら、ぜひ譲って頂きたいです」

「おおっ、そうですか! 何かこれにも使い道があるのですね!

 ではこれをお受け取りください」

「ありがとうございます」



 竜郎は頭を下げながら礼を言い、《無限アイテムフィールド》にそれをしまいこんだ。

 時間を止めた状態でしまったので、この中なら安全だろう。


 ──と、竜郎がそんな事を思っていると、おずおずとメンチッタカン王が質問をしてきた。



「あのー……よろしければアレが何だったのか、教えてもらう事は出来ませんか?

 歴代の王も一体何なのか色々と調べていた様なのですが、結局解らずじまいでしたので」



 確かに何かも解らないまま、謎の高エネルギー物質をずっと保管し守ってきた者の一族としては知りたいと思うのは当然のこと。

 竜郎は唯一それが何なのか知っているであろうリアに視線を向けた。

 ここで説明できるのなら、説明してあげたらどうだろうかと。


 その視線を受けたリアは首を一度縦に振ると、さっきの物体は何だったのか話し始めた。



「あれは本来危険な物でありません。

 エレメンタルツリー、属性樹なんて呼び名もありますが、さきほどの物体の場合を呼称するのに相応しい名前とするならば『妖精樹』。

 と呼ばれる木の種──だったものと言えば良いでしょうか」

「妖精樹ですとっ」



 メンチッタカン王や、この世界の住民たちは盛大に驚いているが、竜郎や愛衣からしたらなんのこっちゃである。

 それを察したリアは、もう少し丁寧に説明を加えていく。



「皆さんもご存じのとおり、妖精樹とは妖精とその妖精たちに認められたごく一部の者たちしか入る事が許されない、妖精郷にあると伝えられている伝説の木のことです」



 非常に端的に解りやすく竜郎や愛衣、カルディナ達に説明してくれたことに、目線だけで竜郎が礼を言うと、リアは微かに頷き言葉を続ける。



「ですが先ほどの種は何らかの影響で許容量を超えたエネルギーを一辺に溜めこんでしまった為に死んでしまい、発芽しようとしていた高濃度すぎるエネルギーが漏れて結晶化してしまったようです」



 そこでレーラが小さく「あっ」と言ったのを竜郎は見逃さなかったが、後で聞こうと心に留めてリアの話に耳を傾ける。



「先も言った様にこの種は死んでしまっています。ですが適切な処置をして使えば、最高峰の素材となるでしょう。

 そして私たちなら、それを正しく使うことが出来ます。

 なので安心して、私たちに任せてください」



 元々小さいドワーフであり、成人していてもリアの身長と同じくらい。

 けれどリアが見た目相応に年若い事はメンチッタカン王の目には明白だった。

 だが、それでも安心できる何かがその瞳には宿っていた。


 メンチッタカン王は自分の決断には間違いなかったと胸を張って、素直にお願いしますとリアへと頭を下げたのであった。

次回、第503話は6月13日(水)更新です。

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