第500話 サメとの決着
今回は翼の時よりも緻密な連携が重要となってくる。
だが最後の骨折りは、一瞬の火力も重要になってくる。
「そうなると3ヒット目はカルディナとジャンヌに任せてみるか」
「《神体化》スキルなら凄い威力を発揮するからね、二人とも」
「ああ、となると後は……」
鱗を削ぐ係りにアテナとレーラ。肉を削ぐ係りに愛衣と竜郎。そして一瞬の足止め係としてリアと月読が抜擢。
残りのメンバーは注意を引いていて貰うことにした。
なので組み分けとしては右足──アテナ、愛衣、カルディナ。左足──レーラ、竜郎、ジャンヌとなる。
こういうとき言葉を解さない魔物相手は楽だなと感じながら、竜郎は作戦を大声で伝えて行動へと移していく。
「魚め! こっちだ!」
イシュタルが二足サメが《刃鱗の息吹き》を止め、大口を閉じた瞬間を狙って至近距離まで肉薄する。
それを見たサメは脊髄反射でイシュタルをかみ殺そうと顎に力を入れた。
「キィィーーーー!?」
だがそれよりも前に鼻っ面に渾身の《竜力収束砲》を混ぜた銀砂の拳を叩き込まれ、怯んで開きかけた口を閉じた。
やはり魔物とはいえ、普通のサメ同様に鼻先に神経が集中しているようだ。
竜郎に試してみてくれと先に言われた時は半信半疑だったが、こうまで上手くいくと笑みが浮かんでくる。
だがやられた方は馬鹿にされたと感じたのか、目を怒らせながらイシュタルへと頭の角の斬撃を直接お見舞いしようと力を込めた。
けれど当人は既に離脱しているうえに、今度は天照が操る属性体の竜が突っ込んできて、そちらに気を取られる。
この怒りをその属性体にぶつけてやろうと、頭突きの要領で溜めこんだ《豪殺鮫刃》の斬撃をお見舞いして真っ二つに切り裂いた。
──しかしその瞬間、割れた天照の属性体の中から《炎嵐蝶群》の蝶の群れで溢れかえり顔の周りに張り付いてくる。
「キィイーーーー」
一匹一匹はこの二足サメにとっては大したことは無くても、大量に群がられるとその熱量は跳ね上がっていく。
ミツバチがスズメバチを群れて体温で殺すように強烈な熱が顔面を覆いつくし、致命傷にはならないまでも痛みを伴うためサメは顔を振って追い払おうとする。
「ツクヨミさん!」
「──!」
だがそんなことで気を取られている間に、足元でサメ人間たちを処理しながら準備していたリアの掛け声により、月読は《竜水晶制御》で足元の水晶を操作して大きな穴をあけ、そこへ嵌めこませる。
そしてストンと足が穴に落ちた瞬間に、リアが鍛冶術でその穴を塞いで足を埋めてしまう。
顔に張り付いた炎嵐蝶に夢中だったところで、突如足が拘束された事でつんのめりバランスを取るために体が一瞬停止した。
「ドン!」
竜郎の掛け声とともに人間でいう股関節に向けて、足潰し隊が突撃して行く。
左足付け根に向かったアテナと右足付け根に向かったレーラは全くの同時に、大鎌で、氷の刃で表面の鱗だけを綺麗に剥がし取る。
鱗が剥がし終るか否かというタイミングで、左担当の愛衣と右担当の竜郎が各々武術と魔法で肉を弾き飛ばす。
肉片が飛び散り股関節の軟骨が見えるかどうかという瞬間──そこへ向けて左担当のカルディナが《天翔竜神刃》を発動。
プラチナの輝きを放つ刃を翼の部分から生やし、それでもって《居合切り》。
スパンッ! と綺麗に関節部分が切断されて、サメの体が重力に従って左足から離れていく。
またカルディナと時を同じくして、ジャンヌも《星砕神竜撃》を発動。
次の攻撃行動の威力が爆発的に上昇した所で、分霊神器によって出された3本の腕を融合した野太い左右の腕2本、自分の腕の計4本で持った巨大ハルバートに出来る限りのスキルを全部乗せて、竜郎が弾き飛ばした個所に全力で叩き落とした。
プラチナの輝きをバチバチと放ちながら、ハルバートの一撃は骨を砕き大地を揺らす。
強烈な一撃によって右足もまた、付け根で大爆発を起こしたかの様に肉片と骨片が飛び散っていった。
「クリア! 散開!」
足首辺りが竜水晶の床に呑まれた状態で股関節から足を切断され、翼もとうの昔に無くし、最早ただの巨大サメと化した体はドシンと音を立てながら地面に腹ばいになって落ちた。
これで大人しくなるかと思い回復がてら皆が視線を送っていると、打ち上げられた魚のように暴れ始めた。
さらに段々と尾ひれを器用にバネのようにして飛び回るという新技術を編みだし、動き回る事に成功してしまう。
「今度は尾ひれかよ……器用な奴だなぁ……。愛衣、全力で一発いけるか?」
「あたぼーよ!」
竜郎と愛衣は二人でくっ付いて回復していたので、皆よりも一歩早く回復が終わっていた。
この二人なら大技を今すぐにでも放てる状態に戻っている。
「なら俺が無理やり尾ひれの付け根に小さな穴をあけるから、そこから骨を砕いてくれ。
ひびを入れるだけでも出来れば、あんなふうに飛び回れなくなるはずだ」
「まっかせて!」
竜郎は自分のできる最大火力で鱗と肉に穴を開ける準備をする。
今回は小さな穴でいいので、範囲を絞ってその分威力を収束させればいけるはずだ。
《魔法域超越》を発動。全属性魔法を23レベル相当まで押し上げると、天照の《分霊:火力増幅輪》で出現した金の輪を杖先に設置。
光魔法で最大限まで底上げした火、風、雷、突、射をもとに外を爆発魔法でコーティングするイメージのレーザーを、直径10センチほどの細さになる様に収束させていく。
相手の動きを探査魔法で具に解析していく。
翼も足も無くなった事で、尾ひれジャンプという予備動作の大きい動きだという事もあって行動の先読みがしやすい。
そのことにほくそ笑みながら、竜郎は尾ひれを床に付けてS字にたわんだ一瞬を見極め、強力無比なレーザーを射出。
天照の《分霊:火力増幅輪》による金輪を通るとさらに威力が底上げされ、それを根性で細くなる様に再調整しながら尾ひれの付け根付近に着弾成功。
竜郎の狙い通り最初の爆発で鱗を弾き飛ばし、残ったレーザーの火力で肉を深く焼き穿つ。
「はあああああっ!!」
さすがは愛衣と言うべきか。竜郎と特にめくばせもしたわけでもないのに、タイミングをぴったりと合わせ、鱗に覆われる前に攻撃を撃ち放つ。
今回の攻撃は、《神体昇華》によってその身を神に極限まで近い存在とし、その上で《気力超収束砲》に《体術》《剣術》の気獣混合奥義《竜獅子爪拳》を混ぜたもの。
飛翔のガントレットと宝石剣が融合していき、白黒のガントレットの拳の部分に獅子の爪が生えたようなフォルムの武装となる。
その武装に纏った気力を《気力超収束砲》に混ぜて放出すると、小さな穴を鱗が塞ぐ前にレーザーの如く抉りこんでいき、骨に当たった瞬間抵抗されるも──。
「いっけえっ!」
さらに愛衣が気合を入れて押し込むと骨にヒビが入っていき、バネにして飛ぶ際に尾骨に負荷が最もかかるタイミングでやったので、その力も利用してボキッとへし折れビタンッと右横を竜水晶の地面に強く打ち付ける破目になる。
「奈々っ! アレを頼む!」
「はいですの!」
「アテナは眼球を抉ってくれ!」
「了解っす!」
「他の皆はこいつの拘束を手伝ってくれ!」
何が起こっているのか。その大きくても思考力にかける脳が理解する前に、奈々には《滅竜神の放恣》を発動して貰う。
そしてレベル差すら覆す神域のユニークスキルで暗黒空間を広げ、ここいら一帯を飲み込む。
やることはサメの身体能力低下と全員の能力上昇。1、2秒の間にそれをこなして直ぐに打ち切る。
相手のレベル的に数十秒くらいしか持たないだろうが、しょうがない。
さらに畳み掛けるようにアテナを除いた全員でサメを押さえつけ、その間にアテナは《幻想竜杖》を取り出し、竜郎のライフル杖へと変化させる。
そうすることによって竜郎が杖を使ってやること全部を、《竜神幻想闘術》で再現できるようになった。
アテナは自分の大鎌の刃を真っすぐに変形させ槍のようにし、杖を使って現実を侵食した幻による魔法と自前の魔法を合わせて乗せていく。
そしてサメの眼球にそれを突き刺す──のではなく、目の水晶体の上を滑らせるように目の縁に深く差し込むと、そのままグリンと一回転。
幻の魔法も合わさって最高峰の切れ味を持ったそれは、あっさりと目に張り付いていた筋肉を切断。
その上でグラつく眼球を押しのけて、無理やりライフル杖を縁から差し込み奥の方で《爆発魔法》に風魔法などをプラスして爆破。
ポーンっと面白いように視神経が千切れた目玉が、あさっての方角へ飛んで行った。
それと同時にアテナの神力は切れて、《竜神幻想闘術》の効果を失った。
そんな事をアテナがやっている間に、竜郎はみんなに拘束を手伝って貰いながら《レベルイーター》を吹き当てていた。
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レベル:1488
スキル:《全耐性微細鱗》《微細鱗・鮫王歯超再生》
《豪殺鮫刃》《鮫卵落涙子》《臭覚 Lv.16》
《潜水水泳 Lv.3》《かみつく Lv.20》
《飛翔 Lv.11》《竜飛翔 Lv.8》
《刃鱗の息吹き Lv.20》《切断超強化 Lv.20》
《須断尽斬 Lv.20》《魔王の覇気 Lv.20》
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(泳ぐより飛ぶ方が得意なサメってどうなんだろう、魚の癖に……。
にしても切断系は全20レベルとか、やっぱり当たっていたらヤバかったんだろうな)
個体レベルは経験値として他の皆にも分配したいのでそのままに、スキルのレベルだけはちゃんともらっていく。
なにせ《竜族創造》に加え、まだ取っていない魔法やレベルを上げきっていない魔法もある。
さらに魔神がSPを複製ポイントに変換できるようにしてくれるかもしれないので、今やいくらあっても足りない位なのだから。
しかし吸収している間に奈々の呪いの効果は切れ、打ち上げられた魚のように体を跳ねさせようとする。
けれど竜郎の捕縛魔法を合わせた氷や樹魔法、愛衣の鞭による拘束、レーラの氷、イシュタルの銀砂などなど、全員が一丸となって押さえているうえに尾ひれが折れて力が入らず、上手く体を跳ねさせることができないのだ。
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レベル:1488
スキル:《全耐性微細鱗》《微細鱗・鮫王歯超再生》
《豪殺鮫刃》《鮫卵落涙子》《臭覚 Lv.0》
《潜水水泳 Lv.0》《かみつく Lv.0》
《飛翔 Lv.0》《竜飛翔 Lv.0》
《刃鱗の息吹き Lv.0》《切断超強化 Lv.0》
《須断尽斬 Lv.0》《魔王の覇気 Lv.0》
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そうこうしている間に竜郎も全てのスキルレベルを飲み込み糧とした。
後はこのサメを絞めてしまうのみである。
「奈々、分霊神器を試してみてくれ!」
「はいですの!」
奈々の分霊は神器に至った事で日本人形、西洋人形、ぬいぐるみ。この三体が人形サイズから人間サイズにまで頭身が伸びていた。
ぬいぐるみは着ぐるみに、日本人形と西洋人形はマネキンといわれても信じそうな大きさだ。
そしてその三体の奈々人形たちは、分霊の時には持っていなかった刃物を手に持っていた。
日本人形は黒い小刀。西洋人形は黒いナイフ。ぬいぐるみはプラスチックで出来た見た目がチャチな短剣を。
人形たちは奈々の指示で動きだし、その刃物を鱗の覆われていない足の生えていた肉がむき出しの部分に突き刺していく。
それは刺している間だけ対象を呪う刃。
小刀は刺した相手のユニークスキル以外のスキルの内どれか一つを封印。
ナイフは相手の筋力、耐久力、速力、魔法力、魔法抵抗力、魔法制御力のどれか一つを半減。
おもちゃの短剣は五感のどれかを一つ封印する──というもの。
それによって今回サメは、レベルイーターで0レベルにされたスキルは対象外なので残りから選出され《全耐性微細鱗》を封印。筋力が半減。触覚が封印。となった。
どの効果が出ているのかは奈々ならすぐに解るので、全員にそれを周知していく。
「《豪殺鮫刃》は封印できなかったか。けど筋力が半減したならこっちのもんだ!
全員眼孔めがけて一斉攻撃!」
筋力が半減したことで拘束が楽になり、その分攻撃に意識をさける。
後は《豪殺鮫刃》を発動している背びれ、頭の角に触らない様に、《鮫卵落涙子》で産まれるサメ人間に纏わりつかれないように気を付けながら、一斉に大きな眼球が入っていた穴に向けて攻撃を集中させた。
脳から伸びた視神経を消し飛ばしながら、その穴の奥にある脳へと到達。
頭蓋骨内で盛大に爆発が起き、ビクンビクンと暫く体を震わせながら、やがて完全に身体機能を停止させたのであった。




