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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二章 オブスル大騒動編

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第49話 初めての極夜

 その日はいつもと違った。

 時計の針が午前九時を指した頃、竜郎はようやく目を覚ました。

 しかし、この時間ならとっくに出ているはずの太陽が姿を見せず、空には大きな月がかかっていた。



(これが極夜ってやつか……)



 ようやくはっきりしてきた意識の中で、今日が週末の光の日だと思い出した。

 そして、これがこの世界での日常であり、異常なことではないと知っているので、特に騒ぐこともなく愛衣を生魔法で起床させていく。



「……ん……んん? ──なんだまだ夜か……ぐー」

「ぐーじゃない。起きろ愛衣、今日は太陽が昇らない日なんだよ」

「え~そんなことあるわけ…………あるんだった」



 そこでようやく異世界事情を思い出し、体をゆっくりと起こした。



「おはよ、たつろー」

「おはよう、愛衣」



 そうして目覚めの挨拶と共に、軽くキスをして二人は活動を開始した。



「まずは、例のお高い宿の予約を取るんだよね」

「ああ。それから日用品とかの買い出しをして、湖に行く」

「湖までは徒歩で行くの? それとも、──あの空飛ぶやつ?」



 どこか期待の眼差しで見上げる愛衣に、解りやすいなあと竜郎は微笑んだ。



「途中からは、そうしようと思ってる」

「途中から? 最初からは駄目なの?」

「駄目って言うか、そもそも俺たちの最優先事項はSPの確保だからな。

 最近は護衛任務で人の目があったから、なかなか《レベルイーター》を使えなかったし、道中でちょっと稼いでおきたい」

「そう言われれば、最近ちょっとSP稼ぎが滞っていたっけ。

 空飛んでいっちゃったら、魔物に出くわさないかもしれないし、そうしよーか」



 愛衣も納得がいったようなので、竜郎は今日着る服を出そうとすると愛衣から待ったがかかった。



「それじゃなくて、私が選んだあの高い服着てこうよ」

「え? なんで急に」

「だって今日泊まるわけじゃないけど、高級な宿に行くんでしょ。

 普通の冒険者みたいな恰好してって、相手にされなかったら嫌じゃない」

「あー。そういうことって、あんのかな」

「無くても、着といて損することはないでしょ」



 自分が着てみたいという気持ちもあって、そんなことを言い出したのだろうと竜郎は思いもしたが、確かにその理屈にも一理あると、最近着ていたものではなく、どこぞの貴族の若者が着ていそうな高い服を手に取って着替えた。

 愛衣も宣言通り豪華な刺繍があしらわれたワンピースドレスを着て、どこぞの令嬢と言われてもおかしくない服装になった。



「どお、たつろー?」

「いや……なんか、──綺麗、だな」

「そ、そお? ふふっ、たつろーもかっこいいよ!」

「そりゃどうも」



 二人とも素の見た目が高めなおかげで、どんな服を着てもそれなりに着こなしていたが、今回のこれは異様に嵌っていた。

 傍から見たら、貴族やそれに類する位の高い人物だと勘違いしてしまうだろう。



「着替えも終わったし、荷造りも終わった。じゃあ、行くか」

「行くかー!」



 そうして二人はその格好で一階に下りていき、鍵を返すときに宿屋の夫婦に目を丸くされながら朝食を取り、意気揚々と月明かりに照らされた朝の町に繰り出していった。



「朝なのに、月が出てるって不思議な感じ」

「だな。日本じゃ、まずありえない現象だし」



 そんな感想を二人で述べながら、レーラに聞いた道のりを歩いていった。

 そうして今まで来たことも無い、正面の門から正反対の方にある奥まった敷地にまで足を踏み入れる。

 すると段々と立ち並ぶ家々や、行きかう人々の服装のグレードが上がっているのが見て取れた。



『なんか、この辺は豪邸ばっかり建ってるね』

『高級住宅街ってことなんだろ』

『もし日本と、この世界を行き来できるんだったら、黄金水晶をまた何個か売っぱらって、どこかに豪邸建てて悠々自適に暮らしたいな』

『それも楽しそうだな』

『でしょー』



 声を出して喋るような雰囲気の場所ではないので、念話で会話しながら二人の快適ライフな未来図を描きつつ、突きあたりを右に曲がる。

 すると今までの豪邸にも引けを取らない敷地面積の中に、三棟の高級宿が姿を見せた。



『あそこだな』

『でっかいねー! これは期待大だよ』



 レーラに聞いた情報と間違いはないかもう一度確かめてから、竜郎は屋敷の門の前に立つ鎧を着た二人の男に話しかけた。



「ここの宿の予約を取りたいんですが、どこに行けばいいですか?」

「──え? ああ、予約ですか?

 それでしたら、ここを右に行った所にある──ほら、あそこにある建物で受付しておりますので、そちらで」

「わかりました。行こうか」

「うん」



 そんな二人が歩いていく様を、鎧の男は首を傾げながら見送った。

 予約など使用人に任せればいいものなのに、わざわざ自分で取りに来るなんて変な人たちだな、などと感じていたからなのだが……。

 竜郎たちは特に気付くことも無く、受付のある建物に入っていった。

 そこに入るとフカフカの絨毯が引かれた床に迎え入れられ、すぐに受付に立っていた女性が楚々とこちらにやって来た。



「当宿に、何か御用でございましょうか?」

「はい、宿泊予約を取りたいんですけど、それはここでできるんですよね?」

「予約ですか? ──はい、ここで受け付けております。

 では直ぐにお伺いしますので、あちらのソファーでお寛ぎください」

「はい」



 そう言われた二人は女性に促されるままに豪華なソファーに腰を掛けて待つと、本当にすぐにさっきの女性がやってきた。

 そこで身分証を見せて何日にどれくらいの間泊まるのか、という質問から、食事は何時にだすのか、駄目なものはあるか、ベッドメイクは必要かなどなど、他にも色々と事細かく聞かれ、それに根気よく全て答え終わると、ようやく予約を取り付けることに成功した。

 期間はとりあえず明後日の火の日から毛皮の加工が終わるのが雷の日だから、さらに余裕を持って氷の日までの、六泊七日にしておいた。

 ここは一泊一部屋三十五万シスと、日本にいた時なら絶対に泊まれない値段だが、明後日には黄金水晶を売った残りの金額も受け取れるはずなので全く問題はなかった。



「それでは、このプレートを明後日、4月2日の火属の日にこちらにお持ちいただければ、そこで鍵をお渡ししますので失くさないようにお願いします」

「解りました。『明後日が4月2日ってことは、今日は3月24日の月末ってことか』

『ここでは三月なんだ、なんか変な感じ。ん~ってことは、こっちの世界に来た日は──』

『こっちの世界では、3月18日の樹属の日だな』

『そっかそっか』



 思わぬところで日付の情報を得た二人は、そんなことを念話で会話し、受付の女性に見送られながらその場を後にした。

 それからその足で百貨店に入り必要なものを見繕うと、今度は冒険者ギルドに向かう。

 レンテティウス塩湖までの道のりでこなせる依頼があるなら、ついでに受けておこうという腹積もりなのだ。

 早速二人は良い依頼がないか入り口近くの壁に掛けられている白いプレートに、ギルド証をかざして依頼情報を得る。



「おっ、ちょうどいいのがあるじゃないか」

「どれどれ?」

「上から六番目のやつと、八番目のやつ」

「えーと、これかな。

 なになに……町周辺の道沿いに出る魔物五匹以上討伐か、これは種類は何でもいいんだね。

 それともう一つは……湖周辺に生えているササラ草を一袋。

 うん、どっちもついでにこなせそうだね」

「だろ、じゃあ早速受けよう」



 そうして二人で一つづつ依頼書をシステムから変換して受付に持っていき、レーラはいなかったので別の人に受け付けてもらい冒険者ギルドを去った。

 それから周辺の見た目では解らないが、時計の針は昼頃を指していたので屋台のたくさんあったあの広場に行って、この前とは別の所で空腹を満たした。

 そして、ようやく二人は町を出た。



「意外と時間くったな」

「だね。ってことで、サクサク行こう!」

「おうっ」



 そうして二人は石畳に沿って歩いていき、道中であった三匹のイモムーから計(17)のSPを頂いてから倒していった。

 そして後二匹は倒しておきたいとしばらく歩いていくと、同じ魔物が六匹現れた。

 それは大きさ一メートル、細長く大きな目に、三日月形に笑っているように見える赤い口、四角い頭に吸盤のないタコ足を五本付けたような、なんとも奇妙な生物だった。

 そいつらは一斉に甲高い奇声を上げながら、五本の足をするする蛇のように地を滑らせて向かってきた。



「また変なの出たあああっ」

「火星人のキャラクターに、似てなくもないなっ」



 そんなことを言い合いながら、迎撃の準備をする。

 まず竜郎は杖を取り出し、風と火の混合魔法で二メートルの高さの炎の竜巻を三つ生じさせ、火星人(仮)達全体に当てて炙っていく。

 そしてその間に、愛衣は近接戦に備えて大剣と槍を右と左に持った。



「「「「「「イィッ イィッ イィッーー」」」」」」

「マゾかな?」

「なんて教育上悪い魔物なんだ! 愛衣は聞いちゃいけませんっ」

「ええっ!? 私、たつろーの中で何歳なの!?」



 火の竜巻に炙られて良いと言っているようにしか聞こえず、竜郎は魔物にもそういった嗜好を持ったものがいるのかと戦慄する───が、言うまでもなく、ただそういう鳴き声というだけである。



「とにかく、アレを倒せば依頼一つ達成だ。油断せずに行くぞ」

「うー、なんかスルメみたいな匂いがしてきたよー。あいつら食べられるのかな」

「あんなの食べたらポンポン痛くなるからやめなさいっ」

「わたしゃ幼女か!」



 ツッコミながらも愛衣は焦げ付いた火星人(仮)に近づいてから、大剣に瞬時に気力を纏わせて横一線に薙ぎ払った。



《スキル 剣術 Lv.3 を取得しました。》



「「イイィーーーーーーッ」」



 という喜ばしそうな断末魔の悲鳴を上げながら、二匹が頭部を足から切り落とされて倒れていった。

 そこまではまあ良かったのだが、問題はその後に起こった。

 魔物を倒したその瞬間に愛衣の手に持っていた大剣に網目状にひびが入って、ボロボロと崩れていったのだ。



「あっ…」「──なっ」



 それに驚いている間にも、火星人(仮)は愛衣に襲いかかろうとする。しかし直ぐに、愛衣の左手に持った槍で二匹同時に貫かれ事切れた。



《スキル 槍術 Lv.4 を取得しました。》



 二匹同時に貫かれるのを見た竜郎は、このままでは《レベルイーター》を使う前に全滅させられてしまうと一先ず目の前の敵に集中しだす。



「愛衣っ、一旦こっちに下がってくれ」

「はいよー」



 そうして戻ってきてもらうと、今度は三つの炎の竜巻を操って残った二匹を包囲する。

 隙間から脱出しようとすれば竜巻を動かして阻み、その場に縫いとめることに成功した。

 次に竜郎は《レベルイーター》を発動させ、捕らえたうちの一匹に黒球を当てる。



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 レベル:13


 スキル:《飲み込む Lv.3》《触腕力上昇 Lv.1》《粘液 Lv.4》

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(粘液が一番レベル高いのかよ……)



 やはり特殊なプレイを好む魔物なのだと悟り、自分の糧にしたくないと思いつつも帰るためだと言い聞かせて頂いていく。



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 レベル:1


 スキル:《飲み込む Lv.0》《触腕力上昇 Lv.0》《粘液 Lv.0》

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(はーい、次の魔物ー)



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 レベル:15


 スキル:《飲み込む Lv.1》《触腕力上昇 Lv.1》《粘液 Lv.6》

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(だからなんで粘液が一番高いんだよ!?

 しかもこいつ、それ以外Lv.1で一個だけアホみたいに上がってんじゃん!

 馬鹿なの、ねえ馬鹿なの!?)



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 レベル:1


 スキル:《飲み込む Lv.0》《触腕力上昇 Lv.0》《粘液 Lv.0》

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「なんか疲れた……」



 こうして精神攻撃に耐えた末に、竜郎はここでSP(40)を獲得したのだった。

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