第4話 レベルイーターの使い道
後方では愛衣が石を投げている音が響き渡っており、竜郎の所まで来るにはまだかかる。
そんな中でどうしようかと思案している間にもイモムシはどんどん近づき、その距離二メートルという所まで差し掛かってきた。
それにまずいと感じた竜郎が、距離を空けようとしたその時だった。
急にイモムシがピタリと止まったのだ。
「…なんだ?」
その謎の行動を訝しんでいると、イモムシはグイッと頭を上に持ち上げてこちらを見ると、口をパカッと開け頭が若干後ろに下がる。
「まずいっ」
それに何かを感じた竜郎は、イモムシの直線上から横っ飛びに離脱した。
すると、さっきまでいた場所に向かって白い何かが飛んでいくのが見えた。
「あれが《糸吐き》か!」
レベルイーターを使った時に相手の攻撃手段が割れていたのが幸いした。
でなければ、初見ではとっさに避けようとは思わなかったかもしれない。
「ギギギギィーーー」
避けられたことに憤慨したのか、イモムシはさらに怒り出し糸をまき散らす。
「よっ、ほっ、やっ──と。予備動作が大きすぎるんだよ」
それを余裕を持ってかわしていく。
竜郎の方は愛衣と違い運動神経が元々優れているため、いったん行動が止まる《糸吐き》なら、ステータス補正などなくても十分対応できた。
「ギィー」
数度の《糸吐き》が空振りに終わってようやく無駄だと悟ったのか、頭をあげたまま再び近付きだした。
(今度は《体当たり》か《かみつき》のどちらかだろうな)
どちらも名前のままのスキルのため、予想しやすい。
だからこそ一挙手一投足を見逃さないよう集中して観察し、イモムシを中心に円を描くように動いて一定の距離をとる。
そうしていると、またピタリと止まった。
《糸吐き》か? と竜郎が警戒していると、頭部を後ろにどんどんそらしエビ反りになると、バネのように反動をつけて低空ジャンプで突撃してきた。
「──おっと、結構速かったな」
が、これも竜郎は危なげなくかわす。一連の動作を見て《体当たり》が来るのではと予測していたからだ。
そしてさらに、ここで一つアイディアを思いついた。
竜郎はなるべく目を逸らさぬように周囲をチラチラと見回すと、ちょうど目的に適したものを見つけた。
さりげなくそちらの方に足を向けていき、女性の手首くらいの太さの枝を拾った。
そして必要な長さだけを残して膝でへし折り、いらない部分はイモムシに投げて挑発する。
「ギィギィーーギィギィーー」
狙った通り怒ったイモムシが、再びエビ反りの体勢に入り始めた。
そこで竜郎はタイミングを見計らい一気に距離を詰めると、反動で人間でいう首の辺りに戻ってくるであろう場所に、折って尖らせた枝の先端を向けて地面に突き立て、そのまま転がるように横に飛んで距離をとった。
そしてもう戻す動作に入っていたイモムシは、今更止まることもできずに枝に向かって自分で突き刺すように体を思いきり振り下ろした。
「ギュロアロアアギュアー」
作戦がうまく嵌り、イモムシにはまた衝撃で若干折れて短くなった木が深く刺さり、今まで聞いたことのない奇声を上げて地面をのた打ち回った。
ただ、即死だと思っていたのに転がっている姿は恐怖を掻き立てられ、竜郎は一歩さがった。
「ギ……ィ……」
その足音にピクリと反応し、イモムシは木を刺したまま起き上がると、竜郎に再び向き直る。
それは今までとはまるで違う雰囲気で、死にもの狂いでやってくるであろうイモムシに竜郎は威圧された。
(くそっ、あれじゃ危なくて近づけない。
せめてスキルも《レベルイーター》で弱体化させるなりなんなりできれ──あれ?)
そこまで考えた時、《レベルイーター》の説明を思い起こした。
(たしか『あらゆるレベルを吸収し自らの糧となす』だったはず。
そして最初に使った時にはスキルと、そのレベルも表示されていた。つまり──!)
「はあー」
竜郎は口を開けて《レベルイーター》を起動させる。すぐに黒球が口内に出来上がり、すぐさまそれをイモムシに向かって飛ばした。
それが視認できないイモムシは気付くことなく、再び黒球が体内に沈んでいった。
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レベル:1
スキル:《体当たり Lv.2》《糸吐き Lv.3》《かみつく Lv.3》
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最初と同じように相手のステータスの一部が頭に入り込んできた。
(あった! じゃあ、試しに《糸吐き Lv.3》からっ)
そうして《糸吐き Lv.3》に集中すると相手から黒い煙が立ち上り、竜郎の口の中に集まってくる。
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レベル:1
スキル:《体当たり Lv.2》《糸吐き Lv.0》《かみつく Lv.3》
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(よしっ、《糸吐き》が Lv.0になってる。残りも貰っておこう!)
黒い煙が止み、残り二つも無事に回収すると、竜郎は取り残しがないか確認した。
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レベル:1
スキル:《体当たり Lv.0》《糸吐き Lv.0》《かみつく Lv.0》
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(よし)
確認を終えると相手との接続を切り、黒球を飲み込んだ。
すると、また胸の辺りが温かくなり、自分の糧になったのが理解できた。
(あとは棒かなんかで攻撃すれば……あれ?)
準備は万端だと次の一手を考え始めた矢先に、イモムシの重心がフラフラしだしたかと思えば、そのまま地面に倒れていった。
それから一度ピクリと痙攣のようなものを起こすと、それ以降動かなくなった。
《『レベル:3』になりました。》
「レベルがあがった……。ってことは倒したんだな────ふぅ」
なんとも言えない微妙な終り方だったが、竜郎は緊張感から解放されて地面に座り込んだ。
すると愛衣の方から声がかかった。
「終わったのー?」
「おう、何とかなったー。そっちはー」
「《投擲 Lv.6》になったー」
そう言いながらこちらにVサインを送る愛衣に口元を緩めると、竜郎は立ち上がりながらズボンの汚れをはたき、そちらに向かって歩き出した。