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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五編 海底遺跡

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第496話 聖竜の呪い

 《成体化》ジャンヌなら普通に通れるほどの幅の広い階段を下りた先は、さらに広い空間に繋がっているようだ。

 しかしおかしいのは、地上から降りてきた階段の角度は非常に浅く、10メートルも地下へ潜っていない。

 だというのに白い無地の壁に覆われた広い空間の天井は、明らかに10メートル以上ある。


 さらに気になる事に階段のある通路と、広い空間の境には奇妙な力の膜が張られているのが精霊眼で観てとれる。

 あまりにも奇妙なので警戒して解魔法で詳しく解析してみると、どうもダンジョンの入り口に似た反応があった。



「これは……ダンジョンが壊れて現実世界と癒着してしまった空間の様ですね」

「ダンジョンは壊れるものなんですの?」

「さぁ? そこまでは解りませんが、私の目ではそうだと理解できました。

 レーラさんは何か知ってますか?」

「ええ、多少は知っているわ。

 原因はいろいろあるみたいだけれど、だいたいがやる気をなくして自殺したか、ダンジョン規約を大幅に破って神に処分されたかの二つが多いみたいよ」

「ダンジョンが自殺? そんなことあるの?」

「あるみたいよ。わざとダンジョン規約を破ったり、自分の保有しているエネルギー以上の変革を無理やりして壊れたり──なんてね。

 ダンジョンにも個性を持たせるために個を与えたせいで、そういう個体も現れてきたんだそうよ」

「そうよってことは、誰かから聞いたんすか?」

「ええ、昔ここみたいに原因不明の建造物がある場所があったから、気になっていろいろ調べてたら氷神が教えてくれたのよ」

「そうなのか。それで壊れたダンジョンには入って大丈夫なのか?」

「ちょっと異空間と混ざって現実世界の空間が捻じ曲がっておかしくなったりはあるみたいだけれど、基本的には普通の場所と変わらないからダンジョンよりもむしろ安全じゃないかしら」

「まあ、過去に入った王たちも普通に帰る事が出来たようだしな」



 イシュタルがそう言った様に、もしその場所自体が危険であったのなら、過去にここへ入った王たちは呪い以外の要因で帰って来れなかった──もしくは伝聞として何か残っていてもいいはずだ。

 しかし道中に関しては、多少魔物がいたくらいしか情報も無く、後は行って帰ってきたと聖竜以外のことは何も言わなかった事からも、ただ物理法則を捻じ曲げて広がった空間というだけなのだろう。


 特に危険が無いと解った所で、竜郎達は警戒はしながらも通路の先へと一歩踏み出した。

 精霊眼では薄い膜のようなものが張られている風にみえたが、実際に通ってみるとダンジョンの入り口と違って特に変わった感触も無く、だだっ広い空間に入る事が出来た。

 それ以外にも罠が無いかリアやカルディナと共に竜郎が調べていくが、特に変わったモノも無ければ、見える範囲に魔物すらいない。



「普通とは少し違う感じがして気になるが、特にそこいらの建造物と変わらないみたいだな。

 警戒はしていくが、このまま先へ進んでいこう」



 皆が頷きかえしてくれるのを見ながら聖竜の元を目指して急いだ。


 道中は特に分岐点も無く、広い空間が奥へ伸びるだけの一本道。

 魔物の類もいたのだが弱くてレベル25、強くても40には届かない。さらに個体数も少ないので基本一体ずつのエンカウント。

 今の竜郎達にとっては準備運動にもならない道のりだ。


 そんな事を数十分程していると段々と上り坂になってきて、水位も徐々に低くなってくる。

 さらに進んでしまえば完全に海水は抜けきって、水中という竜郎達には不便な環境から完全に解放された。



「水がなくなって動きやすくなったな。空気も特に問題ないみたいだし、これも外していいか」



 口と耳に嵌めていた魔道具を取り、それぞれの《アイテムボックス》へとしまいこんだ。

 水が無くなった事で無意識的に感じていた圧迫感の様なものも無くなり、自然と口が軽くなって来た一同は自分の足で立って歩く感触を噛みしめながら、今回の件について改めて話し始めた。



「世界力溜まりなんですけど、この遺跡のどこにあると思います?」

「そりゃあ、聖竜さんのいるとこじゃない?

 特に隠し通路も分かれ道も無い一本道で、今のところそう言った場所は見当たらないんだし」

「……なあ、イシュタル。竜種がいるだけ──いや、この場合呪われているのか。

 そういった竜が一所にジッとしていると世界力が集まったりとかはするのか?」

「そういった話は聞いたことは無いが、呪いを受けた竜の状態や環境にもよって世界力を偶発的に集めてしまう……という事はあるかもしれないな」

「また特殊な例が見れそうね。ほんとうにタツロウ君たちについてくると、この世界もまだまだ知らない事ばかりなんだと思い知らされるわ」

「それじゃあ、地球には来なくてもいいですの?」

「それはそれ、これはこれ。よ、ナナちゃん。どうせタツロウ君たちはこっちとそっちの世界を行き来する予定なんでしょ?

 だったらその時、私も行ったり来たりをすればいいだけじゃない?

 それくらい別にいいわよね?」

「うん。ぜんぜんいーよ。レーラさんと一緒にいると、いろいろ解んない事も教えて貰えるし」

「ふふふ。ありがと、アイちゃん」



 振り返って両手で大きく丸を作って笑う愛衣の頭を、レーラが微笑みながら優しく撫でた。

 竜郎は、それが男だったら蹴飛ばしていた所だが、相手は純粋に可愛い愛衣の頭を撫でたいだけの女性なので、どこかホッコリしながらその光景を見守った。



「それにしても呪われて黒くなった聖竜か。

 確かジャンヌが神格者の称号を得てから新しく取得できるようになった《竜聖典第四節》では、呪いを受けて邪竜になるっていう設定だったよな」

「ヒヒーーン」



 《成体化》状態で先頭を行くジャンヌが、少し振り返って肯定した。


 つまり竜聖典のこれまで解っていた内容としては、強大な力を持った聖竜のくだりが一節。悪魔の軍勢と戦うのが二節。その悪魔を聖なる太陽で焼き尽くすのが第三節という流れになっていた。

 そして新たに解放された第四節では、悪魔を浄化して疲れ切っている所に邪竜に襲われ、呪いを受けて性質が反転してしまうというものだった。


 なので今後ジャンヌが第四節を取得して発動した場合、奈々の持つ《竜邪典第二節》の聖竜化と同じような効果を持つ事になるというわけだ。

 その場合、ジャンヌも所持しているスキルが反転する事になる。



「それがどうかしたの? たつろー」

「いやな。これでジャンヌが四節を取れば一時的に邪竜になる事が出来る様に、奈々もそういえば一時的に聖竜になれたよなってさ」

「となると、突入の時は万全を期してナナには聖竜として前に立ってもらうというのも良いかも──という事ですね」

「おとーさま、ジャンヌおねーさま、わたくしの三人で聖気を広げれば、それだけで呪いなど近づく事も出来なくなりそうですの」

「邪竜の呪いに対してはまさに鉄壁の防御になりそうね」



 今回は聖竜という存在が大活躍しそうだと盛り上がっていると、イシュタルが顎に指を置いて難しい顔をしていた。



「うーむ、やはり母上の言っていた様に私も聖竜を作っておいた方が後々の為に良さそうだな」

「そうなのか?」

「ああ。母上が言うには聖竜と邪竜はどちらもいた方が、対処の幅が広がると言っていた。

 そういう意味ではタツロウはどちらも強力な聖竜と邪竜が仲間にいて羨ましいかぎりだ」

「ヒヒーーン」「ですの」



 ジャンヌと奈々は誇らしげに胸を張った。



「あれ? でもそういうエーゲリアさんのとこに邪竜さんっていたっけ?」

「いるぞ。だが一人でいる事が好きらしく、私もほとんど会ったことは無いがな」

「へぇ。それじゃあ、イシュタルもいずれ聖竜や邪竜を創造するのか?

 見てみたいなその瞬間を」

「ああ、別にいいぞ。ただその場合は側近として育てる故、かなり力も消耗するだろうから全部終わってからだろうが」

「了解。その時にまた呼んでくれ。

 どうせイシュタルの次の世代を生むために手伝う事になってるしな」



 などと新たな竜を生み出す話をしている時、ふと竜郎はある事を思いついた。

 聖竜と邪竜の性質が反転すると、スキルも《竜邪槍》が《竜聖槍》になったりと全て反転するという。

 であるのなら、創造系スキルはどうなのだろうかと。


 例えば奈々が《竜邪典第二節》を発動して聖竜と化した時、《魔族創造》も《天族創造》になったりするのではないか。

 ジャンヌが《竜聖典第四節》を取得し邪竜と化した時、《天族創造》も《魔族創造》になったりするのではないかと。


 となるとだ。

 竜郎の《天魔族創造》+《天族創造》×2。または《天魔族創造》+《魔族創造》×2といったトリプル天族または魔族創造も出来るようになるかもしれない。


 そんな展望を皆に聞かせると、愛衣が少し呆れたような顔で真っ先に口を開いた。



「また次々とよく考えつくねぇ」

「色んな可能性を試してみたいからな。それじゃあ奈々。聖竜のいるとこで聖竜化したら、その辺をちょっと確認してみてくれ。

 もちろん出来ればで良いからさ」

「はいですの」



 奈々は特に反対する必要も無いので、笑顔で頷いてくれた。




 そんな会話をしてから、どれくらい歩いただろうか。

 ひたすらに変わらない風景に飽き飽きしながらも、探査を飛ばして聖竜もしくは世界力溜まりを探していると、半ば予想はしていたがその二つが同じ所にある事が発覚した。



「まあ、よけいな手間が省けたと思えばいいか。ジャンヌと奈々は準備をしておいてくれ。

 あとカルディナは周辺警戒を密に頼む」



 ジャンヌと奈々、カルディナに指示を飛ばしつつ、自分も光魔法を聖力へと変換していく。

 

 気を張りながら呪いの広がっている場所までゆっくりと近づいていくと、聖竜も何かが近づいてきたことに気が付いたようだ。

 真っ黒に染まった全長4メートルほどの小ぶりな聖竜がピクリと動いて、下げていた顔を上げてこちらに向けてきた。

 だがもう声が出せない程に弱っているのか、首を小さく横に振るだけで他には何もしてこない。



「まずいな。タツロウ、あの聖竜はかなり弱っている。早く助けないと命が危ういぞ」

「ああ、解ってる。ジャンヌ、奈々、準備は良いか?

 全方位に聖気を展開して突き進みながら、カルディナは俺と一緒に呪いの解除だ。

 残りのメンバーは不測の事態に対応できるように警戒を続けてくれ。

 リア、聖気さえあれば大丈夫ってのは真実か?」

「……はい。私の目で観て確かめてみましたが、それは間違いないです」



 リアに聖気の有効性を改めてちゃんと確かめて貰っている間に、ジャンヌと奈々は《神体化》。

 奈々だけは《竜邪典第一節》を発動して無限の竜力を得て、《竜邪典第二節》にて聖竜化とお付の不死身天使の召喚。

 褐色の肌が白く染まり黒紫色の竜の8翼も尻尾も、天使の8翼と純白の尾へと変化。もう誰がどう見ても立派な聖竜天使の出来上がりだ。

 お付きの天使たちは、いざという時は身を以て壁になれるように周囲に展開しておいた。


 それと同時に竜郎は光魔法を変換して作った聖力で、月読と共に聖なる《竜障壁》を作り上げて突っ込んでいく。

 その横に並ぶようにして、ジャンヌと奈々も並走する。


 言われていた通り、聖竜から滴り落ちる黒い滴が溜まって出来た水たまりを発見。

 けれど聖なる気すら纏っていれば大丈夫だとリアのお墨付きも貰っていたので、躊躇なくそれを踏んでいく。


 すると水と油のように互いに弾きあい、粘性を持った黒い呪いの水が竜郎の踏み出した足を避けていく。

 そのままダッシュで聖竜まで近づいていき、聖竜からの攻撃もあるかもしれないと一応警戒しながらカルディナと共に呪いの解析に入る。



(こういう時、直接呪いが目で観える精霊眼は本当に便利だな)



 邪竜の呪いはかなり強力なものであったが、意外に単純で複雑ではなかった。

 呪いの複雑さだけで言えば、アーレンフリートの呪いの方が厄介だったかもしれない。

 ただこれは呪魔法とも違い近付いてきた他者の魂を喰らって、永続的に強化されるものなので、そもそも解かれる事を想定していないせいかもしれないが。


 けれど竜郎達は実際に目の前にまでやってくることが出来た。

 さらに竜郎とカルディナで20レベルの解魔法×2と、本来ありえない出力での解析により一気に呪いは丸裸にされていく。



「ん?」「ピィュ?」



 その過程で、この呪いと普通の呪魔法が違う個所を竜郎とカルディナは発見した。

 そこをさらに詳しく調べてみれば、どうやらこの呪いは聖竜の魂に呪いに変換された邪竜の魂がくっ付いているらしい。

 そこから導き出されたこの呪いの本質は、聖竜の魂を追いやって邪竜が復活するための術だった。



性質たちが悪いな……。カルディナ、聖竜の魂が傷つかない様に慎重に──」

「ガァアアアアア!!」

「させないですの!」



 危機を察したのか、瀕死状態の聖竜の体を邪竜の呪いが無理やり動かし右腕の爪で竜郎を突き刺そうとしてきた。

 けれど聖竜化している奈々が割って入って、ダーインスレイヴを融合させた牙の刺突武器で弾き返した。



「ナイスだ! サンキュー奈々!」

「当然のことですの」

「ヒヒーーン……」



 一歩出遅れて奈々に先に防がれてしまった事を少し残念そうにしながら、ジャンヌは次は自分がと眼光を鋭く聖竜を睨み付けた。

 すると今度は瀕死の聖竜自身がビクッと本能レベルで恐怖を感じたのか、動かなくなった。

 思いがけないアシストに竜郎は笑ってしまいながらも、ジャンヌに礼を言った。



「ジャンヌもグッジョブだ!」

「ヒヒーーーン!」



 「でしょー」と嬉しそうにジャンヌは嘶いた。



「ピィイュュューーーー!」



 妹たちに負けていられないとばかりにカルディナは俄然やる気を出して、呪いを聖竜の魂から引きはがすべく解析をし──やがて終えた。

 解析が終わった後は呪いと化している邪竜の魂をただの魂にしてしまえば、もう聖竜の体に居座る事は出来ない。呪いだからこそ、くっ付いていられたのだから。


 呪魔法の逆位相である水魔法を混ぜた解魔法で、さっそくカルディナは竜郎と共に分解作業に入った。


 天照の魔力頭脳とカルディナの魔砲機の魔力頭脳も手伝って、あっという間に呪いはバラバラに分解されて元の魂に戻っていく。

 聖竜の体からポトポト落ちていた黒い滴がまず止まり、次に元の純白の鱗を取り戻していく。

 最後に黒シミのようにまだらに残っていた頑固な呪い汚れも、竜郎とカルディナの魔法によって綺麗さっぱり漂白された。



「シャァァァアアアアアーーーーーー」



 それと同時に聖竜から追い出された、黒い竜の形を成した魂が竜郎達の方へと飛び込んでくる。

 しかし元々苦手な性質だった上に、肉体も無い剥き出しの邪なる魂が、聖気に満ち溢れている竜郎達に触る事が出来るわけも無く……。



「アアアア……アアア……アァァ……ァ……──────」



 その魂は実にあっけなく、この世界から消え去ったのであった。

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