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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五編 海底遺跡

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第495話 聖竜の遺跡へ

「いや、タツロウ殿。そういう冗談は後にして欲しいのだが……」

「まあ、この状態ではそう思うのも無理ありませんね。

 ですので直接見て頂きたいのですが……ここでは無理そうですね。

 外へ行きましょう」



 謁見の間の天井の高さは、目算で12メートル以下。

 これでは《真体化》以上の形態になった時に、天井に刻まれた見事な聖竜の彫刻絵を壊してしまうだろう。

 ということで竜郎は少々強引に押し切って、この城の屋上まで泳いで行く事になった。


 地上では朝なので、地面の太陽土が煌々と下から空へと向かって照らしてくれているので、深海だというのが嘘のように明るかった。


 そんな風景に目を丸くしながらも、元々謁見の間が高い場所にあった事も幸いして直ぐに城の屋上までやって来れた。


 イメージ的には金ぴかな砂時計の天辺といった所か。

 地面からここまでは相当な高さになっているが、地上では当たり前のようにある落下防止の塀も柵もない。


 だがよく考えれば、ここは水中。

 足を踏み外したところで、少し手で水を掻けば元の場所へと戻って来られる。

 なのでそもそも落下によって死ぬと言う概念が、この都市には無いのだろう。



「それでこんな所まで連れてきて何を見せようというのかな? タツロウ殿。

 ここにいれば聖竜様に会うことが出来るのかな?」

「ええ、というかさっきも言いましたが、もうここにいるんですけどね」

「「「「「んん?」」」」」



 相手は高ランク冒険者。実力もさることながら、冒険者ギルドが人格的にも問題ないと判断した人物である。

 一国を取りまとめる人間を謀ることなど無いだろうとは思っているものの、それでも未だに言いたいことが理解できずに、お付きの者たちと共に首を傾げていた。



「それじゃあ、ジャンヌ。どうせなら一目で解る様に派手に行こうか」

「ヒヒン!」



 「まかせてー」というように竜郎の腕から飛び出すと、小さく短い四本脚をバタつかせながら風魔法で一気に屋上の中央にまでやってくる。

 そして竜郎に言われた通り、一番見て解りやすい《神体化》を選択し《幼体化》から一気に変化を始めた。


 そうして現れたのは8翼の竜。そしてその身から溢れるのは聖なる光。

 ただ立っているだけで圧倒される上位者のみが持つ独特の威圧感。

 誰がどう見てもレベル100は確実に超えた聖竜である。



「────んんんんっ!? こ、これは一体っどういう……」

「答えは簡単ですよ、陛下。さっき僕が抱っこしていた子の本当の姿が、この聖竜と言うだけです。

 この巨体では普通の施設には入れませんので、普段はあの小さな状態でいるんです」

「そ、そうだったのか…………」



 メンチッタカン王のみならず、そのお付の者達まで大口を開けてジャンヌを見上げる。

 それが幻ではないのだと確かめるように。



「それでどうでしょう。ここにレベル100を超えた聖竜がいます。

 先ほどの話の通りなら、この子がいれば大丈夫なのですよね?」

「あ、ああ。これほどの聖竜が放つ聖気ならば、邪竜の生み出した呪いなど弾き返す事が出来るはずだ」

「え? その言いかたから察するに、必要なのは聖竜と言う存在ではなく、正確には聖気の方なのですか?

 それじゃあ、その条件を満たしていれば別に聖竜でなくてもいいと?」

「邪竜の呪いは邪気でほぼ構築されている。だから普通の呪魔法と違って、聖気で防ぐことが出来るらしい。

 だが確実に大丈夫だと言える条件は、レベル100相当の聖竜が持つほどの莫大な聖気。他のどんな存在がそんな──」

「うーん……こうかな」



 竜郎は光魔法が20レベルになった時に得た称号のおかげで、極光以外に聖力にも光魔法を変換する事が出来る様になっていた。

 なので思い切り光を自分の全身から発生させて、それを一気に聖力に変換。

 すると竜郎の体が、ジャンヌに負けず劣らず強力な聖気に包まれた。



「「「「「────んんんんんんんっ!?」」」」」

「あははっ、たつろーが光ってるー! おもしろーい、人間電球だー」

「なんつー例え方だよ。えーとそれで、これはどう──って、陛下。聞いてますか?」



 顎が外れるのではないかと言うほど大口を開き、目が零れるのではないかと言う程に瞳を丸くし、メンチッタカン王とそのお付の者たちが竜郎をみて固まっていた。


 竜郎の呼びかけもしばらく届かず、ようやく聞く耳を取り戻したかと思えば「あなたも聖竜様だったのですね!」と訳の解らない誤解を解くハメになった。


 ただ誤解は解けきれずに、竜郎の事を『聖人』という新たな種族か何かだという事で納得されてしまった。



(邪気でも同じことが出来るんだが、やったらどんな反応をするんだろうか)



 勿論そんな事はしないが、ちょっと気になった竜郎なのであった。



「では、お願いできますか。タツロウ様! ジャンヌ様!」

「ええ、こちらもそのつもりなのでそれは良いんですが……様は止めてくれませんか?」

「何をおっしゃいますか! あなたは神に選ばれし聖人。私ごとき小国の王が気安く呼べません」

「えぇ……」



 この国の聖なる者へのリスペクト具合を完全に見誤っていた。

 こんな事ならジャンヌだけ紹介すれば良かった。竜郎はそんな風に後悔しながら、むこうの王たちの熱狂的な圧に押し切られてしまった。


 さてそんなことがあったものの許可は取る事が出来た。

 気持ちを前向きに切り替えて、善は急げとさっそく準備。


 今回、聖竜の遺跡の前までついてくるのは、遺跡の扉の鍵を持っているメンチッタカン王。その護衛の近衛兵10名。

 また見知った顔がいた方がいいだろうという配慮によって、魔物船長門の先導役として、初めて竜郎たちと接触した魚人の男バジュリが率いる小隊が選ばれた。


 お昼前には皆の準備が整い、メンチッタカン王と近衛たちが長門に乗り込んでいく。

 メンチッタカン王は人化が出来るので足を手に入れる事はできるのだが、サイズは6メートルと巨体。

 これでも小さくしているそうなので、もっと縮小化できそうにないらしい。


 そんな大きな体ゆえに船内の通路を狭そうに身を縮ませて通っていたのだが、いざ通り過ぎていく各施設に目をやると、その充実っぷりに感動していた。



「これが魔物の中だというのか……? なんて便利なんだ……。

 おい、我が国にもほしいぞ。どこかで捕まえてこれないか?」

「無茶言わないでくださいよ、陛下……」



 などと近衛に突っ込まれるほどに。


 やがて竜郎達は大きな四角窓のある部屋に辿り着くと、海底都市まで案内してくれた人魚の女性スリが手を振って来た。

 メンチッタカン王に確認を取ってから、竜郎はスリに向かって手を振り返すと、遺跡へと向けて小隊が移動し始めた。

 長門もそれに遅れまいと、その方向へとゆっくり進みだした。


 それからしばらくの間、聖竜を助けられるかもしれない事。不思議な魔物の船で移動している事。ジャンヌや竜郎と言った聖なる力を持つ高貴な存在と一緒にいる事。そんな要素が重なってテンションが異様に高揚したメンチッタカン王から、あれやこれやと様々な質問をされる竜郎。


 相手は身分のある人なので「静かに座ってろ」と言うのもはばかられ、竜郎は面倒に思いながらも答えていい範囲で真面目に応対した。


 その間にもちゃんと《完全探索マップ機能》で現在地や道のりを確認していた竜郎であったが、この先で大きな建造物群がある事に気が付いた。同時に周囲が薄暗くなって来たことも。



「暗くなって来たね」

「旧都市が近付いてきているのですよ、アイ殿。

 当時からかなり時間も経っているので太陽土に戻りつつあるのですが、未だに汚染されたままですので」



 竜郎やジャンヌ以外にも、その一行という事で敬語で話すようになったメンチッタカン王の言葉使いが気になりはしたものの、旧都市というものの方が気になって愛衣は窓の下を覗き込んだ。


 それにつられて竜郎も窓の方に歩み寄って、愛衣の横に並ぶと視界が悪くなって来たので、外へと魔力を通して光の精霊魔法で周囲を明るく照らした。


 すると朽ち果てた旧都市が顔を見せ始める。

 太陽土のある都市とは違い、かなり薄暗い。けれど少しずつ浄化が進んでいるので、完全な闇ではない様子。



「でも邪竜の汚染も時間と共に戻ってはいくんですね」

「はい。とはいえ後何年かかるかも解りませんし、ここへ戻る気はもう我々には無いですけれどね。

 こんな有様ですし、今の都市もありますから」

「……ですね」



 眼下に広がる光魔法で照らされた旧都市は、邪竜の攻撃によってかひどく損壊している場所が多々あった。

 さらに暗黒土に汚染されたのか、被害の無かったであろう建物もボロボロだ。

 たしかにこれでは一から作り直した方が早いだろう。祖先たちの暮らした場所とは言え、今の都市を捨てることは無いのだからそれでいい。


 けれど完全に太陽土に戻る事が出来れば、その分この周辺も海が肥えるので生命に溢れるだろう。

 そうなれば今の都市にとっても、より潤沢な資源を得る事が出来るので浄化自体は喜ばしい事だという。


 旧都市を通り過ぎ、それから暗黒土地帯も通り過ぎてから少し離れた辺りにある場所で、先導してくれていたバジュリ隊のメンバーが止まった。

 どうやら目的の場所に着いたようだ。



「思った以上に遠かったですね。毎日《呪歌》で祈りを捧げていると聞きましたが、ここまで届くのですか?」

「魔道具で皆の歌声を収束させてこの遺跡に射出しているので、問題なく届いていますよ」

「それは見なくても解るものなのですか?」

「《呪歌》は効果をかける際には相手を感じ取ることが出来ますからね。

 ちゃんと届いたかどうか位は、この距離でも解るのです」



 さらに言うとその現象を利用して、今もなお聖竜が生きて戦っていることを毎日確認していたらしい。


 そんな情報を聞きながら、竜郎達は会話と呼吸のための魔道具を身に着けて長門の外に出た。

 人魚種系の王と護衛たちは人化を解いて遺跡の前に降り立った。

 竜郎たちもその後を追い、聖竜のいる遺跡とやらに目を向けた。



「思ってたより小っちゃいね。もしかして聖竜さんは1メートルくらいなのかな」

「いえいえ、この見えている部分は小さいですが、地下へとつながっているので中は広いんですよ」



 10メートルもない四角い建造物で、ぱっと見、竜が隠れ潜んでいるようには見えない。

 外見だけは太古の遺跡然とした佇まいなのでそれっぽいが、もし何の情報も無かったらスルーしていたかもしれない。



(まあ、最終的には解魔法で察知する事も出来たんだろうけどな。

 時間は今よりもかかっていたかもしれないし、王たちを味方に付けられてラッキーだと思う事にしよう)



 そんな風に竜郎が考えている間に、メンチッタカン王が《アイテムボックス》から金の箱を取り出し前に出た。

 そして遺跡の入り口となっている扉へと、箱の中から出した円錐形の青い宝石の様な物を取り出し押し当てた。


 すると入り口を塞いでいた扉が溶けるように地面に崩れた。



「扉は開けました。どうぞお入りください」

「解りました、ここまでありがとうございました。じゃあ、行こう皆」



 丁寧に王たちに頭を下げてから、扉があった場所を跨いで中へと入っていく。

 すると遺跡の中には地下へと伸びる階段が、旧都市のあった方角とは真逆に向かって斜めに浅く伸びていた。

 探査魔法で探ってみるが、奥は広いようだ。


 竜郎は光の精霊魔法を出して光源を確保し、その階段を皆で降りて行くのであった。

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