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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五編 海底遺跡

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第493話 王との初体面

 女性人魚の兵士スリに先導して貰う形で、魔物船長門は水深を深めていく。

 竜郎と愛衣は戻るのもなんなので、スリと共に潜っていくと都市の明かりが見えてきた。

 大きさ的には下手な国の領土よりも広いかもしれない。

 そんな都市がドーム状の透明な壁に囲われ、眼下に広がっていた。



「ここに住める種族は限られてますからね。

 魔物の強い場所を避ける必要はありますが、けっこう好き勝手に開拓できるんですよ。

 かなり昔に私たちの祖先が暮らしていた都市を捨てて、今の都市を開拓するときも、他国と揉めるという事が無かったので楽だったと歴史で習った記憶があります」

「え? 一回都市を捨てちゃったの? 丸ごと一個?」

「はい。その昔、旧都市のあった場所に邪竜が攻めてきた事があったらしく、その時に太陽土を汚染されて住めなくなったようです」

「たいよーど? それってなあに?」

「ああ、地上では関係ないですから知らないのも無理ありませんね。

 私たちのいるこの海域の底にある土壌は、太陽の上り下りと連動して光り輝く土なんです。

 それが光届かぬ海底都市の太陽のような役割をしています」

「へぇ、そんなものが。面白い土ですね、お土産に持って帰ってもいいですか?」

「えーっと、それは別にかまわないのですが、この海底から一定距離離れた場所に持っていくと、ただの土に変化してしまうのでお土産には適さないかと」

「そうですか。残念です」



 さらに聞いたところによると太陽土は海を肥えさせ生き物を育み、さらには自浄作用もあるので、本来食料の乏しい深海で暮らす者にとっては重要な土壌であるらしい。

 なのでそれが邪竜によって汚染されて、暗黒土と呼ばれる生き物から生気を吸い取り光を吸い込む土壌にされてしまったので、とてもではないが暮らしては行けなくなった。

 ゆえに都市そのものを放棄するという選択をするほかなかったようだ。



「ってゆーかソレも気になったけど、邪竜って言ってたよね?

 こういっちゃなんだけど、よくご先祖様たちは生き残れたね」

「はい。我々の祖先だけでは壊滅していたでしょう。

 魚人は武に強く人魚は魔に優れるなどと言われていますが、竜の前では無力だったでしょう」

「それじゃあ、いなくなるまで隠れていた──とかですか?」



 化物が都市を攻めてきて居座られるなんてたまったものではないなと思ったが、どうやらそうではないらしい。



「いえ、実はその邪竜を追いかけてきた聖竜様が打倒してくれたのです。

 まあ、聖竜様に追い込まれたから海底まで来たようなのですが」

「それはまた災難だったというかなんというか……」



 巻き込み事故みたいなもので都市が壊滅したのかと、そのスケールの大きさに竜郎達は空笑いするしかない。

 けれどそこに暮らす民たちは、誰も聖竜を恨むことは無かったという。



「かもしれませんが会話すらできない魔竜の邪竜は、存在するだけで大地を汚染し負を撒き散らす危険因子です。

 見つけ次第倒さなければ、何処でどんな被害が出るか解ったものではありませんので仕方ないですよ。

 聖竜様が何もしなくても近くにいたのですから、ここに来る可能性だって十分あったようですし。

 それに都市に甚大な被害はありましたが、聖竜様が身を挺して守ってくれたおかげで人的被害はほぼ皆無だったようです。

 だから私たちは数千年を経た今でも毎日、決まった時間に聖竜様に祈りをささげているのです」



 ああ、それで今回の目的地ともなっている聖竜を祀った遺跡があるのかと納得した。

 元はどうあれ世界の人々の為に戦い、自分たちを全力で守り救ってくれ、その上で邪竜を倒した存在なのだ。

 丁重に祀り上げても不思議ではない。



「毎日祈りをですか。じゃあ、ここでは聖竜と言う存在は神様のようなものなんですね」

「そういう側面もありますが、聖竜様を少しでも早く邪竜の呪いから解放して差し上げたいというのが一番の理由ですけどね」

「え……と? 呪い? 解放? どゆこと?」



 それではまるで未だに聖竜はこの地にいて──というより、数千年も海底に囚われている様ではないか。

 そういう意味での「どゆこと?」を愛衣が言えば、スリはハッキリと頷いた。


 どうやら像や遺体を祀っていると思いきや、ご本人は今もなお健在で、生きている彼自身をそのまま祀っているらしい。


 それは遺跡ではないのでは? 誰かが住んでいるのだから。

 とも思ったがスリたちの先祖が、この地へやってきて居住区を作り上げる前からあった謎の海底遺跡で、そこへ呪いの効果を他へ及ぼさない様にと聖竜が入り込んだので遺跡で間違いないそうだ。



「それじゃあ、呪いっていうのはなんなんでしょうか?

 うちには解呪が得意な子もいるので、もしかしたらお力になれるかもしれませんよ?」

「…………え? は? いえ、あの……邪竜の呪いですよ?

 しかも死ぬ間際に魂全部を使った最上級の……それを解呪できる見込みがあるのですか?」

「絶対とは言い切れませんが、ランクに恥じない程度の実力は持っていると思いますし、大抵の呪いは解けるかと。

 というか逆に聞きたいんですけど、ここの人達はどうやってそんな邪竜の呪いを解こうとしているんですか?」



 それだけのことが出来る戦力がいるのなら、ここまで魔物船長門一体に右往左往するとは思えない。



「私たちがやっているのは解くことではなく、解くお手伝いといったほうが解りやすいでしょうね。

 我々人魚の系譜の種族には、《呪歌》というスキルがほぼ全員に備わっています。

 それは歌に乗せて相手の力を上昇させたり下降させたりできます。

 さらに他者の歌──それも《呪歌》を持っていない存在の歌と同調する事で、他者の力も乗せて効果を高める事が出来ます」

「ようは限定された呪魔法の歌版といった所ですか。

 けど魔法と違って、他人の歌と混ぜ合わせる事が出来ると」

「はい。私たちは決まった時間に皆で集まり、聖竜様へ向けて祈りの歌を歌い、少しでも早く呪に打ち勝てるように手助けをしているというわけです」

「なるほどねー」



 愛衣が感心したようにうんうんと頷いていると、スリはそれよりも竜郎が解呪できるかもしれないという言葉に食いついてきた。



「私の一存では決める事は出来ませんが、一度この国の王にそのことを伝えてみてもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

『とゆーか、私たちはそこへいくためにここまで来たんだしね』



 いらぬ警戒を与えてもいけないので、愛衣は念話で竜郎にだけ聞こえるように言葉を付け足した。


 そうこうしているうちに、都市の灯りがハッキリと見えてきた。

 深夜という事で海底の太陽土は光っていないが、人工的な灯りはしっかりとある。

 なにやらそのスリは懐中電灯のような魔道具を取り出すと、それを決まった手順で点滅させてモールス信号のように向こう側の人間と会話をし始める。



「許可は既に下りているそうです。

 それで……国王が直々に出迎えに来ている様なのですが、良かったでしょうか?」

「え? 国王が? こんな深夜に?」

「いえ、あのナガトくんでしたっけ? その魔物騒ぎで寝てなんていられませんよ……」

「す、すいません。気が利かなくて」



 竜郎たちの感覚からしたら長門はまだまだ全然強くはないし、明らかに人がいると解る様に明かりを散らしていればちょっと警戒されるくらいかな? と思っていた。

 実際にこれが天魔の国、妖精の国、竜の国といった強兵揃いの場所であったのなら、ここまでの警戒は無かっただろう。


 しかし人魚や魚人は一般的な人種よりは優れているが、それでもそこそこ成長した長門レベルでも脅威に値するようだ。

 今後同じような事があるとしたら、次はもっと従魔だと解りやすい目印でもつけておこうかなと思った竜郎であった。



 海底都市の前で一度長門を横付けして、改めて皆に降りてきてもらう。

 国王がいるのなら全員で挨拶した方がいいだろうと思ったからだ。


 そうして挨拶しに近寄っていけば、王様の姿形もはっきりしてくる。

 最初竜郎や愛衣は「ん?」と首を傾げた。何やら縮尺がおかしくないかと。


 しかし目の前にまでくれば嫌でも理解できた。

 沢山の従者を従えて、豪華な服と王冠をかぶったその王様は、体長6メートルの人魚だったのだ。

 普通の人魚と体格が違いすぎて、目がおかしくなったのかと思ったので吃驚した。



「巨人魚種は初めてですかな?」

「巨人魚という種族なのですね。勉強不足で申し訳ありません」

「いやいや、そもそも個体数は普通の人魚種と比べても極めて少ない。

 地上の者では知っているほうが珍しいですよ。わっはははは」



 豪快に笑う様を見るに、突如長門に乗って深夜に押しかけて来たことも、無遠慮にジロジロ見たこともまったく気にしていない様子。

 そして周りも嫌そうな顔は無く、珍しげにしているが歓迎ムードが漂っていた。



『なんというか温和な人が多い国なのかもしれないな。

 海の底っていう特殊な場所だから、他種族との競合も無かったからかもしれない』



 竜郎が念話で愛衣に言った言葉は的を射ていたりする。

 魚人は人魚の友であり、人魚は魚人の友である。

 なんてことわざがあるくらいに、この二種族はほとんど争った事も無く、喧嘩をすることはあっても戦争になった事は一度も無い。

 そんな国だからこそ、国民性が大らかになったのだろう。



『いい国だね! 好きになったかも。

 けど難点を言うとしたら、私たちには住みにくいけど』



 竜郎と愛衣ならエンデニエンテの称号効果で環境に適応される可能性が高いので、絶対に無理だということは無いのだろうが、それでもずっと大地に足を付けて暮らしてきた者としては地上で暮らしたい。


 自己紹介を簡単に済ませていき、海底都市ペティシュリナを統べる王の名前はメンチッタカン・ペティシュリナというらしい。

 そうして顔合わせも済ませると、さっそく向こうが用件を切り出してきた。



「それでタツロウどの。本日はどういったご用向きで来られたのかな?

 観光だというのなら案内人なども付ける事も出来るのだが」

「えーと……」



 ここはもうハッキリ言ってしまってもいいかとレーラに視線を送ると、コクリと頷いてくれたので竜郎はストレートに本題を切り出した。



「我々は聖竜のいる遺跡を探すためにここまで来ました。

 しかしこの周辺にはいくつもそれらしき場所がある様で、どれが該当する遺跡なのか外からでは判別が付きません。

 この国ならばどこにあるかご存知ですよね? 教えて貰えないでしょうか?」



 事前に《完全探索マップ機能》で調べて分かった事なのだが、何故かこの都市周辺にはやたらと謎の遺跡が乱立していて、その全てを一から調べるのは手間だと思ったからまずは都市へと聞き込みに来たのだ。

 そして王ならば、何処にあるかも確実に解っているだろう。



「むぅ……」



 しかし、それまで温和な顔をしていた王やその従者たちが表情を硬くして歓迎ムードが一気に薄れていく。

 場が白けるとはこういうことを言うんだろうかと益体もない事を考えていると、唸っていた王が口を開いた。



「あそこは我々にとって聖域。誰にも立ち入っては貰いたくない場所である。

 そちらが無理に押し通ろうとするのであれば、無駄だと解っていても全力で止めるほかない。

 それでも行こうと言うのだろうか?」

「……場合によってはソレもやむなしです。僕らも僕らで引けない事情がありますから」



 そうしなければならない道しか残されなかったら、竜郎は心を鬼にしてでも押し通る。

 友好的に接してくれたし、歓迎もしようとしてくれたが、それでも自分の家族とは比べる事など出来ない。


 しかし、まだそうしなければいけない状況ではないとも竜郎は思っていた。

 このまま放っておけば、いずれ溜まった世界力は危険な魔物を排出するだろう。

 そうなれば聖域も聖竜もどうなるか解ったものではない。


 そしてもう一つ。こちらには交渉の席に着かせるカードを持っている。



「しかし、今回の僕らの遺跡への立ち入りは、結果としてあなた方にとっても悪い話ではないと思っています」

「……具体的にお聞きしたい」



 聞く耳を持たずに帰れというような短気な人じゃなくて良かったと、その事に感謝しながら竜郎は手持ちの札を切った。



「何千年も呪いに囚われている聖竜の呪いを、僕らであれば解くことが出来ます。

 もしもそこへ行かせてくれるのであれば、全力を持って解放を目指す所存です。

 いかがでしょうか?」

「むぅ……」



 絶対に解けるなんて確証は何処にもない。

 けれどこちらには竜郎がいてカルディナがいて、リアもいる。

 それに長い時を過ごし知識を集めてきたレーラもいる。

 このメンバーが揃っていて、解けないというのであれば、それはもうこの世界のほぼすべての者が匙を投げるしかないだろう。


 だから強気に出た。

 そんな竜郎に真っすぐに見つめられた王は、先と同じように唸りながら、眉をハの字にして悩み始めたのであった。

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