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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五編 海底遺跡

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第492話 いざ海底都市へ

 イシュタルが額から汗を流しながら未来の自分の視界と同期して、竜郎たちは76年後の未来へとやってきた。

 場所は以前の時と同様、イルルヤンカ大陸の南部にある密林地帯。

 時刻はヘルダムド国歴1104年.1/4.風属の日。午後24時41分27秒と深夜。


 そんな夜更けだというのに、今回もきっちりとイシュタルの眷属ルブルールが空からやってきてくれ、大陸の外──エーゲリア島までの船が出ているヒングソー島まで送ってくれた。



「では、お気をつけて。イシュタル様」

「ああ、ありがとう」



 ルブルールがイシュタルに頭を下げて去って行くのを見守りながら、竜郎達は早速今後について行動の確認をしていく。



「地理的には、ここから北西の方角にある海の底ね。

 手前に小さな無人島があるから、そこから行けばいいはずよ」

「無人島だな………………ああ、これであってるか?」

「ええ、そこよ」



 《完全探索マップ機能》で地図を表示して無人島の位置を確認すると、矢印ガイド及び音声ガイドをジャンヌと共有してそこまで飛んで行ってもらった。


 無人島と言うよりも海から出っ張った大きな岩場と表現した方がいいような場所へと到着すると、海水で若干べたつく足場を気にしながらも海底を覗き込む。



「この海の底に都市があるんだねー。なんか不思議な感じ」

「地球じゃ絶対にありえないからなぁ」



 既に周りが薄暗くなっているという事も関係しているが、群青色の海の底は殆ど下が見えず、その奥底に居住空間──それも大勢の人が暮らす都市があるとは思えない。

 けれどそんな非日常に少なからず心踊らされる二人は、無意識的に口角が上がっていた。



「よし、それじゃあさっそく長門を出すか」

「いよいよだね。初めての海底旅、ワクワクしちゃう」



 無邪気にはしゃぐ愛衣の頭を撫で繰り回しながら、竜郎は目の前の海に魔物船──長門を浮かべた。

 タラップを無人島にかけて全員が乗り込み、皆が乗船したのを確認したら今度は船内に入り込んでいく。


 そして長門が《魔障壁》で甲板を覆うように結界を張って、水が何処からも入って来ない様にすると静かに海の中へと沈んでいった。

 それと同時にリアと奈々が空気を生成し循環する魔道具を設置していき、起動させておいた。

 これで手持ちの帰還石が切れるまで延々と空気が供給される。



「海の中なんて真面まともに見たことは無かったが、中々面白いな」



 そう言ったのはイシュタル。

 竜郎たちは今、船内からでも船の外が見えるように作られた大きな四角い窓のある部屋から、海の底へと潜っていく様をダイレクトに見学していた。

 もちろん潜る前に竜郎が事前に精霊魔法で光魔法を散らしていたので、周囲が照らされ海の中もよく見えた。



「あの魚きれいですの~」

「ほんとだ。どんな味がするんだろ」

「ほんとに姉さんはそっちばかりですね……。あ、素材的に面白そうな魚ですっ」

「リアも大概ですの……」



 さしずめ天然水族館か。灯りに驚き逃げていくものや、逆に向かって来るもの。生き生きとした自然のままの水棲生物たちは多種多様で、竜郎達の目を楽しませてくれた。


 そんな風に皆で仲良くワイワイ過ごしながら水深をグングン下げていく。

 すると海底の方からいくつかの小さな灯りが、魔物船長門の方へとやってくるのをカルディナが観測した。



「これは反応的に人間っぽいな」

「人魚さんかな? 攻撃してきそう?」

「いや、逆に右往左往してどうしたらいいのか慌てふためいている感じだな……どうしよう。たぶん海底都市に住む兵士たちだ」



 解魔法に精霊眼も使って相手の情報をこっそりと確かめてみると、全員が攻撃系統のスキルを所持しており、一般人にしては平均40~50とそこそこ戦い慣れした人間ばかり。

 魚人や人魚の冒険者という可能性もあるが、巨大な魔物の船が都市に向かって近づいてくるのを察知したら国と無関係な人間が来るとも考え辛い。

 そう考えると先遣隊が様子見にでも来たのだろう。

 その証拠にウロチョロしてはいるが、一定の距離を保ったまま近づいてこようとはしない。



「あたしが行って説明してきてもいいっすよ?」

「いや、アテナ達だとイシュタルが近くにいないと言葉が通じない。

 いくらリアが作ってくれた魔道具を使ったって、言語が解らないんじゃ意味がないだろうしな」

「あーそっすね。やっぱりあたしと奈々姉くらいは《完全言語理解》を取得してもいいかもしれないっすね。言葉の為だけに体をいちいち造り直していくのもめんどそうっす」

「そうかもしれませんの。SPは余っているので、それほど困る事も無いでしょうし」



 レーラが言うには魚人や人魚たちなどの、水の中で暮らす事が出来る種族は、往々にして水中でもクリアにお互いの話し声を届け送る事が出来る《水中会話》なるスキルが備わっているらしい。

 そこでリアは空気生成と、想像だけで何となく再現した水中会話モドキ機能を持った魔道具を作っていた。

 しかし《完全言語理解》を取得していないアテナがそれを装着したとしても、そもそも言葉が解らないので意味がない。



「ってことで、俺が行って来るよ。

 月読も天照もいるし、一人でも後れを取る様なレベルでもないはずだ」

「なら私も行くよ。人魚さんも見てみたいし」

「タツロウとアイたちなら、どんな事態にでも対処できるか。

 いざとなれば転移も出来るし、なによりこの魔物船の主でもあるんだからな」



 野生の魔物ではなく卵からテイムした魔物船なので、竜郎が言えば誰の言う事も素直に聞いてくれる。

 とはいえ、説明するならちゃんとした主の方がいいだろうとのこと。

 外交系は正直自信も無いので、現役の皇帝の言葉にも後押しされる形で、上へと上がって甲板のハッチを開けて外に出た。


 その際にはリアが作ってくれた魔道具──立体マスクにイヤホンのついたような魔道具を口元と耳に装着し、竜郎の水魔法で起こした水流に乗って人の気配のする方へと流れていく。

 お互い離れない様に手を繋ぎ合い、向こうにも直ぐ解る様に光の精霊魔法を周囲に数個散らす。



『あっ、気が付いたみたいだよ』



 二人の視線の先では、こちらに勢いよく灯りを振ってアピールしてくる。

 なのでこちらからも光を点滅させて動かしたりして、敵意が無い事をアピールしながら近づいていった。


 近付いた先にいたのは5人の男性と1人の女性。

 内訳としては下半身が魚で上半身が人間の人魚が男女1人ずつ。残りの男たちは皆、首元にエラが付いて耳のある位置にヒレが付いた魚人たち。

 魚人の男性たちは槍術2人と剣術が1人、盾術が1人の近接戦闘タイプで、人魚の男女は魔法型で男は水魔法、女は水と解魔法使いの様だ。


 皆それぞれが同じ紋章の入った同じ形の軽装鎧を着ているところ見るに、やはり国家に所属した兵士なのだろう。



「○○ ○○○○ ○○○ ○○○○○!」

「「え?」」



 四単語目で魚人が使う言葉を習得し、竜郎たちは揃って聞き返すと、6人は焦ったように招きよせようと叫んでくる。



「いやだから、早くこっちに来るんだ! 後ろに巨大な魔物がいるんだぞ!」

「あ、あ~。そう言う事ですか」



 どうやら竜郎たちが長門から出てきたところまでは察知できなかったようで、逃げてきたように見えたらしい。



「何を呑気にしているの! どんどん近づいてくるわよ! いいから早く!」



 赤髪に緑の瞳の美しい人魚の女性が、水中探査魔法で長門の存在と、その反応の高さから大よその強さを察して、真っ青な顔で呑気にしている竜郎たちへと手をブンブンふってこっちに来いとジェスチャーでも表現してくる。


 このままではさすがにまずいなと、竜郎は直ぐに後ろのあれは自分がテイムしている魔物だと説明を試みた。



「冗談を言っている場合か!? 死ぬぞ馬鹿者!」



 しかし怒られてしまった。

 そこで二人はやっと気が付く。自分たちの容姿は年齢以上に幼く見られがちであったことに。

 こんな事ならレーラも連れてくれば良かったと思いながら、竜郎は急いで冒険者ランクをマックスで表示した身分証を取り出して眼前に掲げた。



「こんな時に身分証など──など………………んんんんんんっ!?」

「ちょっとバジュリさん! 何をやってるんですか、早くしないと」

「いや、スリ。お前もこれを見てみろっ」



 スリと呼ばれた人魚の女性が、上官でもある魚人の男性に言われては任務中は従うほかなく、渋々ながらも竜郎の身分証へと目を通していく。



「これが一体なんだ──と? ………………んんんんんっ!?」

「俺にも見せてくれ!」

「俺にも!」



 この中では一番上官のバジュリと、その副官のスリが目玉をひん剥いている様を見せられていた他の面々は、自分にも見せろと確認していく。



「「「「んんんんんっ!?」」」」

『んんんんっ!? って驚き方が流行ってるのかな?』

『いやぁ……そういうわけはないとは……思う。種族的な何かかも知れない』



 皆そっくりな驚き方に竜郎と愛衣が苦笑していると、ようやくバジュリが真面まともに話を聞いてくれる態勢に入ってくれた。



「し、失礼しました! てっきり子供が追いかけられているのかと勘違いしてしまいましてっ」



 世界最高ランクの冒険者ともなれば、その辺の貴族なんかよりよっぽど丁重に扱わなければならない人物だ。

 そんな相手に乱暴な態度を取った事を思い出し、長門の事などすっかり忘れて竜郎へと頭を下げてきた。


 しかしさっきまでの態度が馬鹿にしたような悪意を持ったモノであったのなら、不快に思っていただろう。

 が、この人達は竜郎たちの命を心配して必死になった上での対応だったので、むしろ海底都市に住んでいる人達に好感を抱いたほどだ。怒るわけがない。

 竜郎は直ぐに頭を上げて貰うように言った。



「頭を上げてくださいっ。そんなに気にしなくてもいいですから。

 僕らも外見的に強そうに見えない事は自覚してますし。

 それにそんなに畏まった態度でなくてもいいですよ」

「あ、ありがとうございます。そう言って貰えると……ほんと、助かりますよ」



 バジュリが感心したような声色で、ばつが悪そうに笑っていた。

 そしてそんなバジュリの後ろではといえば……。



「おぉ……さすが高ランクの冒険者だ。その辺のチンピラ冒険者とはわけが違う」

「だなだなっ。あとでサインとか貰おうぜ」

「あなた達聞こえてますよっ。恥ずかしいから自重してください」

「「は、はい~」」



 盾術と剣術の魚人の男がヒソヒソと話していたが、スリに叱られて申し訳なさそうな顔で後ろに下がった。

 そしてちょうどその頃になると魔物船長門が近くまでやってきて、竜郎が手を振って止まるように指示を出すと素直に一時停止した。


 その様を見て、バジュリたちもこの巨大魔物は竜郎の従魔なのだと察してくれたようだ。



「えーと……本当にこの魔物を従えてるんですね」

「ええ。僕らは本来海で暮らす種族ではないので、潜水能力もあるこの子──長門に連れてきてもらったんです」

「は、はぁ……。いやしかし、冒険者ランクが最高位ともなれば、この位の事は造作も無い事なんですね」

「それよりもバジュリさん。早くこのことを報告した方がいいのでは?」

「はっ、そうだった。タツロウ殿。ここにスリを案内役として残していきます。

 そして我々は本国へ危険はなかった事、タツロウ殿たちがやってくることを伝え、その魔物と一緒に来られるよう、すぐさま手配させていただきます」

「それは助かります。ありがとうございます、バジュリさん」

「いえ、仕事ですので。それじゃあ、スリ頼んだぞ」

「はい。お任せを」



 そうして人魚の女性スリだけを残し、他の5人の男たちはものすごい勢いで泳いで水底へと去って行った。



「それでは改めて自己紹介を。案内させていただく私はスリと申します。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「お願いしまーす!」

「ふふっ、はい」



 愛衣の無邪気な笑顔と返事にスリは、可愛い物を見る時の目をして微笑んだ。

 そんな優しげな笑みを見た竜郎は、愛衣の良さがすぐに解るとはスリさんは絶対にいい人に違いないと、密かに彼氏バカを炸裂させていたのであった。

次回、第493話は5月30日(水)更新です。

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