第491話 新たな天照と月読……
せっかくなので、アテナに一つ《竜神幻想闘術》を実践して貰うことにした。
まずは《幻想竜杖》で、以前愛衣が使っていた体術用のグローブへと変化させる。
トラさん肉球手袋をはずして、そのグローブを右手に嵌めた。
そして《竜神幻想闘術》を発動させるのと同時に、アテナは黒竜の気獣技の幻想を右手に纏い、海へと向かって振り抜いた。
すると体術を持っていないはずなのに、ちゃんと黒龍の頭の形をした拳が飛んで行く。
そして幻であるのに幻でないとリアが言っていた様に、現実へと侵食して愛衣がやった時と変わらぬ威力で海に盛大な水飛沫を上げさせる。
「もういっちょっすー!」
腕を振りぬいた時の流れに沿って回転しながら海に向かって後ろ回し蹴りをすると、足元から生まれた白竜の蹴撃が8つ飛び出し海に着弾していった。
「今のって……私の《一発多貫》の効果だよね?」
「その武器を使った時に使えるスキルをそのまま再現する事も出来るってことか……ユニークスキルの中でも特に凄いスキルかもしれないな」
「まるで一人で何人分もの力を持っているみたいですの」
「まあ、奈々姉たちと一緒で今のところ持続力は無いんすけどね」
アテナが纏っていた体術の気獣技が消え去った。
こちらも神力を使うので長時間の使用は難しいようだ。
少し疲れたような顔でアテナは《成体化》にまで戻って、再び成人女性の体に戻り言葉を続ける。
「それに《幻想竜杖》は一日三種までの武器しか変えられないっすからね。
一回の戦闘で全員分の真似はできないっす」
「いや、それでも恐ろしいスキルだぞ、それは。
もしそれで私の短杖をコピーしてしまえば、私の固有スキルでもある《無限銀砂》も使えるようになるのだろ?」
「かもしれないっす。ってことで、触らせてもらっていいっすか?」
「ああ」
《幻想竜杖》はその杖で一度触れた物にしか変化出来ないので、イシュタルの戦闘が真似できるように短銃型短杖にコツンとスキルで出来た杖を当てておいた。
そうしてアテナのお披露目も終わった所で、あと二人。天照と月読のお披露目に移っていく。
しかし彼女たちには体が無いので見た目的な変化はない。なので二人同時に竜郎はそれぞれのコアへと収めた。
すると以前と変わらず、すんなりと収まってくれた。
けれどそこで二人に話を聞いてみると、少し困った事が発覚した。
「この子達は《真体化》とかが無い代わりに、《低出力体》《常態出力体》《高出力体》っていうモードがあったんだが、今回追加された最上位モード《神出力体》に今はなれないらしい」
「え? なんで?」
愛衣が素直に疑問を呈すると、竜郎が答えるより先に答えに至ったリアが説明してくれた。
「恐らく今の魔力頭脳では、竜神の体の受け皿として持たないのではないでしょうか?」
「ああ。天照たちもそう言っていた。このまま無理に《神出力体》になっても、魔力頭脳が破壊されるだけだろうってな」
「魔力頭脳が壊れても中にいるアマテラスたちは大丈夫なのか? タツロウ」
「ああ、そっちは大丈夫らしいな。言うなれば家が壊れるだけで中の人間は壊れないって感じか」
もちろん本当に家の中にいた時に家が壊れれば、中にいた人間ごと潰れてしまうだろう。けれど実体を持たない天照と月読には関係はない。
「それじゃあさ。もし天照ちゃん達の本領を発揮させよーって思ったら、もっと凄い魔力頭脳のお家を用意してあげなきゃって事だよね?
それって、あのでっかい塔の杖に使ってる奴だったら出来るの? リアちゃん」
「ええ、あれならば今のアマテラスさん達も受け入れる事が出来るでしょうね。
ですが……それだとせめて……」
「持ち運べる位の大きさにはしたい所ですの」
言葉に詰まったリアの代わりに、奈々が結論を言いきった。
今現在カルディナ達の体を造る時に使った杖塔にのみ使われている新型魔力頭脳は、それだけ取り出しても全長8~9メートルととんでもなく大きい。
しかも例えそれだけに天照や月読を入れたとしても、膨大な演算能力を持っているだけで杖などとして使えなくなってしまう。
なので今現在の技術では、実質天照たちを入れる器は用意できないと言っていいだろう。
「まあ、あんな大きなものを持ち歩いてたら戦闘どころじゃないからな」
「けど近い将来、必ずアマテラスさん達を入れるのに相応しい器を作って見せます。
ですから期待していてくださいね」
「「────!」」
ありがとう。という気持ちと共に、二人の入っているコアがピカピカッと輝いた。
そうして話が落ち着いた所で、レーラが大事な事を天照たちに問いかける。
「カルディナちゃん達で言う《神体化》が出来ないっていうのは解ったけれど、神格自体は得られたのよね?」
「「────」」
「得られたみたいだな。まあ成れないだけで、本人たち自体には既にそれだけの能力が備わっているんだから、当然と言えば当然か」
体が成長に追いついてはいないが、ちゃんと中身は成長したのだ。
これで二人だけ神格者の称号を得られない方が不思議な話というもの。
なので今回、天照は《殲滅炎嵐奏竜帝》から《殲滅炎嵐奏竜神》へ。
月読は《不落水晶竜帝》から《不落水晶竜神》へと、ちゃんとクラスチェンジを果たした。
そしてその際に覚えたスキルはと言えば──天照には《竜神絶炎嵐槍》。月読には《竜神絶晶盾》というスキルで、効果は以下のとおりである。
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スキル名:竜神絶炎嵐槍
レアリティ:ユニーク
タイプ:アクティブスキル
効果:相手の防御の一切を無視して貫く神槍を一時的に創造する。
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スキル名:竜神絶晶盾
レアリティ:ユニーク
タイプ:アクティブスキル
効果:相手の攻撃の一切を無視して防ぐ神盾を一時的に創造する。
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「《神体化》──じゃなくて、《神出力体》限定スキルだから、まだ使う事は出来ないが、どっちもぶっ壊れてんなぁ」
「絶対に貫く槍と絶対に防ぐ盾だもんね。使えるようになったら凄そー」
「……だが待ってくれ、それじゃあその二つをぶつけ合ったらどっちが勝るんだ?」
「それはね、イシュタルちゃん。まさに矛盾だよ!」
「いや、だから聞いているんだが……」
「アイは何を言っているんだ?」といった視線をイシュタルが竜郎へと向けてきた。
要するに愛衣は矛盾の語源となった故事の事を示したかったつもりのようだが、地球の言語の語源などイシュタルが知っているはずもない。
愛衣がドヤ顔でいっても通じるわけもなかったので、結局竜郎がその話を簡単に説明したら一応は納得してくれた。
とはいえ、どちらがどうなるかなど一番重要な答えは結局見つける事は出来なかったのだが。
「どうせ今は使えないんすから、気にするだけ無駄っすよ~」
「それもそうですの」
「気になりますね」
「ええ、気になるわね」
アテナと奈々がその話を纏めて終わりにしたのだが、リアとレーラだけはお互いに見つめ合って実験してみたいねと語り合っていた。
そんな二人ではあるが、いつものことでもあるので分霊について話を持っていこうとする。
けれどこちらも《神出力体》でなければただの分霊になるだけなので、今回はその機能を確かめる事は出来なかった。
「色々と気になる事も残ったが、これでカルディナ達はアムネリ大森林に入っても大丈夫そうだな」
「ピッピッ!」
竜郎の頭の上にいる《幼体化》したカルディナが、肯定するように鳴いていた。
「それじゃあ、そろそろ次に向けて出発の準備を──ということだな。
未来という事だし、私もいつでも未来視できる様に意識しておこう」
「よろしく頼むな、イシュタル。
それでリア。仕事ばかりさせて申し訳ないんだが、深海対策はどうなっている?
手伝える事があるなら何でも言ってくれ」
竜郎のその言葉に、リアは思案顔で右の人差し指を顎に当てた。
「そうですねぇ……。図案は新型の魔力頭脳の合間に印刷しておいたので、後はちょちょいと作り上げるだけです。
なので手伝いは大丈夫ですよ。──ああでも今日からはそれに集中したいので、ウリエルさん。食事の支度は任せてしまってもいいですか?」
「ええ、お任せください」
食事の支度をとリアがウリエルに頼み、それにウリエルが頷き返した……のだが、実は実際に作るのはウリエルでは無かったりする。
「あのスライム本当に器用っすよね~」
「だよねー。まさか私やたつろーよりも料理が上手いなんて自信なくすよぅ」
「まあまあ、アイ様。アレはリア様の動きをコピーしているだけですから、大丈夫です」
そう。ウリエルの十使徒であり人間に擬態する事も出来るあの紅いスライムは、見た人間の動きを記憶してそっくりそのまま真似る事が出来る。
もちろん知能は魔物並なので、その行動の意味は理解してないが、動作記憶だけなら覚える事が出来てしまう。
だがそれでも欠点もある。
同じように動いても、その時その時によって微妙に違う匙加減を自分の意志で調整できないので、どうしてもオリジナル──つまりリアの料理には及ばない。
さらに動きをトレースしているだけなので、鍋や調味料の位置が変わってしまうと対応できない。
なので後ろでウリエルが、その辺りの監視をしてやっと料理になる。
けれどそれならば、ウリエルが作ればいいのでは?
と思う方もいるだろうしウリエル自身もそう思ってやってみたのが……それはそれは食材たちが可哀そうな事になったので、以来、彼女が直接料理をすることは禁じられた。
『あれはなんて言うか……凄まじかったな』
『うん……。私より器用なのに、なんで料理はアレなんだろね』
その時のことを思い出して、二人は誰にも──特に本人には聞こえない様に念話で話しながら背筋を震わせたのだった。
それからまた5日の時が過ぎた。
リアはその間、深海に行った時に必要そうなものを用意する傍らで、前の国で手に入れた天装──飛翔のガントレットことガンちゃんに魔力頭脳を移植することに成功させていた。
ちょうど愛衣のグローブが壊れてしまっていたので、深海対策装備はパパッと作って5日間のほとんどを使い天装を改造してのけたのだ。
「ありがとーリアちゃん」
「どういたしまして、姉さん」
ガンちゃんをリアから受け取った愛衣は、さっそく自分の両腕にはめた。
そしてこの天装の真骨頂、飛行能力を起動してみた。
すると以前よりも大きくなった刃のようなプロペラが肩の後ろに現れ回りだし、愛衣の体が宙に浮く。
そして一気に空高くへとロケットの如く飛んで行ってしまった──かと思えば直ぐに急降下──からのV字ターンで錐もみ回転しながら再び上昇。
「あはははっ! すごいすごーい!」
「前は普通に飛ぶのもやっとだったのに、魔力頭脳を入れた途端に手足のように使えるようになったんだな。
今のアイなら、私の飛行にもついてこれそうだ」
イシュタルが縦横無尽に空を飛びまわりながらはしゃぐ愛衣を見上げ、目を丸くして改めて魔力頭脳の有効性について感心していた。
「ただい──っま!」
「──おっと、おかえり」
竜郎の斜め上くらいで急停止させると、慣性に従って彼の胸へとダイブ。
地球にいた頃の竜郎ならば軽く吹き飛びそうな勢いであっても、ステータスで強化された今ならちゃんと受け止める事が出来る。
竜郎は愛衣を落とさない様にしっかりとその場で受け止めると、そのまま二人は暫し抱擁を交わして離れた。
「リアちゃん! 凄いよ! ほとんどなんも考えなくても自由に飛べるの!」
「みたいですね、姉さん。しかしそれだけで驚いていけませんよ。
実は今回の改造によって、そのガントレットは水の中でも今のように動き回る事が出来る様になったようです」
「え!? そうなの!? なんて都合のいい展開」
「あはは。というよりも天装は特別ですからね。
意志の様な物が個々にありますし、姉さんが次に深海に行く事も理解して自分を成長させたんだと思います。
飛翔のガント──いいえ、ガンちゃんも随分と姉さんを気に入ってくれてるようですよ」
「そうなんだぁ。ふふっ、大事にするからね」
「ええ、そうしてあげてください」
満面の笑みでリアとガンちゃんの両方に向かってそう言うと、どことなく嬉しそうな気配を愛衣はガンちゃんから感じたのであった。
次話から海底遺跡編始動です。




