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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第四編 躍進

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第486話 墓地完成と取引開始

 墓地を作るなら、ただの丘の上では殺風景なのでちゃんと場を整えることにした。



「地面に死体を埋めただけじゃ、ただの死体遺棄だからな」

「死体遺棄って……」



 とりあえず周囲を見渡してみると、竜郎と風妖精──愛衣命名:キー太(キーキー鳴くからね! by愛衣)との戦いで骨の塔も草木も吹き飛び、いい感じに整地が進んでいた。

 あとはガタガタになった地面を正せばいいだろう。



「って、そういえばあの骨の山は吹き飛ばしちゃったけど良かったのか?」

「キーィ?」



 あれがキー太のコレクション的な意味が有ったのなら悪かったなと契約越しに話しかけると、何のこと? と首を傾げられた。


 そこで竜郎があれはなんだったのかと色々聞いてみた所、殺した躯を積み上げて「俺はこんなに強いんだぞ」という示威行為をするために始めていただけの様だ。

 実際にそれで雑魚との戦闘回数が減ったらしい。


 強敵との戦いは自分を押し上げる為にもなるので良いが、格下では大して強くもなれないので無駄だと思って試行錯誤した結果らしい。


 やはり頭がいいんだなと二人はあらためて思った。



「でも最初からそうだったわけでもないみたいだな」

「そうなの?」



 どうやらキー太は、この領地内では最下層に近い魔物だったらしい。

 しかし弱かったからこそ生き延びるためにはどうすればいいのか、考えて考えて考え抜いてきたからこそ、時間と共に考える力が上がっていったらしい。



「長生きの魔物だからこそ出来る進化なのかもしれないね」

「だな。考える力ってのは地味なようだが、力押し一辺倒の奴より時として厄介になる事も多い。

 そういう奴が魔物から人間に至ったりする事もあるんだろうし」

「キーー」



 そんな考察をしながらも竜郎は戦闘で抉れた丘の上を綺麗にして、さらに丘の面積を土魔法で広げて崖の所まで伸ばす。

 そして崖の縁が最も高くなるように地形を変えると、その場を平らにして地面を押し固めていく。



「ここまでやれば崩落する事も無いだろう。んで──キー太に墓守を任せるなら家を用意するか。

 より人間的な生活をさせる事で、さらに知能を上げる事が出来るかもしれないしな。どうだ? 家はいるか?」

「キー!」



 他の魔物は自分のいる領域全てが家だという考えのようで別にいらないと答えられてきたのだが、キー太は定住地を望むようだ。

 それならと竜郎は月読と共に竜水晶でできた小さな教会のような建造物を丘の上に、崖を背にするようにして作り上げた。



「これなら墓地にあっても見ため的におかしくないだろう」

「キーキィー」



 本人も気に入ったようだ。

 内装はベッドを置いて寝床を用意し、テーブルと椅子も竜水晶で作ってあげた。

 さらに緊急時用の非常食を入れる床下収納も完備し、この先使えるようになるかどうかはさておき、お風呂やトイレも用意して人間が暮らすのに最低限の物をそろえていった。


 また二階も屋根裏部屋のような小さな空間が存在しており、そこの窓から海を眺めたり、森や教会の下に作る予定の墓地が良く見えるようにしておいた。

 もちろんその窓も透明度が高く薄いものの、月読の竜水晶製なのでそこいらの魔物では傷一つ付けられないので安全だ。



「もし自分では勝てない様な魔物が来たら、無理をしないでこの中に逃げ込めばいいからな。

 蒼太にもたまに見に来るように頼んでおくから、大人しく応援を待ってくれ」

「キィ」



 全部見て回ったわけではないので確定ではないが、もはや今の蒼太を倒せる存在は恐らくこの領地内にはいないだろう。

 なのでもしキー太では持て余すような魔物がこの地を荒らしに来ても、蒼太なら蹴散らしてくれるに違いない。



「なんかまた強くなってたからね」

「さすが上級竜ってところか。心強いばかりだよ」



 それからダンジョンで手に入れた杖とマントを渡し、キー太の魔法と耐久をあげておく。

 失った手や目も治っているので、これで前以上にキー太は強くなっただろう。



「キッキッキィーーー」



 杖とマントを装備させてもらったキー太は、嬉しそうに妖精の羽をはためかせてクルクルとその場を回って喜びながら竜郎へ感謝の気持ちを伝えてきた。



「どういたしまして。それじゃあ、当初の目的に戻るとするか」



 竜郎は愛衣とキー太を引きつれて外へと出ると、小さな教会から少し下がった場所を広範囲に高さを合わせてまっ平らにしていく。

 土と闇魔法でコンクリートのように硬くしていき、これでワームのような存在も下から侵入してくることはそうそう無いだろう。

 だが念のためにと、滑り止めにざらつかせた竜水晶でコーティングしておいた。



「なんか墓地とは思えないほどきらびびやかな場所になって来たね」

「どうせ埋葬されるなら綺麗な所の方がいいんじゃないか?」

「まあね」



 そしてその広範囲に整地した埋葬地の中央まで歩いていき、人二人分くらいの凹みを地面に作っていく。

 その中へ竜郎は《無限アイテムフィールド》から出した、ベルケルプの遺体とルーシーの肉の泥が入った入れ物を入れて厳重に蓋をして施錠魔法で鍵をかけた。


 その上に竜水晶で作った墓石を乗せて、ベルケルプとルーシー・ターラントの名前と命日を刻み込み、これをもって二人の墓とした。



「いつかルシアンも、ここに連れてくる事になるかもしれないな」

「本人次第だけど、来たいって言うなら止める事もないしね」



 中位エルフであるワイズエルフは特に知能が高く、早熟の傾向があるらしい。

 なのでおそらく数年先には両親について尋ねてくる事だろう。

 その時に安心して墓参りできるようにと、竜郎は墓地として切り開いた場所を小さな教会ごと覆うように透明な空気が通るように穴をあけた箱型竜水晶を被せて、墓石のある場所には野生の魔物が直接来られない様に保護しておいた。

 もちろんキー太が出られるように扉も四方に付けてある。



「これだけ囲っちゃうなら墓守もいらなかったかもよ」

「まあ屋根に住みこまれても困るし、管理する存在がいた方がいいんじゃないか?」

「それもそっか。でも二人分のお墓にしては大きいね」

「あんまり考えたくはないが一度ある事は何とやらとも言うし、もしかしたら今後の俺達の人生で同じように無縁仏を預かる事が有るかもしれないだろ?

 そういう時の為にも場所を決めておきたかったんだよ」

「なるほどね。あっちこっちにお墓作っても何処に誰がって混乱しそうだし、一か所に決めておくのは確かにいいかも」

「だろ?」



 それから埋葬を完全に終えた二人は、最後にお墓に向かって手を合わせて黙祷を捧げる。

 そうして後はキー太に任せて、竜郎達は拠点へと帰還したのだった。




 墓地を作ってから2日が過ぎた。

 その間、レーラをお墓に連れて行ったり、テイムして管理を任せている魔物達と会ったりしながら過ごしていたのだが、どうやらまだリアの研究には時間がかかりそうという事で、それならララネストの販売第一弾を始めてみようかという話になった。


 ということでさっそく竜郎は愛衣を連れて、ハウル・ルイサーチ・カサピスティ王に会いに来た。

 いつものようにハウル王は自分の執務室で快く迎え入れてくれた。



「ほう。それじゃあ、いよいよ試しにララネストを数匹売りに出すというのだな?」

「ええ。反応も見たいですし、まずは普通のララネストを5匹くらいどうかなと思っています」

「5匹か……。1匹2億シス辺りで市場に売りに出したとしても、あっという間に売りきれそうだな」

「その値段でもですか?」

「とにかく出回らないくせに、とにかく美味いという事だけは美食家連中にも伝わっているからな。

 もしそれを聞きつけたのなら、そういった連中に売りつけようと商人なら借金してでも買いつけようとするだろう。確実に元は取れるのだから」

「うーん、状況を見て量を調節しながら定期的に卸していく予定なんですが、そういう情報が出回っても変わりませんかね?」

「変わらないだろうな。特にプライドの高い連中なんかは、いち早く手に入れて自慢したいだろうしな」



 確かにお金持ちで自己顕示欲の高い人間というものは存在する。

 そういった人間からしたら、希少価値が高い最初の数匹を手に入れて、誰よりも先に食べたというのが一種のステータスとなるのだろう。



「まあいいんですけどね。後は廉価版のブロイララネストや例の魔法に効果のあるララネストとかはどうしましょう」

「魔法の方はまだ大っぴらにしない方がいいと思うぞ。

 だが廉価版の方は少し多めに出して、広くララネストという存在を知らしめるというのは有りかもしれないな」

「それじゃあ、そういう方向で行きましょうか」



 純強化牧場産ララネストは魔法使いに強化効果を与えるという、とんでも食材なので保留。

 なので海の中につくった生簀で飼っている自然養殖ララネストを5匹、《急速成長》によって育成速度を上げたブロイララネストを15匹。

 受け渡しの時の状態によって査定し、額を決めて買い取ってくれるようだ。



「あと……これは良かったらなんだが、別途で私にも数匹売ってくれないか?」

「ええ、いいですよ」



 ということで市場に流す分以外で、ハウル用のララネストも用意してあげることにした。




 それから3日後の昼。竜郎たちの領地の入り口に、ハウルの肝いりの商人がやって来た。

 その商人はエルフの壮年の男性で、もう一人若い青年エルフを連れていた。

 名前はクレマン・レーヌとドニ・レーヌ。現当主と跡継ぎ息子らしく、昔からカサピスティ王家御用達の商店で信頼も厚いとハウルが言っていた人物である。


 そしてもう一人。何故かハウルはいないのに、その近衛騎士であるはずの人種の槍使いレスがついてきていた。



「最初ですので万全を期してと、陛下が我々の護衛にレス様を付けてくれたのですよ」

「そうなんですね」

「それで──そちらのお二方は一体どちら様でしょうか?」



 一方竜郎の方は愛衣と爺や、ウリエルが一緒に来ていた。

 爺やとウリエルは竜郎たちが忙しいときに、代わりに卸しをやって貰えるようにと商人との顔つなぎの意味もかねて連れてきていたのだ。


 竜郎と愛衣の情報は既に知っていたので問題なかったが、ハウル王からの情報に全く該当しない人物が──それも明らかに只者ではない雰囲気を持っている天魔だったので紹介してほしいようだ。



「ジーヤと申します」

「ウリエルと申します」



 二人が順番に自己紹介していると、護衛で着いてきていたはずのレスが呆けた顔でウリエルの方を見ていた。



「う、ウリエルさんと言うのか……」

「はい? なんでしょうか?」

「い、いいいいいえ。俺──いえ、私はレス・オロークと申します!

 歳は32歳で独身! 陛下の近衛騎士をしています! こう見えて高給取りです!」

「は、はあ……? よろしくお願いします?」



 爺やの方は一切みないで、赤いドレスに身を包んだ六翼天使のウリエルに向かっていらない情報まで含めて自己紹介していた。

 それに爺やは気にした様子も無く、むしろ好々爺の表情で「ふぉっふぉっふぉ、お若いですなあ」などと呟いて温かくレスを見守っていた。



(若いって爺やの方が年下だろうに)



 などという竜郎の心の突っ込みは届くことも無く、若干ウリエルに引かれる形でレスの紹介は幕を閉じた。

 まあようするに、レスはウリエルに一目惚れしてしまったようだ。


 だがその事にウリエル以外は気が付いたものの、それは当人同士の問題なので華麗にスルーして本日の目的に入っていく。



「僕らがいない時や手が離せないときは、この二人のどちらかが対応すると思います」

「ジーヤさんにウリエルさんですね。覚えておきます」



 商人との顔合わせも済ませたところで、竜水晶の冷凍倉庫に入れていたララネストを見てもらう。

 自然養殖産のララネスト5匹は全て最高品質であるとして、それぞれ1億8千万シスの値が付いた。

 さらにブロイララネストは事前に用意しておいたサンプルを試食してもらい、品質には全く問題はないという事で、こちらは8千万シスの値が付いた。



『ブロイララネストでも8千万って、凄いねえ』

『こっちは今後大量生産していく予定だから、今後もっと安くなっていくだろうけどな』



 二人で値段を聞きながら感心していると、商人の代表であるクレマンから買い取り表とコインが手渡された。

 買い取り表には竜郎がサインし、コインも確認してみれば査定額と同じ値段。

 後はハウル王に頼まれていた分の、別口のララネストの代金も貰って、別途出された買い取り表にサインをし、お金を受け取った。


 それから商人たちは連れてきていた男たちにララネストを素早く運ばせていき、数台の大きな冷蔵倉庫の荷馬車ならぬ荷魔車に積みこんでいく。

 全部を積み込み終わると、巨大な牛のようなテイムされた魔物がその荷魔車を引っ張っていくと門の外へと出て待機し始めた。



「では、これから我がレーヌ商店をよろしくお願いします」

「こちらこそ、長くお付き合いしていきましょう」



 最後に竜郎とクレマンが握手を交わした。

 それから商人二人は未だにチラチラとウリエルに視線を送っているレスの肩を叩き、王都に帰る旨を伝えた。



「も、もうか? 早いな……。では私もこれで失礼します! またお会いしましょう!」



 そのお会いしましょうが、ただ一人に向けられているであろう目線にウリエル以外が苦笑いしながら、商人たちを見送ったのであった。

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