第483話 名付け
ワルキューレと円卓の騎士の件も含めて、先ほどの魔神との会話を皆にも話した。
すると概ね好感触の様で、特にリアは複製ポイントが別口で稼げるようになるということに殊更反応を示していた。
「もしそうなれば素材使いたい放題じゃないですか! やりましたね、兄さん!」
「創造とか魔物の合成もやりやすくなるしな。
けど確定したわけじゃないから、まだ喜ぶのは早いぞリア」
「あ、そうでした。けどそんな事を聞いてしまうと期待してしまいますよ」
このメンバー内では竜郎とリアが一番その恩恵を受けるだけに、やはりどちらも気になってしょうがない様だ。
竜郎も落ち着いては見えるが、内心では「頼むぞ魔神!」と叫んでいるのだから。
そんな風に竜郎とリアが盛り上がっている中で、レーラとイシュタルは別の視点で語り合っていた。
「ワルキューレに円卓の騎士だったか。もしそれがタツロウの理想通りに形を成したのなら、それはもうなんか……アレだな」
「あら、イシュタルは反対なの?
私はむしろ見てみたいわ。そんな御伽噺のような騎士団を。ワクワクしちゃう」
「私とて別に反対はしないし見てみたいとも思うが、一体タツロウは何処に向かっているんだ?」
半神格者を複数主軸に据えた騎士団が男女別に二組織。さらに強力な従魔もそこに付けると言っている。
竜大陸だけはエーゲリアや神格持ちの竜の王たちなどもいるので、そんな騎士団が一斉に攻めてきても勝つことは可能だろう。
が、それは真竜や強力な竜を抱えているイフィゲニア帝国だからの話だ。
十分に騎士団としての練度を磨きレベルも上げていた場合、他の国々であったのなら間違いなく蹂躙されるだろう。
それも竜郎たちは動かずに騎士団だけでだ。
もちろん竜郎たちと一緒に過ごして、そんな事をするような者ではないと解っているので反対はしないが、何故そこまでの騎士団を持とうとしているのかが解らなかったのだ。
「なあ、タツロウ。タツロウは落ち着いたら商人のような事をするんだろ?
何故そこまでの騎士団を作ろうと思ったんだ? 国王にでもなりたいのか?」
「は? なぜに国王?」
「いや、普通に考えて騎士団が頂に掲げる者と言えば王だろう。
それにここは既に独立領のようになっているし、どこの商人が世界中の国々と全面戦争できる力を持った騎士団を保有しているというんだ」
「あーそう言う事か。でも国王になんてなるわけない。
絶対に面倒くさいだろ? 王様って」
「めんど──……確かに、国を運営するのは大変ではあるのだが……そんな理由か。
普通の人間なら、それだけの戦力を持ったら一度は考えそうなものだが」
「いや、顔も知らない人たちの面倒まで見きれないって」
「独裁者になればいいじゃないか。やりたい放題だぞ」
「それだって国家運営にノータッチとか有りえないだろ。
いや、そういう人もいるのかもしんないけど、俺は気になっちゃう性質だしなぁ。
だからムリムリ。俺は人並みに贅沢な暮らしはしたいとは思うが、地位や名誉が欲しいわけじゃない。
ただ愛衣と一緒に面白おかしく生きたいだけさ」
竜郎はいっさい嘘偽りなくそう言い切った。
その瞳に嘘の色が無い事はイシュタルにも伝わってきて、ため息を吐くしかない。
「ではそれこそ、そこまでの戦力はいらないじゃないか。のくせに、妥協するつもりはないんだろ?」
「当たり前だ。それに俺は戦力が欲しいというよりも、ワルキューレと円卓の騎士が欲しいんだ。
言ってみれば趣味の延長の様なものでしかない。イシュタルにだってわかるだろ?
どうせ作るなら最強の騎士団を作りたいじゃないか」
「…………確かに、それは解る気がするな」
「あら、そこで納得するのね」
イシュタルのように中二精神を持っているなら解ってくれるはずだと訴えかけると、あっさりと理解してくれた。
それにレーラは少しおかしそうに笑っていた。
イシュタルも別に反対したくて言っているわけでもなく、理由が知りたかっただけなので、そう言う事かと納得するとアッサリと引き下がった。
けれど今度は、竜郎達の会話が切れるのを見計らっていたウリエルが質問をしてきた。
「私はそのワルキューレという部隊に入って、主様をお守りすればよろしいのですか?」
「まあ将来的にはそうなれたらなとは思っている。だが本人の希望は聞くし、何より今は一人しか人員がいないから保留だな。
それにさっきも言った通り、まだ複製ポイントの話がどう転ぶか確定したわけでもないから」
「そうなのですね。では、私は何をすればいいのでしょうか?」
「うーん。当面は爺や──ジャンヌの眷属なんだが、その彼と共同で仕事をして欲しい。
具体的には俺達の後ろにあるカルディナ城の管理。それと赤ちゃんのお世話かな。
強制するつもりはないし、他に希望があるのなら出来るだけ聞き届けるつもりではいるが、どうだろうか?」
「今の私はまだまだ主様方の戦力になれるとは思えませんし、城の管理と赤子の世話をしながら己を鍛えたいと思います」
「そうか。ありがとう。後で爺やを紹介するな」
「はい。主様。……ところで赤子の世話は解ったのですが、その子のお名前は何というのでしょうか?」
「あ……」
そこでウリエル以外の全員がピタリと動きを止めた。
よくよく考えてみれば、赤ちゃん赤ちゃん言って名前の事などすっかり忘れていたのだ。
「それは──まだないな。どうしようか。
さすがに愛衣もよそ様の家の子に名前を付けるのは……なあ?」
「うん……私の才能を生かしたいのは山々なんだけど、さすがに関係性が薄すぎてねぇ……ちょっと気が引けるかも」
愛衣の才能の部分には誰も突っ込まず、各々難しい顔で考え込む。
もうあの子には血縁関係を持つ人間はいない。
この時代ならベルケルプも生きているだろうが、会いに行くとなると確実に狂いが生じて竜郎達の目指す道筋が崩れてしまうので当然却下。
だが名前を付けないわけにはいかないので、このメンバーで決めてしまうしかない。
となるとその候補は一人しかいないだろう。
「ということでレーラさん。頼んだよ!」
「まあ、そうなるわよね……」
愛衣が君しかいないと親指を立ててレーラを指名する。
唯一ベルケルプと一緒に過ごした期間があり、父親とは完全に同じ種族でもある。
この中では誰よりも関係性は深いだろう。といっても親族と呼べる程深いわけでもないのだが……。
「レーラ。とりあえず本人を見ながら考えたらどうだ?」
「それもそうね」
イシュタルの言に従い、竜郎達は砂をはたきながらカルディナ城に戻ってきた。
子パンダたちと豆太も、その後からついてくる。
赤ちゃんのいる部屋に行くと爺やが面倒を見ていたので、ウリエルとの顔合わせも済ませておいた。
「これからよろしくお願いしますわ、ジーヤ様」
「様など付けないでくださいませ。ウリエル様。存在としての格は貴女の方が上です」
「でも私もジャンヌ様が親の一人でもあります。そういう意味では貴方は私の兄のようなものでしょう? 格など関係ありません」
「しかし様は結構でございます。どうかジーヤとお呼びください」
「解りましたわ、ジーヤさん。お互い主の為に最善を尽くしましょう」
そこで二人は握手を交わした。
どうやら第一印象はお互いに悪くなく、これから上手くやっていけそうだと竜郎は思った。
そんな風に竜郎がそちらを見ている間に、レーラは未だカプセルで眠る赤ちゃんの顔を眺めていた。
「どお? 決められそ? アドバイスなら任せてね」
「え、ええ。その時はよろしくね、アイちゃん」
「まっかせて!」
何故そんなにも自信満々なのだろうかと思わなくもないが、そんな愛衣も大好きなので竜郎は彼女の頭を撫でた。
愛衣も嬉しそうに目を細めて竜郎に背中をもたれ掛けた。
「あいかわらずね」などと微笑ましそうにレーラは二人を見ながら呟くと、改めて赤子を見る。
まだ自我も無く、動き回りもしなかったので性別など気にしてこなかったが、名付けには重要だ。
レーラは赤ちゃんが男の子である事も加味しながら考えていく。
「そうね……確かこの子の母親の名前はルーシー・ターラントだったわね」
「確かそんな名前だったはずっす」
「となるとルーシー……るーしー……ルシル……これじゃあ女の子の名前ね。
……うーん、そうなると──そうね、ルシアンなんてどうかしら。
ベルケルプさんの証はエルフという種族に産まれた事で受け継がれたのだから、ルーシーさんは名前の方に証を──ってことで」
「それはいいですね。ならターラントという苗字もそのまま入れて、ルシアン・ターラント君ですね。この子は」
改めてルシアンを全員で見てみれば、なんだかその名前がとても似合っている気すらしてきた。
誰も異存はなく、赤ちゃんはルシアン・ターラントと言う名前に決まった。
「ルシアン君ですね。これから私とジーヤさんがお世話をします、よろしくお願いしますね」
「…………」
ニコリと男性ならば軽く悩殺しそうなほど美しい慈愛の笑顔でウリエルが赤子に微笑みかけるが、それを見ている男たち──竜郎は愛衣至上主義者ゆえ無反応、爺やはジャンヌ至上主義者ゆえ無反応、ルシアンは幼すぎて無反応だ。
かわりに愛衣やリアがほぅ……と、同性としての美しさに少し見惚れてしまっていたのは御愛嬌だろう。
「それじゃあ、今日は実験も終わりって事で良いかな。
俺も複製ポイント的にこれ以上は創造も控えておきたいし、マスコットモンスターたちと戯れながら破損の酷い魔物素材の復元でもするよ」
「私も見てるね。パンダちゃんともっと遊びたいし」
「わた──………………しは、研究に戻ります」
子パンダと研究、両方を天秤にかけた結果わずかに研究の方に傾いたようだ。
「いいんですの? リア」
「ええ、早く研究の続きをしたいですし、パンダちゃん達とはまた今度遊びます。またね~」
リアが手を振るとパンダたちは首を傾げたり、同じように手を振り返したり、見向きもしないでじゃれ合ったりと好き勝手にしていた。
だがその姿にまた癒されて、リアはニコニコしながら自分の作業場に戻っていった。
奈々も「行ってくるですの」と言ってその後を追っていった。
とそこで愛衣は先ほどリアがパンダちゃんと言っていた事を思い出し、この子達にも名前がいるじゃないかと言い出した。
確かに皆まとめてパンダちゃんでは味気ない。
ということで十匹すべて名前を付けていくことにした。
「パンダの名前と言えば二文字の言葉を繰り返す感じが鉄板だよな」
「だね! じゃあ、皆の名前からとって名前を付けちゃおうか。
この子はたつろーの『た』をとってタンタン! 愛衣の『あ』をとってアンアン!」
「タンタンはともかくアンアンて。女性ファッション誌みたいな名前だな……。
まあ別にいいっちゃあいいが」
「そうそう、気にしちゃダメだよ! 名付けには勢いも大事なんだから」
「勢いを付け過ぎな気もするが……」
竜郎がそう呟くが愛衣はどんどんと名前の候補を上げていく。
見分けがつかなくなるので、色違いのハンカチを用意して前足に巻きつけていく。
そうして出そろったのは竜郎から取ったタンタン、愛衣から取ったアンアン、カルディナから取ったカンカン、ジャンヌから取ったジンジン、奈々から取ったナンナン、リアから取ったリンリン、アテナから取ったテンテン、天照から取ったランラン、月読から取ったツンツン、レーラから取ったレンレン、イシュタルから取ったシンシン、彩──彩人と彩花から取ったヤンヤンの12候補。
だがパンダは十匹。2人自分からもじってくれない人間が出てくる。
だが全員こう思っていた。自分の名前から取った子が一人は欲しいと。
「誰かをハブってのも可哀そうだしな、もう2匹──いや、爺やとウリエルの分も合わせてもう4匹生んでおくか」
「そんなっ」「私は別によろしいのですよ?」
二人はすぐに遠慮する。確かに爺やはそれほどでもない様だが、それでもウリエルが少し羨ましそうにしていたのを竜郎は目ざとく見つけていた。
だがここで爺やを除くのも感じが悪いので、強制的に巻き込まれてもらう。
「いいんだよ。可愛い子が沢山いるのは悪い事じゃないんだから」
そう愛衣が強引に纏めて、先ほど消費しないようにと言ったばかりだが3複製ポイント消費して、ここに新たにジイジイ、ルンルンが加わったのであった。




