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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三編 神隠し

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第471話 贖罪の約束

 犯罪者達の技術力向上がベルケルプのせいだと判明した後は、犯行の細かい部分について語り始めた。



「理論が完成してから、それを実際に作り上げるとなると膨大な時間を要する事になる。

 完成させる間に私という存在を感づかれるわけにはいかなった。

 だからいなくなっても大して問題にならない数だけに留めて、人々を攫っていった」

「この国の人間に殺されたと言っていたが、一般人は関係なかったんじゃないか?

 ようはお偉いさんたちの抗争に巻き込まれたって事だろ?」

「私の家が襲撃されている時、周辺の家々はなにかが起こっている事は気が付いていたらしい。

 だがそいつらは何もせずに自分の家に引きこもっていたそうだ。

 私はこの世界の人々の為に何度となくその命を危険にさらしてきたというのに、どこかに通報するなり何なりもせずに、ただ関わりになりたくないからという理由で見殺しにしたんだぞ?

 そいつらも同罪だ」



 クリアエルフとは生まれた環境が違うというのもあるので、一概にそう言い切るのもどうかと思いはしたが、竜郎はそのまま話を聞くことにした。


 そうしてベルケルプはアドラリム国の首都マロンにいる人間を代償に、コアの実験をし、それと並行して場を整えて必要なものを作り上げていく。

 ついでに国力を落とすためにも犯罪組織を使って暗躍し、そのせいだけではないのだが、多くの国々に離反されて国自体が縮小していった。


 特にばれることなく、転移と解魔法による識別を混ぜた魔道具を作りだし、誰にも見られない様に少しずつ材料を得て、時に失敗を繰り返しながら準備は着実に進んでいた。

 けれど彼にもどうしようもない壁にぶち当たる。それは即ち時間である。



「思った以上に全ての準備を整えるのに時間を要してしまった。

 私に無限の時間があったのなら最後まで慎重に事を成していくことが出来たのだろうが、そうも言っていられず、足が付くことも覚悟で大規模に材料の収拾を行うことにした。

 そのせいで選定が甘くなって国民でもない人間も巻き込んでしまったのは、すまないとは思っている」

「だが材料に使ったのだろう?」

「もちろんだ。もう私には時間が無い。彼女の為だと割り切って殺した」

「ふんっ」



 イシュタルは気に入らないとばかりに鼻を鳴らした。

 だがベルケルプはもう止まれないのだ。自分の寿命が尽きる前に何としてでも妻を、我が子をこの世界に取り戻したかった。



「そして後一歩という所で君たちがやって来た。

 精鋭のゴーレム達からの映像で、私では勝てない事。セテプエンリティシェレーラがいる事を知った私は、搦め手で撃退する事に決めたんだ。

 まあ、そこの小さなお嬢さんに………………ん?」



 お嬢さんに見破られてしまったがね。と言おうとしてリアに目を向けた時、何か違和感を感じた。

 そして何かがおかしいと思った瞬間、リアだと思っていたものが幻術だと見破り、見覚えのある魔道具が下に転がっているのが見えた。



「何らかの幻術系スキルに、私の思考誘導の魔道具を組み合わせて、彼女がここにいるように思わせていたのか。

 それで、本物の彼女は何処に?」

「ここですよ。全部終わりました、兄さん」

「そうか、ありがとう。二人とも」

「どういたしましてですの」

「そちらの彼女もか……」



 リアと奈々が部屋の入り口から入って来た時、リアの横にいると思っていたアテナの幻想竜術で作られた奈々の幻も消えた。


 リアがこの部屋についてくることは当然だと思っていたベルケルプは、なんなく自分の作った魔道具を利用され、リアもそこにいるものだと思い込んでいた。

 けれど実際の彼女は、この部屋に来る前に竜郎に言われて、何か厄介な仕掛けが無いか部屋の外を奈々と共に探索して貰っていたのだ。

 この男なら、まだ奥の手を用意しているだろうからと。



「外に用意していた爆発の魔道具は、遠隔で起動できない様に処理してきました。

 だからもうそのスイッチを押しても、何も起きませんよ。

 他にも罠っぽいモノは片っ端から破壊しておきました」

「という事は……私の願いはすべて終わりという事か…………?」



 手に持っていたマッチの箱のようなスイッチを床に落とし、ベルケルプは呆然と膝をついて遺体の入ったカプセルにもたれ掛った。


 今ここで暴れても竜郎達を倒す事は出来ないし、今ここで逃げようとしても捕まるだけ。

 例え億が一逃げられたとしても、もう最初からやり直す時間も残されていない。


 もう二度と彼女が生きた姿を見る事は出来ないのだと諦めかけた時、思いがけない方向から手が差し伸べられた。



「いいえ。あなたには私たちの都合の為にも、彼女の復活を成してもらいます」



 そう口にしたのはリアだった。ベルケルプは何を言ったのか解らないとばかりに

、目を丸くしてリアを見つめた。



「……は? 今何と?」



 竜郎としても復活だけは手伝ってもいいと思ってはいたが、恐らくまだコアの材料は足りていないと先ほどの話で推測される。

 これ以上被害者を出すわけにはいかないので、諦めてもらうほかないとすら思っていた。

 けれどリアは、竜郎サイドの都合としても彼女の復活は必要だと言い出したのだ。


 ベルケルプではない他のメンバーも、訳が解らず固まっていた。



「ここに描かれた魔方陣を見た所、これならば確かに復活させることが出来ると確信しました。

 まあ厳密には生前の彼女の記憶を持った別人と言えなくもないですが」

「それは私自身解っている。それよりも、さっき復活を成してもらうと言っていたな?

 本当にこのまま続けてもいいのか?」

「そ、そうだよ! さすがに人殺しの加担は出来ないよ、リアちゃん!」

「いいえ、もうそんな事はさせませんよ、姉さん。

 今ある分はしょうがないので一度だけ使わせてもらう事にしますが、足りない分は私の魔力頭脳を提供し演算装置を完成させます」

「魔力頭脳? なんだそれは?」



 何やら自分の知らない単語にベルケルプが怪訝な顔をしているが、当人を置いてきぼりにして話が進んでいく。



「だがリアよ。何故私たちにとってもそうする必要があるのだ?」

「それはですね、イシュタルさん。この復活の魔方陣を起動する事で、ここに世界力が一瞬にして集まるからです。

 おそらく今回の私たちが処理する必要があった世界力溜まりは、その時に集まった余剰分の世界力なのだと思います。

 それ以外にそれらしいものも兆候も見当たりませんでしたし。

 むしろここいらはあの魔法液生成装置のおかげで、もの凄く安定しているので、そのくらい大きなことをしないと出来ないでしょうし」

「という事は、まだ私たちの探している世界力溜まりは何処にもなかった。

 彼が復活の魔方陣を起動する事で、初めてそれが出来るという事だったのね」



 この復活の魔方陣は、部屋の中を大量の世界力で満たす必要があった。

 そうして世界力に満ちた特殊な環境を作って、初めて魂を錬成することが出来る。

 あとはそれに対象者の記憶を焼き付け移植、という過程である程度までは世界力も消費されるが、それでも余剰分がたっぷりと余ってしまうのだ。

 そうして残された世界力が、今回竜郎達が探していた世界力溜まりとなり、それを《レベルイーター》で調整すればこの世界でのミッションも達成できるという事だ。


 そしてこれ以上犠牲を出さない方法で、それを成すにはリアが手伝うしかない。



「ではまず演算装置のある場所を見せてください。私の魔力頭脳と連結して能力を底上げします」

「え? は? 一体どういう……」

「いいから彼女を信じてあげて、ベルケルプさん。

 私たちもどうやらこの魔方陣を起動する必要があるみたいだから、手伝うと言っているのよ」

「…………解った。こっちだ、付いて来てくれ」



 良くは解らないが、この状況でベルケルプを騙しても意味が無い。

 生殺与奪は既に竜郎達が握っているのに、これ以上何かをする必要もない。

 そんな考えに至った彼は顔を上げ、よろめきながら老体に鞭打ち立ち上がると、魔方陣の部屋からさらに奥へと続く通路に足を踏み入れた。



「これがあなたの演算装置ですか……。胸糞悪いですが、その技術力には感心せざるをえませんね」



 奥にあったのは、無数のコアが水溶液の詰まったガラスケースに入れられて、その全てがコードで繋がれ一つの巨大な箱型魔道具に接続されていた。

 またその魔道具から出たコードは地下へと潜り、隣の部屋の魔方陣へと接続されていた。



「そうかい。それでこれからどうする気だい?」

「これをコアの代わりに接続してください。

 あなたの脳を使ったものよりも思考の柔軟性は劣りますが、ずっと演算能力に長けていますから、数もそれほど必要ないはずです」

「なにっ!? 貸してくれ」



 リアが《アイテムボックス》から取り出した、起動した状態の魔力頭脳を受け取ると、何か別の魔道具を取り出して接続し、その性能のチェックを始めた。



「あ、有りえない……。これは本当に人の脳を使っていないのか?」

「ええもちろんです。全て無機物から作る事が可能ですから。

 その代りエネルギーを別で用意する必要がありますが」

「そうか、ここに帰還石を……それでここは……なるほど、こんな方法があったなんて…………」

「いや、早くしてくださいよ……」



 始終驚きながら解魔法で解析し始めたベルケルプを何とか正気に戻させ、作業を始めさせる。

 一度作業に入ってしまえば早いもので、魔力頭脳とコアの違いを互いにすぐに理解し、あっという間に足りない分を全て設置し終えてしまった。


 今までの自分の苦労は何だったのかと言う程のショートカットに、ただただベルケルプは呆然としていた。

 けれど直ぐにこれで彼女を復活させられるのだと、前向きにとらえ最終チェックをしていく。


 リアの《万象解識眼》と超ド級の天才技術者という最高の二重チェックを済ませると、いよいよ彼女が眠るカプセルの間へと戻ってきた。



「いよいよだ……。やっと彼女に会えるんだ……」

「最初に言っておくが、彼女の復活は手伝ったが、あなたの罪を許す気はない。

 これが終わったら、しかるべき場所で罪を告白し償って貰うというのを約束してほしい。

 もしそれを約束してくれるのなら、彼女──ルーシーさんとの別れの時間ぐらいはちゃんと設けるし、あなたの罪でルーシーさんやその子供に一切の類が及ばないように俺達が守ると保証する」



 これはリアが奈々と一緒にベルケルプの作業を手伝っている際に、他の皆で話し合って決めた事だった。

 このまま彼が罪を告白すれば、この国の国民すべてを敵に回すだろう。

 もしかしたら国は公表しないかもしれないし、元クリアエルフであり何万年も世界中の人間を守護してきたという功績や、事件に至るまでの事情を加味した情状酌量から減刑もあるかもしれない。


 だがもし彼が大犯罪者として知れ渡った時、恐らくその遺族にも怒りが向くだろう。

 それだけは守ってあげたいと、レーラが強く主張したのだ。

 竜郎達も本人が罪を償うのなら、それでいいだろうと納得し、ルーシーと子の保護を買って出る事にしたのだ。

 普通に考えて減刑が無ければ処刑は免れないだろうし、そうなればいっそのこと竜郎達の時代にルーシー達を連れていって生活を保障するという最終手段もあるのだから。



「君たちなら、他の誰よりも信用できる。

 ……タツロウ君、約束しよう。私は彼女たちを取り戻した後は、絶対に逃げることなく罪を告白し、どんな罰をも受けると。

 だからどうか、どうか残された彼女たちだけは守ってほしいっ。この通りだ」



 涙を流しながら額を地面につけ、頭を下げるベルケルプ。

 誰の目にもこれが演技だなんて思えないし、その言葉に嘘が混じっているとも思えなかった。



「その言葉、信じます。一度守ると約束したからには、誰にもルーシーさんを、そしていずれ産まれて来るであろうお子さんを傷つけさせません。

 それだけは俺達も絶対に守って見せます」



 真摯な言葉に真摯に竜郎は返答し、ここに約束が結ばれた。

 となれば後は彼女をこの世に甦らせるだけ。


 さっそく魔法陣の起動準備に取り掛かる。

 といっても後は魔方陣の中央でベルケルプが魔力を流し込み、起動の魔法式を一文字付け足せば後は勝手に演算装置が仕事をし、大量の世界力を使って事はなされるだろう。


 竜郎達は通路に出て見守り、リアはベルケルプと最終チェックをしていく。



「ではいくぞ。リア君。問題はないかい?」

「はい。ここまでに全てをチェックしましたし、この魔方陣のどこにも乱れも欠けも見られません。

 大丈夫です。あなたの理論は完璧です」

「ならば後は起動するだけか──」



 リアも竜郎達の方へと戻ってきて、同じく通路からベルケルプの動向を見守る。

 もしここで変な事を起こしようものなら、いつでも攻撃できるようにもしておく。


 そんな事は百も承知なのでベルケルプも妙な気を起こす気はない。

 カプセルの置かれた中央に静かに立つと、ルーシーの顔を愛おしそうに見つめた。

 それからその場にしゃがみ込むと、鍛冶術の魔道具を手に持ちながら魔力を流し、最後の起動キーとなる文字を書き入れたのであった。

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