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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三編 神隠し

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第467話 奥までの道すがら

 なかなか興味深い魔道具を観察し終わった竜郎達は、「サンプルとして少し持っていこう」という竜郎の意見により、魔法液を風呂桶一杯分ほど拝借した。

 一般的にそれは少しではないのだが……かなり大きな貯水槽なので、それでも少しという範囲内には収まるだろう。


 それから素知らぬ顔で奥へと進むべく、来た道とは反対方向にある通路へと足を踏み入れた。

 そこからはまたさらに下へ行く事になる様で、高さ20メートルほどの螺旋階段が地下へと向かって伸びていた。



「いったいどんだけデカい施設なんだよ」

「これを一から作ったとしたら、そーとー苦労してそうだね」



 なんて事を竜郎と愛衣は話しながら、出来るだけ足音は立てない様に、けれど歩みを遅くしない様にスタスタと降りて行った。


 降りた先にはまた一本の、やや下り坂になっている通路。

 そこを歩いていると、ガシャンガシャンと重そうな何かが歩き回るような音が複数体分聞こえてきた。


 声を上げずに全員目を見合わせて頷きあうと、ゆっくりと次の部屋の中を覗き見た。



『畑に水場に倉庫らしき箱が複数個。食料の生成と保管をする場所になっているのかもしれないな』

『しかも全部その管理をゴーレムがやってるっぽいね』



 竜郎と愛衣が念話で話しながら送った視線の先には、疑似太陽光を放つ複数のライトに照らされた大きな畑。

 そしてこちらは本物の水を出す魔道具と繋がった貯水槽。

 二メートルほどの大きさのゴーレム達が貯水槽から水を掬い、丁寧に水を与え、樹魔法の魔道具で土に栄養を与えていた。

 さらに燃料を補給しているのか、壁に張り巡らされた魔法液が流れる管が繋がった、ガソリンスタンドにある給油機の様な物を、自分で差し込んでいるゴーレムもいた。



「ここのエネルギーも、全て上の魔法液生成魔道具で賄われている様ですね」

「だろうな。これだけの物を四六時中維持しようとすると、我々の常識だとかなりの費用がかかって逆に効率が悪いはずだ。

 こうやって改めてあの装置の恩恵を目にすると、私の国にも欲しくなってきたよ」



 イシュタルはもはや感心を通り越し、呆れすら孕んだ声色でそんな事を言っていた。

 それにリアが苦笑していると、アテナが話を進めてきた。



「それで、どうするっすか? あれも壊して進んだ方がいいっすよね?」

「戦闘能力はおおよそ1体辺りレベル20~30位と大したことは無いですけど、念のため無力化しておいた方が良さそうですね」



 まだ先に何があるか解らないので、出来るだけやれることはやっておきたい。

 そんな考えから直ぐに行動を開始し、全てのゴーレムを無効化してコアを取り出した。



「やはりこれもですか……。けれど作りは荒いですし、コアのエネルギー循環もまだ未熟……。

 恐らくこれは試作品、または旧型のコアを流用して作った物でしょうね」

「ということは、当然それも人の脳を使ったコアという事で良いのよね?」

「はい。間違いありません」



 リアはゴーレムの時と同じように旧型コアを並べると、金槌で叩いて割っていった。

 するとやはりこちらからも、中からどろりとした赤い液体が零れだした。


 それからざっと周囲の施設を見て回っていく。



「ここは冷蔵倉庫か。そこで採れた野菜なんかを入れておくみたいだな」

「こっちには魔物の肉が入れてあるですのー」

「これは冷凍庫のようだな」



 竜郎、奈々、イシュタルが大きな倉庫らしき箱を物色していると、やはり食料の類が保存されていた。

 念のために食品などはサンプルをいくつか貰っていき、ゴーレム以外は元通りにしてから次の通路へと進んでいった。


 次の通路も緩やかな下り坂。

 出来るだけ気配を消しながら歩いていくと、これまでと違い煌々と明かりに照らされた部屋が見えてきた。

 だがもう一つ、警戒していた精霊眼持ちの面々やリアが足を止めた。



「どーしたの?」

「あそこの部屋の入口。肉眼では何も無いように見えるかもしれないが、強力な結界が張られている」

「それは破れないの?」

「私たちなら破る事は簡単でしょうが、完全に侵入がばれると思います。

 それに結界に対して何らかの接触があれば、すぐにあの奥にいるゴーレム達が動き始める様です」



 愛衣は《遠見》を使って、入り口からさらに奥にいる存在をまじまじと見ていく。


 まず一番手前にいるのは130センチほどの大きさで、人体模型のように人工的に作られた筋肉剥き出しのゴーレム。

 背中にはこれまた骨と皮で作ったような小さな羽をはやし、右手にレイピア、左手に小さな丸い盾を持っていた。

 見た目や装備からして、近接速度重視型と判断。


 次に見たのは3メートルほどの金属人形が一体。

 まさにゴーレム然とした存在で、右手には巨大な包丁のような剣、左手には巨大な円錐形の槍を持っていた。

 それらの情報から、近接火力型と判断。


 さらにその奥には1メートルほどのピラミッドのような三角錐の中央に、カメラのレンズを取り付けたようなゴーレムが5体。

 見た目だけでは何か解らないが、リアが言うには遠距離高威力魔法型のゴーレムとの事。


 そして最後に見えたのは、2メートルの球体のゴーレムが一体。

 これも中央にはカメラのレンズの様な物が、目玉の様についていた。



「その丸いのが結界を張っているみたいだな」

「ですね。あれは攻撃ではなく防御を主体に置いたゴーレムの様です。

 最初にアレを破壊できれば、向こうの守りの手段を大幅に削る事が出来そうですね」

「ならあの丸ゴを先にやっちゃえばいいんだね」

「丸ゴ? 丸いゴーレムで丸ゴか。とするとあの三角の奴は?」

「トンガリ1、2、3、4、5。そんでもって小柄な方はチビ。大柄の方はデカでいいんじゃない?」

「まあ、それでいいが、どうだリア。あいつらの性能の方は」



 遠見メガネで情報収集しているリアに竜郎が問いかけると、しばらくしてからこちらへ振り返った。



「チビとデカ。丸ゴは総じてレベル180~190相当だと思っていいです。

 そして後ろで横一列に並んでいるトンガリ達は、レベル120相当の人間が全力で放てる魔法攻撃を仕掛けてくるかと」

「随分とレベルが高いゴーレムですの。

 とすると、あれらがこの施設の最終防衛ラインと考えて良さそうですの」

「確定ではないが、その可能性は高そうではあるな」



 イシュタルが顎に手を当てながら、観察しそう言った。



「だが俺的には美味しくない敵だな。《レベルイーター》も使えないし」

「そっか。魔道具の一種だから、レベルなんてないしね」

「それにあれを何体倒したところで、こちらのレベルは上がらないから、そう言う意味では不味い獲物と言ってもいいわね」



 壊したところでそれは所詮道具でしかない。

 竜郎達の実益には繋がりにくくはある。

 だがここ以外に道はないし、引き返す気も無いので戦うしかない。



「じゃあ俺がまず丸ゴを転移レーザーで焼き払うから、結界が解けた瞬間、皆で突入。

 後ろのトンガリ達と、チビデカと戦うって形で戦力を二分すればいいか?」

「えっと……それは少し難しいかもしれませんよ、兄さん?」

「何がだ?」

「私が観た所、あの結界の中には転移系統のスキルを妨害する魔道具が複数個、床、天井、壁に埋まっている様です。

 完全に発動を止める事は出来ない様ですが、あれでも転移位置をランダムでずらすことぐらいは出来るでしょうね」

「厄介だな。だとするともう正面突破で結界をぶち抜いて、堂々と乗り込んでいった方が速いかもしれないな。

 カルディナの話だと、もう部屋の数もほとんど残ってない様だし」

「ピィピィュー」



 カルディナがウンウンと、竜郎の言葉に肯定の意を示した。

 実際に外からたどった情報によれば、この部屋を入れてあと3部屋もあればいい方だろう。



「ですがもし転移魔法の魔道具を所有しているとしたら、首謀者が危険を察知して逃げてしまいそうですの」

「それはそれで後味悪いけどさ。最低でもこの施設内に有るかもしれない世界力溜まりさえどうにか出来ればいいんだし、全部片付けた後にここを施設ごと破壊しちゃえば、そうそう再起できるようにはならないんじゃない?」

「まあ、これほどの施設を作り上げるとしたら、時間も資源も資金も莫大な量になるだろうしな」



 イシュタルはここまで大がかりな施設をもう一度、別の都市の地下に作りあげるとした場合の概算を頭の算盤で弾きながら苦い顔をした。



「世界力溜まりなんて持ち運べるようなものでもないし、最悪施設を跡形も無く破壊すればいいって事だな。

 なら正面突破ってことでいいか?」



 竜郎は全員を見渡すが反対意見は無い様子。



「それじゃあ彩花と彩人はフォローを頼む。あんまり前に来ちゃだめだからな?」

「「はーい」」



 素直に返事をしてきた二人の頭を撫で、それを見た愛衣も頭を突き出してきたのでそちらも撫でてから、竜郎は天照の入ったライフル杖の先端を丸ゴに向ける。

 もう隠密行動は終わりだとばかりに盛大に杖に魔力を込めると、竜郎は丸ゴめがけて結界ごと消し去ってやると言わんばかりの超火力レーザーを射出した。


 さすがにそれだけの魔力反応があれば向こうも気が付いたが、行動に移す前に入り口の結界は消滅。

 そのまま丸ゴに向かって灼熱のレーザー光線が飛んで行く。



「「「「「「────」」」」」」

「「──────」」

「ちっ、避けられたか。全員突入!」



 レーザーは丸ゴに当たる前にトンガリ隊の火、雷、水、土、氷の魔法で威力を削られたうえで、丸ゴ自身も何重にも重ねた結界を展開。

 そうして威力と速度を落としている間に床を滑るように転がって、射線上から退避した。


 だがそれならそれでいいとばかりに、竜郎達は一斉に部屋の中へと突入。

 その時にはもう、チビとデカが入り口付近まで迫ってきており、チビはレイピアで鋭い突きを、デカはやや遅れて包丁のような巨大剣を横薙ぎに振り払った。



「はあっ!」「てりゃあ!」



 けれどチビのレイピアはイシュタルの短杖の先から出た細い槍で弾かれて、デカの剣の横薙ぎは愛衣の竜纏の蹴りで木っ端みじんに砕かれた。

 そのまま二人は追撃を加えようとしたところで、丸ゴによる結界が何重にも張り巡らされてロスが生じる。

 チビデカコンビはその一瞬の隙をついて、バックステップで距離を取った。



「そっちは任せた!」

「あいあい!」「任せておけ」

「ヒヒーーン!」「はいっすー!」



 チビデカ二体の相手は愛衣とイシュタル、そしてジャンヌとアテナに任せ、竜郎は天照月読と共に一番邪魔な防御特化型の丸ゴに向かう。

 残りの五体のトンガリ達は、カルディナ、奈々、虎型の機体に乗ったリア、レーラが相手をしに行ったので、飛んでくる魔法攻撃は全てその四人が防いでくれるだろう。


 竜郎はそれを横目に、目に鬼武者幽霊──武蔵の《瞬動》を強めに発動。

 さらに磁力で体を浮かせ自重は重くし、重力の向きを前に変更。

 落下するように前に突き進みながら、構えたライフル杖には天照と月読による巨大な燃え盛る水晶の槍が纏われていた。



「はああっ!」

「──────!!」



 丸ゴは左右に動きながら結界を多重にはり、竜郎の進行方向から逃れようと奮起する。

 だが結界はライフル杖に纏われた大水晶炎槍に紙のように貫かれ、丸ゴの移動には竜郎は《瞬動》の目で対応しながら重力の向きを調整。


 ゴスンッ。そんな鈍い金属を上げながら、丸ゴの体──球体の中央に深々と燃え盛る水晶の大槍が突き刺さった。


 コアを完全に貫かれたのか血のように赤黒い液体が、穿たれた大穴から溢れ出し、丸ゴは完全に機能を停止させた。


 そして丸ゴがいなくなったという事は、もう結界を張る相手はいなくなったという事だ。



「りゃああ!」「ヒヒーーン!」



 デカの大剣は愛衣に粉砕されたので、大槍一本で愛衣とジャンヌを結界の支援を受けて何とか対応していたのだが、それが無くなった今、愛衣の宝石剣で横半分に切り裂かれ、ジャンヌのハルバートにより上から叩き潰され、コアの中の赤黒い液体を飛び散らせた。



「こちらも終わりだ!」「壊れろっす!」



 チビはその機動性で逃げ回り、ラウンドシールドによって攻撃を逸らし、丸ゴの結界支援で何とか致命傷は逃れていたが、やはりこちらも支援が受けられなくなった瞬間に勝負が付いた。

 イシュタルに頭、胸、腹へとフォークのような形に姿を変えた銀砂の槍で貫かれ、挙動が止まったその一瞬の間に回り込まれたアテナの大鎌が、下から掬い上げるように股から頭にかけて切り裂かれ赤黒い液体が残骸を染めていた。


 他、魔法特化型のトンガリ五体も似たようなもので、カルディナ達によって蹂躙されて赤黒い液体で床を染め上げていた。



「これで終わりみたいだな。残骸の回収は後にして直ぐに奥へ向かおう!

 今ならまだ首謀者を捕まえられるかもしれない!」



 これだけ派手に暴れたのだから、この奥の通路の向こう側にいるであろう何者かも、こちらに気が付いただろう。

 だが急いでいけば転移魔道具があったとしても、ここから逃げられる前に捕まえられるかもしれない。

 竜郎達はゴーレムの残骸は一先ず床に放置したまま、急いで最深部へと向かって走りだしたのであった。

次回、第468話は4月25日(水)更新です。

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