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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三編 神隠し

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第463話 打ち合わせ会議

 それはいつから始まったのか定かではない。

 だが確実にこの国で原因不明な、それこそ神隠しとしか言いようのない事件が起こっているという事を政府の歴代首脳陣は把握しているし、政権を渡す前の時代からあったことなので歴代皇帝達も気が付いてはいた。


 けれど原因が不明なので予防策も打ち立てられず、また場所は首都マロンに限定されている。

 被害者の数も数字の上では大したことは無く、年間2~3人の失踪者に目を瞑っていれば、特にアドラリムという国家が、マロンという首都が揺らぐことも無かった。


 だが国民に知られれば問題になる事は必至。

 国はその事を忌避して、出来るだけ表ざたにならない様にこれまで尽力してきた。

 けれど時代が進むごとに一強状態だったアドラリムという国家は国力を落としていき、皇帝の権力もそれにつれて収縮していった。

 その結果、他の統治していた国の王たちに何となく悟られ気味悪がられ、自国で同じような事が起きてはたまらないと独立されていき、今では過去の大帝国も夢の跡。


 それでも国家としてやっていく分には問題なく、これからもアドラリムという国は無くなることは無いと思っていた──のだが、最近はそうも言っていられなくなっていた。



「最近……増えているんです……謎の失踪者の数が……」

「増えている? 具体的にはどれくらいでしょうか?」

「神隠しと言う事象自体は数千年前から起きていたそうですが、今の今まで2~3人が精々で、多い年でも5人を超えたことはありませんでした。

 ですが今年に入ってから先月までに、18人の原因不明の失踪者が出ています」

「18人……」



 首都の人口だけで考えれば、18人など吹けば飛ぶような数字でしかない。

 だがこれまでの事を思えば、神隠しなどと呼ばれるほどの不気味な失踪事件が6倍に跳ね上がっているのだ。

 それはもう見て見ぬ振りをしていていい状況ではなくなってきている。



「エタン。彼らに失踪者のリストを」

「はい」

「それとラモス首相にも連絡を。こちらに来てもらいなさい」

「承りました」



 皇帝フィオンの命に従い、秘書のエルフ、エタンが退室して行った。

 それから数分もすると秘書エタンが紙束を持って戻ってきた。



「こちらが判明している限りの失踪者のリストです。そしてこれが、今年に入ってからだけのリストです」

「ありがとうございます」



 竜郎はそれを受け取ると、机に広げて皆にも見えるようにしてから読みはじめた。



(年齢、性別、職種、種族……共通点がまるでない?

 いや、でも出身地はこの国に限定されている……はずだったのに、今年に入って観光客も2人被害に遭っているな)



 男女問わず、年齢も下は人種の2歳から上は妖精種の1723歳まで。

 今年に入るまではこの国の出身であり、なおかつ首都マロンに住んでいる住民に限定されていたのだが、最近になってその共通点も揺らいでいるようだ。


 一月、2名。二月、1名。三月、4名。四月、2名。五月、0名。六月、3名。七月、2名。八月、4名。


 そして今月に入って既に2名が、そうでないかという候補に挙がっていた。

 その二人も神隠し事件の被害者だとすると、九か月の間に合計20名の失踪者が出た事になる。

 また候補の候補も含めると、さらにその数は膨れ上がっていた。

 ここまで来ると情報規制も難しく、耳ざとい商人や冒険者たちは既に気付き始め、国から出て行くものも出始めているとか。



「これだけの人間が何の手がかりも無く消えるなど有りえない──とは思うのだが、本当に何が何だか解らないのです……」



 皇帝フィオンは最初に出会った時は平常なフリをしていたのか、今の彼は随分と疲れた顔をして項垂うなだれていた。



『なんか顔は若いままだけど、一回り老けて見えるね』

『無理もないさ。今まで何代もの皇帝たちが無視してきた問題が、一気に自分に圧し掛かって来たんだから、その重圧も相当だろうさ』



 今は政治的権力はほとんどないと言っても、それでも彼はこの国の皇帝なのだ。無関係ではいられまい。


 竜郎達がざっと資料に目を通し、消失の状況などの検分に入っていると、頭の上にウサギの耳が生えた、50代後半の渋い男性が何人かお付の人を連れて入ってきた。



『ぶふっ──』

『こらっ。絶対に口に出して笑うなよ! 多分あの人がラモス首相だ』

『でもでも、おじさんの頭にウサギ耳って~~!』



 そんな状況ではないし、顔を見て笑うのは失礼なのは承知しているからか、愛衣は念話の中だけで笑いの衝動を吐露していた。

 普通のおじさんならいざ知らず、爺やのようなロマンスグレー漂うおじ様といった風貌の男性にバニーガールのようなウサギ耳。

 竜郎も一瞬見た時に吹き出しそうになったのだが、こちらの世界では普通の事なのか、リアやレーラ、イシュタルたちは平然としていた。



「初めまして。私が現在この国の総理大臣を任されている、パンチョ・ラモスです。

 あなたが、かの有名な食の革命児にして最高ランク冒険者の一人、タツロウ殿ですね。以後お見知りおきを」

「竜郎波佐見です。よろしくお願いします」



 それからひとしきり顔合わせの挨拶を全員と交わしたが、獣人の彼やそのお付の人達は、レーラがクリアエルフだとは気が付いていない様だった。

 やはり高位のエルフ種が特別なのだろう。



(こりゃカサピスティの王様でもあるハウルさんには、レーラさんの姿を見せない方がいいかもな)



 彼も高位のエルフ種の一角、ニンフエルフという種族だ。

 目の前の同格のエルフが気が付いているので、彼が気が付かないと言う道理はないだろう。


 そんな事を竜郎は密かに考えつつも、改めて今回の件について大々的な調査の許可を貰うべく、首相を交えて話をした。



「話は解りました。我々の方も、何とかしなくては思っていた所なので正直助かります。

 何せあのタツロウ殿とアイ殿や、そのパーティの皆様が総出で解決に乗り出してくれるなど、普通なら有りえない事ですからね」



 ラモス首相のその言いように、なんだかこの時代の竜郎達の扱いがもの凄い事になっているなと気にはなるが、それでも事はスムーズに運んでいくので文句はなかった。

 そしてアドラリム国側としても、神の関係者以上に実力も人柄も信用できる存在など他にはないので、ここで何としてでも協力を取り付けたかった。


 そんな両者の思いがガッチリと結びついたおかげで、本来ならそうそうおりることは無い、首都全域に解魔法を行使すると言う無茶な願いも直ぐに聞き入れてくれた。

 これだけの人口の都市ならば、自分の周囲に解魔法を使われると気が付く者も多いだろうに。



「さて陛下、国民にはなんと説明すれば?

 中には魔力に敏感な者もいるでしょうし、何も言わずにとなると騒ぎになりそうですが」

「かと言って正直に話しても騒ぎになりそうですしねぇ。はてさて」



 首相と皇帝がああでもない、こうでもないと話している所に、皇帝フィオンの秘書エタンが横から口を挟んできた。



「では近々行われる予定だった魔道具のインフラ点検にかこつけて、大々的に解魔法を使うと周知させればいいのではないでしょうか?」

「ふむ……。実際に工員に作業もさせれば違和感はなさそうですね。タツロウ殿、それでどうでしょう?」

「こちらとしては、それでもかまいません」



 何が関係しているのかも解っていない状況なので、悪戯に周知させて普段と全く違う状況を作ってしまうのは不味いかもしれない。

 そんな考えから、竜郎たちも国民には説明しないと言う方を支持した。


 話は互いの利益が噛み合っているおかげで、思った以上にスムーズに進んでいく。

 まず竜郎達が調査を開始するのは、明日一日置いた9/10。

 一日置くのは今日と明日で工員の確保と、国民へのインフラメンテナンスの通知のため。


 ただ住民からしたらいきなりすぎると思うので、何かしらおかしなことが起こっていると察する者も出てくるだろうが、そこは仕方がない。

 いつ何が起こるか解らない状況で、のんびり準備や手回しをしている暇などないのだ。

 そして竜郎達も出来るだけ速やかに解決し、自分たちの為にも、まだ見ぬ未来の被害者候補たちの為にも、さっさと終わらせておきたい。


 それから細かい注意事項を詰めていき、竜郎達はここ皇居の屋上から解魔法を行使する事になったので、10日の午前9時に再び訪問することが決まった。



「では、そのように。ラモス首相、手回しの方、よろしくお願いしますね」

「承りました。しかしこれで何とかなるかもしれませんな、陛下」

「ですね。本当にタツロウ殿たち来てくれなかったらどうなっていたことか……」

「まだ解決したわけでもないのに、気が早いですよ。僕らだって何でもできると言うわけではないんですから」



 竜郎達とて神ではないのだ。何でもかんでもやる前から出来るなどと安請け合いは出来ないので、慌てて否定するも、皇帝フィオンは心が決まったのか、もう悲壮感はなく笑みを浮かべた。



「はははっ、ご謙遜を。それにもし、あなた方でも無理なようなら、それはもう誰がやっても同じこと。

 そうなったら私は出来るだけ国民を守り、国と共に散りましょう」

「私もお供しますぞ、陛下」

「私もです!」



 ラムス首相や秘書のエタンも、皇帝フィオンの言葉にうなずいた。

 その目を見る限り冗談とも思えないので、本当に竜郎達が対処できずに国が崩壊するような危機が起きたのなら、有言実行する気なのだろう。



『重たい……重たいぞ……皇帝さんよぉ……』

『信頼してくれるのは嬉しいけど、期待値が高すぎるってのも問題だあね』



 何やら皇帝や首相たちの陣営が盛り上がっていく中、竜郎と愛衣は少しばかり憂鬱な気持ちにさせられたのだった。


 それから皇居を後にした竜郎達は、一先ず今後の行動について決まったので、軽くこの国を見回りがてら、未来の百貨店へと向かう。

 せっかくなのでとヴェイクル(こちらの世界のバスのような物)の停留所を発見したので、ものは試しだと乗り込んだ。



「吃驚するほど静かだし、揺れも無いね」

「ああ。音が無いから交通事故とか起こりそうだけど、これだけ振動も無く進めるのは凄いと思う」

「いえ、兄さん。この魔道具には解魔法による簡単な探査魔法を周囲に使っているので、もし進行方向に人や障害物が現れたら自動停止するようになっているので安心してください」

「まじか……。通信機能はまだ地球が勝っているが、車──と言っていいのか解らないが、そっちの性能は負けてるかもな」

「自動停止システム?だったかも、ちらほら出だしてはいたけど、多分こっちの方が高性能っぽいしね。

 ああでも、自動運転とかが本格化しだしたら、また変わってきそうだけどね」

「そっちの世界もやっぱり面白そうね」



 などとコソコソ話している間に百貨店の前の停留所に着いたので、一人400シスを支払って降りた。


 それから竜郎達はおのおの好きな所へ買い物に行き、本や魔道具や服、未来ならでは新素材なども見たりして買い物を楽しみ、その日は宿へと帰った。

 その帰り道、竜郎達は路上を数センチだけ浮いて進めるようになる靴──というより、靴に取り付けられる靴底魔道具を購入し装着した。



「走った方が速いっすけど、特にバランスを取る必要もないっすから、楽っちゃあ楽っすね~」

「それにちょっとスケートみたいで面白いですの」

「「おもしろーい」」

「キャンキャン」



 アテナやリア、そして豆太を抱いて移動する彩人や彩花もお気に召したようだ。



「なあリア。これを俺達の拠点でも出来る様にすることは可能か?」

「ふふのふ。もう既に解析済みですから、素材さえ集められれば再現は可能です」



 リアは不敵にニヤリと笑って、竜郎にサムズアップしてきた。



「ほんとに!? ああ、でもでも素材が特別なものだったら難しいのかな?」

「いいえ姉さん。素材は現代では見たことも無い金属でしたが、調べた所、私たちの時代でも収集可能な金属や素材の合金でしたので問題ありません。

 ただ物価的価値が違うのか、向こうで買うと大分お高くつくので、集めるのならこちらの時代で収集した方が安上がりです」

「なんだかリアがあくどい顔をしていますの……」

「あくどいとはなんですか! 倹約といって下さい、ナナ!」



 そんな話をスイスイと地面を滑りながらしていると、あっという間に連泊している宿が見えてきた。



「未来技術を輸入か。ちょっとずるい気もするが、俺達の私有地だけならいいよな?」

「もっちろん! 便利なのはいい事だよ! たつろー」

「いいのかしら?」「いいのか?」



 すっかり元の時代に色々と組み込む気満々な二人に、一応世界の調停者でもあるクリアエルフと真竜の二人が首を傾げたのであった。

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