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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第三編 神隠し

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第462話 許可を取りに行こう

 お偉いさんに会いに行く。

 となったのまでは良いのだが、実は現在この国には二人のトップと呼べる人物が存在している。


 というのも、この国は約120年前までは皇帝が政治を取り仕切っていたのだが、民主化の波に押され現在は国民から選挙で選ばれた代表者たちによる投票で決める総理大臣が、実質のトップとなっている。

 だが皇帝という地位は今もなお存在していて、政治的な権力はなくしたものの、アドラリムという国家の象徴として君臨していた。


 そのどちらに先に会いに行くかと話し合った結果、竜郎達は皇帝の方に会いに行く事になった。



「まあ形式的なもので言えば、いちおう首相よりも皇帝の方が偉いって事になってるみたいだしな。

 それにいざとなったら──」

「レーラさんがいるしね!」

「あまり目立ちたくはないのだけれどね。この際、しょうがないわ」



 この国の初代皇帝は、クリアエルフの地位を捨てた元クリアエルフであり、その子──二代目はクリアエルフ同士の子と言う由緒正しい血統だ。

 そこから今の皇帝は、これまで血を絶やす事無く連綿と代を継いできたニーアエルフ、ニンフエルフなどと同格のディープエルフ。

 他の高位のエルフ種よりも、《精霊魔法》の適性が高いエルフらしい。


 そしてそれだけクリアエルフに近い種だからこそ、クリアエルフと言う存在はまさに皇帝と言う地位すら超える神の如き存在でもある。

 なので冒険者ギルドの威光が届かない様な相手であっても、レーラさえいればごり押しできる。

 今現在の首相はウサギの獣人らしいので、そちらよりも与しやすいだろうと言う打算もあっての選択だった。


 そうしてやって来たるは皇居前。

 門の前にいる警備員らしき鎧を纏った二人が、近づいてくる竜郎達に怪訝そうな顔を向けてきた。

 様々な種族の子供に動物、女性の獣人とエルフ。格好は何処か異国の様相を感じさせるので、おそらく外国人?──と、見ただけでは何の団体かさっぱりなのだから、それもしょうがない。



「止まりなさい。ここは皇帝陛下がお住まいになっている皇居です。観光なら余所へ行きなさい」

「いえ、我々は観光でここまで来たわけではありません。皇帝陛下と会って話をするために来たんです」

「なに? 面会の約束は取りつけているか?」

「いいえ。なんの約束も取りつけていません」

「はっ。話にならんな。陛下に会いたければ、それ相応の手順を踏んでまた来ることをお勧めするよ。

 さあ、帰った帰った」



 鼻で笑われ軽くあしらわれるが、まあそうだよなと苦笑しながら竜郎は身分証を取り出した。

 今回は象徴的存在とはいえ皇帝には違いないので、アポなしでも面会させてもらえるよう正確なランク──個人で12、パーティーで15という世界最高ランクを表示させた状態でだ。



「実は僕はこういうものなんですが、緊急でお話ししなければならない事があるんです」

「ああ?」



 まだ何かあるのかとうんざりした顔で警備員は眉根を寄せるが、もう片方の仲間に視線を向けて警戒するように無言で伝えると、竜郎の差し出した身分証へと目を通してくれた。



「え~と、これは冒険者ギルドの身分証だな。

 なになに……タツロウ・ハサミ。個人ランク12のパーティーでじゅ……うご?」

「まあ、はい。一応そうなって──」



 そうなってますね。と竜郎が言おうとしたのだが、その前に身分証を確認してくれた警備員が目の色を変えて竜郎へとにじり寄ってきた。



「ま──まさか!? ああああ、あなたがあの、食の革命児、タツロウ・ハサミ殿でありますか!?」

「は? しょくの……しょくのかくめいじ? あの、一体なんの」

「お、おい。本物なのか!?」

「待て! 今確かめる!」



 警備員二人がそう言いあうや否や、竜郎の身分証を確認していた男の一人が、何やら懐をゴソゴソして十センチくらいの懐中電灯の様な物を取り出した。



「え? 偽物とか作れるんですか?」

「最近の技術力向上は侮れませんからね。疑似的にシステムから表示させたように見せる詐欺魔道具が問題になっているんですよ」

「へぇ」



 有用な技術が開発されれば、それを悪用する人間も必ず出てくるものだからなと竜郎が納得していると、懐中電灯のような魔道具のスイッチを押し、紫色のライトを竜郎の身分証に当ててジッ──と見つめた後。



「ま、間違いない……本物だ……。

 いやー! お会いできて光栄です! あ、握手して貰ってもいいですか?」

「ええぇ……」



 竜郎が許可を出す前にギュッギュっと手を握られていた。

 そのことに困惑していると、もう一人の方も「お、俺もいいですか!?」と訳も解らないままに男二人と握手をすると言う謎の展開を味わった。



「とすると、お隣にいる女性は奥様のアイ・ハサミ殿ですね!

 いやはや、お噂通り本当に仲がいいんですね!」

「まあね!」



 愛衣も状況を理解していないはずなのに、愛衣・波佐見という竜郎の苗字が自分についている事が嬉しかったのか、胸を張って堂々と肯定していた。

 だが竜郎は、それよりも先ほど言っていた言葉の方が気になっていた。



「あの……しょくのかくめいじ? ってのは」

「え? いやですよぉ、とぼけっちゃってー。

 ご自分が世界中の人になんと呼ばれてるか知らないなんて、そんなわけないじゃないですかー」

「せ、世界中……?」



(一体未来の俺は何をやってるんだ!?)



 動揺しながらもあからさまに否定してしまっては怪しいと、さりげなく流れに乗って話を聞いていくと、どうやらこの時代の竜郎は、この世界の食糧事情を一変させるほどの、それこそ革命と言われるほどの事を成し遂げたらしい。


 もしや異世界料理でチートが始まったか! と一瞬思ったが、地球にある料理は全く同じでなくても、似たようなモノなら普通にある。

 それは調味料も同じなので、今更地球からマヨネーズやらケチャップ、醤油や味噌なんかを輸入してきても目新しさはないはずだ。


 だったら一体何を?と思っていたら、どうやら竜郎が巻き起こした革命は料理ではなく食材にあるようだ。 

 どうやらララネストや他にも珍しい高級食材を提供し、富裕層の心を掴み。

 一般家庭でも少し奮発すれば買える程度にリーズナブルな、型落ち食材などで一般層も鷲掴み。

 大量生産できるが繁殖力が高すぎて扱いが難しいとされている野菜やコメなどで、低所得層もガッチリ囲い込んだ。


 そうして竜郎は世界中の家庭の食卓を、より豊かに変えてしまったのだそうだ。



『我ながら好き勝手やってんなあ。他の商人とかに睨まれていないか心配だ』

『でも私たちも美味しい物を作れて、それで皆も喜んでくれるなら嬉しいよね』

『……だな。全部終わったら食材ハンターになるのも一興か』

『そういえば武神ちゃんと話した時に、ララネスト以外にも怪神さんが戯れに創った美味しい魔物シリーズがいるって言ってたし、そういうのを探すのもいいかもね』

『まじか!? それは是非とも見つけ出そう』



 そんな事を二人で念話で話していると、未来の竜郎情報をとうとうと語ってくれていた警備員の一人が正気に戻ったようだ。



「しかしタツロウ殿程の方であるのなら、正規の手続きを踏めば最低でも二、三日もすれば陛下はお会いになられると思うのですが、それほど急を要する案件なのですか?」

「ええ、今すぐに何がと言うわけではないと思いますが、少し気になる事がありまして」



 その一言で、先ほどまで興奮して喜んでいた男二人の空気が一気に引き締まった。

 確かにこの時代の竜郎は、食材の販売業で世界に名を知らしめるほどの有名人となっているが、それと同時に超が付くほど有能な冒険者であるのも知られている。


 そんな人物が急を要する気になる事があり、皇帝陛下への面会を希望しているとなれば、ただ事ではないと気が付いたのだ。



「おい、今すぐに上に連絡を!」

「わ、解った!」



 竜郎を対応していなかった門の内側で密かに待機していた警備員達にそう告げると、一人が猛ダッシュで皇居の中へと入っていった。

 それから数分もしないうちに、鎧ではなく仕立てのいい服を着た上品なエルフの男性を連れて、走っていった警備員が帰ってきた。



「あなた達が、タツロウ・ハサミ殿一行の方々ですね。陛下が直ぐにでもお会いになるそうです。

 皆さん、私の後ろをついて来てください」

「解りました。皆、行こう」



 皇居の中に入っていく道中に軽く話をした所、このエルフ──名をエタンと言う男は、今の皇帝の秘書を務めている人物らしい。

 そんなエタンの後ろを皆でゾロゾロと付いていくと、重厚な黒い木の扉の前で止まりノックをした。

 すると中から男性の声で、「お入りください」と声が聞こえた。


 その声を聴いたエタンはすぐさま扉をあけ放ち、竜郎達を中へと招き入れた。



「初めまして、タツロウ殿。私はアドラリム国、皇帝。フィオン・アドラリムと言います」



 やや青みの強い薄い髪色をした美しい顔のエルフの男性が、優雅に立って挨拶をしてくれた。

 それに竜郎達も名前を名乗りながら自己紹介をしていき、最後にレーラの番になる。



「レーラ・トリストラです」

「あ、あなたはっ!?」

「……何か?」

「い、いえ。と、とりあえずは先に話を聞きましょうか。

 皆さん、そちらにお座りください」



 どうやら強力な認識阻害をかけていても、ディープエルフという高位のエルフ相手では目と目を合わせてしまうと気が付かれてしまうようだ。

 他の護衛や秘書のエタンは不思議そうな顔で皇帝フィオンを見つめていた。


 その間リアは密かに改善案を頭に思い浮かべながら、竜郎達同様に来客用のソファに腰かけた。



「それで、急な要件と言うのは一体……?」

「それはですね──」



 竜郎が代表して、今回気になっている神隠し事件について話し始めた。

 すると神隠しという言葉が出た時点で、この場にいた護衛や秘書エタン。皇帝フィオンは表情を固まらせていた。

 どうやら何かある様だと確信を持ちながらも、竜郎はとりあえず最後まで自分達で軽く調べた事、これから大がかりな調査をしたいので許可を貰いたい事などを一気に話した。



「その前に伺いたいのですが……。もしやそれは、お役目が関係されているのですか?」

「お役──」

「そう思って貰って構いませんわ」



 お役目とはなんですかと竜郎が聞こうとしたところで、それを遮るようにレーラが皇帝フィオンの目を真っすぐ見て微笑んだ。

 それに皇帝フィオンは唾をのみこみ、「まさか我が国で……」と悲壮感に項垂れ始めた。


 竜郎や愛衣などはまだ気が付いていないが、この時代になってくると世界各国の上層部だけは先に言われていた最高ランク冒険者であり、食の革命児という肩書の他に、魔神と武神の御使いという情報が流れていた。


 なので皇帝フィオンの言う「お役目」とは、神の神託により行動しているのかという事。

 もしそれが本当であるのなら、未曽有の危機に見舞われている。もしくは見舞われるということを示唆している。


 だからこそ、皇帝フィオンはどんな恐ろしい事が起きているのかと不安に駆られたのだ。

 なにせ神が直々に使者を送らなければならない様な事件なのだから。


 さらにここには御使いの他に神の子クリアエルフまで付いてきているのだから、信じざるをえないだろう。

 そしてそれは半分くらいは事実でもあるので、竜郎達は嘘を言っているわけでもない。

 近い将来竜郎たちが何もしなければ、恐らく何かしらの事象が起きるのは間違いないのだから。



「先ほどの様子を伺っていると、神隠しと言われている事件に何かあるように思えたのですけれど、お話しして貰う事は出来ませんか?」

「そ、そうですね……。私としても出来る限りお手伝いさせていただきます……」



 そうして丁寧にレーラに水を向けられた皇帝は、密かに水面下で問題になり始めていた『神隠し』事件について語り始めたのであった。

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