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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二章 オブスル大騒動編

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第45話 フラグ発生

 竜郎たちは無事に時間通りゼンドー達と合流でき、現在は昨日と同じ隊列を組んで順調にレンテティウス塩湖へと進んでいた。



「ねーおじいちゃん。今日はちょっとだけでいいから、仕事場を見学してもいい?」

「おお? まあ邪魔しねーなら別にかまわねーぞ。ただまあ、別に大層なことをしてるわけでもねーから、すぐ飽きちまうと思うがなぁ」

「それでもいいよ! ちょっとだけ、どんなことをしてるか気になっただけだから」

「そうか。まあ若いうちは色んなもんを見といた方が、良いかもしれねえしな」



 そう言ってまたあの豪快な笑いをするゼンドーに、愛衣は塩づくり見学の許可を貰った。

 それからまた幾ばくかの時間が過ぎ、本当にあっけなく湖にたどり着いた。



「よし、こっから先はまた俺だけで行くから、後でタツロウと合流したら一番湖から遠い位置にある作業場に来てくれや。そこに俺がいるからよ」

「わかった。一番遠くのやつだね」



 そうして愛衣は荷馬車からぴょんと降りて、後続を見守りつつ竜郎の到着を待った。ほどなくして合流し終わると、早速見学のことを竜郎に話した。



「へえ、ゼンドーさんが仕事してる所か。見てみたいな」

「でしょでしょ、ちゃんと許可貰って、場所も教えてもらってるから直ぐにでも行けるよ」

「わかった。早速行こう!」

「うんっ」



 そうして二人は、愛衣が聞いた通り湖から一番遠く、町へと続く道から一番近い位置にある、大きな建物へ入っていく。

 中は作業場と呼ばれているだけはあり、作業台の上で何かをやっている人や、大きな道具を動かして、何かをかきまぜたりしている人など、それぞれが慌ただしく動き回っていた。

 竜郎はその邪魔にならないようにゼンドーを探していき、やがて一番奥にある一番大きな机の上で作業しているのを見つけた。

 二人がそこへ近づくのが見えたゼンドーは、手をコッチコッチと動かして呼び寄せた。



「おう、来たな!」

「はい」「うんっ」

「んじゃあ、俺はいつも通りの作業をするが、気になったら質問してくれていいからな」

「邪魔になりませんか?」



 作業中に話しかけては集中が途切れてしまうだろうと心配した竜郎だが、ゼンドーはそれをがははっと笑い飛ばした。



「俺が何年これをやってきてると思うんだ? 話しながらでも余裕でできらぁ」

「さすが熟練だね、おじいちゃん!」

「まーな、がははははっ」



 作業場に響き渡る笑い声に他の職人たちも慣れているのか、自分の作業を黙々とこなしていた。

 そんな中、早速ゼンドーは仕事を再開する。

 まずゼンドーは、コンテナに入った白い石のようなものを取り出した。



「その石はなんですか?」

「これはな、湖でとってきた水から塩だけを抽出して、さらに特殊な魔道具で加工したものだ」

「特殊な魔道具?」

「ああ、特殊な魔道具だ。

 さすがにそれ以上は企業秘密だから、お前らにも教えらんねーぞ」

「わかった、そこは聞かないようにするね!」

「おう」



 二人の質問に嫌な顔一つしないでしっかりと答えながらも、手はちゃんと動いていて作業する様子に、竜郎たちはまさに職人の姿をそこに見ていた。



「でも塩だけが必要なら、そんな形にする必要はないんじゃないですか?」

「そうだな。それが普通の所でとれた塩なら、そうなんだろうよ」

「ここのは普通じゃないってこと?」

「そう言うこった。

 んでだ。なんでわざわざ、こんな石みてえにしちまうかと言うと──」



 そう言って作業台に置かれていた鑿とハンマーでそれを半分に砕くと、その断面を二人に見えるように置いてくれた。

 二人でそれを注視すると、そこには大きいもので一センチ、小さいもので数ミリ程度の透明な塊がポツポツとあるのが見えた。



「これはなあに?」

「その透明なのが、うちの誇る最高級の塩になるんだよ」

「これも塩ってことですか」

「ああ、そうだ。売り物にするにはさらに手間をかけるがな」



 そうしてゼンドーは目にもとまらぬ速さで石をどんどん小さく砕いていき、その透明な部分だけを取り出していく。

 そのあまりにも流麗な動きに、二人は目を丸くして見入ってしまった。

 そんな二人を置いてきぼりにしたまま、瞬く間に一個の塩の石から透明な部分を全て取り出し終わると、それを一粒ずつこちらに渡してきた。



「それを舐めてみな」

「はい」「うん」

「どうだ」

「──これは」「──うそっ」



 そんな反応に、豪快にゼンドーは笑った。

 渡されたそれは確かに塩だった。

 しかし特別味覚に優れているわけでもない二人が一粒舐めただけでも解るほど、普通の塩とは別格の味わいを出していた。



「すごくおいしいですね、これは」

「うん、ただの塩をここまで美味しいなんて思ったこと一度もないよっ」

「そりゃそうだ。『ただの塩』じゃあねえからな! がはははっ」



 その誇りに満ち溢れた表情に、純粋にゼンドーをかっこいいと二人は思ったのだった。


 それからも塩造りについて色々話を聞けた二人は、満足げな顔でゼンドーに礼を言ってから、その場を後にした。

 ちなみにそこで解ったことだが、昨日のリアカーに乗せられた箱型の道具は、湖から水をくみ上げる魔法具だとゼンドーに教えられた。



 そうして異世界の町の特産品に詳しくなった二人は、意気揚々と昨日陣取ったキャンプ地へと足を向けた。

 そこへたどり着くころになると、ちょうどお昼を少し過ぎた頃なので、《アイテムボックス》からテントを出してその中に入り、昼食を二人で並んで取った。



「そういえば行きの道でガズさんに聞いたんだが、今日は解の日だから明日は極夜らしいぞ」

「ってことはいよいよ……」

「ああ、明日ここに来れば三つ目の顔が見られるぞ」

「そいつは明日も来ないとねえ」

「どうせなら四つ全部コンプしたいからな」



 こんな所で日本人らしい収集癖を発揮した二人は、どんな光景が見られるのか楽しみにしながら明日へと思いを馳せた。

 そうしてまったりといちゃつきながら過ごした後、二人はそれぞれのことをし始めた。

 竜郎は昨日の光魔法と闇魔法の混合の練習を、愛衣は食べられる魔物図鑑を読んでいた。

 そんな時間を一時間ほど過ごしていると、竜郎の耳にアナウンスが流れた。



《スキル 魔力質上昇 Lv.2 を取得しました。》



「おっ、やった」

「ん? もう完璧にできるようになったの?」

「いや、そっちも順調だったんだが、今 《魔力質上昇》のスキルがレベルアップした」

「ということはLv.2?」

「ああ、この光と闇の混合魔法の練習は、魔力量の調節がシビアだからそっちの練習にもなっていたみたいだな」



 思わぬ収穫に、竜郎はこの練習の意義をさらに高めた。そんな相方を見ていた愛衣は邪魔になるからと、聞きたくて遠慮していた質問を切り出した。



「どっちもできて一挙両得ってことね。それで、本命の方はもうすぐできそう?」

「そっちはあと少しだな。今日明日中にはLv.1でなら魔力体生物を生み出せるかもしれない」

「ほんとにっ、可愛いのがいいなぁ」

「別にペットと言うわけでもないんだが……、まあそうなるようには意識しておくよ」

「うんっ、楽しみにしてる!」



 ガバッと抱きついてきた愛衣を受け止めながら、竜郎が背中をあやすように撫でると、嬉しそうに腕の力を強くした。

 そんな姿に「やっぱり俺の彼女は最高だぜ!」と彼氏馬鹿になりながら、練習そっちのけでお互いの温もりを堪能し合った。

 そんな回り道をしていたせいで、竜郎の混合魔法は帰りの時間になっても、未だ成功できなかったのだが……二人に後悔の文字はなかった。



「今日も遅れたら不味いし、早めに帰り支度をしておこう」

「そうだね、疲れてるとこを呼びに来させちゃうのは悪いもんね」



 言うや否や、てきぱきと《アイテムボックス》に私物やテントをしまいこんで、作業場の建物の方へと歩いていった。

 すると職人たちも帰りの支度をすでに始めている最中で、二人は今日はゼンドーに迷惑をかけずに済んだとホッとした。



「おう、来たか!」

「来たよー、もう帰れそう?」

「おう、後は売り物を積んで帰るだけだ。十分もしない間に出発できるはずだぜ」

「わかりました。じゃあ、俺はガズさんの方に行くから、またな愛衣。ゼンドーさんもまた」

「まったねー」「おうっ、そっちも頼んだぜ!」



 そんな愛衣とゼンドーに軽く手を振って分かれると、最後尾ですでに荷を積み終え御者席に座ったガズの姿を発見した。

 竜郎は軽く挨拶をして馬車に乗りこみ、それからゼンドーの言った通り数分もした後に、隊列が動き出した。



「行きはなんも来なかったし、帰りも落ち着いて帰れるかもな」

「あー……ですね」



 ガズのその言葉に、フラグっぽいなと嫌な予感が脳裏を過るが、気のせいだと自分に言い聞かせて、適当に返事をしておいた。

 だが、結果としてその予感は的中することになる。


 竜郎達が湖を去って、町までの道のりを半分ほど過ぎた時にそれは起こった。



「ギィーギィー」

「ん? イモムーか」



 竜郎の乗った荷馬車が通り過ぎる前に、イモムーがもそもそ木々の隙間から飛び出してきた。しかし、昨日の哀れな境遇とイモムーの足では放っておいても馬車には追いつけないと、無視してやり過ごそうとした──その時、その後方から別の魔物の頭が飛び出し、イモムーを丸ごと口の中へ飲み込んでしまった。



「───こいつはっ」



 それは尻尾を入れれば二メートルにもなる、大きな灰色の蜥蜴だった。

 竜郎と、その大蜥蜴の目と目が交差する。



「シャアアアアアアアーーーーーーーーーーー」



 その獰猛な叫び声に、竜郎は戦闘が避けられなくなったと本能で理解したのだった。

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