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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二編 竜大陸

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第456話 ひとまずの帰還

 プチ親子喧嘩騒動からまた少し時が過ぎ、禁足地に足を踏み入れて三日経った。

 イフィゲニアの遺体を核にした魔方陣も問題なく安定している事が確認できたので、竜郎達は再び帝都にあるお城に戻ってきていた。


 道中、もう一体にして最後のイフィゲニアの眷属アルムフェイルに、全部うまくいった事、ニーリナが亡くなった事を告げた。

 彼はそれが既に解っていた様で、少し寂しそうに笑うと、再び海の底へと戻っていった。


 それからお城に帰ってすぐに、今より約88年後にエーゲリアが一時的にイシュタルを外に出し、竜郎たちと同行して修行させると言い出した事により少し重鎮たちの間で騒ぎとなった。

 だがそれも「わたくしが代わりにここに残るのです。何か問題がありますか?」の鶴の一声で直ぐに収めたあたり、やはりエーゲリアという存在の大きさは計り知れない。

 それにはイシュタルも、少しだけ悔しそうな顔をしていた。



「本当にその時には、私も置いて行ってしまわれるのですか? イシュタル様」

「すまない、ミーティア。あまり大人数で押しかけても、私の為にならないからな。

 行くときは私一人で色々と学んでくるよ」



 おそらく一番のイシュタルの眷属として古株であろう紅鱗の女性竜人ミーティアは、最後まで食い下がっていた。

 全員が納得してもまだ、消化し切れていない様だった。

 だが最後にハッキリとそうイシュタルに言われてしまうと、もう何も言えずに大人しく引き下がった。



「どうかイシュタル様を、よろしくお願いします」

「はい。まだ先の話になりますが、僕は誰一人として失うつもりはありません。

 かならず全員無事に戻ってきます」

「そのお言葉、信じさせていただきます」



 イシュタルを負かした竜郎からも言質を取って、そこでようやく自分なりに納得できたようだ。

 それにまだ猶予期間もある。その間にイシュタルもさらに成長するだろう。

 ミーティアの先ほどよりも吹っ切れた顔をしているように感じ、竜郎も一安心だった。



「ミーティアもイシュタルの事が心配なのでしょうけれど、貴女もその時は大変なのだから、人の心配をしている余裕も無くなるわよ」

「えっと……エーゲリア様? それは一体どういう……」

「あなた達イシュタルの眷属は、私とその眷属たちが直々に真竜の眷属として一人前になれるよう修業して差し上げます。

 少し大変でしょうけれど、死なす事はないから安心してね」



 エーゲリアがいれば例え死ぬ寸前であろうとも復活させられるだろう。

 逆に言えば、死ななければどうとでも出来ると言っている様な物だ。

 ミーティアや他の眷属二体は、熱くも無いのに汗がダラダラと流れ出る。



「や、やはり私はイシュタル様に付いていこうかなーなんて……」

「ボ、ボクもそうするー」

「私も──」

「え? あなた達はわたくしとのワクワク特訓が嫌だと言うの?」

「「「めっそうもないです!」」」



 竜郎は凄まじいパワハラの現場を見た気がした。

 エーゲリアはただ微笑んだだけなのだが、その背後にあるプレッシャーを前にして誰が否と唱えられるだろうか。

 イシュタルも、ただただ健闘を祈るしかない。


 だが決していじめたくてやっているわけではなく、今後のイシュタルの為には大切な事でもある。

 若干死んだ魚の様な目をしているのは気になるが、それでも気持ちを切り替えてもっと役に立てるようになろうという気概が見え始めた。



「ではまた88年後に会いましょう」

「ああ、楽しみに待っている」



 そうして竜郎達は元の時代に帰ってきた。

 だがすぐさまイシュタルの回収へと向かう。

 帰ってくる前に色々と面倒な手続きもあったが、エーゲリア島までは一度だけは空路で来てもいいと言われていたので、最初に行った時よりもずっと早かった。


 2日後には城に通され、現在は竜郎達一行。イシュタルとその眷属たち。そしてエーゲリアのメンバーだけが謁見の間に集まって、別れのあいさつを交わしていた。



「では母上、そろそろ出発することにする」

「あ、ちょっと待ってイシュタル。貴方には餞別をあげましょう」

「餞別?」



 そう言いながらエーゲリアが出してきたのは、銀色に光り輝く腕輪だった。

 もちろんそれは十メートル級の竜であるイシュタルの腕に嵌められるよう、かなり大きなものだ。

 それを何と無しに受け取ると、エーゲリアが腕に嵌めるように言うので素直に装着した。



「──きゃっ」

「イシュタル様っ!?」



 いつもの男勝りな口調ではなく、思わず出てしまった少女のような叫び声に、イシュタルの余裕の無さがうかがえた。

 すぐさまミーティアが慌てて駆け寄ると、そこにはスチームパンクなファッションに身を包んだ銀髪美少女の姿があった。

 いうまでもなく、人化したイシュタルである。



「これは一体どういう事だ? 母上」

「今回の事が終わるまで、貴女はその姿で戦いなさい。それも修行の一環です。

 それが終わったら、貴女の腕輪も外してあげます」



 先の銀の腕輪は強制的に人化の姿を保たせる魔道具らしい。

 人化したイシュタルのサイズに合わせ腕にピッタリと嵌っているが、引っ張っても抜けそうな気配すらない。

 それにイシュタルは不満げに唇を尖らせた。



「むぅ……人の姿は色々と不便なのだが……」

「その不便の中で力を磨きなさい。さすればレベルだけでなく、あなた自身の技術も向上するでしょう」

「そういうものか。ならばしょうがないな」



 もう少しごねるかと思ったが、エーゲリアが言っているのだから、きっとそうなのだろうとイシュタルはあっさりと受け入れた。

 竜郎としても一緒に行動するのなら、竜形態でずっといられるよりも人間の姿でいてくれた方が接しやすいので問題はない。



「それじゃあ本当に行くからな。もう何もないな? 母上」

「ええ、有りませんよ。頑張ってきなさい」

「任せておけ。とっとと母上を隠居させて、早々に孫も見せてやるさ」

「まあ、それは楽しみねぇ。タツロウ君たちやレーラも、頑張ってね」

「はい」「ええ、もちろんよ」



 そうして別れの言葉をニ、三交わし、竜郎達は転移で竜大陸イルルヤンカを後にしたのだった。


 さてやって来たのは次の目的地である未来──ではなく、再び竜郎達の拠点の地下室。

 そのまま行ってもいいかなと思ったのだが、リアがニーリナの心臓やアンタレスの牙や鱗を、落ち着いた場所でちゃんと調べておきたいと言ったからだ。

 とくにニーリナの心臓は思う所があるらしく、もしかしたらリア自身が神格化するためのピースになりえるかもしれないとの事。



「「ご主人様ー」」

「おおっ、彩人に彩花。いい子にしてたか?」

「「うん、してたー。ちょっとレベルも上がったんだよー」」

「そうか。それは凄いな!」



 竜大陸に行く前に竜郎が創造した天魔の眷属──彩が、二人に分かれた金髪天使の彩人と、黒銀髪悪魔の彩花がすぐさま帰って来たことを察して、トコトコ走り寄ってきた。

 息子と娘とまでは思えないが、弟や妹の様に可愛くは思っている竜郎は、二人を同時に抱き上げた。

 二人も竜郎と触れ合えて嬉しそうに、キャッキャッとはしゃいでいる。


 そうしていると、少し遅れて天魔のケンタウロスである爺やもやって来た。

 爺やには、これから暫くイシュタルとも行動を共にする事になったと告げてから行ったので、すでに一室用意完了したとの事。

 それに竜郎やイシュタルが礼を言いながら、皆で一階に行くべく丸い昇降床に乗り込んだ。


 エレベーター式の床に乗って上に行っている間に、ジャンヌと少し言葉を交わし満足した爺やは一階に着くや否や恭しく礼をして、自分の仕事をすべく去って行く。

 そんな背中を見つめていた竜郎は、ふと以前にかわした約束を果たせていない事を思い出した。



「そういえば、奈々にも爺やみたいな眷属を作ってあげるってアムネリ大森林で言っていたな。

 リアは暫く素材の研究に入るみたいだし、その間に作ってみるか?」

「すっかり忘れてましたの! でも欲しいですの」

「忘れてたんかい……。まあ、俺も同じだから何にも言えないが。

 まあ、その話は上でお茶でも飲みながら話そうか」

「それじゃあ、私は自分の作業場に行きますね。素材は送っておいてください、兄さん。

 あ、それから皆さんも装備品の点検とかもしたいので、そちらも送っておいてくださいね」



 リアもそれだけ言い残すと、早く素材を見たいのか自分の作業場に小走りで向かっていった。

 それを見送りながら、竜郎達は手に入れた素材や自分の装備品などを送信した。



「装備品か。我が国では軟弱者が持つ物と言う認識があったのだが、タツロウ達の戦いを思い出すと、その考え方も改める必要が有るかもしれないな」

「そうなのか?」



 いつだったかリアの故郷、鍛冶師の町ホルムズについて話していた時に、竜が自分の鱗を持って~などと言う話を聞いたことがあるような覚えがある竜郎は、そんな認識が竜界隈で広がっていた事に驚いた。

 その話をすると、どうやら竜大陸の外にいる竜の方が慣例やらには寛容で、頭が柔らかいのだそう。

 必要なら見栄など張らずに積極的に取り入れているのだろう。



「そう言うわけで、実際に私も武器を使ってみたいのだが、鍛冶師であるリアは忙しそうだな。

 適当にその辺で買ってくるか?」

「リアの場合、自分に頼まずに、よそから購入してこられる方がプライドが傷付くと思いますの」

「だねぇ、だからイシュタルちゃんも遠慮はしないであげてね」

「そういうものか」



 そんな事を話しながらリビングにやって来た竜郎達は、改めて奈々の眷属創造について話していく事となった。

 とはいえ創造系スキルは、創ってからのお楽しみ的な要素がある。

 なので具体的にどんな素材を使うか。というのが今回の本題である。



「もとから邪悪なものだけで固めてしまうと、性格の悪い子が出てきたりしないかしら」

「それは言えてますの。アラクネ天魔は素材としてはいいですけれど、それだけで固めてしまうとヤバいのが出来そうですの。主に性格的に……」



 レーラの発言にすぐさま反応した奈々がしみじみとそう言うと、イシュタル以外の全員が「あー」と納得の色を示した。



「……まあそうだな。奈々の魔族創造はアンデッドであればいいんだし、天魔系統の素材にこだわる必要もないんだから」

「となるとやっぱりボス竜の死体とかかな? 強そうな子が生まれそうじゃない?」

「それはいいっすね。なら魔王鳥とかも入れたら良さそうっす。死体もちゃんと綺麗な状態で持ってるっすから」

「ピィィィューーィィューー」

「ヒヒーーン」「────」「────」

「私はなんの素材を持っているかは解っていないが、天魔の素材があるのなら使ってみるのもいいとは思うがな。

 出来あがる種は決まっているのだから、安定剤的な役割になりそうではないか?」



 そんな風にしてそれぞれの意見を出し合っていき、十体の魔物の死骸を選出した。

 まず一つ目はボス竜。言わずもがなな最高素材だ。強者を求めるのなら、とりあえず入れておきたい一品。


 二つ目は大天使。これは天魔の素材があった方が安定しやすいのではないかという、イシュタルの意見から採用した。


 三つ目はアラクネ天魔。やっぱり魔族を作るなら、一体は入れておこうとなったために採用された。


 四つ目は魔王鳥。鳥系統の魔物を入れる事で、飛行能力が高くなりそうな上、素材としても文句はないから採用。


 五つ目はドナルアンペリオンと呼ばれていた魔物。これはダンジョンに潜っている時に、アテナが倒した前ダンジョンボスの内の一体で、巨大な獅子の魔物。

 多様性を持たせるために、今まで使っていない魔物を──という流れから名前が挙がり採用された。

 ボス竜や大天使、魔王鳥と比べたら素材的には劣るが、それでも腐ってもダンジョンボスだった魔物だ。最低限の基準は超えているので問題はないだろう。


 そんな素材を竜3、大天使3、アラクネ天魔1、魔王鳥2、ドナルアンペリオン1。の割合で合計十体の死体を使い、魔族創造を行う事になったのであった。

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