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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二編 竜大陸

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第450話 足止め作戦 2

 前に行ってもダメならばとミイラ竜は竜飛翔で舞い上がり、空に向かって膜に突撃して行く。

 けれど強制的に戻されて、斜め下に向かって突っ込んでいき、地面にそのまま頭から激突していた。



「──────────!!!!」

「アテナ、気を付けてくれよ」

「わかってるっすよー」



 音魔法と転移魔法で自分の声を飛ばして、アテナに注意喚起をしていると、起き上った時にたまたま目についたのか、アテナに向かって爪を振り下ろしてきた。

 だが奇をてらったわけでも何でもない、ただの《ひっかく》を食らう程アテナはどんくさくはない。

 先ほどからずっと続けている雷攻撃をカウンター気味に撃ちながら、ひらりとその身をかわして距離を取った。



「──────」

「ん? 何をする気っすか?」



 躱されたことなどどうでもいいとばかりに、加速度的にアテナから興味を無くすと、また霊廟の方に向きなおった──のだが、頭を打って気分が変わったのか、口の中に竜力収束砲を溜めこみ始める。

 それだけならまだ良かったのだが、ミイラ竜はそのまま霊廟のほうへと駈け出しながら収束砲をやや斜め上に撃ってきた。



「やっぱりこうなるか。出てくるかもしれないから、愛衣とアテナはキックバックの準備を!

 他の皆も所定の位置で待機だ! それと天照と月読は俺と収束砲の処理を!」



 竜郎はそれだけ音魔法で拡大した声で言うと、空間牢獄の欠点を突かれる可能性が高くなった事に臍を噛みながら、最悪の事態を想定しながら動き始める。


 この空間牢獄の欠点。

 それは竜郎のよく使うレーザーの様な、エネルギーの一か所集中攻撃によるピンポイントでの高負荷がかかると、転移膜が処理落ちして他の個所に対応できなくなるというものだった。


 もちろん生半な威力では処理落ちなどしないのだが、単純な行動や攻撃しかできないミイラ竜とはいえ、スペックだけはかなり高い。

 なので収束砲の当たっている接地面から抜けようとしてくれれば問題ないのだが、今ミイラ竜の体が通るであろう場所は、収束砲の接地面から少し下方。

 収束砲を打ち切るなり、立ち止まりなりしない限り十中八九抜け出してくるだろう。


 だが十分起こりうると想定していたからこそ、アテナには中で頑張って貰っていたのだ。

 竜郎は落ち着いたまま空間牢獄へのエネルギー供給量を増やし、処置能力を増すようにイメージする。

 すると収束砲を膜の表層でバチバチと転移させようとする力と、貫こうとする力が拮抗していたのが、そこだけ竜郎や天照のマニュアル操作で外側の、上空前に打ち上げる様な角度に修正した状態で放出していく。

 内側に返してしまうと、また別の個所に当たって負荷をかけかねないので、外に逃がした方がいいのだ。


 そうやって収束砲を無害化しながら、そちらに処理を取られていると、ついにミイラ竜が空間牢獄の膜に頭を突っ込んだ。

 収束砲自体は少し前に止んだが、それでも処理しきるまで4秒ほどかかるので、肝心のミイラ竜本体に逆戻しの転移がさせられず、完全に外側に頭部が出てしまった。


 けれどそうなった時の為に、内側にはアテナを置いていたのだ。



「こっちに来るっすーー!」

「────?」



 頭が出たことに喜びを感じもしない無感情なミイラ竜だったが、それでも何故か膜の外側に出れたことだけは認識していた。

 それだけに足取りも強くそのまま外へと飛び出そうとしていたのに、アテナの叫び声とともに急に体全体が放電し始め、後に引っ張られ始めた。


 前に出ようとしているのに、その後ろに引っ張る力は凄まじく、ミイラ竜の膂力を以ってしても完全に振りきれないで前進する勢いが目に見えて失速した。



「あんだけ電磁力を帯電させたんすから、そう簡単に振り切らせはしないっす!」



 そう。アテナの一見無害かと思われていた雷攻撃は、ミイラ竜を傷つけることが目的ではなかった。

 ダンジョンで倒した元ボスの称号効果による、物質の電磁力付与。

 これを執拗にかけ続けて、ミイラ竜に強力な磁力を持たせ続けていたのだ。


 これは生き物──人間や魔物などには作用しにくい効果なのだが、アンデットや、ましてや魔物にもなりきれていない半分ただの死体という物質ならば、十分に電磁力を付与させられる。

 それを今回は利用し、ミイラ竜にはS極、アテナ側にはN極の電磁力を発生させて思いっきり内側に引っ張っていると言うわけだ。


 だがそれでもミイラ竜のパワーも負けてはいない。

 強力な電磁力により進行速度は落ちているものの、それでも大地を凹ましながら少しずつ前に進んでいる。

 けれど竜郎達はパーティで戦いを挑んでいるのだ。アテナ一人で頑張る必要など微塵も無い。



「いっけーー!」



 愛衣がミイラ竜の方へと駈け出しながら、新スキルその2を発動させる。

 今度は鎧から出る黒い気力による盾と、両手のグローブからなる亀と二体の白と黒の竜による気獣混合奥義《竜亀掌壁》。


 グローブがまた形を変えて、巨大な気力の盾と混ざり合っていく。

 そして最終的に愛衣の両手から白黒のモノクロな竜鱗の腕が伸びて行き、平たくした亀の甲羅の周囲に十本の竜の指が花弁のように生えた盾に変化した。



「どすこーーい!」

「────!? ──!?」



 これは本来、甲羅の盾面を打撃として当てて相手を破壊しながら自分の身を守るスキルである。

 だが今回はミイラ竜──イフィゲニアの遺体に傷を付ける事は出来ない。

 なので愛衣の指と連動している十本の竜指と、両手から伸びる一本の竜腕で優しく受け止め、後ろに押し飛ばした。


 ミイラ竜はその巨体を簡単に押し飛ばされ、そこへアテナの電磁力も合わさっていきおいよく膜の内部に戻っていった。

 もちろん激突時に傷つかないように、激突時はアテナが電磁力の極を操作して斥力も駆使して緩やかに着地させた。



「倒していい敵ならそのまま激突させればいいのに面倒っすね~。

 ビップ待遇の敵とか厄介すぎるっす」



 そんな風にアテナが愚痴をこぼしながら、再び新たな雷をミイラ竜に当てて減った磁力を追加していく。

 普通の魔物なら、ここまであからさまに攻撃されればアンデッドでもあろうと攻撃してきそうなものだが、まるで無関係とばかりに、また壊れたおもちゃのように膜に向かって走り出した。

 今度は収束砲は使っていない。

 先は通れたのだから、行けるだろうとでも本能的に思ったのかもしれない。

 けれど──。



「もうこっちの作業は終わってんだよ」



 竜郎は魔力頭脳の使い過ぎでエネルギーが切れかけている、ライフル杖のカートリッジを素早く換えると、再びトリガーを引いて再充填する。

 その時点で、もう先の高負荷の原因となっていた収束砲は上空に散っているので、ミイラ竜は頭の先すら外に出ることなく戻された。



「──────? ────!」

「あの状態でも、さすがに少しは学習はするのか」

「みたいだね」



 何もしなかったら通れなかった。けれど収束砲を撃った時は通れた。

 それだけは脳にインプットされたのか、また性懲りも無く収束砲を撃ってきた。

 狙いは真正面。自分の進行方向に真っ直ぐにだ。

 そうなると高負荷はかかるものの、ミイラ竜が通るのもその一点の周辺だ。

 それならば多少消費はかさむが問題はない。収束砲は上に散らしながら、ミイラ竜は内側に戻す。


 さて、今回は収束砲を撃ったのに外に行けなかった。

 ほとんどない思考力をフルに行使したミイラ竜が最終的に捕った行動は、滅茶苦茶に収束砲を撃ちまくるという手法だった。



「そうきたか。ほとんど無意識なんだろうけど、一番めんどくさい手だな……。

 これから俺は収束砲の処理と空間牢獄の維持にかかりきりになると思う!

 各自、常に冷静に自分の役割をこなしてくれ!」

「はーい」



 竜郎は音魔法で拡声しているので皆に声は届いたが、他の人の声は愛衣のものだけが自身に届いた。

 けれど他の面々もそれで問題ないと判断し、竜郎は天照や月読と共に自分の役割に没頭していった。


 収束砲を滅茶苦茶に撃ちながら、ミイラ竜はまた霊廟のある正面に向かってきた。

 今度もまた頭部は出たが、愛衣に押し飛ばされ戻されてしまった。

 ここでミイラ竜はようやく、正面を突破する事を諦めた。



「なんだろう。段々と頭がよくなっていってるのか?」

「どうだろうね。ただ滅茶苦茶に動いているようにも見えるけど」



 竜郎と愛衣がそう話している間に、ミイラ竜は収束砲を撃ちながら真後ろに走り始めた。

 前には障害物があるが、後ろなら大丈夫とでも思ったのだろう。



「ヒヒーーン!」

「────!?」



 けれどこういう時の為に全員散らせていたのだ。

 そして後方はジャンヌの領域だ。自分の両手と《分霊:巨腕震撃》による四本で持ったハルバートで、掬い上げるように無理やり押し戻した。


 後方もダメだと今度は正面から見て右へと舵を切った。



「こっちに来ても無駄よ!」



 だがそちらはレーラの担当領域。

 精霊魔法と自分の魔法による氷と氷の二重混合魔法で作った氷の巨大手で押し飛ばす。


 右もダメならと左方向へ行くが、そちらには大猩猩──ゴリラ型の機体に乗ったリアがいた。



「いきますよ!」



 素早さの麒麟。バランスの虎。そして力の大猩猩。

 機動力を削ってパワーにほぼ全振りしたこの機体モードで、ゲル状の表面をした巨大な盾で思い切りぶつかっていった。


 普通ならこの攻撃でミイラ竜に傷をつけてしまいそうな威力ではあったが、この巨大たての表面に付いているゲル状物質が優しく受け止め、アテナが引っ張る内側へとほぼノーダメージで戻して見せた。


 さて前後左右全てがダメだった。そうなるともう行ける場所は空しかない。

 ミイラ竜はカラカラに干からびた翼を広げると、収束砲を撒き散らしながら非常に低速で空へと上がっていった。


 だが当然。空を守る人材もちゃんといる。



「ぬりゃーーですの!」



 上空で待機していた奈々は呪魔法で自身のステータスを底上げし、先端を氷で覆って丸くした《竜邪槍・棘》を展開。

 棘の壁を作り上げると、それでもって大地へと強引に弾き飛ばす。

 それを最早職人技と化したアテナの電磁力操作で、傷つかないレベルで地面に落とした。



「ピュィーーー!」

「こっちですね!」



 そしてさらに上空から探査魔法でミイラ竜の行き先を正確に計りながら、誰の担当領域のどこから出てこようとしているのかを、カルディナが指示を出していく。


 リアの乗っているゴリラ型の機体は機動力が無いので特にその恩恵に預かり、ミイラ竜が出てくる直前には準備万端の状態で事に当たれていた。


 またカルディナは全員の補助に回り、空中を縦横無尽に飛び回っていた。


 それから時は過ぎていき──。



「ふふん! これぞ鉄壁の布陣! 出られるもんなら出てみてよ──っと!」



 また愛衣に吹き飛ばされて戻されるミイラ竜。

 もはや行き先は滅茶苦茶で、収束砲もおざなりになっていき、空間牢獄で戻される事も多くなってきていた。


 そんな風にして竜郎達が数時間かけて霊廟を死守していると、やがてそちらから大きな火の玉が撃ち出されるのをカルディナが捕捉した。



「ピュィィイイイーー!」

「やっとか……。皆! 足止めは終わりだ! これからこいつを向こうまで誘導するぞ!

 準備を整え次第こちらに集合してくれ!」



 その火の玉は、イシュタルたちの修正作業が終わった合図。

 後はこのミイラ竜を上手く向こう側まで運搬し、また魔方陣のコアとして設置し直せば、この大がかりな作業も終わりを告げる。

 竜郎はもう何度目かのライフル杖のカートリッジの交換を済ませると、全員に号令を出したのであった。

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