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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二編 竜大陸

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第449話 足止め作戦 1

「────────!!」



 声にならない不思議な叫び声が周囲に響き渡る。

 音は出ていないのに、ビリビリとしたその振動だけは来ているといえば解りやすいだろうか。

 泥沼から飛び出てきた竜の口が大きく開き、そんな声を放っていた。


 だがそんな事では誰も動揺しない。

 静かに泥沼をのたうち回り、必死にもがく様子をただ見つめる。


 こうしている間も、イシュタルたちは修正作業に入ってくれているはずだ。

 さて、この泥沼だけでどれだけ時間を稼げるだろうかと思っていると、ミイラ竜は急に大人しくなりまた沈んでいく。



「これでの足止めはここまでかな?」

「だろうな。だがそんなのは想定済みだ」



 愛衣と竜郎がそんな事を話していると、ドッバーーンと音を立てて、泥沼一帯が吹き飛んでいく。

 どうやら一旦溜めこんだ竜力を、衝撃波のように一気に周囲にはなったようだ。


 泥沼が吹き飛んで、ようやく自由の身になったミイラ竜。

 隕石が落ちたかのような窪地になった場所に立ち、魔方陣のある方向へと無意識に足が動こうとする。

 だが巨大な氷の水槽が降って来たので、虫でも払うように手を振ってそれを壊してしまう。



「かかったですの! リア!」

「フォロー頼みます!」



 水槽に入っていたドロドロの白い液体がミイラ竜に降りかかった瞬間、麒麟型の機体に乗ったリアが突撃して行く。

 液体を体に滴らせながらもミイラ竜は、そんなリアに竜力を纏った掌底を放ってくる。



「キーーック! ですの!」

「────!」



 だが前方転移と急加速を駆使して腕の側面にやってくると、狼の気獣技を足に纏い、呪魔法のステータス降下を込めた蹴りを連続で繰り出し軌道を反らせていく。



「こっちにもいるっすよ!」

「────?」



 下に《幻想竜術》で十人に増えたアテナがウロチョロし始め、そちらにも意識が向かいリアの存在が薄れていく。

 その間にリアは軌道が逸れた掌底を軽やかに躱し、ミイラ竜に肉薄。

 麒麟型の機体の後ろ二本脚でタタンと踏み鳴らすようにして、ひづめ部分で二度蹴りつけた。



「──!?」



 一撃目で白い液体だけが鍛冶炎で燃え上がり、二撃目で創造と変形により液体が一瞬で透明へと変化する。

 これは白い時はヌルヌルとした弱い粘性を帯びた液体というだけなのだが、ここに少し鍛冶術での創造を加える事で、強力な粘性を帯びたモチモチとした透明物質にすることが出来る。

 それに全身がネバネバに覆われて、ミイラ竜は腕一本動かすだけでも相当な力を入れなければならなくなり、目に見えて動きが鈍くなる。



「トリモチ作戦成功です!」

「なら次は俺達だな。ジャンヌ!」

「ヒヒーーン!」



 だがこれだけでどうにか出来る様な存在ではない。速やかに次の一手に移行する。

 竜郎とジャンヌは息を合わせて全く同時に、準備していた魔法を発動。

 それは今回の為にスキルレベルを上げておいた、《捕縛魔法》と《封印魔法》に《樹魔法》での混合魔法を《光魔法》でブーストしたもの。


 ジャンヌの方は事前に竜郎が時空魔法でゲートを開き、そこから所持していない《捕縛魔法》と《封印魔法》、《光魔法》の魔力を流して遠距離でも混合魔法を完成出来る様に仕込み済み。


 前方の竜郎と後方のジャンヌにより、野太い光り輝く植物の蔓が何百本も飛び出していき、透明なトリモチに覆われているミイラ竜に巻き付いていく。


 捕縛力が大幅に増した植物の蔓にギチギチに巻き付かれ、封印魔法の効果によって魔法や武術系のスキルに一時的に使用制限がかかる。

 これで抜け出すために、自分の膂力以外の力は数十秒ほど使えなくなった。



「ここまでは上手くいってるね」

「ああ、後はこの間にもう一手追加だ」



 今現在はレーラがミイラ竜を氷漬けにして、さらに拘束力を高めていく。

 この時点で透明トリモチ、捕縛、封印、氷結と束縛している中で、竜郎は天照に制御を任せ、こちらに来た時から生成し始めていた、神竜魔力を消費しての大魔法の構築に入っていく。



「愛衣、防御の準備を。全力で頼む」

「おっけー」



 竜郎の魔法が完成する前に、まだ効果が残っているはずの封印魔法を強引にこじ開けて、竜力がミイラ竜の口元に集まり始めているのを感じ取った。

 しかもそれが竜郎の方角にピッタリと向いていて、その後ろは霊廟がある。

 ここで避けたら魔方陣に直撃はしないが、建物に被害が出ることは間違いなく、崩落して人員に被害が出たり修正作業にミスが出たら困るので迎え撃つしかない。


 愛衣は竜郎に心象伝達で細かな位置情報を受け取りながら、ミイラ竜の攻撃を粉砕できる攻撃を準備をしていく。


 まず右手のグローブにゴーレムの魔王種結晶を入れて純粋な力を増す。

 さらに鞭を取り出して右手に強く握りしめながら、クラスチェンジしてから取れるようになったので取得した新スキル、《竜猪双貫》を起動する。


 すると愛衣の気力と竜力をグングン吸っていき、グローブと鞭が物理的に融合し始め、形が変わっていく。

 それは右肩まで腕全体を覆う黒竜の形をしたグローブで、竜の口から細い舌の様な紐が出て、その先端には猪の頭の形をした重りが付いていた。


 そして愛衣がソレを振りかぶると、竜の口に吸いこまれる様にして猪頭の重りが嵌りこんだ。

 その様は、竜の被り物をした猪の頭。もしくは猪の頭を咥えた竜にも見える。



「いっくよーー!」

「────!」



 軽く数メートルほどジャンプした愛衣の体の軌道上に、ミイラ竜から放たれた《竜力収束砲》がトリモチ、捕縛蔓、氷をぶち抜いて迫って来る。



「でりゃあああああ!!」



 それが直撃する寸前に、愛衣は猪頭を咥えた竜のグローブを思い切り振りぬいた。

 するとそこから気力で作られた黒竜の頭をくっ付けたまま、猪の頭が回転しながら射出された。


 それはレーザーのように伸びてきた収束砲を貫き蹴散らしながら進んでいき、竜の口の手前ギリギリで回転したまま停止する。

 そのままドリルのように掘削し続け、ついにミイラ竜の方が屈し収束砲の方が完全に消え去った。


 それを見届けた愛衣は、気力の黒竜を被っていた猪頭を、右腕のグローブに収納しなおした。



「気獣混合奥義だっけか。名前はまんまだが、凄い威力だよな」

「でしょー」



 スタッと地面に降りて来るなり、消費した気力を回復させるという建前の元、愛衣は竜郎に抱きついた。

 この時には既に元のグローブと鞭に戻っており、先ほど起動したばかりの魔力頭脳がエネルギー切れを起こしていたので、愛衣は抱きついたまま帰還石のカートリッジを換えて再起動していた。


 ちなみに、先に愛衣が行った気獣混合奥義。

 これは武神の愛娘というクラスに至った事により解放されたスキル。

 纏が出来る気獣達を合体させて、一つの技として放つというもの。

 今やって見せたのは《竜猪双貫》という、体術の竜と投擲の猪を混ぜた合体技。


 気獣混合奥義の特徴としては、纏のように狙ったモノだけを障害物をすり抜けて当てる事は出来ないし、気獣技のように気獣の体を──例えば獅子の腕などを生き物のように動かす、なんてことも出来ない。


 だが、これは威力だけなら気獣技の先の纏よりも上。

 纏のように体や武器の長さ以上に大きくできないと言う欠点は無くなり、大きさや長さは自由自在。

 気獣技のように細かな動きはさせられないが、ある程度操作は可能と、両者を足して2で割ったような利点を有していた。



「あと、どれくらいかかりそう?」

「もう少しだ。それまでは皆で足止めを頼む」

「ほーい」



 愛衣はパッと離れて、肩を回してまたいつ攻撃が飛んできてもいいように、最終防衛ラインで身構える。


 他の面々もカルディナは解魔法で上空から警戒し、ジャンヌ達に敵の細かな状態を伝えていく。

 ジャンヌは千切れていく捕縛蔓を修復しながら、動かない様にさらにきつく縛っていく。

 奈々とリアは先の攻撃であいた穴の中にトリモチを再投入して、口元もベタベタにして上手く口が開かない様にする。

 アテナは《完全通過》で氷や捕縛蔓、トリモチをすり抜けながら、ミイラ竜の一番近くで破壊しない程度の威力で攻撃し続け、気を引いていく。

 レーラは氷をさらに分厚くしていき、天照と月読は竜郎やジャンヌの補助に回っていた。


 そんな皆の奮闘により稼いだ時間をふんだんに使い、封印魔法の効果が完全に切れる寸前に竜郎は大魔法を完成させた。



「いくぞ────はああっ!」



 その瞬間、ミイラ竜のいる場所を大きく覆うように、黒く透けたドーム状の膜が張られた。

 それに遅れる形で完全に封印魔法の効果が解けたミイラ竜は、また竜力の衝撃波を体から噴出してトリモチ、捕縛蔓を吹き飛ばし、最外殻のレーラの氷の層に大きなヒビを入れる。



「ピュィィーーー!」

「私の氷も破られるわ!」

「解ってる! だがこっちも準備完了だ!

 後はもしそこから出ても押し返せる様に周囲に展開しつつ、皆で足止めを頼む!

 俺はこの魔法の維持に努める!」



 そう竜郎が言い切るや否や、ミイラ竜の突進によってレーラの氷が破られた。

 そしてそのままミイラ竜は霊廟目指して走り始める。


 その先には竜郎の魔法によって作られた黒く透けた不思議な膜があるが、特に警戒する様子も無く突撃して行き、その膜を潜り抜けた──はずだった。



「────…………?」



 だが何故かまだドーム状の膜の中。しかもさっきまで霊廟の方角に真っすぐ進んでいたのにもかかわらず、何故か真逆の方角に向いて進んでいることに気が付いた。



「てりゃあっすー!」

「────!」



 だがそんな疑問を抱いている間にも、膜の内側に入ってきたアテナの雷を全身に受けた事により気が削がれる。

 さらにそこへ何発もアテナは雷を浴びせていく。


 だが攻撃能力は皆無の雷魔法だったので、ただ派手なだけのようであり、一見して何の効果ももたらしていない様に思える魔法だった。

 なので無視してもいいと判断したミイラ竜は、雷を滅多打ちにされるままに方向を直して再び霊廟の方角を目指し膜を抜ける。


 ──だが、また膜を抜けたとはずなのに膜の中。しかも方向も真逆になっている。

 思考能力はほぼ皆無で、ただ力任せに攻撃して進むしか能が無い状態であると言っても、本能でおかしいと気が付く。

 だがおかしいからと言って、それが何かは解らない。

 なのでまた同じ行動を起こす。アテナの雷を受けながら。


 しかし膜を抜けても膜の中。そして真逆の方角を向いている。

 そんなことを壊れたおもちゃのように何度も何度も繰り返し始めた。

 その様子を解魔法でうかがっていた竜郎は、小さくほくそ笑む。



「完全に嵌ったな。こりゃあ、アテナの保険もいらないかもな」

「魔物ですらない操り人形みたいな存在だって言ってたし、かなりおバカちゃんみたいだからね」

「だな。空間を操作しどこから抜けても霊廟とは反対の方角に出るっていうだけの膜だが、それに気が付かなければ一生同じ結果をたどるしかない」



 竜郎のその魔法は、いうなれば空間の牢獄。

 膜を抜けるように出ても、膜自体が転移魔法のゲートのようになっており、強制的に霊廟とは逆方向を向いた状態で膜の中に排出される。

 それを十メートル超えの存在をスッポリ覆えるほどの規模で展開するには、かなり高等な技術とエネルギーがいるのだが、竜郎は超高エネルギー物質である神力と魔力頭脳を使って可能にしている。


 だが一見、完璧そうに見えるこの空間牢獄には一つ欠点がある。

 それに気が付けば、このミイラ竜程の力を持っていれば突破できてしまうという欠点が。


 竜郎は意識だけはちゃんと向けながらも、霊廟の方を振り返る。



「こっちは持たせてみせるが、なるべく早く済ませてくれよ……イシュタル」



 いくら神力で嵩増ししているからと言って、無限に湧いて出るわけではない。

 回復もしているが、この魔法はとにかく燃費が悪いのでマイナスの方が多い。

 またいつ欠点を偶発的についてくるかも解らないので、気は抜けない。


 どうかこちらのエネルギーが精神力が尽きる前に、しっかり終わらせてくれよと願いを込めてイシュタルのいる方角を見つめると、竜郎は再び前を向いて目の前のことに集中し始めるのであった。

次回、第450話は3月28日(水)更新です。


足止め作戦は一話で終わらせるつもりだったのに、入りきりませんでした(汗

次の2で終わって話が進むはずです。テンポよく行きたいのに難しいです……。

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