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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二編 竜大陸

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第447話 船での移動中にて……

 あっという間に、出発の日となった。


 あの後、竜郎達はお城に泊まりながら作戦を練った。

 そして次の日の顔合わせで、妖精郷の住人と呼ばれている人達と出会った。

 妖精種は以前あったマリッカ同様、皆成人しているのに130~150センチ位の身長で、耳は上に少し尖って可愛らしい羽が背中から生えている人達だった。


 だがそれで何より驚いたのは、妖精郷の女王プリヘーリヤがいたという事だ。

 彼女は薄緑の長い髪をなびかせながら、おっとりとした優し気な笑顔が特徴的な小柄な美人。

 女王も今回の一件には深く関わっているらしく、魔法式の書き換えも手伝うとの事。

 竜大陸の皇帝、皇帝の母。そして妖精郷と言う別の大陸の女王。と、超ド級の要人が増えてしまった事により、竜郎たちの責任もより重くなった。


 ちなみにイフィゲニア帝国の城にはイシュタルの眷属たちと、エーゲリアの眷属、飛竜ファイファーが詰めてくれるようだ。




 と、そんなこんながありながらも、それぞれの準備は着々と進んでいき、これからその場所まで皆で船で行く。

 飛んで行けないと言うわけではないのだが、そこを常に守っている、とある竜に挨拶してから言った方がいいからという理由でだ。

 まあ、竜郎の持っている船に乗ってみたいと理由が一番大きかったようだが……。


 早朝には飛竜たちの駕籠に揺られて港に行き、さっそく竜郎が魔物船長門を出そうとすると、皆の──竜の研究者5名、妖精の研究者3名、イシュタルと妖精女王プリヘーリアの視線が背中にチクチクと突き刺さる。



「えーと……なんですか?」

「いや、魔物の船を持っている奴など見たことが無いからな。どんなものが出てくるのかと皆楽しみにしているのだ」



 今回みんなを運ぶ船は、竜郎の所有している魔物船長門で──ということになっている。

 魔物の船に乗ると言うのは初めての様で、男女問わずキラキラとした視線を竜郎の方へと向けていた。

 とくに妖精たちは見た目がやや幼く見えるだけあって、その姿が嵌りすぎていた。


 それに苦笑しながら、竜郎は海の方に向いて長門を召喚した。



「私のお母様は魔物のお船を見たことがあるーって言ってたけれど、あれってぇ本当だったのねー」



 甘ったるくぽやぽやとした声音でそう言ったのは、妖精郷の女王プリヘーリヤだ。

 背中の小さな羽をパタパタさせながら、いつだったかエーゲリアがやったように周囲を飛び回って観察していた。

 さすがに女王の前では同じようにパタパタできないのか、妖精郷と竜大陸の研究者たちはソワソワしながら見上げるだけにとどめていた。

 だがイシュタルだけはそんな上下関係はないので、遠慮なく大きな体で空を飛んで見回っていた。


 前回エーゲリアにこれをされて怯えていた長門だったが、先に異次元の存在にやられていた事が幸いしたのか、今回は落ち着いた様子でジッとしていた。



「それじゃあ竜大陸の人達は、3メートル以上の方は小さくなって、妖精郷の方々はそのまま乗り込んでくださーい」



 妖精たちは人間の中でも小柄なのでそのままでも何の問題も無いが、竜たちは戦闘がそこまで得意ではない者でも、十メートルは軽く超しているのもいる。

 なので乗るには人化するなり、小さくなるなりしてもらうほかない。


 今回選ばれた竜の研究者たちは、そういう小技が得意な者ばかりなので全く問題なく3名は人化して、2名はそのまま縮小するかのように1メートルくらいまで小さくなってから乗り込み始めた。


 さて後はイシュタルとエーゲリアのみである。

 エーゲリアはさくっと以前と同じ、ワンピースドレスを着たプラチナブロンドで、グラマラスな美女へと変化する。



『イシュタルさんは、一体どんな姿になるのかな。わくわく』

『ちょっと楽しみではあるよな』



 イシュタルも人化できるらしいのだが、その姿をまだ見たことは無い。

 まさかただ見たいからという理由で変身させるわけにもいかず、ここまでそこには触れずに来ていたのだ。



「ん? なにやら我の人の姿が気になっているようだな。

 よかろう! 最高にカッコいい我の人の姿を見るがいい!」

『自分でかっこいいって言う人のファッションて、あんましアテになんないんだよね』

『それを口に出さなかったのは偉いぞ』



 おそらく念話をしていなければそのまま口に出していただろうが、結果が全てだ。

 竜郎たちはその自称カッコいい姿が現れるのを、じっと待つ。


 そうして待つ事数秒。光に包まれたイシュタルの人化した姿が現れた。



「どうだ!」

「どうだって言うかなんというか……いわゆるスチームパンク的な?」

「ああ、そんな名前のファッションだったっけか」



 背丈は155センチ程で、胸はエーゲリアと違ってやや控えめ。

 毛先がクルクルとした長い銀髪をハーフアップにしていた。


 そして服装はといえば、ロリィタ風の前のあいたジャンパースカートに、レースのアンダースカート。

 そこに軍服のようなジャケットを羽織り、腰にはウエストベルトにポーチとガンホルダー。

 手には鎖のついた指ぬきの皮手袋を付けて、レトロな感じの変わった銃を一丁持っていた。

 そして頭にはゴーグルのついたハットを被っている。

 愛衣の言ったように、地球ではスチームパンクと呼ばれるファッションに酷似していた。



「なに? そちらにはこういった恰好が流行っているのか!?」

「え? ええと、はやっていると言うか、好きな人は好きっていうか。

 なんにしてもファッションの一つとして、そういうジャンルはちゃんとある──です」



 ここには船に乗り込まない竜の兵隊が遠巻きにみていることを思い出し、愛衣は慣れない敬語に無理やり軌道修正した。

 そんな様子も意に介さずに、イシュタルは興味津々な眼差しを向けて来る。



「ほうほう。実に興味深いな」

「それは、ご自分で考えられたんですか?」

「いいや。昔まだ我が小さかった頃、《未来同期視》を訓練しようと思って発動させたら暴走させてしまってな。

 そうしたら時代はいつかは解らないが、この格好をした者が何か変わった枠の中に映っているのが見えたのだ。

 その時に我はこの姿に魅了されたのだ。どうだ。かっこいいだろう?」

「ええ、まあ、よくお似合いですが……」



 見た目はエルフのような耳だけ除けば、地球でも銀髪美少女といってもいいほど整った容姿をしていた。

 なので大抵のファッションは着こなすだろうし、今のように一般的な普段着から外れた格好は、むしろ浮世離れした容姿と相まってマッチしているとも言えた。


 だが竜郎が気になったのは、いつかの未来で観たその光景が、もしかしたら地球の光景なのではないかという事だ。


 竜郎は昨日と一昨日の間に、さりげなくイシュタルが竜郎とアムネリ大森林であった事を知っているのかどうか探りを入れたが、どうやらこの時はまだ知らない様子。

 さらに銀鱗の竜は、基本的に真竜の子供がもつ特徴であって、他の竜で見られる事はまず無いと言っていいらしい。

 なのであれがイシュタルであったことは、ほぼ確定だ。


 それだけでも、今後イシュタルとは地球に連れていくくらいの親密な関係になっており、今の所竜郎たちの世界が救われた未来へと続く道に立てているのだろうと想像が出来た。

 まあ、イシュタルの見た光景が地球の光景だとは、まだ確定したわけではないのだが。



「そうか。似合っているのならいいのだ。それでは乗り込むぞ。

 話は船の上でも出来るからな」



 時間はこの間にも過ぎていっている。

 出来るだけ速やかにこなして行きたいところではあるので、皆で長門に乗り込んでいく。

 そうして竜大陸の中でも限られた者しか入る事の許されていない禁足地に向けて、長門は発進した。


 最初は興味深げにうろうろしていた面々も落ち着きを取り戻し、それぞれ中央にある公園で休んだり、海を眺めたり、はたまたこれからの手順を確認していたりしていた。


 そんな中で竜郎達は現在、人化したイシュタルとエーゲリアと一緒にいた。

 もう今後の計画については何度も話し合っているので、話題は他の事。

 改めてイシュタルの格好の話題になっていた。


 ちなみに他の面々とは離れた場所にいるので、今ここでは畏まった話し方をする必要は無い。



「思えばその恰好をし始めた頃から、自分のことを我とか、私の事を母上って呼ぶようになり始めたのよねぇ」

「我の方が威厳があって格好いいじゃないか。それに私が見たこの格好していた者も、自分のことをそう言っていたからな」

「あの……それって、どんな人だったんですか?」

「ん~今思えば、人間というより絵が動いているようだったかもしれないな」

『それってもしかして、私たちの世界のアニメかな?』

『かもしれない。こっちの世界でも将来アニメーションという娯楽が出来ただけかもしれないが』



 どう未来に影響してくるかわからないので、一応そのへんの確認は念話の中で済ませておく竜郎と愛衣。



「一時期なんて、この格好に眼帯までして、外しなさいって言っても我の右目に封じられしなんちゃらが放たれてもいいのか! ってわけ解らない事を言って困ったものよ。

 竜の方の姿でも、やろうとしていたし」

「そんな事もあったな。だから我慢して右手に鎖を巻いて、そちらに封印している設定に変えたのに、そちらもダメだと言ってきて……はあ、困ったものだ母上は」

「困ったのはあなたの方でしょ! まったくもう」



 中二病か! と思わず竜郎が突っ込みたくなるのを我慢していると、愛衣がおもむろにスマホを取り出して、イシュタルの方に画面を見せていく。



「そう言うのが好きなら、こんなのとかどーかな?」

「ん?」

「──って、まさか!」



 そのスマホに映し出されたのは、以前遊びで竜郎と愛衣が中二病ごっこをしていた時の動画だった。

 スピーカーから、竜郎の声で闇の炎がなんたら~光の剣なんちゃら~右手に封じらせしなんちゃら~、邪眼の力がなんちゃら~などなど、大きく周囲に響き渡った。



「いやぁあああ! 愛衣ちゃん! それはアカンて! それ他の人に見せたらあかんやつや!」

「なんでエセ関西弁? てか、見せちゃダメなんだっけ?」

「愛衣は恥ずかしくないのか?」

「うん、別に」

「なん……だと……」



 確かにあの時誰かに見せてはいけないなどとは約束した覚えはない。

 だが竜郎の中では、魔法を使っている時点で地球の人達に見せる事は無いだろうし、愛衣自身も参加していたので他者に見せるのは恥ずかしい映像だと勝手に思い込んでいた。

 だが愛衣にとっては別に恥ずかしい事でもないらしく、純真無垢な顔で笑っているだけだった。


 そんな事を竜郎と愛衣が話している間にも、イシュタル目の前ではあらゆる中二病映像が放映され続けていた。

 そしてそれを見つめるイシュタルの瞳はキラキラと輝いて、かじりついて見ていた。



「おお、これはかっこいいな! 私の戦闘に組み込んでみたいものだ」

「あ、ならならこっちはどお?」

「むむ! アイは良いセンスをしているな! これもいいぞ!」



 そこへ愛衣がススッと加わって、イシュタルが好みそうな中二的なシチュエーションをピックアップして堂々と見せていく。

 いまさら奪いに行く事も出来ずに、死んだ魚の目でそれを見つめる竜郎。

 また中二病的なアレが悪化するのではないかと、やや心配そうに見つめる母エーゲリア。



「なんか……すいません」

「い、いいえ。こっちこそ何だかごめんなさいねぇ……」

「いえいえ、こちらこそ……」



 竜郎はなんだか良く解らないままにエーゲリアと解り合い、愛衣はその動画をきっかけにイシュタルとの仲を深めていったのであった。

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