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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二編 竜大陸

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第438話 紅竜アンタレス

 ほどなくして3メートルの茶竜人シュバンが、大きな皿を持って帰ってきた。

 周囲には空腹でもないのに腹の音が響きだしそうなほど、甘美な匂いが立ち込めてきた。

 すると今まで置物のように眠りこけていた、十メートル程の大きさをした紅竜が突然目を覚ました。



「飯か!? 飯の時間なのか!? 美味しそうな匂いがするぞ!」

「アンタレス、客人の前よ。静かになさい」

「でもお腹が減ったぞ! あれは俺が全部食べていいのか?」

「いいわけないでしょ! あれは私の為に用意してくれたのだから、私が食べます! 断固として譲らないわよ!!」

「ずるいぞ、ずるいぞ! エーゲリア様ばっかりず~る~い~~~」



 明らかに大人の竜だというのに、言動はまるで子供。

 大きな体で床に寝そべり、じたばたしながら駄々をこねはじめた。



「ずるいとはなんですか。お客さんが来ていると言うのに寝ていたのは誰?

 別のご飯を後で用意するから、今は大人しくしてなさいな。 

 これはお仕置きです」

「そんなぁ。やだやだやだやだ~~~」



(う、うるさい……)



 これが小さな子供でもそれなりに騒がしいのだが、今じたばた暴れているのは十メートルはある巨大な生き物だ。

 喚き散らすだけで鼓膜に大音量がガンガン響いてきて、称号効果で適応できても、あまり良いものではない。


 だがエーゲリアは駄々っ子を諌めるのに忙しく、こちらにまでかまってはくれない様子。

 竜郎は仕方がないと、ため息を吐きながら《無限アイテムフィールド》から普通のララネストを取り出した。



「そっちのはあげられないけれど、こっちなら食べてもいいよ」

「──!? クンクン──これも美味そうな匂いがするぞ! いいのか!?」

「ああ。そっちならまだ──って、あ……」

「むぐむぐ──むぉおお~~~美味いぞぉ~~」



 絞めただけで殻はそのままだったのだが、それすらお構いなしに一匹を抓んで口の中に放りこみ、ガリガリ砕いて嚥下してしまう。

 そのまま二匹目、三匹目とひょいひょい食べていく。



「殻から剥がして調理した方が美味いと思うんだが……」

「その子はそういう事に頓着するような性格じゃないから大丈夫よ。

 でもあんまり甘やかさないでね、タツロウ君。あげなくても良かったんだから」

「あ、ええ、はい」



 竜郎がエーゲリアに注意を受けている間にも、出しておいた十匹のララネスト全てが綺麗さっぱり消え去った。

 そして巨大な両目をうるうるさせながら、「もっとちょうだい」と無言で語りかけてきた。

 その動作に豆太を思い出し、ちょっと可愛いなと思ってしまう。

 なのでもう数匹ぐらいならいいかなと考えたが、さきほど甘やかさないでと言われたばかりだ。


 悩んでいる間にも目をぱちぱちさせて、ちょうだいアピールを加速させていく紅竜アンタレス。

 そこで思い至ったのが、量産型のブロイララネストだ。

 味も格段に落ちるし、普通のララネストをあげるよりもいいだろう。

 そうして妥協案を見つけた竜郎がソレを地面に出すと、何も言う前にアンタレスは食べようとした。


 ──だが、それはエーゲリアが許さなかった。

 右手ですかさずアンタレスの首根っこを捕まえて、軽々とぶら下げてしまう。

 アンタレスは親猫に捕まった猫のように、遠ざかったブロイララネストに手を伸ばそうともがいていた。



「お礼をちゃんと言いなさい! タツロウ君、ありがとうって」

「うぅ~~~。タツロブありがとな! じゃあ、食べていいか?」

「ブじゃなくてウよ。まったくもう。ごめんね、タツロウ君」

「いえ、おきになさらず。それにそっちはさっきお話した安い方なんで。

 殻ごと食べた時の味の違いとかも有るかもしれませんし」



 そんな違いがあるかどうかはさておき、一応の理由を作るとエーゲリアも「しょうがないわね」と、とりあえず納得して手を離した。

 ようやく解放されたアンタレスは地面にドスンと尻餅をつきながらも、直ぐに起き上ってブロイララネストを食べていく。



「美味いな美味いなぁ──モグモグ」

「味の違いとかどうだ?」

「味の違い? 何言っているんだタツロブ。どっちも美味しいじゃないか」

「まじか……。あとタツロ・ウ。だからな」

「うん! タツロブだよな! 解ってるぞ!」

「こういう子なのよ……。ほんと……ごめんなさいね?」

「……いえ、大丈夫です。何となく付き合い方が解ってきましたから」



 竜郎からしたらカニカマとカニくらい違うと思うのだが、どうやら紅竜アンタレスは味の違いが解らない竜らしい。

 だが大きくとも無邪気に食べる姿は中々に愛らしいもので、愛衣やリアも微笑ましそうに見つめていた。

 なので竜郎も細かい事を気にするのは止めた。


 全てのブロイララネストを食べ終わった紅竜アンタレスは、また竜郎を見つめてきた。

 これはまた催促されるかと身構えたのだが、大きな頭を竜郎に擦り付けてきた。どうやら懐かれたらしい。

 ──だが、いささか力加減が乱暴なので、月読が防壁を張って緩和してくれた。



「タツロブは凄く良い奴だな。気に入ったぞ!」

「ああ、そりゃ光栄だ」



 竜郎がお返しに頭をポンポンと叩いてあげると、もっと嬉しそうに目を細めた。



「むふ~。もしタツロブをいじめる奴がいたら俺に言え?

 直ぐに殲滅してやるからな!」

「殲滅て……んな大げさな」

「冗談だと思わないでね、タツロウ君。その子の場合本当に殲滅しかねないから」

「そう、なんですか?」



 竜郎とて目の前の竜が、今の自分たちを凌駕する超弩級の存在だとは理解している。

 だからそれくらいは出来るのだろうが、子犬のように頭を擦りつけ尻尾を振る姿を見ていると実感がわかなかった。


 だがどうやら紅竜アンタレスは、エーゲリアや黒竜人セリュウスのように何でもこなすオールラウンダーでは無い代わりに、攻撃と言う一点においてだけは破格の威力を誇っているらしい。


 だが同時に紅竜アンタレスは手加減が一切できないので、戦闘が始まったら何もしないか、塵も残さず対象を周囲ごと蒸発させるかの二択しかないのだと言う。


 そのせいで今では余程歴史のある国でなければ覚えても無いだろうが、数万年前までは、上空を通る姿をチラリと目撃されただけで周囲の国々や住人達が震えあがったそうな。



「それは確かに、軽い気持ちで頼るのは絶対にダメですね……」

「そうしてくれると私も助かるわぁ」



 竜郎とエーゲリアの間ではこれで話は終わったのだが、頼ってくれないと察した紅竜アンタレスは不服そうだ。



「え~~! それじゃあ、お礼が出来ないぞ! エーゲリア様は何かを貰ったら、何かを返しなさいって言ってたじゃないか」

「あら、そう言う事は覚えているのね。だったら、あなたの牙や鱗、爪なんかをあげたら喜ぶと思うわよ」

「んん? そんなもの貰って何が嬉しいんだ?」



 そんな変な奴いるわけないだろと、疑うような視線をエーゲリアに向けた。

 それにエーゲリアは少し不服そうな表情を取った後、ちゃんと説明していく。



「人間はね。それで武器を作ったりして、自分を強くすることが出来るのよ。

 あなた程の歴史を重ねて極まった竜の素材なら、とっても良いものが出来るでしょうね」

「そーなのか? タツロブ?」



 竜郎がチラリとリアの方を見ると、目を血走らせながら「うんと言え!」とばかりに眼光を飛ばしてきた。

 なんせ竜の素材と言うだけで貴重なのに、恐らくこの世界でも上から数えた方が早いだろう存在の物となれば、むしろララネスト2でも釣り合わないだろう。



「ああ、それは凄くありがたいし、嬉しいな」



 リアがにっこにっこしながら、うんうんと頷いていた。



「そーなのか。人間って変わってんだな。それじゃあ、待ってろ? 直ぐに用意してやるからな。えいっ」

「は──?」



 抜け落ちた鱗でもくれるのかと待っていると、紅竜アンタレスはおもむろにズラリと並ぶ牙を剥き出しにしたかと思えば、手でつかんでへし折った。



「ちょっ、何もそこまで──ってあれ?」

「ん~? どうした? タツロブ」

「いや、痛くはないのか?」

「あはは! こんなんで痛いわけないだろ? タツロブは面白い事を言うんだな。ちょっとうけたぞ!」

「あ、ああ……ならいいんだ。うん……」



 さすがと言うべきか、折った端から再生していき、鱗を日焼けしてめくれた皮膚を剥がすかのようにバリバリ毟り取っても即再生。

 爪もボキボキ折っていくが直ぐに元通り。

 そうして真竜エーゲリアの眷属の中でも二番目に古株の紅竜アンタレスの素材を、竜郎は大量に手に入れる事になったのだった。


 竜郎がお礼を言うと、紅竜アンタレスは嬉しそうに二カッと笑うと、またうつらうつらとし始めたかと思えば、それから直ぐに寝てしまった。

 エーゲリア曰く、お腹が一杯になったから、また眠くなっただけらしい。


 本当に太古から生きているとはとてもではないが信じられない、幼稚園児のような竜である。


 紅竜アンタレスの無邪気な姿に微笑みながら竜郎は、先ほど貰った鱗や牙、爪などのサンプルをリアに送信しておいた。

 それに気が付いたリアは、サムズアップにウインクまで添えて竜郎の行動を称えたのだった。




 それからまたお茶会が再開し、エーゲリアと会話に花を咲かせていると、まずアテナと地竜ジギルゾフが帰ってきた。

 両者ともボロボロで、アテナは右腕を肩から大きく抉られており、他にも体中裂傷や突傷、火傷を負っていた。

 ジギルゾフも牙はバキバキに折られ、二本あった額の角は一本少ない。

 右目は大鎌の一撃で潰され、前足は爪の先がグチャグチャで引きずるようにして歩き、体中の鱗も所々剥がれたままだった。



「大丈夫か!?」

「う~負けちゃったっす~」

「そんな事はいいからこっちに来い!」



 竜郎は無理やりアテナを引き寄せ、生魔法と魔力補充によって体を元通りに治していった。

 そしてジギルゾフも手当てしようと振り返ると、エーゲリアに止められた。

 どういうことかと聞こうとする前に、また新たな竜がやって来た。



「急に呼び出してごめんなさいね、リリィ」

「いいえ、エーゲリア様が呼んで下さるのなら、いつどこへでも参りますわ」



 その者は全身真っ白で、鱗ではなく羽毛に覆われた美しい竜だった。

 形状としてはドラゴンと言ってもいいのだが、背中から生えている真っ白い翼も天使のような鳥の形をしていた。

 そんな竜──リリィが、傷だらけの地竜ジギルゾフを見て目を丸くした。



「あららぁ。随分と手酷くやられたもんだね、ジギー。久しぶりに見たわよ、そんな姿」

「がははは。言い訳のしようもねえよ。

 まさか真域解放まで使わなきゃ勝てないとは思ってもみなかったぜ」

「ジギーが真域解放まで使ったの? そりゃ相当ね」



 エーゲリアの眷属として一時的に真竜の眷属としての特殊な力を解放できるのだが、大幅に強化される代償に使用後体中がしばらく激痛にさいなまれるという欠点もあった。

 地竜ジギルゾフはここ数百年使うことのなかったそれを、年長者としてまだアテナに負けるわけにはいかんと意地になり、今回使ってしまったのだ。


 白竜リリィは大人げない地竜ジギルゾフに「しょうがない奴め」と肩をすくめ、生魔法と聖なる力が合わさった強力な癒しの力であっという間に傷から体力、竜力。真域解放での痛みに至るまで、完全に治してしまった。


 だが竜郎と白竜リリィの仕事はまだ終わらない様だ。

 アテナと地竜ジギルゾフの時と同じように、両者ボロボロになったカルディナと飛竜ファイファーも帰って来たからだ。

 カルディナは両方の翼が所々破れ、両足は失われていた。他の部分もアテナ同様傷だらけだ。

 だがファイファーも翼は穴だらけで、右肩口と左ももには大穴が穿たれていた。

 さらに胸には大きな裂傷があり、氷で無理やり血を止めている状態だった。



「カルディナ、直ぐにおいで」

「あんたもボロボロね。早くこっちにきなさい」

「ピィィー……」「すまないね、リリィ」



 やはりこちらも真域解放を最後に使われたらしく、カルディナも負けてしまったらしい。

 そしてカルディナと飛竜ファイファーの傷が癒えた所で、最後にジャンヌと奈々、黒竜人セリュウスも帰ってきた。

 こちらは前者二組ほどひどくは無く、ジャンヌと奈々は疲労困憊といった様子で小さな傷を沢山負っているのにもかかわらず、黒竜人セリュウスは疲れた様子も無く傷一つ負ってはいなかった。



「ヒヒーン」

「疲れましたの~」

「また訓練がしたくなったら、いつでも来なさい」

「ヒヒーーン!」「今度は一撃当てて見せますの!」

「ははは! そうか。楽しみにしているぞ」



 こちらは何やら友情──または師弟関係が築かれたようで、お互いどこか楽しそうに笑いあっていた。



「一撃も当てられなかったのか。流石と言うべきか何と言うか」

「まあ、セリュウスは私ら眷属の中でも一番古株のリーダーだからね。

 私らでも全力を出して一撃当てられるかどうかってとこなんだし。

 でもあの子達、セリュウスにあれほど気に入られるなんて、よっぽどガッツを見せたんだとおもうよ。後で褒めておあげなさいな」

「ええ、そうします」



 そうして白竜リリィと微笑みあうと、竜郎はジャンヌと奈々の魔力を補充すべく二人の元へと駆け寄っていくのであった。

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