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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二編 竜大陸

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第437話 エーゲリアへの相談

 なにやら温室から見える範囲で盛大に島の自然が失われていっているのを横目に、竜郎達はのんびりとお茶をすすりながら話に花を咲かせていた。


 給仕してくれているのは、三メートルほどの茶色い竜人。

 眷属ではあるようだが、黒竜人セリュウスや地竜ジギルゾフのような強さは感じられないので、完全にお世話係なのだろう。

 竜郎達には竜郎達用のサイズのカップにお茶を、エーゲリアにはエーゲリア用の特大サイズのカップを用意してくれた。


 話をしている内に竜郎達もエーゲリアとはすっかりと打ち解けて、異世界──地球の話で盛り上がっていた。



「異世界かぁ。面白そうねぇ。私も行ってみたいわぁ」

「ふふん。私はこれが終わったら行くのだけどね。お土産くらいなら持ってきてあげるわ」

「ずるいわ、ずるいわ。レーラばっかり!」

「まあまあ」



 竜郎としても行きたいのなら全部すんだ後にでも地球へ連れていってもいいのだが、どうやらこの世界からエーゲリアがいなくなるのは、まだ不味いらしい。



「イシュタルがせめて一万歳になれば、あの子一人でもこの世界を任せられるようになるんでしょうけどねぇ。

 まだあの子一人では難しいわ」



 今現在、神が創造した最初の竜セテプエンイフィゲニアは、とある事情で亡くなってしまったらしい。

 聞いても話してはくれなそうな雰囲気だったので、竜郎達はその「とある」には触れなかった。


 なので現在この世界に存在する真竜は目の前のエーゲリアと、現イフィゲニア帝国の皇帝イシュタルの二体のみ。

 だがイシュタルはまだ完全に真竜たる力を身に付けてはいない。成長途中なので、真竜がしなくてはいけない仕事を完全に遂行する事が出来ずに、その大部分は未だにエーゲリアが担っているらしい。


 なのでまだエーゲリアは引き継ぎ期間であり、イフィゲニア帝国もほど近いこの島で娘を見守っているという事情もあるようだ。



「あら、お茶請けが無くなってしまったわね」

「あ、ならこれとかどうですか? エーゲリアさん」



 公の場では様付けでないと困るが、このような場で畏まった呼び方は肩がこると言われた結果、この場での呼び名はエーゲリアさんになっていた。



「え、なになにタツロウ君」

「僕らが暇になったら売りに出そうと思っている、『ララせん』というお菓子です」



 竜郎が机に取り出したのは、安く庶民にもララネストを楽しんでもらいたいという気持ちから生み出された、ララネストの殻を砕いて練りこんだお煎餅。

 出されたお茶が紅茶などではなく、日本茶のような味だったので合うだろうと出したのだ。

 嗅覚も鋭いエーゲリアは、なんだか美味しそうな匂いに興味津々だった。



「これってララネストを使ってる? イルファン大陸の北の海にいたわよね?」

「ああ、御存じなんですね」

「ええ、何度か食べたことがあるけれど、とっても美味しかったわぁ。

 でもあまりにも美味しくて絶滅させそうになったから、食べるのを止めてしまったの」



 悲しそうな顔でとんでもない事を言い出したので、竜郎は苦笑いするしかない。

 もしかしたら目の前の竜に、ララネストを食べつくされてしまっていた可能性もあったのだ。



「今僕らはララネストの養殖をやってるんですよ」

「ララネストの養殖? また面白い事をやってるのねぇ。それならうちにも是非売ってほしいわ。

 あら、このお煎餅も美味しいわぁ」

「ええ、いいですよ。ただ量産できるのは天然物とは少し味が変わってしまっていますが」

「なにそれ。私も初耳だわ。詳しく教えて!」



 養殖をしていること自体は知っていたようだが、純天然ものや牧場での完全養殖ララネスト、ブロイララネストなどで違いが出ていた事までは話していなかったのだ。

 なのでその事をレーラとエーゲリアにも話して、簡単な試食もしてもらった。

 試食の結果は上々で、レーラもエーゲリアも、竜郎の《強化改造牧場》で一から十まで育ったララネストもお気に召したようだ。

 それなら量産も簡単なので、定期的にエーゲリアに販売する事が決まった。

 ついでにララせんのほうもおまけに。


 そんなたわいのない話をしながら、竜郎は新しく茶竜人が入れてくれたお茶に口を付けた時、ふと目の前にいる巨大な竜が賢竜と呼ばれるほどの英知を宿している事を思い出した。



「ん? なにかしら?」



 そんな竜郎の視線に気が付いたのか、エーゲリアは大きな頭をコテリと傾げた。



「いえ、その。エーゲリアさんに聞いてみたい事がありまして、かまいませんか?」

「ええ、私が知っていて答えられる範囲でなら。それで聞きたい事っていうのは?」

「実は──」



 竜郎はそこで、神力を使った陰陽玉──カルディナ達の体を生成するための技術について話し始めた。

 これまで自力で試みようとは思ったのだが何故か出来ない。

 ひょっとしたら根本的に何かが間違っているのではないかと、最近不安に思っていた所だったのだ。



「うーん……言葉だけじゃ何とも言えないわねぇ。

 実際にどんな感じでやっているか、やり方だけでいいから見せて貰えないかしら」

「解りました。それじゃあ、やってみますね」



 竜郎はやり方だけでいいと言うので、使用制限のある《魔法域超越》は使わないで、いつも通りの方法で魔力と竜力、そして神力を混ぜながら《陰陽玉》を作り上げていく。

 最初のころよりマシになってきてはいたものの、それでも完成と同時に膨らみ始めボンッと破裂して霧散してしまった。



「って感じで、完成しても持って数秒で爆発してしまうんですよ。何か不味い事をしてますかね?」

「そうね。今見ている限りでも不味いところを発見したわ」

「──本当ですか!?」

「ええ、嘘なんか言わないわ。要は神力を上手く魔力や竜力に馴染ませられていないのよ。

 ちゃんと混ざってない状態でやるから、形だけ整える事が出来てもどんどん神力が分離して行って、分離した所に溝が出来て、そこへ魔力や竜力が流れこんで無理やり押し広げ、形状崩壊しながら破裂。って感じかしらね。

 そもそも私が観る限りでは魔力と竜力も、ちゃんと混ざりきれていなかったわ」

「そ、そうなんですか? 一緒に放出して一塊にすれば勝手に混ざるものだと思っていました。

 それで魔法とかは使えましたし」

「使えたとしても、意図した結果で魔法を作りだせなかったんじゃない?」

「ああ、確かにそうです」



 神力を混ぜた場合、超威力になる代わりにどれくらいの規模になるのか竜郎には解らなかった。

 これが注いだ量に比例して強化されてくれるのなら調整のしようもあったのだが、魔法によって変わったり、同じ魔法で同じ量でも差が出たりと安定しなかった。

 よって集団戦では危なくて使えていないのが現状だ。



「では、ちゃんと混ぜる事が出来る様になれば、魔法も望んだ威力が出せるようになるんですか?」

「そうね。これが神力に慣れてくれば、癖なんかも掴めていちいち混ぜなくても単体で望んだ威力を出せるようになるのでしょうけど。

 神力を得て百年も経っていないのなら、使い慣れている魔力に混ぜて使う事をお勧めするわ」

「百年……御助言助かります。その……それで魔力と上手く混ぜるコツとか有りませんかね」



 少し厚かましいかとも思ったが、ここまで来たら最後まで聞いてしまえと竜郎は開き直る。

 だがエーゲリアは特に嫌な顔をする事無く、知恵を貸してくれるようだ。



「……そうね。まず例えるのなら魔力を水、そして竜力を塩としましょう。

 さっきの状態だと、水に塩が溶けきっていない状態だった。

 そんな状態の中に神力──油を注いでいったらどうなると思う?」

「混ざらない!」

「正解よ、アイちゃん」

「やった!」



 ようやく解る話が来たと食いつく愛衣に、微笑ましそうにエーゲリアは笑っていた。

 竜郎もそれに笑ってしまいながらも、愛衣の頭を撫でながら話を続けていく。



「では、どうすればいいのでしょう? 水と油というほど混ざりにくいのなら、そもそも混ぜるのは不可能なのでは?」

「そうね。魔力や気力は普通の人間が扱いやすい様にと生み出されたエネルギーで、神に関係するものが使う神力とは性質がかなり違っているもの。

 でもね。魔力を魔力でない別のエネルギーに変えてしまえば、神力に近いエネルギーに変換できるわ」

「竜力と完全に混ぜるとかでしょうか?」

「おしいわね。厳密には竜力も使うけれど、ただ竜力として使って混ぜたら塩水に油を入れるだけよ?」



 そこで竜郎は今までエーゲリアが言ってきた言葉を、一旦頭の中で整理していく。



(魔力を魔力でない別の力に──竜力は使うけれど、ただ竜力としては使わない……。

 気魔混合か? いや、でもアレはエネルギーをぶつけるだけって感じで、普通の魔法みたいに闇や光に変換できるような力じゃない。

 …………だがまてよ。竜力は魔力や気力の代わりになるが、魔力や気力ではない。ならもしかして──)



「竜力を気力に見立てて魔力と混ぜていけば、気魔混合に近いけれど、また違う魔力と竜力が混ざり合った新しい形を生み出す──というのは可能ですか?」

「あら、ほぼ正解よ。良く解ったわね。

 といっても、混ぜると言うよりは魔力の粒子を竜力の粒子で覆うといったイメージになるかしら。

 ただ混ぜ合うだけでは塩水だとしても、その方法だとまた違う力になるの。

 そうすると魔力が混じっていても神力としっかり結合しあい、魔力、竜力、神力が理想的な形で合一するわ。

 その神竜魔力とでもいうべきエネルギーで、タツロウ君の言う《陰陽玉》を作り上げれば、破裂することなく、安定した器を創造する事が出来るはずよ」

「それじゃあ、まずやらなきゃいけない事は、むやみやたらに混ぜようとするのではなく──」

「竜力と魔力の別の融合法を習得する事ね。後でやり方を教えてあげるわ」

「ありがとうございます!」



 竜郎はようやく光明が見えてきたと、満面の笑みを浮かべてエーゲリアに頭を下げた。

 それにエーゲリアは、祖母が孫を見守る様な温かい笑みで返した。


 そうして竜郎が新しい知識を得たのを見て触発されたのか、今度はリアがエーゲリアに質問をし始めた。

 それは主に鍛冶についてで、魔力頭脳や天装の仕組み、もっと効率のいい魔法式などなど、言える範囲でエーゲリアは快く答えていってくれた。


 エーゲリアは久しぶりに知らない人と知り合えて、さらに沢山お喋りできたことを嬉しそうにし、竜郎やリアも得る事が多くホクホク顔だ。

 そこで竜郎は貰ってばかりでは申し訳ないと、とっておきの代物をプレゼントする事にした。



「エーゲリアさん。おかげで悩みが一つ解決しました。改めてお礼をしたいので、これを受け取ってくれませんか?」

「あら、なにかしら」



 エーゲリアは何が出てくるのかと楽しそうに目を細めて、竜郎の動向を見守ってきた。

 そんな中で竜郎が取り出したのは、ララネスト2のブロック肉三体分。

 少しだけ数も増えてきたので、自分たち用に食材として用意していたものなのだが、今回得たものの価値からしたら安いものだ。



「これはララネスト……とも少し違うようだけれど」

「これはララネストを素体に作った上位種です。そしてその味も……」

「あれよりも美味しくなっているというの!?」

「泣けるほど美味しいんだよ! エーゲリアさん!」

「そ、それは素敵ねぇ~」



 愛衣の満面の笑みを受けて、エーゲリアはウットリした顔でテーブルに積まれたララネスト2のブロック肉を見つめていた。

 やはり美味しいものと言うのは、どれだけ高みに上った存在であろうとも魅力的なようだ。



「貰って直ぐなんてはしたないけれど、少し頂いてしまってもいいかしら」

「ええ、もちろん。早く食べないと傷んでしまいますし」

「そうよね。シュバン、一部は食糧庫にしまって調理してきてくれる」

「かしこまりました」



 茶竜人のシュバンは恭しく一礼すると、テーブルに置いたブロック肉の山をいとも簡単に持ち上げると、奥へと持って行ってしまったのであった。

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