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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二編 竜大陸

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第435話 真なる竜エーゲリア

 さっそくジャンヌに乗り込もうと準備を始めた途端、レーレイファから待ったがかかった。



「いやいや待て待て。さすがに馴染みのない竜が──それもそれほどの力ある竜が飛んでいては、どこでどんな混乱をきたすか解ったものではない。

 大人しく私に乗っていけ」

「レーレイファさん」



 竜郎はレーラが先ほど言っていた「乱暴で濡れる」という発言に、あまり乗りたくないなと思い妥協案を探ってみることにした。



「おまえは誰だ? 人の子……というには、いささかおかしなほどの力を感じるが……」

「竜郎です。以後、お見知りおきを」

「タツロウだな。して何用か」

「この子──ジャンヌという名前なんですけど、ジャンヌに乗って飛んで行くのが不味いと言うのは解りました。

 だったら竜ではなく、船でレーレイファさんに付いていくと言うのは有りでしょうか?」

「船か? まあ、それなら私も随伴できるし構わないが、一体そんなものが何処にあるのだ?」



 ここまではレーラと言えど指定の船でなければ来られないのだから、そんなものは持ちこんでは来ていないはずだとレーレイファは暗に告げる。

 だが竜郎は、本当につい最近立派な船を手に入れたばかりなのだ。



「それを見せる為に、一度海へ降りてもいいですか?」

「ああ、構わぬが……いったい……お、おいっ!」



 レーレイファの了承を得るや否や、竜郎はその身一つで崖から海へとダイブした。

 それにレーレイファは慌てた表情で、落下していく竜郎を目で追った。



(見た目は恐そうだけど、結構いい人……というか、いい竜なんだな)



 心配そうに見つめてくれている姿に、竜郎はふふっと笑みを浮かべると、背中に月読がスライム翼を広げて海上より少し高い場所で浮遊する。



「なんと面妖な……」

「それじゃあ、船を出しますねー」

「えっ、ええ?」



 レーレイファがまだ状況を掴み切れていないうちに、竜郎は《強化改造牧場》に入れていた魔物船──長門を海上に召喚した。



「なんと面妖な!?」



 突如現れた全長40メートルサイズの巨大な船──それも魔力を持った魔物の船が現れたことに、レーレイファは目を剥いた。



「あなた、さっきからそればっかりね」

「ししし仕方がないだろう! なんなのだ! お前のツレは!!」

「ふふっ、面白いでしょ。他の子達も変わってるから、きっとエーゲリアも気に入ってくれるわ」

「た、たしかにな……。この私ですらこれほど驚かされたのだ。あの方ならきっと」



 最近は図書館ばかりに人々は向かい、畏れ多いからとエーゲリアまで新たに訪ねてくるような気骨者もおらず、どことなく暇そうにしていた主の顔をレーレイファは思い出す。

 そしてレーラと意気投合するほどに知的好奇心の塊のような主なら、きっと竜郎達を前にした時、嬉しそうに笑ってくれるだろうと心が弾む。



「ならば早くするのだ! 私が先導してやれば誰も咎める事も無い!」

「それじゃあ、みんなー長門に乗り込んでくれー」

「はーい! ──とうっ」

「ピュュイイイーー」「ヒヒーーン!」

「とうっですの!」「だーいぶっすー」

「よっこいせっ──と」

「リアちゃん、おばさん臭いわね……」

「ほっといてくださいっ!」



 愛衣は《空中飛び》で虚空を蹴りながら、カルディナとジャンヌはそのまま飛んで行き、奈々とアテナは《真体化》して自前の翼と《分霊:鏡磁模写》とそれぞれの方法で、リアは蜘蛛足の魔道具を起動して空中をピョンピョン飛びながら、レーラは空中に作った氷の足場を《氷瞬歩》で渡りながら、竜郎と天照、月読、影に潜む鬼武者幽霊の武蔵が待つ魔物船長門に乗り込んでいった。


 《真体化》した者達は《成体化》まで戻り、皆がちゃんと乗り込んだことを確認した竜郎は、進行方向を指差して出発の合図を叫んだ。



「全速前進!」



 船の甲板ににょきっと出てきたガイドさんが敬礼すると、長門は徐々に速度を上げていき、10メートルほど海面から頭を出して先導し案内してくれるレーレイファの後を追っていく。



「これならもっと速度を上げてもよさそうだな。タツロウよ、まだ行けるか?」

「まだいけますよ。うちの子は凄いんですから」

「ははっ! そうか! ならばついてこい!」

「いくぞ長門! 本気を見せてやれ!」

「────ボーーーッ!」

「はやいはっやーーーーい!」



 船底から響き渡る様な低音を響かせながら、魔物船長門は魔力を燃やしグングン速度を上げてレーレイファの後を追う。

 途中何度かこの島に住まう竜種が驚いて目を向けて来るものの、レーレイファを見ると何も言わずに頭を下げて見送ってくれた。

 島の名前にもなっている主のエーゲリアの眷属という事で解ってはいたが、ここでは相当な権力者のようだ。


 逃げ遅れた魔物はレーレイファが弾き飛ばしたり、美味しそうな魔物は齧ったりしながら島をなぞる様に半周程廻った所で、島の奥へと入っていく広い水路が見えてきた。


 こちらをレーレイファが一瞥すると、そちらへと頭を向けて入っていく。

 水路の入り口を見張っていた竜種達には話が行き届いているらしく、特に慌てた様子も無く竜郎達も素通りさせてくれた。


 そのまま島の内部へとズンズン入り込んでいく。

 その道中、巨大な四角い建物の数々が目に付いた。



「あれが大図書館よ。同じ大きさのものが島中に建てられていて、その全てが繋がっているのよ」

「へぇ」



 そんな目線に気が付いたレーラが説明してくれた。


 やがて図書館よりもさらに大きな、ドーム状の神殿のような白を基調とした建物が見えてきた。

 その建物の入り口には、レーレイファと同格クラスの竜が二体待ち構えていた。

 向かって左に立っているのは、全長十五メートル級の茶色いトカゲのような、額から二本の角を生やした地竜。

 向かって右にいるのは、青色の鱗を持つ腕が翼となっているタイプの飛竜だ。


 水路はその二体から数メートル手前辺りまでだったので、ゆっくりとレーレイファと共に減速していき止まった。

 するとそこで降りるようにレーレイファが言ってきたので、長門にタラップを降ろしてもらい水路の端にかけてゾロゾロと降りていく。

 そしてレーレイファも長い体を蛇のように動かして、水路から出て神殿へと向かっていく。



(水辺以外でも活動できるのか)



 そんな事を竜郎が思っている間に、レーレイファが二体の竜に話しかけていく。



「ジギルゾフ。ファイファー。セテプエンリティシェレーラ及び、その同行者を連れてきた。

 これより先は頼んだ」

「おう」「任せてくれたまえ」



 ジギルゾフと呼ばれた地竜は軽く頷きながら返事を返し、ファイファーと呼ばれた飛竜は片翼を折って胸に当て、大仰でキザな所作で軽くお辞儀し応えた。



「じゃあ、付いてきてくれい」

「こっちだよ。人間たちよ」



 二体の声に反応するかのように、神殿の巨大な扉が開かれていく。

 そして二体の竜に先導される形で先へと促された。

 竜郎は別れ際にぺこりとレーレイファに頭を下げてから、追いかけ入っていく。


 神殿内は真っ白で、品のいい調度品や絨毯が引かれていた。

 そして入ってすぐの場所に、上へと伸びる緩やかな階段があり、そこを上っていく。

 上った先にはまた大きな扉があり、その前で一度止まると二体の竜が振り返った。



「これより先にエーゲリア様がいらっしゃいます。失礼の無いように」

「まあ普通にしてれば大丈夫だから、あんまり硬くなるなよ」

「解りました」



 飛竜が場を引き締め、地竜が固まった空気を少しほぐしてくれた。

 それに感謝の気持ちを込めながら、竜郎は代表してレーラと並んで前に出て了解の意を伝えた。



「んじゃあ、開くぞ」



 地竜のその声と同時に、重そうな扉が自動的に開かれていく。

 二体が進み始めるので、竜郎達も遅れないように付いていく。


 そうして進んだ先でまず目に入ったのは、強大な力を持った二体の竜。


 一体は深紅の体で十メートル程の大きさをし、解りやすいほどにドラゴン像を体現したかのような外観。

 もう一体は二メートルほどと竜にしては小ぶりの、堅牢な黒鱗を身に纏った人型の竜。

 その一体一体がカルディナ達よりも格上。

 竜郎達が全員でかかって勝率一割あるかないか……、と言った馬鹿げた存在が二体もだ。


 ──そして、その二体を侍らせて黄金の柔らかそうな座布団に座り、こちらを見下ろしてくる竜を見た瞬間。

 レーラ以外の全員が目を見開いて立ち止まった。


 あまりにも違いすぎるのだ。

 侍っている二体だけでも別格の強さを秘めているのだろうが、それとも比べ物にならない。

 自分たちが強者だとは思っているし、世界的に見て竜郎達がそうなのは間違いない。


 だが目の前のプラチナに輝く鱗を持つ、二十メートルはあろう真なる竜に勝てるかと言われれば、絶対に勝てないと断言できた。

 例え竜郎達と同格の存在と百人束になって挑もうとも。


 竜郎達も何度か化物と呼ばれたこともあったが、この存在を知ってしまうと鼻で笑いたくなる。

 それが見ただけで伝わってくる。

 絶対に逆らってはいけない存在だと、どんなに鈍い者でも生き物なら遺伝子レベルでそう理解するだろう。


 竜郎達はあまりの存在感に固まっていると、プラチナの鱗を持つ真竜エーゲリアがニコリと柔らかく微笑んでくれた。

 それだけで固まった心と体がほぐれていき、大いなる母に抱かれ守られているかのような安心感さえ抱いた。



「行こう」

「うん」



 レーラにやや遅れる形で再び歩きだし、優しく微笑みかけてくれるエーゲリアのいる場所まで行くのであった。

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