第433話 愛衣の神格化
その夜。本日は海で捕って来たばかりの魚をメインに作った夕ご飯を食べながら、皆で集まって次の行き先について話し合っていた。
「まず今回の時代は88年前の6月から7月で、日にちはそこまで細かくなくてもいいみたいよ。
そして場所は、竜大陸イルルヤンカの帝都イフィゲニア。
そこに行ってイシュタルに会うのだけれど、その前にイシュタルの母──エーゲリアに会っておいた方がいいかもしれないわ」
「女帝さんのお母さんに? なんでまたそっちからなの?」
突如追加された旅の項目に、愛衣がそう素直にレーラへ問いかけた。
「それはね。基本的にイルルヤンカは、他種族の出入りを禁じているのよ。
その中でも帝都は、竜種の中でも選ばれた者以外は入れない特殊な場所なのよ。
だからまずはそっちに行って面会予約を取って貰えば、スムーズに会えるでしょ?」
「そのエーゲリアさんとやらには、そんなに気軽に会えるんですの?
皇帝ではないにしろ、その母なのですし」
「そっちは大丈夫よ。エーゲリアとは昔からの知り合いだし、イルルヤンカの支配海域ではあるけれど、大陸より少し離れたエーゲリア島って所で賢竜なんて呼ばれていてね。
そこで彼女は種族を問わずに知識を求めてやって来た人間に、言える範囲で太古から蓄えてきた知恵を授けているの。昔からお喋り好きなのよね、あの竜は」
「賢竜? どっかで聞いた名前だな……」
竜郎は思い出せない様だが、現リャダスで町長をしている妖精族──マリッカ・シュルヤニエミの口から出た言葉だ。
彼女はそこで古代種について教えを受けていたので、先祖返りした獣人エンニオの祖先にあたる種族を言い当てたのだ。
「そうなの? まあエルフや天魔、妖精なんかの間では有名な話だから、その種の誰かからか聞いたのかもしれないわね」
「そうかもしれないな」
「それで話を戻すと、彼女──エーゲリアの住まうエーゲリア島なら、さっきも言った通り他種族を迎える土壌は出来ているのよ。
だからいきなりイルルヤンカ大陸に乗り込むよりは、すんなり行けるわ」
「確かにそちらの方が波風立てずにすんなり行けて、むしろ時間短縮にもなりそうですね」
ここまでの話を纏めると、まずは今から88年前の6月か7月あたりに転移。
そこからいきなり竜大陸に向かうのではなく、少し離れた場所にあるエーゲリア島を経由してイフィゲニア帝国の首都イフィゲニアを目指すという流れになる様だ。
「にしても88年前かあ。ひとつ前が四万年も前だったから、なんだか最近の様な気がするね」
「でも88年なんて言ったら、ほぼ人間の一生分だ。
そう考えると結構昔なんだなとは思えるだろ?」
「それもそっか。88年も前だと私のお祖父ちゃんも生まれてないだろうし」
今後の流れを皆で共有した所で、奈々が失ってしまった牙の武器の進捗状況の話へと移っていく。
「うーん。とりあえず素材は決まったんですが、あと六日ほど欲しいですね」
「そこは適当に済ますわけにもいかないからな。急がすつもりはないから、納得のいくまでやってくれ」
「はい。任せてください」
リアはしっかりと頷いてくれた。となると、その間竜郎達は何をしようかという話になってくる。
目下やるべき事はカルディナ達の神力を使った体造りの特訓。
爺やの為にお手伝い要員の補充。
それから──。
「あ、そういえば愛衣に《神格者》の称号を取得させなきゃいけないんだった」
武神に早めに頼むと言われていたのに、竜郎はすっかり忘れていた。
「およ? そう言えばそんな話あったねえ。どうすればいいんだったっけ?」
「確か6種類の纏を同時にやる事……じゃなかったっすか?」
「そうそう。それであっているはずだ」
「えーと……今私が出来る奴は……」
愛衣は気力操作の熟練度的に、魔力頭脳が搭載された武器でなければ纏が出来ない。
なので今現在所持している装備品の中から、魔力頭脳が搭載されているものをピックアップしていく。
「剣術の宝石剣でしょー。体術のグローブでしょー。弓術の軍荼利明王でしょー。鞭術と投擲の鞭でしょー。そいでもってリアちゃんがつい最近修理してくれた鎧の気力による盾術でしょー。
ひのふのみの──おっ、ちょうど6種類あるじゃん!」
「6種同時ってのはいけそうか?」
「うーん……やったことは無いけど、多分できると思う。明日やってみるね!」
常人であるのならまず六種同時となると気力が足りない。
さらに普通なら纏を一種制御するだけでも、とんでもない気力操作技術を有している必要があった。
だが愛衣は気力量はとうに十分。さらに制御は全て魔力頭脳がやってくれるので問題はないだろう。
そんなこんなで翌日となり、今回は全員が見守る中で、さっそく愛衣は鎧を着こみグローブをはめ、右手に宝石剣を持ち、左手には鞭を持つ。
そして軍荼利明王を腰に装着し、鎧から吹き出す気力で盾を展開すれば準備は万端だ。
朝食前にさくっとやってしまおうという事で、時刻はまだ七時前。
冷たい潮風が皆の頬を撫でていく。
「それじゃあ、いっくよー!」
「おー」
そんな中でも元気に手を上げ、愛衣は全ての魔力頭脳を起動した。
パリンと帰還石が割れる音が一斉に鳴り響き、フィーーーンと機動音が鳴り始める。
ここで愛衣は順番にやろうか、それとも一気に全種同時にやろうか迷った末に、後者を選択した。
「はああっ!」
気合の声を上げ全ての武器に気力を流し込み、纏のイメージを伝えていく。
一度気獣が飛び出すように形を作ったそれぞれの装備の中に、それを押し込めるようにして定着させていく。
そしてその全てに、それぞれの気獣を示すシンボルマークが刻まれた。
《豪傑なる武帝 より 武神の愛娘 にクラスチェンジしました。》
《スキル 神体昇華 を取得しました。》
《称号『神格者』を取得しました。》
「クラスチェンジしたよー!」
「おーやったなあ」
「うーん!」
『でかしたぞ! アイ!』
「うひゃあ!?」
突如聞こえてきた声に、愛衣はびくりと飛び上がった。
「どうした愛衣!」
「いや、なんか声が……」
「声?」
『武神だよ。すまないね、タツロウ君。彼女はずっと話したくてうずうずしてたから』
(魔神か?)
『ああ。そうだよ。悪いんだけど、しばらく話させてあげてくれないかい?』
(はあ。それは別にかまわないけど……)
愛衣も最初は目を白黒させていたが、今では表情をころころ変えて楽しそうにしている。
どうやら武神と馬があったのだろう。
レーラも氷神から知らせが入ったのか、微笑ましそうに愛衣を見ているだけだったが、他の面々は急に納得顔になった竜郎に説明を求める様な視線を向けていた。
なので武神について、皆にもしっかりと説明しておいた。
そこれから暫くした後。
(じゃあ、またね! 武神ちゃん!)
『暇になった時でいいから、今度はアイから話しかけてきてね!』
(わかったよ)
『絶対だぞ!』
話も一段落着いたのか、愛衣と武神の会話は終わった。
話した内容を竜郎が聞いてみれば、本当にたわいのない話ばかりで、主に地球での愛衣の家族や生活などを話してあげたら、嬉しそうに聞いてくれたそうだ。
そうして落ち着いた所で、愛衣のクラスチェンジについて話が変わっていく。
「武神の愛娘て、完全に身内扱いって事だな」
「しかもただの娘じゃなくて愛娘って……。どんだけ姉さんの事が好きなんですか、武神さんは」
「俺の方が愛衣を愛しているけどな!」
「はいはい。それで、どんなスキルを覚えたの?」
「おーい……」
竜郎の色ボケ発言を華麗にスルーしたレーラが、愛娘という存在にどんなスキルを送ったのかと興味津々に聞いてきた。
「えーとね。《神体昇華》って奴だね。神力を消費して、神様モードになれるみたい」
「──は? ちょっとまって、なにその神様もおどって……」
「実際に見せて貰った方が早いんではないですの?」
「そ、それもそうね」
百聞は一見にしかず。愛衣は早速とばかりに《神体昇華》を発動した。
──するとバチィイッと電流が爆ぜる様な音がしたかと思えば、愛衣の髪と目の色が美しいプラチナ色へと変わっていく。
その姿はまさに《神体昇華》に相応しく、神々しさを体現したかのようであった。
「はあっ!」
その姿のまま、愛衣は誰もいない海へと向かって蹴りを放った。
するとズバアアアアーー!! と音を立てて、海が割れた。
「どこのモーゼさんだよ……」
「これは驚きですね……」
「あんびりーばぶる。ですの……」
「かっこいーっすー!」
「ピュィー……」「ヒヒーーン!」「「────!?」」
竜郎達でもやってできないことは無いだろうが、今の愛衣は本当に適当に虚空を蹴りあげただけだ。
その余波でここまでできるというのは、ちょっと常識から外れた竜郎たちでも驚きを禁じ得ない。
この中で一番年長者であるレーラであっても、割れた海が戻っていく様を一生懸命観察しながら目を丸くしていた。
──と。そんなことをしている間に、愛衣の髪の色は戻ってしまった。
時間にして5秒も経っていないかもしれない。
「ふぅ──。神力が無くなっちった」
「そうか、魔力でも竜力でもない神力限定のスキルだったな。
しかし神力を使ってもそれが限界とか、俺の世界創造よりも消費量が酷いかもしれないな」
魔力よりも上質なエネルギーである竜力。さらにその上をいく神力でコレなのだから、その消費量には舌を巻く。
「一瞬だけ使って、超火力をお見舞いするって感じで使うといいかもしれないわね」
「うん。そうするー」
それから神格者については竜郎やレーラと同じ効果だったのを確認し、愛娘でもそこは変わらないのだなと、そんな感想を抱いた竜郎なのであった。
次話より竜大陸編始動です。




