第432話 骨が欲しい
「うーん。全力発動で10秒程度か……。これはもう少し使い方を工夫してみる必要があるな」
「でもその子のレベルが上がれば、そのぶん時間も伸びるよね?」
「けれどあの消費の仕方を見るに、数分程度まで伸ばすにも結構なレベルが必要になりそうね」
そう言う皆の視線の先には、疲れ切ってフワフワと浮かんだ状態で、肩で息をしている鬼武者幽霊がいた。
完全に消費しきってしまうと強制別離するらしく、そのうえで暫くは戦力にも出来そうに無い様子。
なかなか使いどころが難しそうである──というのが、竜郎以外の認識だった。
(だが……やりようによっては……それに実際に使ってみて解ったが、あのスキルは……。
今は流石に無理そうだが、おいおい研究させてもらおう)
だが竜郎には何やら考えがあるらしく、試しておきたいことをいくつか頭の中でリストアップしておいた。
そしてその最中に名前も決まる。
命名、武蔵。なんだか武者ぽいから、それに宮本さんって強いんだよね? 的な理由らしい。
それ以外だとオニオン君という臭いがきつそうな名前になりそうだったので、武蔵を採用した形だ。
武蔵も別にこだわりはなさそうだが、強い剣豪の名前と言うのが気に入ったらしく、どことなく嬉しそうだった。
「とりあえず《憑依同化》はいざという時には使えそうだし、少し急いでレベリングをしてもらって、次の竜帝国にも連れていってみるか」
「ちょっとレベル上げたくらいで大丈夫かな?」
「その辺は少し考えがあるから任せておいてくれ」
「なら安心だね」
こうして本日やっておきたかった実験は全て終わったので、竜郎は今回の事で取りあえず必要だと思った事をすることにした。
「人骨が欲しい」
「……えーと? 何言ってんの? たつろー」
突然の妙な言葉に、愛衣は訝しげな視線を竜郎へと送った。
「いやさ、よくよく考えてみて、怪人族プラス他種族ってのは結構使い道の幅が広いと思うんだ」
「例外もあるけれど、人型で強い魔物は知性もそれなりに持ち合わせている事が多そうよね。
それに手があると言う事は道具も使いやすいでしょうし」
ただの狼よりも人狼。ただの豚よりオーク。ただの鳥より鳥人。
爺やの手伝いという観点からいえばそちらの方がいいだろうし、竜郎からしてもゴーレムだけというのも偏りすぎている気がした。
もしゴーレムだけではできない事があっても、他の種なら出来る事もあるだろう。
けれど将来的に何体も作るのなら、髪の毛をブチブチ抜いていくのも嫌だった。
エンデニエンテの称号がある限り、毛根の心配は無用になったのだが、それでも竜郎は精神的に嫌だった。
恐らく人型の魔物の骨でも適応しそうだが、いちいちそんな事に複製ポイントを使うのはもったいない。
ならば手っ取り早く大量の骨を用意できないかというのが、竜郎の考えであった。
「でも骨をたくさん用意するってさ。墓荒らしにでも行く気なの?」
「墓荒らしなんてしないさ。ただそんな事をしなくても大量の骨をわんさか手に入れる方法をさっき思いついたんだ」
「骨をわんさかっすか? それこそ幽霊船の魔物みたいにそういうスキルが──って、あれの魔卵を孵化させるって事っすね!」
「その通りだ。魔卵からなら《強化改造牧場》での強化もしやすいから、さらに上位の骨を生み出せるかもしれないぞ」
「あのさ……それって骨っていうか、骨の魔物だよね?
怪人族創造に使えるのかな?」
「生きている?魔物の人骨でも素材として使えるのかどうかは、やってみないと解らないけれど、その結果には興味があるわ。
やってみましょうよ」
レーラは幽霊船の事は魔卵作りの時に少し話していたので、何となく話の流れで理解できたようで、さっそく知りたがりの心が騒ぎ出した様子。
何処となくそわそわして、早く見せて見せてと普段の大人のような目から打って変わり、子供のような純真な目をし始めた。
それに竜郎もとりあえず頷きかえし、幽霊船の魔卵を取り出した。
等級は厳密に言えば5.6だったので、ついでとばかりに合成を数回行使して6まで上げた。
そして《強化改造牧場》へとセットする。
「さて等級6の幽霊船はどんなのになったかなっと──お、おう……」
「どれどれー…………お、おう」
竜郎が表示したシミュレーターのディスプレイには、オンボロ船ではなくなりはしたものの真っ黒い船体をし、その側面には骸骨の大きな手がムカデのように生えていた。
さらに「お、おう」ポイントとしては、船首像──フィギュアヘッドらしき物が新たに追加されているのだが、そこにいる女の像は船の前面全てを覆う程巨大で、顔は耳まで裂けた口がニヤァと不気味に笑い、目が薄赤く光っていた。
さらにさらに自由に動かせるであろう巨大な両腕には、巨大な棍棒が握られており、恐らくそれで殴って相手を沈めるつもりなのであろう。
そんな随分とアバンギャルドな船首像だった。
「強そうっすけど……乗りたいとは思わないっすね」
「確かに趣味がいいとは言えないわね……」
そんな事は竜郎も同じなので、スキルの等級が上がって新たに追加された機能、近縁種も映し出そうとした──のだが、そちらは存在しない様だった。
特殊な部類に入る魔物なのだろう。
それならばとばかりに、竜郎は見た目を改造していく。
このままではおどろおどろしすぎる。見た者に恐怖しか与えない。
もしも誰か知り合いに俺の船だぜと言って、これを紹介したらドン引きされるに違いない。
そうしてレーラにもアドバイスを貰いながら弄っていった結果。
船体は純白で青のラインを入れて爽やかな外装へ。
船自体も古臭いマストの付いたモノではなく、竜郎達の世界にもある船だ。
ただしこちらはスクリューではなく、スキルで泳ぐので機械部分はない。
さらに船内部には豪華な部屋をいくつも作っていき、物置部屋やら遊戯室も完備。食堂にキッチンも取り付ければ完璧だ。
甲板には自然公園のような環境を作り、船上プールも作った。上に伸びた展望台もあり、高い所から見渡す事も出来る。
これでのんびりとした船旅が出来るだろう。
「んで、スキルにも気を使わなきゃな」
まず潜水時にも中に水が入って来ないようにするために、魔障壁というスキルを追加し、潜水スキルもちゃんと付けておく。
防衛用の攻撃スキルもいくつか追加し、蜃気楼という幻覚を見せるスキルも追加。
他にも安全で快適なクルージングに必要そうなスキルを入れていき、今回の発端でもあるアンデットを生み出すスキルを見ていく。
「《中位骸骨魔物生成》と《上位動屍魔物生成》が、元から持っていたスキルだから……」
さすが高ランクの魔物といった所か、ここまでスキルを追加してきてもまだ余裕がある様だ。
なので《下位骸骨魔物生成》と《上位骸骨魔物生成》に加え、さらに《下位強化骸骨魔物生成》《中位強化骸骨魔物生成》《上位強化骸骨魔物生成》。
ゾンビ生成スキルも同じように上中下を取得して、その強化バージョンも──と言った具合にしておいた。
これで大体必要なものも取れたと、いよいよ魔卵の孵化に入る。
神力を注いでしまうと戦闘能力は確実に上がるだろうが、形が変わる恐れがあるので今回は自重する。
骸骨生成以外はクルーザーと潜水艦を兼ねた皆で楽しむための船なのだから、それで問題ないはずだ。
そうして竜郎はさくっと孵化させて、さっそく砂浜周辺にいた魔物を狩ってどかした後に海に浮かべてみる。
「でっかいねー! これが私たちのお船なんだあ」
通常時でも全長二十五メートル。
《船体増減築》を使えば、レベルが上がるごとに大きくも小さくも出来る様になる。
今でも四十メートルくらいまでなら大きくなれるはずだ。
さっそく竜郎達はその船に乗り込むと、甲板に設えられた公園のような所で骸骨魔物を作って貰う事にする。
「それじゃあ、《上位強化骸骨魔物生成》を頼む」
「────」
「にょわっ!? なんか出てきた!」
まだ《上位強化骸骨魔物生成》を使ったわけではないので、出てきたのは骸骨ではない。
この船には、改造前にいた船首像もしっかりと残っていた。
ただ厳密には船首像ではなく、あれは船の何処へでも移動できる本体の補助をする存在だったらしい。
なので竜郎は船内から甲板まで何処へでも好きに移動できるという特性を生かし、ガイドさん風に見た目を変えた補助装置へと改造したのだ。
それが今、竜郎の呼びかけに答えて甲板の板から上半身だけをニュッと飛び出させ、愛衣が驚いた──というわけである。
ガイドさんは少し下がるように竜郎たちに身振りで指示を出すと、空いた場所に上位強化骸骨を五体生み出した。
その骸骨たちは強化と付いているだけあって大きさは三メートルもあり、色も白ではなく灰色をしていた。
さらに全体的に骨太なので、耐久力も高そうだ。
ただ……しいて問題を上げるとするのなら──。
「これってもう人骨の定義から外れてないっすか?」
「だ、大丈夫だろ……。ははっ、形はちゃんと人じゃないか……」
「まあ、とりあえずやってみましょう」
行動に移した方が早いのは確実なので、さっそく4万年前から持ってきた始祖鳥のような魔物を取り出して、それをベースに《鳥族創造》の条件を満たす。
そして五体の骸骨魔物を《怪人族創造》の素材、人骨に見立てて二種族混合創造を行使した。
(ん? 少し魔力の通りが悪いか? だが通らないわけじゃなし、無理やり押し通す!)
気合を入れて細い管に無理やり水を押し流すような感覚で、神力や竜力の混じった魔力の激流を生み出していく。
すると多少規模に対して消費が多かった気がしないでもないが、それでも目の前には大きさ一メートルほどの鳥人間とでもいうべき存在が佇んでいた。
それは全身を羽毛に覆われて、顔はダチョウのような鳥。
嘴には小さな尖った歯が並んでいた。
翼は原始的で太い腕に羽を付けたと言った感じ。飛ぶと言うより、滑空に使うようなものだろう。
「キィーキィー」
さすがにシステムはインストールされていない様だが、落ち着いた雰囲気で暴れん坊というよりは大人しい印象を受ける。
竜郎の前にやってきて、足にギュッと抱きついてきた。
「なかなか愛嬌があっていいわね」
「ほんとうだね。よしよーし」
「キィ?」
竜郎の足にしがみついている鳥人の頭を撫でると、不思議そうな顔で首を傾げていた。
こうして竜郎は怪人族創造用の骸骨素材のめども立ったことなので、ゴーレムを数体だけ作って、あとは夜に行う今後についての話し合いまで解散となったのであった。




