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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一編 古の部族

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第431話 混合種族創造実験

 ──だが、発動する寸前になってシュンと魔力が霧散して行ってしまう。

 つまり素材はそのままでダメになってはいないが、発動しなかったという事だ。



「どったの?」

「どうやら失敗したみたいだな」

「ってことは、複合種の魔物創造は無理──または、そのスキルでは出来ませんって事っすかね」

「いや。そう言う感じではないと思うんだ」



 これがもし素材をダメにしてしまっただとか、そもそも発動の兆しも無いと言うのならアテナの言ったことにも頷けた。

 けれどしっかりと──一瞬ではあるが発動し、魔力を竜郎から吸い取ったのだ。

 ならば根本的に不可能と決めつけるには、いささか早計過ぎる。



「じゃあ組み合わせが悪いという事はないかしら?

 ずっと《精霊眼》で見続けてきたのだけれど、今回の創造系スキルを発動した時に、魔力の流れが反発しあう素材があったのよ」

「素材が反発しあうの? どれとどれが?」

「具体的に言うと、大天使の素材とアラクネの悪魔が作ったゲイジュツサクヒンよ」

「系統的にはどっちも聖と邪っすけど、悪魔の素材は反発しないで、そっちにだけ反発するんすか。

 同じ種族なら相反してても大丈夫って事っすかね」

「かもしれないな。さてそうなると、どっちを抜くかという話になるが……」



 素材的には大天使の方が勝っていそうだが、ゲイジュツサクヒン以外の素材となると死骸・腐肉・頭蓋骨からとなる。

 腐肉や死骸などの素材を使うと、ゾンビなどの臭いの強い魔物になりかねないのでパスしたいところ。

 では頭蓋骨はとなるが、こちらに大天使の頭蓋骨を使うという手もあるかもしれない。同じ素体からのものなら、反発しあう事も無いだろう。


 だが大天使素材を使った創造は先にやったばかりなので、別の素材での結果も試したいと言う気持ちが竜郎にはあった。

 ゲイジュツサクヒンも熟成を重ねた相当にレアな素材には違いないのだ。

 それで生まれてくる傾向の様な物も知っておきたい。


 そんな二つの選択肢から、最終的に竜郎が選んだのは──。



「ゲイジュツサクヒンを使って、大天使は抜こう」

「おりょ? そっちにいくんだね」

「色々試したいからな。それにやりたいのなら、まだ素材は用意できるんだから、また今度やればいいさ」



 ということで天魔族創造枠から大天使素材を全部回収して、アラクネ天魔素材を各個数を二倍にして置いた。



「これなら文句ないだろう。よし、それじゃあカルディナ達も一緒に頼むぞ」

「ピュィィー」「ヒヒーーン」「了解っす~」「「────!」」



 これで準備は整った。さっそくリベンジとばかりに、竜郎は六種族混合創造を決行した。



「おっ、いけそうだ──一気にいくぞ!」



 カルディナ達も竜力を大量に流してくれ始める。

 それらを絡め取って竜郎は一気に神力も混ぜ込んで、一瞬の詰まりも無いように押し通していく。

 すると素材がどろりと液状に溶け始めたかと思えば、それら全てが混ざり合っていく。



(やっぱり複合創造も可能なのか!)



 内心竜郎は喜びながら、がんがんエネルギーを流し込んでいく。

 流し込んでいく──流し込んでいく──流し込んでいく…………。



(いつ終わるんだよ!?)



 今の所まだ詰まりは造っていないが、この勢いのままにあと十分も流し続ければ枯渇してしまうだろう。

 これは奈々も連れてくるべきだったかと後悔の念がよぎる。


 そのまま五分が過ぎ、六分ほどエネルギーを流し込んだところで、ようやく液状物質から形を成し始めた。


 そこから漏れてくるエネルギーは凄まじく、プラズマのような光がバチバチと周囲に撒き散らされる。

 次第にそれも大人しくなっていき、周囲を覆う光も収まっていくと、そこには灰色の煙のようなもやが漂っていた。



「……なに、あれ?」

「煙か何かの様ではあるけれど……」

「凄いエネルギーを感じるっすね」



 皆が一様に訝しげな視線を送っている中で、竜郎だけはそれが何か不思議と解っていた。



「ちゃんと姿を見せてくれないか?」

「──ギョイ」



 発声はあまり得意ではないのか、しわがれたガラガラ声が響き渡る。けれど、しっかりと「御意」と言葉を話した。


 すると煙のような灰色の靄が実像を帯びていき、本当の姿を現した。



「鬼のお化け?」



 そこには全体的に少し透けるほど存在が薄く、サイズ感は成人男性ほどの上半身はスケイルメイルで覆われて、下半身より下は無い。

 痩せこけた銀髪の鬼の頭に、左は赤く右は緑、一番大きな中央は白金色の三本角。

 腕は四本あり、上二対は黒く筋肉の発達したもの、下二対は左右で赤と緑と色違いの、まるで赤ん坊の腕を無理やり大人の腕の長さまで引き延ばしたかのような、細く折れそうなものが付いていた。

 背中には漆黒のコウモリのような翼が一対に、その上に申し訳程度にちょこんと小さな妖精の羽が一対生えた四翼。


 愛衣が言った鬼のお化けというのは大体その通りで、簡単に言葉で形容するのなら、下半身の無い鬼武者幽霊といった所であろう。



「しかも……こいつは魔王種候補だな。スキルに魔王の威圧を持っている」

「素材は貴重な物ばかりだったし、注いだエネルギーからしてもそれくらいは産まれてくるわよね……。

 しかし魔王科に属する存在を眷属にする人間と知りあう事になるなんて、生まれてこの方考えたことも無かったわ」

「レベル300いったら、魔王種の眷属にランクアップするっす。

 愉快な事になって来たっすね~」

「そこまでこの子を育てるのが大変そうだけどね」



 愛衣達が話している傍らで、竜郎は眷属のパスを通して所持しているスキルを調べていた。



「《風太刀》というのと《火小太刀》というスキルを見せてくれ」

「ギョイ(御意)」



 そう言うや否や頭に付いている左の赤い角と右の緑の角を、太い方の腕に付いた手で握る。

 そしてズルズルと引きずり出すように角を引っ張っていくと、それぞれの角を持ち手に、赤い小太刀と緑の太刀がその手に握られた。



「角が刀になっているんすね」

「あの大きさの頭に、どうやってあの長さの刀が収納されているのかが気になるわ」



 一人別の事に思考を持って行かれている中で、赤角小太刀の刀身が燃え始め灼熱色の刃へと変わる。

 そして緑角太刀の刀身には風が渦巻きはじめ、緑色に光り輝く刃へと変わる。


 そのまま鬼武者幽霊は二本の太刀と小太刀を構えて、簡単な剣舞を披露し始めた。



「──ッ──ッ──ッ──ッ──シッ!」

「おおっ。《剣術》を持っているだけあって、なかなか様になっているな」

「キョウエツ(恐悦)」



 別に頭が悪いわけではなく、発声が苦手な為に短い単語でしか話す事は出来ない様だ。



「じゃあ次は《火球》と《風弾》を──」



 竜郎の言葉にうなずくと同時に、下二本の赤ちゃんのような細腕が動き始め、その小さな手の平から十センチほどの火のボールと、三センチほどの風の弾丸が左右から一つずつ射出された。

 威力は《風弾》の方が強いようだが、《火球》はやや広い範囲に攻撃をくらわせられるのが特徴の様だ。


 そのほかにも《浮遊》やら《天魔飛翔》、移動速度や動体視力を跳ね上げる《瞬動》。

 煙のようになって姿を消す《煙化》、気配を薄くする《存在希薄》などを覚えていた。

 だが中でも飛びぬけて竜郎の目を引いたのは、《憑依同化》というスキル。



「憑依した相手と同化して、ステータスやスキルを共有するスキルらしいな。

 やってみるか」

「それって、大丈夫なの?」



 幽霊を自らに憑依させると言い出す竜郎に、愛衣は不安そうな顔をする。

 だがそれに竜郎は、大丈夫だと頭を撫でた。



「こいつは俺の眷属だ。魂の底から俺への忠誠を誓っているから、悪い事にはならないさ。

 これがテイムした魔物って事なら、さすがに自分に入れるのは遠慮しただろうが……」

「森での出来事を考えれば、契約だけで縛られた相手を体に入れるのは危険っすからね」

「そういうことだな」



 通常時なら従魔でも問題ないだろうが、意図せぬ時に万が一契約が切れてしまえば、最悪体を乗っ取られかねない。

 そんな危ない真似は流石に出来ない。


 けれど、この鬼武者幽霊は眷属だ。

 裏切るぐらいなら──主に剣を向けるくらいなら、自らの死を望むほどに存在全てを創造者に捧げている。

 それならば例えアムネリ大森林のような特殊な力場に気が付かずに足を踏み入れたとしても、絶対に反旗を翻すことは無い。


 そう言う意味では、眷属がこのスキルを持っていた事は竜郎にとって僥倖といえよう。



「ってことで、俺に《憑依同化》を」

「ギョイ(御意)」



 鬼武者幽霊は煙のような姿に転じると、竜郎の中へと吸い込まれるが如く入り込んでいく。



(とくに変わった感じがあるわけでも──ああ、そういうことか)



「どお? たつろー。見た目的には何にも変わりはないけど」

「今のところは何ともないな。というか、このスキルは消耗が激しすぎて、常時同化は難しそうだということが解った。

 だから今は体の中で待機して貰っている状態だな」

「それじゃあ、ちゃんと発動するとどうなるのかしら?」

「それを今からやってみる。皆は少し離れていてくれ」



 皆が竜郎の言葉に従って、やや距離を取った場所に退避する。

 竜郎はスキルの発動を命じる。

 すると竜郎の目が赤く輝き始め、三本の霊的な薄らとした角が生えてきた。

 そして肩からは残像のように薄らとした鬼武者幽霊の腕が現れて、角を引き抜き太刀と小太刀を手に持った。

 その状態で竜郎は天照を握り、《瞬動》を発動させた。


 まさに名の通り瞬く間に動き始め、本来の竜郎では出せない速さで駆け出した。

 そしてそのまま竜郎の魔法でさらに強化された《風太刀》と《火小太刀》を纏った刀を振り回し、自身の手に持った杖で魔法を使って周囲に攻撃を放っていく。



「すっごーい。私と手を繋いでなくても、あそこまで速度が出せるようになるんだ」

「うーん。でも言っていた通り、消耗は激しいようね」



 愛衣が驚いて声を上げている中で、レーラは冷静に精霊眼で経過を観察していた。

 それによると見る見るうちに鬼武者幽霊の気力や魔力が減っていき、同化の深度が薄くなっていくのが良く解るらしい。

 どうやら《憑依同化》を維持するのだけは、全て鬼武者幽霊側の元のステータス値で負担しなければならない様だ。


 発動してから約10秒ほどで完全に同化は解けて、シューと湯気が噴き出すかの如く灰色の煙が竜郎から飛び出していったのであった。

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