第430話 天魔族創造実験
《天魔族創造》に必要な素材は、天魔翼・天魔頭蓋骨・天魔脳・聖物質(聖者の骨も可)・邪物質(アンデッドも可)である。
そんな中から竜郎が用意した素材は、天使の翼五枚と悪魔の翼五枚だった。
いうまでもなく、その素材元は大天使とアラクネ天魔のものである。
竜郎はこの《天魔族創造》という名称を見た時に、閃くものがあった。
これはジャンヌの《天族創造》と、奈々の《魔族創造》の複合スキルであると言える。
なので天族と魔族もどちらも作る事が出来る──のは当たり前だ。
だがこのスキルがあるのなら、どちらも内包した天族魔族混合のハイブリッド種が生み出せるのではないかと竜郎は思い至ったのだ。
そしてもしそれが出来るのなら、もう一つ竜郎が試したい事への試金石にもなるだろう。
だがそうはいっても少し今回の実験に対しては不安もあった。
素材の価値が釣り合わないのだ。
アラクネ天魔の黒翼も十分に上物ではあるのだが、大天使の素材は超極上といってもいい素材だ。
ともすれば大天使素材が強く影響し、黒翼の意味がなくなるどころか足を引っ張って、素材にしては弱い魔物が生まれかねない。
「だがまあ、やってみるんだけどな」
「そうそう。ぐだぐだ考える前に行動しなきゃ」
「考えなさすぎも痛い目に合うんだけどな」
「ぶー」
頬をふくらます愛衣のほっぺたを突いてしぼませると、竜郎はさっそくスキルを行使した。
変にエネルギーをケチって生成過程に詰まりを作ってしまうと、それだけで魔物の質が劣化する事は前の実験で把握ずみなので、一気に力を注いでいく。
レベルも上がった事で一瞬の詰まりもなく、今まで以上に大量の魔力や竜力、神力が消費されていく。
これはもしや爺やに匹敵するほどの知能を持った存在が生み出せるかもと、期待を込めて素材が溶け合い形を成していく過程を眺めていく。
「貴方がボクのご主人様?」
鈴の音のような美しい中性的な声が響き渡った。
その子は少年とも少女ともどちらとも区別がつきにくい、非常に整った顔立ち。
背丈は小学5年生くらいで黒髪、やや眠たげな印象を与えるぼーっとした黒目をしている。
服装はゴシック調で半ズボンに装飾のなされたブーツを履き、俗に言う皇子系ファッションのような服装。
所々にあしらわれた金の装飾と黒銀のボタンに彩られ、どこのやんごとない身分の坊ちゃんですかと問いかけたくなるほどだ。
だが天魔族創造で生み出されたというのに背中には翼は無く、人種と言われても誰もが信じそうである。
「そうな……んだが。君は天魔種でいいのか? 羽が見当たらない様だが……」
「はね……? ああ、ボクには《天駆》っていう空を渡るスキルが有るから、生やさなくても飛べるんだよ」
「生やさなくても、という事は生やす事も出来るという事か?」
「うん。できるよ。ご主人様はどっちが見たい?」
「えーと、どっちもみたいから交互に頼む」
それだけで何となく察した竜郎が少年?にそう言うと、「わかったー」と幼い喋り方で集中し始める。
それから一秒もしない間に背中から純白の鳥のような翼が一対飛び出した。
そしてそれと同時に中性的な顔つきが、若干少年よりになった。
服装やその装飾も少し男の子寄りに変化し、純白のロングコートをいつの間にか羽織っていた。
さらに髪と目の色が金色に染まっており、これならハリウッドで美少年子役としてやっていけそうだ。
「こっちになると天族系統のスキルが強化されて、魔族系統のスキルが使えなくなるんだ。
あとは魔法系も使いやすくなって、武術系が使いにくくなるの」
声もどちらかと言えば少年寄りになり、若干中性的な声から低めのものとなっていた。
「それじゃあ、もう一方は?」
「ちょっと待ってて──ふぅ」
今度は少年寄りの顔立ちから少女寄りの顔立ちへと変化し、髪の毛も少し伸びてボブヘアーになる。
服装は完全にゴスロリ系統の女の子女の子したものになり、漆黒のコートを羽織っている。
そして髪と目は金から黒銀色に染まっていった。
翼も黒へと変化して、カラスのような羽がばさりと音を立てて広がった。
「こっちは魔族系統のスキル強化、天族系統のスキルは使用不可になるの。
あとは魔法系は使いにくくなるけど、武術系は使いやすく~って感じかな。
基本的に天使形態と悪魔形態で、性能が真逆になるって覚えておくと解りやすいかも」
「女の子の方が物理的戦闘能力は高いんだね」
「ご主人様? この人はだあれ?」
「──っと、そうだな。まずはここにいる皆を紹介しておこうか」
そこで竜郎はそれぞれの名前と関係性を説明していき、ここにはいない奈々やリアについても話しておいた。
愛衣はお母さん的認識で、カルディナ達に至ってはお姉さんという認識になり、リアとレーラはお友達という感じで納得したようだ。
それから名前はすったもんだあった挙句に、色々な色を持っているという事で彩と名付けた。
そして最後に、彩はまだ大きな特徴があるのだと言う。
なのでそれを見せてくれるように言うと、何と少年天使と少女悪魔に分離して二人になってしまった。
どうやら《性質分離融合・極》というスキルを所持しているらしく、ステータスはほぼ半分になるが天使も悪魔も両方同時に存在させることが出来るもの。
戻る時はどれだけ離れていても──それこそ世界の端と端にいたとしても、戻りたい方へ転移するかのように一瞬で戻れるので、使いようによっては回避や移動手段などにも用いることが出来る。
別にこの状態でも特に魔力なんかを消費するわけでもないらしいので、常時二人の状態でいる事も出来る様だ。
という事で男の子は彩人、女の子の時は彩花。そして一人の時は彩と呼ぶようにすることに決めた。
さらに《分体不滅》というスキルを持っており、分離状態の時に両方同時に殺されない限り、殺されなかった方に戻るだけという、ある意味チートな能力を持っていた。
なので片方を危険な所に送り込んで偵察に向かわせて情報を集め、例え死んでも安全な場所にいた方へと統合されるだけなので何のダメージも受けないという。
ただし分離状態でない時に殺されてしまっては意味が無いので、そこは注意が必要だろう。
「さて、後はテイム契約が出来るかどうかだが……」
竜郎がテイム契約を行使しながら二人の天使と悪魔を見るが、彩はとくに何も感じていない様子。
「まあ、無理だよな」
「魔物に対して行うのがテイム契約なのだから、そりゃあ出来ないわよ」
「うーん。そうなると今の段階で常時連れまわすってのも危ないっすね」
素の能力はなかなか高そうだが、レベルはまだ1。イモムー程度ならそこそこレベルが高くても難なく仕留められるだろうが、竜郎達の戦いにおいては加わるのは難しい。
「なら一先ず蒼太やワニワニ隊と一緒に行動して貰って、爺やにもサポートして貰いながらパワーレベリングしたらどうかな?」
「ここに湧いて出る魔物のレベルは高いし、暫くここで頑張れば俺達の補助が出来るようになるかもしれないな」
「「じゃあ、そうする」」
彩人と彩花が二人で返事をした。だがこれから爺やに頼むとなるとまた仕事を増やす事になるので、もう数体ゴーレムを創造してあげようと心のメモに書きつけた。
「それじゃあ、彩人と彩花は豆太たちと一緒に大人しく見ててくれ。
つまらないんだったら城の中に遊びに行ってもいいが。どうする?」
「「ご主人様と一緒にいる」」
ご主人様呼びもどこかで改めさせたいなと竜郎は思ったものの、今は実験を続けたいのでとりあえず話を進めていく事にする。
「そうか。なら飽きたら好きに遊びに行っていいからな?
ただし外は止めとけ。城の中だけだぞ」
「「うん、わかってる」」
見た目は幼くても中々に利口なようで、豆太に左右から抱きついてそのモフモフに癒されながらも、大人しくこちらを見守り始めた。
その姿は容姿端麗な双子のちびっ子二人が、超巨大な子犬のぬいぐるみに抱きついているようにしか見えない。
「こういうのをインスタ映えと言うんだろうなあ。写真とっとこっと」
「あ、私もー」
スマホでパチパチと撮影していると、それが何か気になったようで豆太に乗って彩人と彩花も近寄ってくる。
すると二人ともカメラというものが気に入ったらしく、豆太を被写体にして竜郎と愛衣のスマホで遊び始めた。
何だかんだ子供なのだなと微笑ましく見つめながら、竜郎は最後の実験を再開する。
天魔族創造では、天と魔の双方が混ざった特殊な存在を生み出すことに成功した。
はたしてそれは同一のスキルで出来る事だからか。というのが、今回の竜郎の最大の調査項目だった。
例えばオークという豚人間の魔物が、この世界にも存在する。
だがそれは《獣族創造》だけで作れるかと言われれば微妙だ。
オークは獣──豚ではあるが、怪人──人型の魔物でもあるのだから。
だが竜郎は、《獣族創造》も《怪人族創造》も両方有している。
ならば狙ってオークを作ることは難しくても、それを両方に必要な素材を用意し、同時にそのスキルを行使すれば獣と怪人双方の特徴を持った魔物を生み出せるのではないか。そう思ったのだ。
もちろんそれは例にすぎず、同一人物が持った創造系スキルなら混ぜる事が出来るとなれば、二種類と言わず三種類、四種類を混ぜ込んだとんでも魔物が作れるかもしれない。
その検証のために、竜郎は素材を吟味しながら地面に広げていく。
「何と何を混ぜてやる気なの?」
「どうせなら二種類と言わずに、いきなり数種混ぜ込んでやってみようと思ってる。
その為にカルディナ達も呼んだんだしな」
二種類程度なら竜郎一人でも何とかなりそうなものだが、三種以上となるとエネルギーが足らずに詰まりが生まれたり、最悪素材だけ消費して失敗という事も有りえる。
それだけは阻止したい。
「というわけで、今回のレシピは《天魔族創造》、《死霊族創造》、《鬼族創造》、《妖精族創造》、《怪人族創造》、《魔生族創造》の六種複合魔物に挑戦だ」
「いきなり飛ばしていくのね。でももしそれで生まれてくる魔物がいるのなら、是非見てみたいわ」
「種類だけ聞くと訳が解らなさそうな奴が出てきそうっす」
「それじゃあ、さっそくやってみよー!」
それぞれ必要な素材は──。
《天魔族創造》:天魔翼・天魔心臓・天魔脳・聖物質・邪物質。
《死霊族創造》:死骸・腐肉・頭蓋骨・呪具。
《鬼族創造》 :角・鬼脳・鬼心臓・鬼髪。
《妖精族創造》:妖精結晶・妖精脳・妖精心臓・妖精羽。
《怪人族創造》:人骨・人心臓・人脳・人髪。
《魔生族創造》:属性物質。
となっている。
なのでここで竜郎が用意したのは、《天魔族創造》用には大天使の心臓、脳、翼。アラクネ天魔の心臓、脳、翼。で、心臓と脳は二個ずつ使って合計十個。
《死霊族創造》用には、谷底の悪魔が作り続けたゲイジュツサクヒンを十個。
《妖精族創造》用には、火属性の妖精結晶の上位素材でもある妖精煌結晶を十個。
《魔生族創造》用には、風山で手に入れた古代魔物の化石が変化した物質を十個。
そして残る《怪人族創造》と《鬼族創造》なのだが……。
「《怪人族創造》には俺の髪を使おうと思っている。人骨とか人脳とか人心臓とか無茶言うなっての」
「なら私のも使う? どうせ称号効果のおかげで直ぐに元に戻るし」
「あら、なら私のも使ってもいいわよ。種族柄禿げてしまう事も無いのだし」
「人外に足を踏み入れてる俺と愛衣の髪に、何万年も生きたクリアエルフの髪か……それだけでも凄いのが出来そうだな」
「髪には魔力が宿ると言われているし、他と比べてもそこまで素材的価値が下がるわけじゃないと思うわ。
心臓や脳なんかだと、よりグレードは上がりそうだけれど」
「それは流石に不味いっすよ」
カルディナ達の毛は抜いたらすぐ消えてしまうので使えない。
また再生させる事を前提に、手足を切り落としてその骨を使うという手も無いわけではないが、戦闘中にもげたならまだしも、自発的に切り落としてまでやりたいとは思わないので却下した。
なのでここは人間組の髪を使うことに決まった。
「それで鬼の素材なんだが……黒鬼の角と脳は確定として、ここに注目してほしい」
「ん? なになに?」
竜郎が指をさしたのは、素材を紙に纏めた表の中の鬼族創造の覧。
「他の素材にははっきりと鬼。と書かれているのに、角だけは書かれていないんだ」
「という事はつまり、鬼さんの角以外でも角なら何でもオッケーって事になるのかな?」
「だと思う。だからここでは竜の角も入れてみたいと考えている」
「それだと是非鬼族創造だけの場合でも試してみたくなるわね」
「ああ。けどここで一緒に実験してしまう事にするよ」
という事で《鬼族創造》の素材には黒鬼角、黒鬼脳が二つずつに、ダンジョンボスの竜角六つを選択した。
「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「鬼は入ってるけどねー」
全ての素材を並べた竜郎は、《天魔族創造》、《死霊族創造》、《鬼族創造》、《妖精族創造》、《怪人族創造》、《魔生族創造》の六種複合魔物創造をするべく、その全てのスキルを混ざり合うように意識しながら同時に発動させたのであった。




