表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一編 古の部族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

429/634

第427話 やすらかに

「……そろそろいいんじゃない?」



 ナハムが飛び降りて少し時間が経ち、ピアヤウセ族が微動だにせずに谷底の方を向いて祈っている中、竜郎に愛衣が小さく話しかける。

 それに頷きながら、竜郎は認識阻害を自分にかけて少し後ろに下がっていく。



「それじゃあエセマジシャン、ミスタータツローが、あいつの嘘を本当にしてやるか」

「うん。そうしてあげて」



 愛衣が優しく手を握り微笑みかけてくれるのに、竜郎も笑い返す。

 そして天照へと魔力を渡していき、大規模なショータイムの始まりを告げる。



「いくぞ──」

「「「「「な、なんだ!?」」」」」



 突如深く広い崖を埋め尽くすほどの光が飛び出し、曇天の夜空を貫き天へと昇る。

 ピアヤウセ族全員が目を丸くして、今まで見たことも聞いたことも無いその現象に釘付けになる。


 そして光が徐々に収まってくると、突如谷底の方から叫び声が響き渡る。



「オノレエエエエエエエエエエエエーーーーー!」



 それは以前ナハムに聞いた伝承に出てきた谷底の悪魔の、男とも女とも取れない人々に嫌悪感を抱かせるキーキーした声だった。

 その声が段々と近づいてきて、ピアヤウセ族の人々は一斉に崖から距離を取り始めた。

 すると辺りを闇が覆い始め、崖の縁に何か黒いモノが手をかけた。

 そしてガバッと這い出してきたのは、大きな大きな影で出来た悪魔だった。



「あ、悪魔だ!」

「族長は仕留めきれなかったのか!?」

「そんな!?」

「もう終わりだああああーー!」

「ま、待て! 奴の背中を見てみろ!」



 皆が慌てふためく中、ヤハナは立ち塞がる様に前に出ていた為、直ぐにそれに気が付き指をさした。

 なんと影で出来た悪魔の背中には、無数の光の剣が突き刺さっているではないか。

 そして悪魔はよろけながら何とか崖から這い出し、地面に四つん這いになっていた。

 どう見ても弱り切っているのだ。



「オノレェサルドモガァアアアアア……ヨクモ、ヨクモヤッテクレタナァアアア!!」

「「「「「ひぃっ」」」」」「「「「「キャーーー」」」」」



 谷底の悪魔と思しき存在が剣を背中に刺したままその場に立ち上がり、一番手前にいたヤハナに手を伸ばそうとする。

 それにピアヤウセ族の多くが男女問わず悲鳴を上げた。けれどヤハナだけは毅然と睨み返した。


 ──だが、その瞬間。闇夜を切り裂き巨大な光の剣が崖の底から飛んできて、悪魔の脳天に突き刺さった。



「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッーーーーー」



 悪魔は伸ばした手をぶらんと垂れ下げ、よろめきながら地面に倒れ、影の粒子が体から溢れて消滅していく。



「マサカ……マサカ……アンナ奴ガ、コノ集落ニイタナンテェェェェエエ…………──────────」



 そうして悪魔は完全に消滅した。

 キーーンと耳が痛くなるほどの静寂が包み込んだのも束の間、一斉にピアヤウセ族全員が天へと叫ぶ。



「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!」」」」」」



 中には涙を流し喜ぶ者や、狂ったように踊る者。ただただ静かに目を閉じる者。手を組んで亡き者達へと祈りをささげる者。

 そんなさまざまな感情で溢れかえる。



「父様が、父様がやってくれたんですね!」

「そうだ! 兄者が谷底の悪魔を倒したのだ! お前の父、ナトゥンカハムプファが!

 誇れ! その存在を! お前には兄者の血が色濃く流れているのだ!!」

「はいっ!」

「俺も、俺も兄者と同じ血が流れている事が誇らしい!

 何百年も、我らの父祖が誰も成しえなかった事を、兄者はやり遂げたのだ!!

 うおおおおおおおおおおーーーーー!!」

「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!」」」」」」



 ヤハナの雄たけびに全員が呼応するかのように、再び天へと叫んだ。


 そんな状態がしばらく続き、ようやく熱が冷めてきたところでケイキ改めケビムイルキジェーダが台座へと上がっていく。

 皆が何事かと視線が集まる中で、小さな体で力いっぱい叫んだ。



「偉大なる父、ナトゥンカハムプファから族長を受け継いだケビムイルキジェーダである!

 これより我らは悪しき因習を捨て去り、新たな風習を作ろうと思う!」



 そこで一度ケイキは言葉を切り、ゆっくりと溜めてから口に出す。



「今日この日を偉大なる父が悪しき者を見事打ち破った記念日とし、毎年祈りを捧げようではないか!」

「それはいい、新たなる族長よ! このピアヤウセ一の戦士ヤハナトゥーザ。賛成の意を示すぞ!」

「俺もだ!」

「俺も!」「私も!」

「ならば我が父──いや、我らが父に祈りを!」

「「「「「我らが父に祈りを!」」」」」



 そんな風景を後ろから眺めていると、愛衣が苦笑しながら竜郎の方を向いた。



「やりすぎちゃったのかな? まるで神様みたいになっちゃったよ?」

「だなあ。けどあれだけ熱烈に信じてくれてるんだから、あいつも本望だろうさ」



 先ほどの演出は全て竜郎の魔法によって構成されたもの。

 今回使ったのは闇魔法、光魔法、時空魔法に、昨夜新たに取得した影魔法と音魔法。

 まず音魔法で谷底の悪魔らしい声を作成し、時空魔法で転移させて谷底から発声させる。

 そして闇魔法で暗闇を作りながら、影魔法で作った形だけを真似た悪魔像を動かし、背中に光魔法の剣を刺してそれっぽさを演出。

 また音魔法で作った声を転移させて、適当にその場に合わせた言葉を発しながら喋っているように見せかける。

 そして最後に影の悪魔像を立たせて、谷底の方から光魔法の大剣を転移させて射出。

 影魔法で作った人形にそれを上手い事さしこんで、やられたようにすればエセマジシャンタツローのショーは終幕だ。


 この時代であれだけの演出が出来る人種の魔法使いなど想像すらできないだろうし、誰も全て張りぼての三文芝居だとは疑いもしない。

 こうしてナトゥンカハムプファという英雄を生み出したのだ。



「それじゃあ、俺達は退散しようか」

「もういいの?」

「ああ。もう俺達は必要ないだろうしな」



 背中を向けて歩き出す中、一度後ろを振り返ってみれば、誰もこちらを気にもせずに熱心に谷底に向かって祈りをささげている光景が広がっていた。

 そこには誰一人として悲壮感はなく、明るい希望を胸に抱いているように見える。



「だね。それじゃあ、行こっか」

「あっ、そういえばレーラっちが言うには、この辺にこの時代だけの魔物がいるのを見たって言ってたっすよ?」

「何っ!? それは帰る前に確保せねば! ほら、皆! 早くいくぞ!

 何処にいたんだ、レーラさん?」

「えっとたしか──」



 レーラに大体の位置を聞くと、竜郎は駆け足で先陣を切るようにして走り出した。

 それに皆が微笑みながら背中を追いかけ、数日間世話になったピアヤウセ族の集落を後にしたのだった。






 そして竜郎が意気揚々と探しに行った魔物とは──。



「お前かーーい!」

「あら知ってたの?」

「あはは。あれの解体現場を集落で見たからね」

「ああ、そうなのね」



 そこにいたは、2メートルはあろう巨大なカエル。

 それも背中にイボイボが付いた、ピアヤウセ族にベラウベレイと呼ばれていたアイツである。

 だが「背中のイボには油が詰まっていて、怪我をした時にそれを塗ると治りが早い──」という事を事前に聞かされていたので、何かの役に立つかもしれないと念のため狩って収納しておいた。


 これでもうこの時代に用はなくなった。なので愛衣がさあ帰ろうかと口にしたところで、竜郎が不意にそれを遮った。



「悪い。ちょっと野暮用を思い出した。皆はここで待っていてくれ。すぐ戻る」

「誰も付いていかなくて大丈夫?」

「ああ。今回だけは一人で行きたい気分なんだ。ごめんな、愛衣」

「うーうん。別にいーよ。それじゃあ、待ってるから早く帰ってきてね。

 じゃなきゃ寂しくて拗ねるからね!」

「ああ、愛衣にそんな思いはさせないよ」



 そうして軽く口づけを交わすと、竜郎は転移魔法で野暮用がある場所まで飛んできた。

 周囲は真っ暗闇で、竜郎は血生臭い臭いが広がる中で光魔法を展開して辺りを照らす。

 するとそこには真っ赤に血で染まった地面と、何かの死骸らしきものが原型をまるでとどめずに散らばっていた。



「上では神様扱いされてる奴の死にざまがこれかよ。なあ、ナハム。お前は本当にそれで良かったのか?」



 当たり前だが誰もその問いには答えてくれなかった。

 竜郎は探査魔法や土魔法、水魔法などを駆使して、死骸の破片を血の一滴まで出来る限り掻き集めると、《復元魔法》を行使した。

 するとそこには先ほどまでは何の死骸かすら判別しにくかったのに、生きているかのような綺麗な死体が出来上がった。



「……………………」



 それに一瞬、ここで《死霊族創造》で魔物の素材として使って連れていこうかとも考えがよぎる竜郎。

 だがそれも一瞬のことで、直ぐに首を振って頭からその考えを押しやると、丁寧に作った土の棺に入れていった。

 それから地中深くに沈めていく。



「せめてお前の父祖の眠る場所で眠るといい。……じゃあな、ナハム」



 ここで串刺しになって死んでいったピアヤウセ族達の棺がある辺りまで沈めると、竜郎は静かにそれだけ言い残して元の場所に戻っていった。



「もう野暮用はすんだのかな?」

「ああ、はやく愛衣に会いたくて急いで戻って来た」

「ほんと? じゃあ、それを態度で見せてほしいな」



 愛衣が全てを見通す慈母のような微笑みで手を広げて見せた。

 それに竜郎は飛び込む様に走り寄り、愛衣を思い切り抱きしめた。



「おかえり、たつろー」

「ただいま、愛衣」



 そうして二人はウットリした目で見つめるカルディナ達魔力体生物組と、いつ終わるのかと見守るリアとレーラに見つめられながら、暫く抱きしめあった。



「それじゃあ、奈々の武器もダメになっちゃったし、一度拠点に戻ろうか」

「それがいいですの!」

「だねー。さすがに普通の部屋で休憩もしたいし」

「レーラさんもそれでいいか?」

「ええ、いいわよ。次のはちょっと厄介な事になるかもしれないし、十全の状態で行った方がいいわ」

「よし。一先ず行き先は元の時代の俺達の拠点へ──GO!」



 カルディナ達にも竜力をおすそ分けして貰いながら、竜郎はかなり慣れてきた転移魔法を使い、約4万年前という時代から姿を消したのであった。






 その後。ピアヤウセ族は何度かの危機を乗り越えながらも、実に数千年の時を生き抜いていく。

 しかし獣人達との戦争によって衰退していく亜獣人達が、版図を強引に広げていったことにより、あっけなく壊滅させられることとなる。


 ──だが、そこから逃げ延びたピアヤウセ族の人々は、他部族へ入ったり、どこかの国に属したり、はたまた海へ出たりとそれぞれ散っていき、その血は今も絶える事はなかった。


 そうして生き延びた中にいるナハムの直系の子孫は、今現在カサピスティの王都で商人をしている。

 そこそこやり手で有名で、近い将来さまざまな珍しいモノの販売に手を伸ばしていく竜郎達と出会うことになる。


 けれどピアヤウセ族と関係があった事は本人は勿論、竜郎達も死ぬまで気が付くことは無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ