表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一編 古の部族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

427/634

第425話 揺るがぬ決意

 やはりと言うべきか。

 今回の相手は今までにないほど高レベルだったこともあり、全員でその経験値を割り振ってもレーラ以外のレベルが上がった。


 竜郎は、《『レベル:292』になりました。》と。

 愛衣は、《『レベル:253』になりました。》と。

 カルディナは、《『レベル:129』になりました。》と。

 ジャンヌは、《『レベル:129』になりました。》と。

 奈々は、《『レベル:129』になりました。》と。

 リアは、《『レベル:238』になりました。》と。

 アテナは、《『レベル:129』になりました。》と。

 天照には、《『レベル:114』になりました。》と。

 月読には、《『レベル:114』になりました。》と。


 これにより全員が称号《越境者》を得た事になるため、このパーティ間の相互強化率がさらに上昇した。


 唯一残念だったのは、魔王種や竜種ではなかったので《~殺し》の称号が強化されなかった事だろう。

 レーラ曰く、さすがに天魔殺しという称号はないらしい。


 けれどそれ以上に竜郎は上質な天使の素材を入手できてホクホク顔だ。

 今後この素材を使って、色々作れそうだとリアも同様にニヤニヤしているので、義理とはいえ本当の兄弟の様である。


 天使の死骸も治癒する前に斬り落とした翼や羽の一枚にいたるまで丁寧に回収し、そこらじゅうに張っている氷を解かすと、竜郎達はまたジャンヌに空駕籠を背負って貰い谷底から飛び出していく。

 今回も認識阻害はバッチリとかけているので、ピアヤウセ族の人々には気が付かれる事なく上空を横切って、今回の収穫として見せる為の魔物がいる、少し離れた所へと降り立った。


 野生の魔物はこの時代限定の魔物だったこともあり、竜郎が丁重に死体を収集し、他にも何体か狩ってから日が暮れる前に集落へと戻っていった。


 壁付近で見回りをしていた一人が手を振ってくれたので、それに愛想よく対応しながら中へと入っていく。

 すると直ぐにナハムがやって来たので、今日の収穫についておすそ分けしたいから、その相談をしに行くと他の人達には言って、またナハムの一番大きな家の奥の間へ招かれた。


 そこで草の御座に座り、竜郎は今回の事の顛末に語って聞かせた。

 終始ナハムは神妙な顔で谷底の悪魔について聞き、今まで自分たちが何のために自殺させられていたのか聞いた時には歯を食いしばって悔しそうに目を閉じていた。



「それで、一応証拠というわけではないが、死体も持ってきている。

 これはこちらで必要なものだから渡す事は出来ないが、これで少しは今の話に信憑性が増すだろう?」



 竜郎は《無限アイテムフィールド》から、谷底の悪魔と呼ばれていた存在の死骸を、土魔法で作った適当な皿のような入れ物に入れて、その場に広げた。



「…………これが、我々が恐れ続けていた悪魔の正体か。なんとおぞましい姿だ」

「でもでも、これでもう自殺なんてしないで済んだね!」



 愛衣がそうナハムに笑いかけると、ナハムも嬉しそうに涙を浮かべ、口元に笑みがこぼれた。



「あぁ……ああ! そうだとも! これでケイキは自殺などしないで、これから自由に生きていける……。本当に、ありがとう」



 そう言いながら心からの感謝を示すように頭を下げるナハム。

 普段ならそこで直ぐにでも頭を上げるように言うのだが、竜郎はナハムのその言い方に引っかかるものがあった。



「待て。そう言えば俺達が谷底の悪魔を倒しに行くと言った時も、息子の事しか言っていなかったが、今回飛び降りる予定だったのはケイキ君ではないだろ?

 なんで今お前は、ケイキ()──と言ったんだ。

 それではまるで自分は自殺するみたいじゃないか」



 そこでナハムは否定するでもなく、嫌な沈黙が流れた。

 言葉が解っている竜郎、愛衣、リア、レーラは眉を顰め、他の面々も空気が変わった事に直ぐに気が付いた。


 そんな妙な緊迫感の中で、ナハムが口をゆっくりと開いた。



「………………みたいではない。俺は明日死ぬ必要があるのだ」

「──は? 何を言っている。もうお前たちを殺しにやってくる谷底の悪魔なんてのは、もうこの世のどこにもいないんだぞ?

 信じられないと言うのなら、谷底まで連れてってやるから付いてこい。隅から隅までみせて証明してやる。

 だからそんな必要なんてないんだ。なんでそれが解らない」

「別に俺はタツロウ達が谷底の悪魔を倒した事を疑ってなどいない。

 真実そこで死んでいる化物がソレなのだろう。

 だがな、タツロウ。それは俺がお前やレーラから、神々しさすら覚える妙な力を感じたから信じたのであって、それを感じ取れない他の者達からしたら、どう頑張っても所詮よそ者でしかないのだ。

 そんなお前たちの言葉を素直に信じるとは思えない」

「だったら全員谷底に連れていってやる。それでいないと解れば信じるしかないだろうが」

「いいや。どこかに隠れているかもしれない。実は谷底ではなく、別の所にいるだけかもしれない。

 そんな疑心暗鬼に囚われるだけだ。それくらい深く深く我々の魂にまで、谷底の悪魔と言う存在は根付いてしまっているのだ」

「で、でもさ。それとナハム君が死ぬのと何の関係があるの?

 逆に死ななくても何も起きなかったーってなったら、皆信じるでしょ?」



 愛衣がもっともな意見を言い、竜郎も黙ってその意見に頷いた。

 だがナハムは首を横に振る。



「それは無理だ。いくら俺がここでは慕われていると言っても、飛ばないと言えば無理にでも落とされるだけだ。

 それにな。俺はこれまで族長として、飛びたくないと言った奴を無理やり突き落とすよう命じた事だって何度もあるのだ。

 それを遺族の奴らが受け入れてくれたのは、いずれ俺もそういう運命にあると知っていたからだ。

 なのにそんな族長の俺が、もう大丈夫だからと言って飛び降りないなんてのは許されるはずがないだろう。

 これまで族長だのなんだのと優遇してくれた人々に、今までの犠牲者に申し訳が立たない。

 これは俺なりの族長としてのケジメでもあるのだ」

「……だ、だがそれじゃあ実在していた谷底の悪魔から、いもしない偶像の悪魔に変わっただけじゃないか!

 それじゃあ、お前の息子だっていずれ同じ目に遭うだけだぞ!」

「そんな事にはさせない。今回私が死ぬことで、その楔からピアヤウセ族の民を解放する。いや──してみせる、絶対に」

「……ますます意味が解らない。なんでナハムが死ぬと谷底の悪魔がいなくなったと信じる事になる」



 ともすれば《全言語理解》が誤訳しているのではないかとすら思いたくなるほど、竜郎達には荒唐無稽な話だった。

 だがナハムは冗談でもなんでもなく、本気でそう信じている目で竜郎を真っすぐ見つめてきた。



「飛び降りる時に最後の口上を述べる時間がある。

 その時に俺の命と引き換えに、谷底の悪魔を殺すと宣言する。

 そしてプアには、その後三日以上集落から出るように言えば良い。

 四日目を過ぎてから何事も無く帰って来れれば、俺が本当に殺したのだと信じるだろう」

「プアって、確かナハムの一人娘だろ? まだ小さいし、三日以上外にいたらどの道生きていけないだろ。娘を無駄死にさせる気か?」

「なに、外と言っても集落の境界線である壁の外側で暫く生活して貰うだけだ。

 それほど離れて過ごす必要などない。他の奴らを入れ替わりで送って面倒を見て貰えばいい」

「……ならそれはいいとしても、そんな子供だましで信じるのか?

 だったらこの死体を見せたほうが、よっぽど信じられると思うが?」

「言ったであろう。タツロウ達は、どこまでいってもよそ者なのだと。

 だが俺は自分で言うのもなんだが、誰よりも慕われ信じられているという自負がある。

 タツロウたちの言葉は……特に谷底の悪魔に関していえば、どんなに明確な証拠を出されても心から信じる事は出来ない。

 だが俺の言葉なら、どんなに荒唐無稽な言葉でも信じて一度は従ってくれるはずだ。

 それだけの関係を俺は、ここで築いてきたのだからな。これまでここでずっと」



 確かによそ者と言われた数日しかここにいなかった竜郎から見ても、ナハムの慕われようは半端ではないとすぐに解る。

 誰もが彼を敬い、誰もが彼を尊敬し、誰もが彼を愛しているのだ。確かにどんな事を言っても信じてくれそうではある。

 特にそれが最後の遺言であったのならなおさらだ。

 部族民もナハムの娘プアも、何も疑うことなくその指示に従ってくれることだろう。


 そう思ってしまうと、今回ナハムが死ぬというのが最善の方法に思えてきてしまう。

 数百年かけてピアヤウセ族に染みついてきた恐怖を拭いさるには、ナハムの言葉と行動以外には不可能だとすらいえる。


 だが。竜郎には一つ、ナハム以上に自分の事を信じさせる力を持っている。

 それは呪と闇魔法での洗脳だ。それで谷底の悪魔が消え去ったと教え込めば、ナハムは死なずに済むではないか。


 そんな思い付きを口にしようとしたとき、レーラには何を言おうとしたのか解ったのか、肩を掴まれてナハムには解らないイルファン大陸語で止められた。



「駄目よ。タツロウ君。言葉で説得するのならまだしも、魔法で無理やり人の生き死にを変えるのは。

 そんな事をすれば、今後あの方々の協力は得られないかもしれないわ。

 それでもいいの?」

「──あ」



 そうだ、と。竜郎は谷底の悪魔を殺そうかどうか迷った時に、等級神に言われた事を思い出す。

 ただでさえ過去改変などと言う、どこでどう今後に関わってくるか解らない行動中に、不用意に知的生命体の生き死にを歪めてしまっていいわけがない。

 自分の感情だけでそんなことをしようものなら、竜郎は神々からの信用を失ってしまうだろう。

 そうなればもう二度と竜郎は自分の家族には会えないし、愛衣も同様に悲しむ結果になることは明白だ。


 自分たちの幸せと、ナハムの命。そのどちらかを天秤にかけた時、それがどちらに傾くかなど問いかける必要すらない。



「──なんとも、なんともできないのか?

 なあ、レーラさん。本当にナハムの命を救う手だてはないのか?」

「…………逆に聞きたいのだけれど。何故タツロウ君は、そこまで彼の命にこだわるの?

 こう言うと冷たく聞こえるかもしれないけれど、彼とは出会って数日しか経っていない……言うなれば赤の他人なのよ?」



 とてもではないが自分たちの命運が関わっている状況で、必要以上にナハムに関わろうとする竜郎にレーラは疑問を抱く。

 そこで竜郎自身も、なぜこんなにもナハムを助けたいと思うのか疑問を抱いた。

 だが前にも言った通り、これは魔法や特殊な力が働いているわけではない。

 それはカルディナもリアもレーラも、そして竜郎自身も断言できる。


 けれどそうなると余計に解らない。だがここでナハムが犠牲になり、死んでいくのは嫌だと思う自分が確かにいるのだ。



「あー……。何を言っているのか解らないが、タツロウが俺のことを案じてくれているのは良く解った。

 いやはや、男にまでモテるとは。俺の魅力も捨てたものではないな! はははっ!」

「お前っ。こんな時に何をふざけた事──」



 あまりにも場違いな軽いノリに竜郎が怒ろうとすると、それはナハムに遮られた。



「いや、すまない。場を和ませようとしただけなんだが、怒らせてしまったようだ。

 だが出会って数日だと言うのに、俺の事をそこまで案じてくれること、本当に嬉しく思う。

 恥ずかしい話ではあるが、俺は今まで同等の立場で話してくれる相手はいなかった。

 そう言う意味では、友と呼べる者は生涯できないものだと思っていたのだが、まさか死ぬ寸前に俺の事をそこまで心配してくれる友が出来るとは思わなかった。

 ありがとう、タツロウ。最後にお前という人間と知り合えて良かった」

「ナハム……」



 そこでナハムは竜郎を抱きしめた。

 それは別に妙な意味があるわけでもなく、ただただ親愛に溢れた動作だっただけに、愛衣も何もしないで見守っていた。

 竜郎も振りほどくことも無く、一度だけギュッと抱きしめ返して離れた。



「最後に聞くが、本当に明日死ぬつもりなのか?」

「ああ。俺は今まで落とされてきた者達への責任と、これからのピアヤウセ族を悪魔の呪縛から解き放つため。

 喜んでこの命を捧げよう」

「………………そう、か。しょせん俺はよそ者だ。これ以上もう何も言わないさ。

 ナハムがそれでいいと言うのなら好きにすればいい」

「たつろー……」



 どこかやけっぱちに聞こえた愛衣は、そっと竜郎の手を握った。

 それに竜郎は優しく微笑み、手を握り返す。

 心の底から応援する事など出来ないが、それでもその決断を揺るがす事が出来ないのは理解した。

 だがそれならば、その死が出来るだけ無駄にならないようにしてやる事は出来るのではないかと思い至ったのだ。



「ナハムが俺の事を友だと言うのなら、俺はお前の死が万が一にでも無駄にならない様にしてやる」

「ん? それは一体どういうことだ?」

「それはな──」



 そうして竜郎は、この時代最後の大仕事について語っていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ