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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一編 古の部族

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第420話 圧倒

 そこで何が起こったのか、谷底の悪魔には理解できなかった。


 数千と言う影の触手針を一斉に伸ばした、圧倒的な手数による広範囲攻撃。

 しかもその触手は大まかだが操作できるので、敵の防御を避けて刺す事も出来る。

 さらに毒も付与されているので、一本でも刺されば悪くて即死、良くても体調は崩すはずだ。

 今まではこれで一本も刺せなかった事などないし、特に今のように多人数相手には効果的であった。


 だがそれは空から飛来した聖なる拳型の隕石の連打によって、その一切合財を強制的に破壊された。

 それはジャンヌの《聖竜連鉄槌》。竜郎達の目の前に向かって、それを落としまくったのだ。

 周囲の被害はレーラが氷で覆ってゼロ。竜郎達も月読がセコム君を展開した上で竜障壁で覆っていたので衝撃すら感じていない。

 けれど谷底の悪魔の方は隕石の衝撃で後ろまで吹き飛ばされて、驚愕の眼差しでこちらを──というよりもジャンヌに見入っていた。



「聖竜だとっ!? 馬鹿な!!」

「ヒヒーーン!」



 現在ジャンヌは《聖竜鎧装》を纏っているので、誰の目から見ても聖なる力に満ち溢れていた。 

 そして外見もカルディナ達と違って、《真体化》すると竜以外の何物でもない。

 となれば、一目見ただけでどういう存在なのか理解できるだろう。


 一方、谷底の悪魔は奈々と同じ邪に属する存在。

 ジャンヌとは、お互いに苦手な相手とも言える。


 だが聖に属する天族ならばいざ知れず、ジャンヌは生物の頂点に位置する竜種だ。

 下級竜の聖竜ならば複数体。中級竜であっても一対一なら、やり方によれば勝つ自信もある。

 だがどう見てもジャンヌは上級竜以上なのは間違いない。

 この時点で谷底の悪魔から、勝つという選択肢は完全に消えた。



(どぉーすりゃいいんだぁ。こりゃあよぉ)



 作品をちらりと見ると、分厚い氷──それも自分よりもずっと魔法的に優れたそれで覆われていて、どう見ても持ち出せる雰囲気ではない。


 では単身逃げれば──とも思うが、ジャンヌ以外も、とてもではないが侮れる存在ではないのに、背中を向ける事など出来ようはずもない。



「あのさぁ……。さっき作品作りをやらないって言えば許してくれるって言ったよなぁ?

 ありゃぁ、まだ有効かぁい?」



 とれる手段など、降伏しかなかった。

 それを聞いた竜郎は考える。既に殺す気でいたが、もし本心から止めると言うのなら一考の余地は有るか無いかと。



(強力な恐怖心を植え付ける事が出来れば、変な事もしなくなるか……?)

『タツロウよ。少し良いか?』

(等級神? どうした突然?)

『本来ならあまり口出しはしないようにしておるのじゃがな。

 アヤツの心根はそんな事では決して治らん。もともと精神的にも強靭な種族じゃ。例え恐怖という楔を打ち込んでも、しばらくすれば同じことを繰り返すじゃろう』

(まあ、そうだろうな。その可能性もあるかと考えただけで、生かしておくと今後ややこしい事になりそうな気がするし)

『うむ。その考えは正しいのじゃ。

 本来なら転移先の過去や未来で知的生命体の生き死にに、不用意に関わるのは我々の立場からしても看過出来る事ではない』

(だろうな)



 かなり繊細な調整の上で成り立っている竜郎達の行動だけに、やたらめったらに介入していけばどこかに狂いが生じる可能性も出てくる。

 そう考えた上での、『生かしておいた方がいいかもしれない』だった。



『じゃが、あ奴は強靭な精神力を有しておる故、恐怖などで縛ってもいずれまた同じことを繰り返すじゃろう。

 そうなるとまた別の場所で世界力の集合が起き、今後の我々の行動にも狂いが生じる可能性が高い。

 それもソヤツの生き死によりも大きな狂いにのう

 じゃから今ここで殺してほしいのじゃ。もし同じ知的生命体を殺すと言う行為に忌避感があるのなら、我々のせいにしても構わぬ』

(いや。ちゃんと俺達の意志で殺すよ。誰の為でもなく、俺達は俺達の世界に帰る為に、家族を救うためにやっているんだ。

 その為ならいくらでも覚悟を決めてやる)

『そうか……。では、頼む』

(解った。それじゃあ、後の調整の時は頼むぜ)

『委細承知じゃ』



 谷底の悪魔との戦いはあくまでも前哨戦に過ぎない。

 この後、ここに溜まりに溜まった世界力を使って強力な魔物と戦わなければいけないのだから、無意味に消耗するわけにはいかない。



「お前を生かしておくと、俺達の今後の行動に狂いが生じる可能性が高いらしい。

 だから殺さない、という事は出来なくなった。すまんな」

「──っち。そぉかよぉ」



 向こうとしてもそれほど期待はしていなかったのか、絶望した雰囲気も無かった。

 だがもしかしたらという希望に縋って、急に黙りこくった竜郎に対しても余計な事を言わずに待っていたのだ。



(まぁ、それだけじゃぁないけどなぁ)



 もちろん、ただ希望に縋りつくことだけを考えていたわけではない。

 この場から逃げる準備を着々と進めてもいた。

 そして結果が決まった今、ここで大人しく殺されるのをただ待っている様な奴ではない。



「くたばれやぁああっ!」



 そう谷底の悪魔が言うや否や八本の足元の影が伸びてきて、大きな影型の悪魔が発生する。

 その八体の影悪魔は谷底の悪魔を取り囲むかのように周囲を固めると、全方位に向かって影の触手を展開した。

 そうなると完全に谷底の悪魔が視界から隠される。



「──カルディナ、奈々!」

「ピィィイイー!」「解ってますの!」



 この触手も竜郎達なら大した問題は無い。だがこれが囮だという事は、最初から気が付いていた。

 というのも──。



「──っぎゃぁ!?」

「転移が出来るのはアナタだけじゃないんですの!」



 《影転移》。

 今まで見たことも無いスキルではあるが、その効果はなかなか汎用性に優れている。

 影を蜘蛛の巣のように地面に広げていき、その範囲内でなら何処へでも転移が出来るというもの。

 谷底の悪魔はそれを竜郎と話している間に細く長く展開していたのだ。

 竜郎の光魔法で照らされていると言っても、足元はやや薄暗い。

 そうなると目視では気が付き難い。だからこそ、大胆に谷底の悪魔も広範囲に巡らせていたのだ。


 そして《影分身人形》。

 大よそ形は自由に決められ、自分の持っている影属性や無属性系統のスキルを使わせることが出来るという、これまた使い勝手の良さそうなスキル。

 これを自分の周りに出して、派手な攻撃をさせる事で自分の姿を視界から無くす。

 その瞬間に転移で闇の中へと逃げていく──そんな脱出方法を考えていた。


 だが影転移は、普通の《後方転移》や《前方転移》と違い若干のタイムラグが生じる。

 とはいえ普通なら気が付かないレベルではあるのだが、今回は相手が悪かった。


 カルディナが探査魔法で消えてからの一瞬の遅延時間で、出現場所を特定。

 それを奈々に伝えると、奈々はタイムラグの無い《後方転移》や《前方転移》を多用して《影分身人形》を抜けて、出現した瞬間に手に持った牙を振り下ろしたのだ。


 転移で出現した瞬間は、かなり無防備な事は竜郎も実体験で良く知っている。

 そこを今回は利用させてもらい、奈々の《かみつく》で人間の方の右肩と左脇腹に穴を穿たれた。



「くっそがぁあああ! ──ぎぃっ!?」

「そうそう何度も転移させないっすよ」

「いつの間にっ」



 影転移でとにかく奈々から距離を離そうとするも、谷底の悪魔の真後ろに竜郎が転移魔法で送り込んだアテナがおり、手に持った大鎌で左側の蜘蛛足二本を根元から切断された。

 だが痛みに耐えながら影の触手を足の代わりに使いながら、影の糸を上へと伸ばして自身を引っ張り上げて離脱していく。



「ピィィィィイイイ!」

「ぎゃぁああああっ」



 しかし高速で上に回り込んだカルディナの、魔弾の雨をこれでもかと体中に浴びせられて地面に叩き落とされる。



「ふっ!」「はああっ!」

「ぎぃっ!?」




 その下にいた竜郎はレーザーを、愛衣は竜纏の拳に《気力収束砲》を混ぜた一撃を、大きな蜘蛛の体にクロスするかのように同時に打ち込み貫通させる。



「ヒヒーーーン!」

「────っ!?」



 ジャンヌは上から波動の力を使った超振動鉈斧を振り下ろし、三分割に切り裂いた。



「……な、なんでぇ、猿風情なんかと……お前らみたいな化け物が一緒にいるんだよぉ……」



 アラクネの人間部分も小さな穴だらけで、蜘蛛部分も三つに切り裂かれたというのに、それでもまだ息がある事に竜郎は驚いた。

 だが《レベルイーター》も使えるので都合がいいかと、竜郎は近づいていく。



「くっくるなぁあああ!」



 影の触手毒針が竜郎に迫って来るが、月読が竜障壁で防いでくれる。

 影転移しそうな雰囲気があればカルディナやジャンヌ、奈々、アテナが威圧し押しとどめる。

 構うことなく進んでいくと、突如地面から闇色に染まった土が盛り上がり、周囲に剣山を作って歩いてこれない様にあがいてくる。



「無駄だ」

「あっ……」



 その魔法は土と闇系統。竜郎は解魔法で解析、氷と闇で逆位相の魔力を放ってキャンセルする。

 すると闇色の硬質化された土はただの地面へとバサッと音を立てて戻っていく。

 ──が。その瞬間、小さな影で出来た蜘蛛たちが崩れた剣山跡から飛び出して、毒の針をお見舞いしようと群がってくる。



「それも知ってたよ」

「…………ぐぅぅ」



 天照が炎を杖から自動的に吹き出して、影のミニ蜘蛛たちを全て焼き払った。

 これで竜郎が事前に察知していた相手の手札は一掃した。

 これでもう谷底の悪魔は逃げるのも不可能だろう。


 竜郎は愛衣と共にいつもより少し離れた位置で止まり、《レベルイーター+α》になってからの性能検査もここでしてみることにした。

 黒球を吹いて前の状態なら若干黒球を保つのが難しくなってくる距離になっても問題なく届き、それは谷底の悪魔へと吸い込まれていったのであった。

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