第41話 護衛開始
依頼を受けてからほどなくして急いで支度を整えた二人は、早速護衛の任務と相成った。
しかし、今回護衛にあたるその人数に竜郎たちは目を剥いた。
その総数実に五十六人にのぼり、そのほとんどの人が馬車を駆っていくのだから門前には圧迫感すら生まれそうなほど色んな物がひしめいていた。
「壮観だねぇ」
「いやいや、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないって。
この人数を二人だけで、どうやって守れって言うんだよ」
「愛と勇気と気合───かな」
「そんなもので何とかなるレベルじゃねえよ……」
お気楽な愛衣に嘆息しながらも、どうやって行こうか考え始める竜郎にゼンドーが話しかけてきた。
「おうっ。二人とも、準備はいいか?」
「ばっちり!」
「そうかそうか。んで、ならなんでタツロウは暗い顔してんだ?」
愛衣の笑顔に目じりを下げながら、ゼンドーが本気で理由が解らないといった雰囲気で竜郎に聞いた。
それに竜郎は、やや恨めしげに答えた。
「思っていた以上に、人数が多いからですよ」
「おう? これでも、腕の立つ職人だけを集めたんだがなあ。無理そうか?」
「いえ、やってはみますが、魔物にいっぺんに多方から強襲された場合は保証できませんよ」
「少数の魔物なら、なんとかなるか?」
「それも、場合によりけりですが───」
そうして、竜郎が思う一番被害が少なくなりそうな方法を提案してみた。
まず馬車は隊列を組んで進み、先頭には突発的な行動力がずば抜けている愛衣を、後方には手数が多く応用のきく竜郎を置く。
中央は戦闘が多少できる者たちを配置し、前と後ろで相手をしているときに横っ面に魔物が来た場合、少しの間だけでも自衛してもらう──という内容だ。
それに特に異存のない愛衣とゼンドーはその案を呑み、他の人たちは隊列を組んで規則正しく道を進みだした。
愛衣は一番先頭のゼンドーの荷馬車に乗り、竜郎は冒険者ギルドにいたガズと呼ばれていた、かなりガタイのいいおじさんの荷馬車に乗っていた。
『たつろー、そっちはどおー?』
『特に問題ないぞ、そっちも暇そうだな』
『うん。出てこられると困るけど、何もないとやることなくて暇だよねー』
『だなあ』
離れていてもちゃんと念話は通じるらしく、二人は周囲を警戒しながら、お互いの状況確認をし合っていた。
そんな風にしながらしばらくした頃、竜郎の方の荷馬車を動かしているガズが話しかけてきた。
「タツロウ。空にテューの群れがいるんだが、アレを追い払うことはできるか?」
「テューですか?」
「ああ、ほらあそこの」
そう指差された道から外れた木々の生えている方角を見ると、遠い空の上に黒い鳥のような魔物が群れを成してこちらを窺っているのが見えた。
「あれ、ですね。ちょっとやってみます」
『愛衣っ、今から右上の鳥に目がけて魔法を使う』
『─────あれだね、私もなんかする?』
『いや、ひとまず追い払えればいいみたいだから、こっちだけでやってみる。
でも一応警戒はしといてくれ』
『りょーかい』
事前に何かあってもいいように愛衣に警戒を促すと、竜郎は《アイテムボックス》からあの杖を取り出した。
「おっ、なかなか高そうな杖だな」
「ええ、実際高かったです」
突然出てきた杖に面食らいながらも、苦笑いしてそう答えた竜郎にガズは笑った。
「ではいきます」
そう言って杖の先を鳥の方に向けて、魔力を杖に通してそこに集める。すると、そこが赤い光を持ったと思った瞬間、レーザーが空へと撃ち抜かれた。
それは空気抵抗をほとんど無視して、まっすぐテューの群れの真ん中に向かっていくと、そこにいた数匹を巻き込んで落としていった。
すると他の鳥の動きが乱れて列が崩れ、ぶつかりあうものもいた。
そんなパニックを起こしている連中に竜郎はさらにもう三発同じものを放ち、何匹か間引きすると残りのテューはこちらとは反対の方角へ逃げていった。
「───すげえ魔法だな、あんなの初めて見たぜ。
赤かった所を見ると火魔法か?」
「あー…はい、火魔法ですね」
「火魔法ってのは、あんなこともできるんだな」
「杖のおかげですよ」
しきりに感心するガズを納得させるように、手に持っていた立派な杖を見せてごまかした。
それに対し魔法に明るくないガズは、そういうものなのだと解釈してくれたようだった。
「それにしても、あのテューというのはこの辺ではよく出るんですか?」
「そうだなあ。よくと言われると微妙なところだが、ちょくちょく出てきては荷物を荒したり、持ってったりする厄介な奴だよ」
「そうなんですね。じゃあ──人が被害にあったりとかは?」
「それはあんま聞かねえが、荷物を荒してるのを追っ払おうとした奴が首をつつかれて死んじまったってのはあったな……。
あとは目を持ってかれた奴もいる」
嫌なものを思い出したと、ガズは苦い顔でそう教えてくれた。
それを聞いた竜郎は、確かに早めに追い払えてよかったと胸をなでおろした。
『愛衣。さっきのはテューと言って、そんなに強くないけど面倒な奴みたいだから、見かけたら知らせてくれ』
『はいよー──あっイモムー発見! ていっ』
『大丈夫か?』
『問題ないよ、今の私たちならイモムーは敵じゃないもん』
『違いないが、あんま油断して怪我とかしないでくれよ』
『解ってる! 竜郎も気を付けてね』
『ああ、解ったよ』
そうして、報告を終えた竜郎は他には何も来ないか警戒に戻った。
一方、竜郎お手製のクナイで三十メートルは離れた所にいたイモムーの頭を的確に弾き飛ばした愛衣は、自分も強くなったものだとステータスやスキルに感心していた。
そして、そんな離れ業を見ていたゼンドーは、やはりあれは夢ではなかったのだと改めて確信していた。
「ねえ、おじいちゃん。さっきの奴って、この辺にたくさんいるの?」
「あいつらはこの辺に限らず、世界中どこにでもいるって話だぞ」
「え"、あれってそんなに色んなとこにいるんだ。
ていうか、そもそもなんて言う魔物か知ってる?」
「あーなんつったかな。
しゅー何とか、しゅが、しゅげ……わりぃな、忘れちまったよ…………」
「い、いいよ、いいよ。べつにあんなのイモムーで良いし!」
いよいよ自分が耄碌説が有力になってきてしまったのではないかと、落ち込むゼンドーをなんとか宥めると、愛衣は警戒を続けながら竜郎にコンタクトを取った。
『たつろー、イモムーのほんとの名前って何か知ってる?』
『イモムーの名前? いや知らんけど、それがどうかしたのか?』
『うーん、おじいちゃんに聞いたら途中までで忘れちゃってたみたいで、なんかモヤモヤするの』
『あーそうなのか、じゃあちょっとガズさんに聞いてみるよ』
『おねがーい!』
そこで念話をいったん止めると、竜郎はできるだけさりげなくガズに聞いてみた。
「そういえばでかいイモムシ型の魔物がいるじゃないですか、あの緑に白と黒の点々のやつ」
「ああ、アレのことか?」
「そうそう、あれです──って、ええ?」
そうしてガズが言う方を見れば、今まさに木々の隙間から出てこようとするイモムーがいた。
竜郎はすぐに杖を《アイテムボックス》から出すと、最低レベルのレーザーでサクッと倒した。
ガズにとってもイモムーは特に脅威ではないらしく、竜郎が動いたのを見てイモムーへの視線を切って名前を思い出そうとしてくれていた。
「アイツの名前は確か──そうだ。シュベルグファンガスだったはずだ!」
「そんな厳つい名前なんですか!? ただのでかいイモムシですよ!?」
その竜郎の言は理解できるらしく、ガズも「そうなるよな」と前置きしてから理由も教えてくれた。
「俺がまだ若い頃までは、あいつはデデって呼ばれる魔物だったんだ」
「デデいいですよ、デデって感じじゃないですか。なんで変えちゃったんですか?」
「それはな、何年だったか前にデデはシュベルグファンガスっていう魔物の幼生体ってのが解ったんだ。
んで、シュベルグファンガスをデデと呼ぶか、デデをシュベルグファンガスと呼ぶかで話し合った結果、後者になったってわけだ」
そりゃあ、強そうな方に弱い方の名前を付けるのは憚られたのだろうなと竜郎は、それを決めた人たちの心中を慮った。
しかし、そうなるとアレの成長形がどんなものなのかが気になってくる。
「それじゃあ、そのシュベルグファンガスってどんな魔物なんですか?」
「いやー俺も見たことは無いが、魔生物学者の連中が言うには昆虫種のドラゴンって言われるくらい恐ろしい魔物らしいぞ」
「あいつが、そんな大層なものになるんですか……」
脳内ではイモムーがあのままのフォルムに翼が生えて、長さが伸びただけのような、間の抜けたイメージしか湧かなかった。
「まあ、蛹の期間が百年くらいらしくてな、その間にほとんどのデデ──というかシュベルグファンガスは、他の魔物に食われて死んじまうらしい」
「……ああ、だから皆そのシュベルグファンガスだってのに気付かなかったんですね」
「そういうこったな」
何とも悲しい現実を聞いた竜郎は、次にイモムーに会った時はもっと優しくなれる気がした。
もちろん、敵対すれば倒すのだが。
そして愛衣にその結果を伝えると、「似合わないから今後もイモムーね」とせっかく解った厳つい名前は、竜郎たちの間ではもう使われることは無くなったのだった。
明日はもしかしたら、二回投稿できるかもしれません。
順調にいけば、夜0時頃と昼の12時を予定しています。




