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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一編 古の部族

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第417話 ナハムのお願い

「そうして魔法が使える存在。つまり代々の族長は、二十歳になり、魔法使いの子を残したら、その年に飛び降りる事になったのだ」

「…………そう言えば、ナハムは二十歳と言っていたな。ってことはつまり……」

「ああ、明後日に俺は死ぬ。あの崖へと自分で飛び込んでな」

「それを無視したらどうなる? ずっと昔の事なんだろ?

 もう無効になっているんじゃないか?」

「それはないな。何故なら谷底の悪魔は、今もなお俺達ピアヤウセ族を縛って放さないのだから」

「それは実際に会ったという事か?」



 あまりにもナハムが自信を持って断言するので、竜郎は怪訝そうな顔で問いかける。

 今の言い方では、確実に存在を認識できているという事なのだから。

 ともすれば日常的に会っているのかとすら思えてしまう程に。

 けれどナハムは首を横に振った。



「いいや。見たことも話したことも無い。だが奴は──谷底の悪魔は確実にいる」

「まるで頓智みたいな答えだな。まさかそれも勘だとは言わないよな?」



 ヤハナがナハムの勘が鋭いと言っていた事を思い出し、まさか当てずっぽうで言っているのではないかと疑い出す竜郎。

 だがそれも違うらしい。ナハムは先と同じように首を横に振った。



「もちろん勘なんて言う、あやふやなものじゃないさ。

 確かに姿を現さない奴だが、キッチリと現象は起きているんだから」

「現象?」

「ああ、奴は四日以上この部族の者がこの地より離れるのを禁じた。

 だから俺達はどんなに狩りが長引いても、それまでには必ずここへ帰ってくる。

 だが中にはタツロウ達のように、本当にそんな奴がいるのかと疑う者も極稀に出てくるし、三日の間に何かがあって帰って来れなかった者もどうしても出てくる。

 そうすると、そいつらはどうなったと思う?」



 そう言うナハムの表情は苦々しげであり、どこか自分たちの弱さを自虐的に笑うような、そんな微妙な顔をしていた。



「……その表情を見る限り、少なくても碌な目に遭わなかったみたいだな」

「ああ。…………もし四日過ぎてもここに戻れなかった──もしくは戻らなかった奴は………………………………頭だけが戻ってくるんだ」

「は? それってどういう……?」



 会話は竜郎に任せて静かに聞いていた愛衣が、思わずそう口に出してしまうほど、「頭だけ」という単語が奇妙に響き渡った。



「そのままの意味だ。場所は特に決まっていない。だが壁の上、畑の中、誰かの家の中、はたまた集落のはじっこだとか、そう言った所にいつの間にか置かれているんだ。

 そんなのを見せられてしまうと、こちらは信じるしかないだろう?」

「──悪趣味な」

「ははっ。それについては同感だな」



 確かに実際にそのような現象を見せられてしまうと、存在を否定する事など出来ない。

 そしてピアヤウセ族には理解不能なほど強大な力をもっているとなると、谷底の悪魔への敵対心も無くなり、約束を守らなかった時の報復がどうなるのか──と思ってしまい、年二回の飛び降り自殺を止める事も出来ない。

 だが逆に言えば、年に二人谷底に落ちれば谷底の悪魔は何もしてこないともいえる。

 これが年間二十人、三十人などと言われていたら拒否するしかないが、族長の血筋と魔法もちゃんと残しながらの年間二人の犠牲と言うのは、受け入れられない事も無いので死力を賭してまで抗おうという気も起きない。


 そんなこんなで、今日こんにちまでピアヤウセ族の間では年に二回自殺者に選ばれた者を主役に、大量の食材をふるまい、はしゃぎ、最後に見送るという悪しき風習が出来あがった。



「それで、こんな話をわざわざ俺達にしたってのは、別に皆と一緒にナハムを見送ってくれと言いたいわけじゃないんだよな?」

「そう……そうだな。じゃあ単刀直入に聞かせてもらおう。

 タツロウなら──タツロウ達なら、谷底の悪魔を殺せるか?」

「正直、出会った事も無い奴を倒せるかどうかと言われても困るが……」



 相手は会話ができ、魔法が使えるという事は間違いなく、システム持ちの人間だろう。それも長い間生きていられるだけの長命種の。

 そして今回の件で言えば、その飛び降りが世界力の発生原因に噛み合ってしまっている可能性が非常に高い。

 これらの事を考えると、どの道手を出さなくてはいけないだろう。



「なあ、明後日に行われる催事の、いつもやる細かい流れを教えてくれないか?」

「ん? ああ、いいぞ」



 聞いた事と違う事を言い始めた竜郎に、きょとん顔のナハムであったが、それが竜郎にとって必要な事だと直ぐに察して流れを教えてくれた。

 まず朝から宴の準備。酒などは無いようなので、ただ美味しい物をたらふく食べる為に料理を並べ、場を整える。

 そして自殺者──今回で言うとナハムが上座に座り、皆で歌って踊っての大騒ぎをしながらたらふく食べる。

 それが終われば、長い年月を経ても風化する気配すらない台座に昇り、最後の口上を述べてダイブ。

 そんな流れらしい。



『やっぱり飛び降り以外に変わった事はしていないし、原因はそれで決まりだろうな』

『ってことは、その谷底の悪魔に会って止めさせるなり、ブッ飛ばすなり、それでも駄目ならコロコロするなりすれば、世界力の無駄な集合を防ぐことが出来そうだね。

 そうなれば目的の一つは達成って事になるし、ナハム君たちも馬鹿な風習がなくなって一石二鳥かも』

『それを終えて集まってる分を消費してしまえば、ここでの俺達の任務は達成って事になるはずだからな』

『うん。それじゃあ、レーラさん達も外で何か見つけてきたかもしれないし、とりあえず合流して話し合ってみよ』

『それがいいな。後は谷底の悪魔がどれだけ強いかって事になるが……』

『ぶっちゃけレーラさんも加わった私達が、この時代の古いシステム持ちの奴には負けっこないと思うけど?』

『油断は禁物だが、それこそこんな辺境の谷底に引き籠っている奴が、俺達に勝てるとは思えないしな』



 そうしてとりあえず、要調査項目として谷底が加わった。

 後はナハムへの返答だけ。



「恐らくだが、俺達なら勝てると思う。そしてかなりの確率で、俺達にもソイツをどうにかしなきゃいけない可能性がある。

 だからとりあえず、皆と今日話し合って、明日にでも谷底に向かってみる事にするよ」

「タツロウ達の理由か……。やはり魔物の味探訪の為にここに来たわけではなさそうだな」

「やはりって……他に何かあると気が付いていたのか?

 それじゃあ何でこんな胡散臭い奴を迎え入れたんだ?」

「勘だな。何となく、タツロウ達を見た時から──特にあのレーラと呼ばれていた女性とタツロウからは、異様な雰囲気を感じたんだ。

 そしてそれは決して負の者ではないとも感じ、われわれの未来に必要な存在な様な気がしたのだ。

 ……まあ、八割がた食料が目当てというのが真実だが」

「そっちかよっ!」

「しょうがないではないか。最近狩りが何度も不発に終わって、俺の最後の宴に出す食材が足りていなかったんだから」

「ああ、そういう……。そりゃあ、食料を恵んでほしそうな奴らは遠慮したい時だな」

「普段からそんなに余裕のある生活をしている訳ではないがな」



 そこには先ほどとは違い、和らな雰囲気が流れはじめた。

 そこで改めて族長としてお願いするために、胡坐をかいて座っている膝をパンと叩いて引き締め直す。



「タツロウ達がここに来た理由にも、谷底の悪魔が関わっているかもしれないというのは、我々にとって僥倖と言うほかない。

 もしアヤツを倒してくれると言うのなら、この先我々は自由に生きていける。

 自分たちでは何もできないし、しないのだから厚かましい願いだとは思うが、是非に谷底の悪魔を打倒してほしい」

「まだ外に行っている連中と話す必要があるから、ここで確約はできないが、やるとなったら何とかしてみよう」



 ナハムはそこで少年のような屈託のない笑顔を浮かべた。それに竜郎も笑い返す。

 そして改めて拳を軽く打ち付けあって、この部族での約束の動作をしあったのだった。


 その夜。真っ白に燃え尽きたようなヤハナと一緒に、大量の魔物をお土産に持ってきたレーラ達と合流し、食事をすませた後。

 竜郎達は昨日と同じ家の中で、竜郎達は谷底の悪魔について話し合っていた。



「ぐるっと調べて回ったけれど、この集落の周りでは異常は見られなかったわ」

「となると、やはり谷底の悪魔とやらが、わたくし達が来ることとなった原因だと考えて良さそうですの」

「どんな奴何すかね。話を聞く限りだと、闇魔法とか影を操りそうな感じっすけど」

「その辺は直接会ってみないと解らないな。

 明日は自分たちだけで周辺散策に向かう事にするとナハムと話し合ったから、一先ず谷底まで下りてみよう。

 その時はよろしくな。ジャンヌ」

「ヒヒーーン!」



 こうして明日の予定を決めた後は、どんな相手が来ても準備万端で臨めるように、他の細々とした確認をし始めた。



「まずは姉さん。頼まれていた鎧の修理が終わりましたよ。ちゃんと魔力頭脳も追加しておきましたし、以前よりも盾の起動も早く、形ももっと応用がきくようになっていると思います」

「ありがとーリアちゃん!」



 愛衣は鎧を受け取ると、そのままの勢いでリアを抱きしめた。

 そうして義妹を可愛がった後に、使い方をレクチャーして貰い何時でも使えるようにしておいた。


 それを見ていたレーラは、不意に自分の杖を取り出した。



「ねえ、リアちゃん。私の杖にも、その魔力頭脳というものを付ける事は出来るかしら?」

「え? ちょっと見せて貰っても?」

「ええ、構わないわ」



 リアがレーラから杖を受け取り《万象解識眼》で解析していくと、稀少な素材を贅沢に使い、それら全てを完璧と言えるほどに一つに纏め上げた、まさに至玉の逸品というのに相応しい杖だった。

 これなら確かにレーラの強大な力にも耐えられるだろう。

 けれどそれだけに、これに魔力頭脳を追加すると言うのはなかなか骨が折れそうだ。

 そして本当に自分のような小娘に託していいのかと不安にもなった。


 それが顔にも出ていたのだろう。レーラはリアへ柔らかく笑いかけた。



「タツロウ君たちの装備品を見れば、リアちゃんがただスキルにおんぶに抱っこでやって来た職人じゃないことくらいわかるわ。

 あなたの作るものにはちゃんと職人の魂が宿ってる。

 そんなリアちゃんにだからこそ、やってほしいと思ったのよ」



 レーラの瞳に宿るのは、嘘やお世辞ではなく真実だった。

 そんな目に対して、リアも職人として臆病風に吹かれるわけにはいかない。



「今すぐに──というのは、状況的に無理ですが、時間が出来たら是非やらせてください」

「ええ。その時を期待して待っているわね」

「はい」



 そんな二人のやり取りを見守り、暖かな雰囲気になっている所で、竜郎は二つの肉を取り出した。

 一つは魔王鳥の、もう一つは魔王鬼のもの。



「レーラさん。これを食ってくれ。魔王種の肉だ。これを食べれば魔王種結晶が増えるだろ?」

「ええ、そうね。それじゃあ、私からも──」



 そうして出してきたのは、完全冷凍された肉の一部が二つ。木片が一つ。何かの鉛色の粉が入った瓶が一つ。



「他のクリアエルフ達との交渉用にと思って取っておいた魔王種の部位よ。

 お肉の方はかなり年代物だけれど、私が本気で冷凍したやつだから、食べてもお腹を壊す事は無いと思うわ」

「この木片と粉はなんですの?」

「ああ、こっちは巨大樹の魔王種の木片で、こっちは体中が金属でできたゴーレムの魔王種の部位を粉状にした物よ。

 木片は齧って、粉は水か何かと一緒に呑めば、魔王種結晶が手に入るわよ」

「そんな魔王種もいるんだね。っていうかレーラさんは、よくそれも食べようと思ったね」

「それも経験よ。それで何かが得られるのか、得られないのか。それを知る機会が目の前にあるのなら、試さなきゃ。

 せっかく他よりも頑丈な体があるんだから」

「本当に好奇心の塊みたいな人だな……。あ、ちなみに魔王種の心臓とか脳みそとかは取っておいたりとかは……?」

「心臓が一種、脳が一種分なら一つ丸のままのがあるわね。

 後は一部分とかなら持っているけれど、それじゃあダメよね?」

「あー。せめて原型が解るくらいは無いと……」



 その竜郎の言葉に、レーラはすまなそうな顔で首を横に振った。

 どうやら一部分というのは、半分にも満たない量らしい。



「魔王種ともなると当時の私では単独撃破は難しいから、何人かのクリアエルフ達と組んで倒す事が多かったのよ。

 だから私だけが素材を独占するわけにはいかないでしょ?」

「それはそうだな。けれど心臓と脳は持っているんだな。今度複製させてもらってもいいか?」

「ええ、もちろん。《魔卵錬成》も直接見てみたいから」



 こうして竜郎達は四種分の魔王種結晶を、レーラは二種分の魔王種結晶を得ることになったのであった。

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