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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一編 古の部族

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第414話 この時代のシステム事情

 なにやらこの部族にとって魔法使いというのはかなり尊敬される存在らしく、もっか魔法使いとみなされている竜郎とその一行という事でかなりの歓待を受けていた。

 今は日も暮れ始めた夕暮れ時。

 広場のようになっている集落の一角にたき火をくべて、皆で集まって宴を開いてくれていた。とはいえ、その大半は竜郎達が持ってきた食材なのだが……。

 カルディナやジャンヌも最初は非常食か何かだと思われていたようだが、今は部族の人達にも受け入れられ可愛がられていた。

 リアは言葉が解るので積極的に女性陣に加わり料理も買って出て、彼女がいつも食べている物を作り、その味に驚かれていた。

 さすがにここで食べないわけにもいかないので、カルディナ達も少し食事をとっていた。


 そんな中。皆で火を囲み草を編んで作った御座のような物に座り、竜郎が愛衣と話していると、ナハムが二人の女性と三人の子供を連れてやってきた。



「タツロウ。紹介しよう、私の妻のモアナとナルだ」

「初めまして。モアナです」

「初めまして。ナルです」

「え、あ、はい。初めまして。竜郎です」




 一夫多妻に親しみのない竜郎はいきなりそう言われて面を食らうも、直ぐに軽く頭を下げて挨拶を交わす。

 モアナと呼ばれた女性は親しみ深いホッとするような印象を与えるタレ目の女性で、身ごもっているのかお腹が膨らんでいた。

 ナルと呼ばれた女性は対照的に釣り目気味で一見恐そうだが、柔らかく笑っているのでそこまでキツイ印象は受けなかった。



「そしてこっちがケイキ。レフア。プアだ」

「はじめまして、ケイキといいます。そしてこちらが弟のレフアです」

「はじぇめまーて、けーきでしゅ」

「ケイキは俺だ。お前はレフアだろ」

「れふあでしゅ」



 ケイキは七歳くらいの少年だが、とても利発的な喋り方をし、モアナとそっくりのタレ目をしていた。

 レフアは二歳くらいの男児で、まだ上手くろれつが回っていないながらも、兄のケイキを真似して挨拶をしてくれた。

 その愛らしさに思わず竜郎と愛衣の目じりも下がってしまう。



「はじめまして、プアです」



 そしてプアと呼ばれた五歳くらいの女の子は、ナハムそっくりのキリッとした目とナルそっくりの口元が印象的で、こちらもハキハキと喋り利発そうだ。



「初めまして。竜郎だ。よろしくな」

「よろしくね~。愛衣だよ」



 こちらも愛衣に続いて簡単にあいさつを済ませていった。

 家族構成としては、ナハムを夫として第一夫人がモアナ。第二夫人がナル。

 モアナの子がケイキとレフアで、ナルの子がプアだそう。

 モアナはもう直ぐ三人目の子が産まれる予定で、ナルの方もパッと見解らないが二人目を身ごもっているらしい。

 なので安静にするためにと、直ぐに二人とも自分たちの家へと戻っていった。



「ナハムは今いくつなんだ?」

「俺か? 俺は今年でちょうど20になる」

「その年でもう直ぐ五人の子持ちか……凄いな」

「ちゃんと生まれて、元気に育ってくれればいいんだがな……」

「……ああ。そうだな」



 今まで太陽のような元気な笑みを浮かべていたナハムだったが、その時ばかりは哀愁が漂っていた。

 医療設備も衛生観念もないこのような場所では、やはり子供を産むのも幼児を育てるのも苦労するのだろう。

 そんな風に察した竜郎は、特にそれ以上は突っ込まずに話を流した。


 やや気分が暗くなったものの、話が変われば直ぐに場も盛り上がり、最後まで和やかな雰囲気で宴は終わりを告げた。



「今夜はここを使ってくれ」

「解った。ありがとな。わざわざ家を空けて貰ったみたいで」

「なあに。あれだけの食料を貰ったのだから気にするな。では、また明日な」

「ああ。また明日」



 明日色々話す事にして今夜はここで竜郎達は一泊する事になり、一つの大きめの家を空けてもらい、そこで寝る事になった。

 正直《無限アイテムフィールド》に入れてあるマイホームを使った方が快適なのだが、既に用意してくれているのに断るのもなんだと、そのまま大型の魔物か何かの骨を組んで毛皮を被せた家に入っていった。



「思ってたより結構広いねー」

「ですね。意外と快適そうです。とはいえマイホームと比べると、どうしてもあれですが」

「それを言ったらお終いですの……」

「す、すいません……」



 屋内に灯りも無く、この集落の光源は所々に置かれた小さなたき火のみ。

 なので竜郎達のいるこの場所は非常に暗かった。だが今は魔道具の明かりを中心に置いているので、家の内部を見渡す事も出来た。

 そうして竜郎達は家の中央にイスとテーブルを置いて、明日からの行動について話し合いを始めた。



「明日はとりあえずナハムと仲良くなりながら、ここで近いうちに開かれるはずの儀式について調べていこう」

「調べた後はどうするの?」

「取り合えず近いうちに開かれるはずの儀式の前に、世界力の集まりを散らせておいた方がいいでしょうね。

 次の儀式が最後の止めになっているらしいのよ」

「完全に世界力の集合体が出来あがってからでは遅いですからね。

 日程を聞きだして、その前に世界力の密度が高い場所を探し当てる必要があるという事ですね」

「なら人員を分けた方がいいかもしれませんの。

 ナハム側について儀式を探る者、外に出て世界力が集まっている場所があるか探る者──といった風に」

「そうなると、とーさんはナハム側に付いた方が良さそうっすね。

 なんだか気が合っているみたいっすから」

「ん? そうか? ……そうだな」



 言われてみればそうかもしれないと、自分自身でも納得してしまう。

 どうもナハムに会ってから、何故か竜郎は彼に親近感の様な物を抱いていた。

 ともすれば呪魔法か? という考えも頭を過ったが、今の竜郎に呪魔法をかけられる存在がいるとしたら、レーラクラスの呪神に愛されたクリアエルフでもなければ不可能であろう。

 そしてナハムを精霊眼で観た限り、彼にあるのは《樹魔法》らしき色と微弱な魔力。レベルに換算すれば10レベル位ではないだろうか。

 それではとても竜郎に呪魔法をかけるなんて真似は出来ようはずもない。



(アテナが言うように、俗にいう馬が合う。波長が合う。気が合うみたいなものなのかもしれないな)



 ようは精神的に竜郎は、ナハムを親しみやすい人物だと認識したのだろう。

 そう納得させて、竜郎は話を進めていく事にする。

 その結果。世界力を自力で感知できるレーラは外に出る世界力の調査リーダーに、後はカルディナ、奈々、アテナをサブメンバーに。

 残りは竜郎とナハムにさりげなく儀式について教えてもらいながら、何処で今回の事態を招いているのかを調べるメンバーとなった。



「それでレーラさんに聞きたいんだが、この時代のシステムはどうなっているんだ?」

「というと?」

「いや。《アイテムボックス》の類がないってのは解ったが、具体的には何があって何が無いのかとか」



 ナハム達の反応を見る限りでは、竜郎達の持っているシステムとこの時代のシステムはあまりにも違うように思えたのだ。



「あーそういうことね。えーと、確かこの時代ではシステムとすら呼ばれてないほど、そうね……下地が出来あがり始めている時代とでも言えばいいかしら」

「下地? しかもシステムとも呼ばれないって事は、もしかして私達みたいなモニターも無かったりするの?」

「そうね。何となく意識すれば、自分にどんなスキルがあるか解る程度ってとこかしら。

 さらにシステム経由でSPを払って新しいスキルをってのも無いわ。

 だからこの時代の人達は、もしシステム……正確にはまだシステムではないけれど、それがインストールされていたとしても、初期スキル以外は後天的に他スキルを覚える才能があったり、努力して身に着けない限り、新しいスキルを覚えられないと思っていいわ」



 また。この時代には《火魔法》などのその属性全体をさす魔法スキルや、《剣術》などのその武術全体をさすスキルは存在していない。

 つまり火魔法を例に出すなら火魔法が使える人間がいたとしても、《火球》などの火の玉を作りだす事だけしかできなかったり、剣術を例に出すなら《縦切り》など剣技全てに適応されるものでなく、限定された状況でのみスキルが発動する──という風になっている。

 未完成のシステムでは、それだけ幅を狭くしなければ使えなかったという事らしい。

 そうして長い時間を掛けてシステムを少しずつアップデートしていき、今の竜郎たちのように自由度の高い魔法や武術のスキルが出来あがったと言うわけだ。



「ってことは、ナハムのあの樹魔法っぽい色は樹魔法ではあっても、樹魔法系統に属する何かしらの限定されたスキルって事か」

「想像以上にこの時代の人種は大変そうっすね。

 それだけ制限されてる上に、システムがインストールされていない人の方が多いんすから」



 エルフは魔法系スキル、獣人などは武術系スキルなどを覚えやすい才能を産まれた時から持っている。

 だが一介の動物から進化していっただけの人種という存在は、そういった才能を持って生まれてくる者は限られてしまう。

 システムが完成した時代ならそれをSPが補ってくれるのだが、この時代ではレベルアップによるSP付与なんてものも無いので無理である。



「それでいて魔物も現代より強めって言うんだから、産まれた時からハードモードで生きてるみたいなもんだね、そりゃ」

「そう考えると、よくここの部族の方々はこんな辺境で生き残れていますの」



 奈々の言葉に皆が賛同する。そんな状況であるのなら、今竜郎たちがいる家の土台になっている大型の魔物らしき存在を倒すことすらままならないだろうに。

 そうして夜も更けてきたので、睡眠を取ったり警戒したりとそれぞれの時間を取って次の日を迎えた。


 部族の朝は早い。それこそ朝日が昇る少し前には目を覚まし始め、少し明るくなった頃合いには全員がそれぞれに与えられた仕事をこなし始めた。

 竜郎達からしたら早めの起床で家から出たのだが、ナハムに「タツロウ達は随分のんびりなのだな」と笑われてしまった。


 そうして朝食を取りながら今日の行動についてナハムと話していると、外の方が騒がしくなってきた。



「なんだ?」

「たぶん、ヤハナ達が狩りから帰って来たんだろう。今日でちょうど三日目だしな」

「ヤハナ? それは一体誰だ?」

「ヤハナトゥーザ。この部族一の戦士にして俺の弟だ」

「弟か」



 そんなことを話していると、ナハムと似た顔つきをしているが、そちらよりも背が高く、日に焼けた肌を持ち筋肉隆々の男が、獣の骨で作った槍を片手にやって来た。



「帰ったぞ兄者! 喜べ、ベラウベレイが取れた!」

「何!? それはいいな! さすがは一の戦士ヤハナだ」



 ナハムのその言葉に誇らしそうに微笑んだ後に、今度は訝しげな視線を竜郎達に向けてきた。



「それで兄者よ、そこの者達は一体誰だ」

「こら。そのような目を向けるな。この者達はれっきとした我が部族の客人だ」

「この時期に客だと? 何のために?」



 何やら竜郎たちを──というより、自分の兄ナハムに対して胡散臭そうな視線を送って説明を求めるヤハナ。

 そんな弟に苦笑しながらも、昨日あった事をヤハナに説明した。

 やはり竜郎が魔法使いであることに驚き、そしてまだ残っている食材の数々を見せられて目を丸くし、昨日の宴に混ざれなかった事を悔しがって──と大忙しだった。



「それにしても、美味しい魔物の研究か。という事は、タツロウ達は魔物を狩れるのか?」

「ああ、そうだな。こう見えて皆そこそこ強いぞ」

「──ほう」



 内情を知っている人間がいたら、どこがそこそこじゃいとはたかれそうなものだが、向こうにはそれを知るすべはない。

 だからだろう。そこそこ強いと聞いた途端、無謀にもヤハナの目がきらりと光った。



「ならば! ピアヤウセ一の戦士の俺──ヤハナトゥーザと勝負をしてくれまいか!」

「……え?」



 竜郎の精霊眼で観た限り、確かにこの部族では抜きん出た強さを持っているのは確かだ。

 さらにナハムの弟だけあってシステムモドキがインストールされているようで、槍術らしき色が三つもあった。

 それらを組み合わせれば、この時代の人種に限って言えば最強クラスの人間かもしれない。


 ……だが、中途半端な性能の未完成システムと、未来で完成されたシステムという時点で大きな差が生まれている。

 それではどう頑張っても、どんなに才能が有っても竜郎達に追いつくことなど出来ようはずも無く……比べるのも可哀そうなほどの差がそこにはあった。


 けれど向こうは「まあ、俺には勝てないだろうがな」的な気配をビンビンに放っているのでたちが悪い。

 めてくれないかな──そんな目で竜郎は唯一簡単に止められそうなナハムに目で訴えかける。

 すると満面の笑顔で「うん」と、ハッキリと頷いてくれた。


 竜郎は安堵に胸を撫で下ろした。これで彼のプライドを傷つけることはなくなったなと。



「よし! 面白そうだ! 是非やってみよう!

 ヤハナよ、ピアヤウセの意地を見せてやれ!」

「おうよ! 兄者!!」

「あるれえええぇ!?」



 そうして竜郎は、何故か族長の弟と戦う事になったのであった。

次回、第415話は2月7日(水)更新です。

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