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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一編 古の部族

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第413話 ピアヤウセ族

「まあ、待ってくれ。俺達はあなたがたの食料をねだりに来たわけじゃない。

 むしろ食料を分ける事だってできる」

「何を言っている? 何も持っていないじゃないか。さては狂人の類か?」



 厄介な奴が来てしまったと槍を持つ男たちは嫌な顔をして竜郎を見てきた。

 だがそんなことはお構いなしに、竜郎は手を突き出して光魔法を発動させ輝きを放つ。



「きてます! きてます!」

「なぜにマリック?」



 竜郎がエセマジシャンごっこをし、それに愛衣が突っ込みいれている中。

 先住民の男たちは目を見開いて槍を落とす者までいた。



「ま、魔法使い!?」

「ナハム様と同じ血を引く者か!?」

「いや、ナハム様にはあのような魔法は──」



 突然光が現れたことに先住民たちがそんな事を言っているのをみて、こんな魔法で何を驚いているのかと逆に驚くレーラを除く竜郎達一行。


 だがそれもしょうがない事で、この時代のシステムはインストールするのに相性のいい人間にしかまだ行き渡っていない上に、その内容もスカスカで、クリアエルフやそれに近い血や、元から高い魔力なり気力を持っている様な人間でなければ、本当に簡単な魔法や武術ぐらいしか使えない。

 しかも人種はこの時代では、まだまだ新しい部類の種族なので完全に対応しきれていないというのもある。

 なので人種の魔法使いと言うのは、ここでは非常に稀少な存在だと言える。


 特殊な血を色濃く受け継いだ混種ならばまだしも、そんな人間が先住民の身近には存在せず、魔法が使える=特別な人、選ばれし者。と、浮浪者から一気にそういった認識に変わったのだから驚くのも無理はない。



「きました! とお!」

「「「「「──おおっ!」」」」」



 すっかり竜郎を見る目が変わった五人の先住民たちの前で、竜郎は《無限アイテムフィールド》から、やや大きめの豚型の魔物を放り出した。

 ぼとっと地面に落ちる──明らかに食いでの良さそうな魔物の死体を、涎を垂らしそうな勢いで見入っていた。



「まだあるぞ。ちょいやー」

「「「「「おお!!」」」」」



 あまりにも先住民の反応がいいので、調子に乗った竜郎は光魔法の中から水を噴射させ、虹を作りだした。

 これでもう食料にも水にも困っていないと言うアピールにはなっただろう。

 先住民たちも、たかり屋ではなく、なんか解らんが凄い人なのだと尊敬の眼差しをこちらに向けてきた。

 ──とその時。男たちの後ろから、二十代前半もしくは十代後半程の茶色い髪と目の、キリッとしたそこそこ見目の良い青年が顔を出してきた。



「凄いな! それは何と言う魔法なのだ?」

「ナハム様! お下がりください! 今はまだ敵かどうか調べている最中なんですから!」

「いいじゃないか。それに彼ほどの者が、我らピアヤウセ族を害して何の利益があると言うのだ?

 見る限り奴隷狩りに来た連中でも無さそうではあるし」

「奴隷狩り?」



 物騒な言葉に思わず真顔で竜郎がそう聞き返すと、ナハムと呼ばれた青年は嬉しそうに無邪気な顔で笑って答えてくれた。



「たまにここからはるか北に行った所にある亜獣人族の国が、我らのような部族を捕えて奴隷にしようとやってくる事があると聞いたことがあるのだ。

 なんでも獣人族との戦争の為の道具にしたいらしいな」



 知らない単語が出てきたので、竜郎達はレーラに振り向く。



「亜獣人っていうのは、獣人に非常に近い種族ね。

 彼らは獣人より魔物の血が強く、人間だけれど獣人達ほど人寄りの見た目をしていないのが特徴ね。獣が人間の様に二足歩行で歩いていると想像すると、ここでは解りやすいかしら。

 後は力は獣人よりも強く知能はやや低めで、とにかく個の力に傾倒する傾向があるわ。

 獣人と近いだけあって色々ぶつかる事も多かったみたい。

 確か、あと一万年もすれば獣人に滅ぼされて現代には存在しない種族よ。

 だから今くらいの時代が、亜獣人族の最盛期といった所かしら」



 竜郎達にだけ聞き取れるくらいの小さな声で端的に、早口でそう説明してくれた。

 ようは失っても惜しくない働き手が大量に欲しくて、亜獣人達はナハム達のような人種の部族を襲う事があるらしい。



「俺達は奴隷狩りなんてする気はない。ただ──」

「ただなんだい?」



 面白そうなものを見る様な目で、竜郎に満面の笑みを向けてくるナハム。

 竜郎は何と言い訳してここに来たこと、ナハムたちの部族に接触したいことの理由を考えた。

 そうして数瞬の間、考えた結果。



「お、俺達は美味しい魔物を求めてさすらう旅人なんだ!」

『なんじゃそりゃーー! 普通に魔物の研究家とかでいいじゃん! 何で美味しい魔物限定なの!?』



 念話で愛衣の突っ込みが入るが、今はそれどころではないと即興のカバーストーリーを展開していく。



「そうしてここにやってきた結果、あなた方の部族を見つけたんだ。

 出来ればそちら部族の人達に、ここいらの魔物の情報を聞きたいんだ。

 ずっとここで暮らしているのなら、その辺にも詳しいんじゃないか?」

「確かに。美味い物や、有用な魔物なんかの情報はあるぞ。

 だが、それなら見返りを要求したい。君たちは我々ピアヤウセ族に何が差し出せる?」

「そうだな。まず肉や魚貝類、穀物などの食料。塩や砂糖、蜂蜜。魔法で作る大量の水。これらなら直ぐにでも出せるだろう」



 先に食糧事情が充実していない様な事を言っていたので、そちらを釣り餌に誘ってみる。

 すると案の定、ナハムの目や周りの槍を持った男たちの目がきらりと光った。



「ほう。それはさっきの不思議な魔法で出してくれるのか?」

「ああ。俺は沢山の物をしまっておく魔法が使えるんだ」

「それは羨ましいな……。それに水の魔法まで使えるとは、よほど前世にて善行を積んだに違いない」

「まあ、そうなのかもな。それで交渉は成立か?」



 いきなり前世などというスピリチュアルなワードに面を食らいながらも、改めてそう問いかけると、ナハムは竜郎の顔──というより目をジッと見つめてから、考える様な素振りをして周りに視線を向けた。

 すると五人の男たちも頷いて、賛成の意を示した。



「解った。俺達はこの周辺に出てくる魔物について教える。

 だからお前たちは俺達に食糧を渡す。これでいいか?」

「ああ。もちろんだ」

「よしっ! ならばお前たちは我が部族の客人だ! ゆっくりしていくといい。

 そうとなれば自己紹介をしなければな。

 俺の名前はナトゥンカハムプファ・ピアヤウセだ。このピアヤウセ族の族長をしている。

 名前は長いから皆にはナハムと呼ばれている。お前たちもそう呼んでくれていいぞ」

「俺の名前は竜郎・波佐見だ。さっき言った通り方々を旅して回っている。ここにいるのは皆俺の家族や仲間だ」



 その挨拶にうんうんと頷いていたナハムは、ふと《成体化》カルディナと《幼体化》ジャンヌに目線がいく。



「その鳥や角の動物は非常食か?」

「この子たちも家族だ! 食べるか!」

「ピィィーー!」「ヒヒーーン!」

「おおそうか。すまんすまん」



 屈託のない笑顔でそう言われてしまうと何も言えなくなってしまったので、そのまま愛衣達の自己紹介も済ませていった。



「では、さっそく中に入ってくれ」

「ありがとう」



 ナハムに引き連れられるように竜郎達は石積みの壁を通って中に入ると、大型の動物か何かの骨を組み、毛皮でその周囲を覆うと言う箱型の家々が立ち並んでいた。

 あまりの原始的な光景に竜郎や愛衣は口をあんぐりとあけて、まじまじとピアヤウセ族の集落を見渡し中央まで歩いてやって来た。

 そしてナハムがバッと両手を上げると、それぞれが骨や毛皮を加工したり、料理の支度をしたり、子供の世話をしている人達の手が止まり、視線が集まった。

 十分に注目が集まった事を確認すると、ナハムは両手を広げたまま集落にいる全員に届くように大きな声を上げた。



「皆聞いてくれ! 今日は俺達に客人が来てくれた! 温かくもてなしてほしい!」



 そうは言っても集落の入り口付近での会話を聞いていない人たちは、食糧について不安なのかあまり良い顔をしていない。

 それにナハムは、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。



「安心しろ! 我々が客人ともてなす代わりに、食料を提供してくれるそうだ!」



 その一言で一気に雰囲気が切り換わり、拍手までする者まで出てきてすっかり歓迎ムードになった。

 その現金さに竜郎達は苦笑いするしかない。



「さらに驚くことに、この者──タツロウは魔法使いでもある!」



 「おお~」と、さらに尊敬の眼差しが加わり歓迎ムードが加速していく。

 一瞬これで竜郎以外も全員《アイテムボックス》が使えると言ったら、どんな反応をするのだろうかと思わず考えもしたが、とりあえずは黙っておいた。



「では、さっそく食料を出してくれ!」

「解った」



 竜郎はまた光魔法で演出を加えながら、両手を突きだし魔物の肉や魚、米や小麦粉、塩、砂糖、蜂蜜(極上蜜ではない市販の物)を目の前の地面に広げていった。

 竜郎の《無限アイテムフィールド》に入っている食材の一割にも到底満たない量ではあったのだが、それでも大量と言っていいほどの食材が溢れ出てくる光景に、事前にどこからともなく出てくるのを知っていたナハムや五人の男も含め、顎が外れるのではないかと言う程口を開いて、目が飛び出るのではないかと言うほど見開いていた。



「お、おい。本当にいいのか? こんなに貰ってしまっては、逆に申し訳ないんだが……」

「気にしないでくれ。見ての通り俺はいくらでも物を持ち運べるし、ここに出したのはほんの一部にすぎないんだ。

 俺達とナハムの。そしてピアヤウセ族との友好の証として受け取ってほしい」

「タ、タツロウ……──!」

「のわっ!?」



 目を潤ませたナハムが、突如竜郎に抱きついて思い切り抱擁された。

 何こいつ!? そういう趣味なの!? と突き飛ばそうか燃やそうか迷っている間に、愛衣が無理やり引きはがしてくれた。



「うおっ!? タツロウの奥方は見た目に寄らず力が強いのだな……。

 いやすまない。感動してしまうと、つい抱きしめてしまう癖があるのだ」

「……念のために聞いておくが、男に性的魅力を感じる人ではないよな?」

「男に? それでは子を残せぬではないか。それに俺には妻も子もいるのだから、そんな心配はしないでもいい」



 別にそちらの方々に偏見があるわけではないのだが、その対象として見られるのは困るので一応牽制しておいたのだが、その心配はないらしい。



「そうか……まあ、喜んでくれたって事で良いんだよな?」

「勿論だ。ナトゥンカハムプファ・ピアヤウセの名に誓い、タツロウ達をもてなす事を約束しよう」



 ナハムが握手のような動作で拳を突き出してきたので、これはどうすればいいのだろうかと迷いながら、とりあえず同じように竜郎も拳を突き出した。

 すると拳同士を軽く打ち合わせ、上下にコンコンと拳を当て合い、最後にはまた正面同士で打ち合わせてきた。

 どうやらこれが約束の──こちらで言う指切りにあたる所作なのだと理解した。

 こうして竜郎たちは、イルファン大陸の先住民族ピアヤウセに受け入れられたのであった。

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