第412話 先住民との接触
具体的にレーラは何をしたのか。それを説明する前にと、レーラはこんな提案をしてきた。
「パーティ申請していなかったし、説明するついでに私のステータスを見せるわ。
だからタツロウ君たちのステータスも見せて貰える?」
「え? ああ、解った。愛衣達もいいか?」
「うんいいよー」
巨大牛のブロック肉が転がる中で、システムを操作してレーラを竜郎たちのパーティへと入れていく。
必要な手順を終えて、さっそくレーラが自分のステータスを公開してくれた。
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名前:セテプエンリティシェレーラ
クラス:氷神の巫女
レベル:1002
気力:2000
魔力:980167
神力:45100
竜力:1650
筋力:1820
耐久力:1710
速力:1760
魔法力:340167
魔法抵抗力:321300
魔法制御力:350167
◆取得スキル◆
《氷神の寵愛》《精霊眼》《精霊魔法+10》
《極氷世界》《氷触超回復》《氷魔法極限解放》
《氷魔法 Lv.20》《光魔法 Lv.7》
《氷剣乱舞 Lv.20》《氷槍突射 Lv.20》
《大氷槌落 Lv.20》《氷瞬歩 Lv.20》
《氷鋭速刃 Lv.20》《氷結手 Lv.20》
《氷盾 Lv.20》《氷域知覚 Lv.20》
《魔力質上昇 Lv.16》《魔法密度上昇 Lv.14》
《魔法生成上昇 Lv.20》《魔力回復速度上昇 Lv.20》
《多重思考 Lv.6》《全言語理解》
◆システムスキル◆
《マップ機能+5》《アイテムボックス+6》
残存スキルポイント:73
◆称号◆
《神の子》《神格者》《氷神と歩む者》
《氷を修めし者》《氷を極めし者》
《氷剣の使い手》《氷剣の名手》
《氷槍の使い手》《氷槍の名手》
《大氷槌の使い手》《大氷槌の名手》
《氷瞬歩の使い手》《氷瞬歩の名手》
《氷鋭速刃の使い手》《氷鋭速刃の名手》
《氷結手の使い手》《氷結手の名手》
《氷盾の守り人》《氷盾の要塞》
《氷見者》《氷見通者》
《魔なる者+3》《深淵なる到達者+1》
《竜殺し+11》《竜を喰らう者》
《高難易度迷宮踏破者》《越境者+9》
《魔王種殺し+6》《魔王種を喰らう者》
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「──レベル1002? 冗談みたいな数字だな……」
「それを言うならステータスもだよ、たつろー。十万代ってなんじゃそりゃっていう……」
色々見るべき点が多いステータスではあるが、それでもまず目に飛び込んできた数字に突っ込みをいれざるを得なかった。
「まあ、伊達に長生きしてないわって事かしらね。
それにどうしても普通の人達じゃ手におえない魔物を倒したりもしてきたし、そうなると強いのばかりが相手だからレベルも上がりやすいのよ」
「竜殺しや魔王種殺しのプラスを見れば、その辺は大体察する事が出来ますね……」
それを見る限りでは、少なくともレーラは竜を12体。魔王種を7体も倒している事になる。
さらにここに乗っていない竜や魔王種以外でも、強い太古に存在した強力な魔物なども狩っていたらしいので、このレベルにも納得がいくというものだ。
「昔はシステムなんて実装されてなかったから、今ほど世界力も安定してなかったのよ。
だから強い魔物が今よりもずっと多かったのよね。
今は大分調整されて、魔王種なんて滅多に産まれなくなったけど」
「昔はそんなに愉快な世界だったんすね。今いるこの時代はどんな感じなんすか?」
一般人からしたら魔王種が生まれやすい時代など、ちっとも愉快ではないだろうが、アテナにとっては十全に動ける状態で戦いたい相手であるため、期待の眼差しをレーラに向けた。
「今はシステムのテスト導入期だったはずだから、大分マシになり始めたくらいの時代だと思うわ。
それこそ完全にシステムが導入されていなかった時代は、どの大陸も荒れていて大変だったんだから。
いくつもの国や文明が産まれたり滅んだりを繰り返していたわ」
「ちょっと待ってほしいですの。システムが無いのにどうやって魔物と戦っていたんですの?」
竜郎や愛衣達が戦うことが出来るのは、システムのおかげだと言っていい。
もしそれが無ければ、魔法や武術など使う事は出来ないのだから。
であるのなら。システムの無い時代は、どうやって戦っていたのかと奈々は興味を持った。
それには竜郎やリアも気になったのか、意識しないままに身を乗り出した。
「そんなの簡単よ。私達クリアエルフは、システムなんて無くても魔法が使えるんですもの。
もっとも適性のない魔法だと────────────この程度がやっとだけどね」
「火の魔法……?」
「ええ、そうよ」
「え? でもレーラさんのステータスには無い……よね?」
レーラがやって見せたのは、指先に小さな炎を作りだす事だった。
しかしそれはとても弱弱しく、竜郎の精霊眼で観た限り非常に安定性に欠ける魔法であった。
けれどそれは間違いなく魔法であり、それも彼女のステータスに記載されていないはずの火の魔法。
「ということは、クリアエルフは規模の大小はともかくとして、やろうと思えば全属性の魔法が使えるんですか?」
「さすがに時空やら重力は無理だけど、基本属性なら皆使えていたわね。
もっとも自分に恩恵を与えてくれる神以外の魔法は、さっきの火ぐらいが限界だけど。
でも自分で魔法を生み出す事が出来るから、自己封印なんて魔法を作りだす事が出来たのよ」
「ああ。そう言う事だったのか。頑張れば自分でも新しい魔法が造れるのかと思ってた」
「そんな事が出来るのは、クリアエルフか真竜くらいでしょうね。
ちなみにレベルなんかは、システムが導入される前からクリアエルフには倒した魔物のエネルギーから自己強化出来る様に作られていたから、その分もちゃんと加算されてるわ」
そのクリアエルフの体質は、神たちにとってシステムを構築していく重要なデータとして重宝され、今の安定したシステムの基盤となっていった。
「けどシステムが無くていいのなら、なんでクリアエルフ達にもインストールしたの?」
「そりゃあ、そっちの方が私たちとしても楽だからよ。システム補助の無い魔法は、結構精神力が要求されるから」
と、クリアエルフの特性について知った所で、レーラの持つスキルについて話題が変わっていく。
「さっきの氷のドレスのような魔法は、スキルではなかったんですの?」
「ああ、それは《氷神の寵愛》の効果よ。
絶対零度の防御ドレスと、氷系統のスキルを強化吸収してくれる王冠を生み出し装着するスキルよ。
そして移動するのに使ったのは《氷瞬歩》。氷に足が触れていれば、移動能力と瞬発力が跳ね上がるスキルね。
これで空気中に作った氷の足場を蹴って進めば、さっきみたいに高速移動が出来る様になるの」
そして巨大牛をブロック肉にしたのは《氷鋭速刃》。目にもとまらぬ速度で、薄く鋭利な氷の刃を飛ばすスキルだ。
切れ味はレベル20という事もあり抜群で、さらに《氷神の寵愛》の王冠によって強化されているので、あの程度の魔物だと切られたことすら気が付かせずにバラバラに切断できる。
残りの《氷触超回復》は、氷に触れているだけで魔力は勿論、傷や体力などあらゆる治癒効果を発揮してくれる。
《氷魔法極限解放》は、竜郎のもつ《魔法域超越》の氷特化下位互換とでも言えばいいようなスキルで、一レベル分だけ《氷魔法》を一時的に底上げする事が出来る。
《氷剣乱舞》は周囲に氷の剣を撒き散らし、《氷槍突射》は氷の槍を弾丸の如く撃ち放つ。
《大氷槌落》は巨大な氷のハンマーを打ち下ろし、《氷結手》は氷の触手を産みだし触れた物を凍らせる。
そして《氷域知覚》は周囲に氷の微粒子を撒き散らし、疑似的な探査魔法の様な事が出来るスキル。
ただし解析能力はないので、そこに何かがある程度しか解らない。
ただこれを展開しておけば、不意打ちをすぐさま感知する事が出来るようになる。
次に称号関係で言えば、~の使い手。~の名手。は、それぞれのスキルが10と20レベルになった時に覚えたもので、ステータスや該当スキルの強化などに関わっている。
《氷盾の守り人》《氷盾の要塞》や、《氷見者》《氷見通者》なども同様だ。
《魔なる者+3》は、《魔力質上昇》《魔法密度上昇》《魔法生成上昇》《魔力回復速度上昇》がレベル10の時に取得、プラス値増加したもの。
《深淵なる到達者+1》は20の時に取得、プラス値増加したもの。
それぞれ魔力操作や魔法の威力をアシストしてくれる称号になっている。
「って感じかしらね。私については。それじゃあ、今度はタツロウ君たちのを見せて貰うわね」
「ああ」
そうして竜郎達のステータスを見ては、知らないスキルや称号についてあれこれ聞かれ、想像以上にここで時間を消費してしまうのだった。
ようやくお互いの戦力を明確にしたところで、竜郎達はお目当ての部族がいるであろう方角へと歩き始めた。
竜郎とカルディナの探査魔法によれば、現在地より内陸側に向かって進んだ所にある、深い大地の亀裂──崖になっている手前付近で複数の人間の反応を既に見つけている。
できるだけ穏便に済ませられるように武装は解除した状態で、されど危険になったら直ぐに動けるようにして、そこを目指す。
しばらく歩いていくと目視で確認できるようになってきて、さらに近くに行けば向こうの人々もこちらに気が付き、やや警戒したような雰囲気を醸し出し始めていた。
「うーん。服装を見る限り、あまり文化的な生活をしてる人達じゃないっぽいね」
「俺達の国で言う、石器時代とかで着ているようなイメージのある獣の皮の服だもんな。
いっちゃなんだが、かなり原始的な生活をしている様だ」
「攻撃的な人じゃなきゃいいですけど……」
「その辺はどうなんですの?」
リアの呟きをそのまま拾って、奈々が唯一この時代を知っているレーラへと水を向ける。
けれど当の本人は、難しい顔をして首を横に振った。
「うーん。この頃この辺には私はいなかったから、さすがに一部族の特徴は解らないわね。
それだけに興味深くはあるけれど。ふふっ、イルファン大陸の太古に住まう部族について調べるいい機会だわ」
「ほんとに何にでも興味を示すんすねー」
若干呆れたようなアテナの言葉にもなんのその、それが私だとばかりにレーラは胸を張って進んでいった。
そんな緊張感が無い中で、石を積み上げて作った様に見える二メートルほどの塀を背に、五人の男達が骨と石で作った槍を手にもった状態でこちらへと油断のない視線を向けてくる。
「武器まで原始的だな……。本当に石器時代みたいだ──と」
「○○○○○!」
「○○○○ ○○○○!」
「先住民はイルファン大陸語じゃないのか」
「みたいだね」
「その言語は後から来た──彼らからすれば侵略者側が持ってきた言語なんでしょうね」
何やら良く解らない言語でしゃべりながら槍を突き付け、おそらく止まるように指示を出してきたようだ。
なので竜郎たちは特に気負いも無く、危害を加えるつもりはないと両手を上げてアピールをしてみた。
すると恰好をじろじろと見られたり、怪訝そうな顔をされはしたものの、脅威だとは感じられなかったのか取りあえず槍先は下げてくれた。
「○○○○ 何処から来た! 言葉は通じるか!」
さっそく《全言語理解》で、言葉が解る様になる竜郎、愛衣、リア、レーラ達。
「通じている! 俺達は方々を旅してまわっている旅人だ! ここより離れた西の方角からやってきた!
あなた方に危害を加える気は一切ない! 一度落ち着いて話は出来ないだろうか?」
「何? たびびと? ──さすらい人が何用か!
ここには俺達皆が食っていくための物しかない。お前らには分ける事は出来ないぞ!」
「あらら。どうやら物乞いだと思われている様ですね」
「物乞い? 失礼にもほどがありますの」
リアが完全言語理解で聞き取った事をそのまま口にすると、隣にいた奈々が不機嫌そうに口元を尖らせた。
だがあちらがそう思うのも無理はなく、旅人と言っておきながら誰も何も持っていない。
それは《アイテムボックス》などに入れているからなのだが、まだ完全にシステムが普及していないこの時代には、そんな便利スキルは無いので知る由もない。
そんな時代に水も食料も持たずにフラフラ近寄られれば、そう疑いたくもなるだろう。
竜郎はレーラにこそこそっとそれを教えられ、せめて荷物を持っているフリ位はすべきだったと後悔した。
けれどそう言ってももう遅いので、竜郎はさてどうしたものかと考える。
(このままでは食料をねだりに来た浮浪者扱いだ。
儀式について調べる為にも、せめて旅人くらいには扱って貰いたいが今更遅いだろうし……。
よし。いっそのこと開き直るか)
そうして竜郎は一歩前に踏み出し、先住民たちに向かって口を開くのであった。




