第411話 レーラの実力
それから竜郎達は教会の中には信者でなくても入れるようなので入れて貰い、しばらく見学した後は外で記念撮影をした。
もちろん虹色の巨塔もバックに入れるのも忘れずに。
その時にスマホに興味を示したレーラを何とか押しのけながら、竜郎達はゼラフィムの首都イルメッカを後にした。
「へー異世界にはこんなアイテムがあるのね。凄いわ!
これは異世界に行ったら私も手に入れられるかしら?」
「それは私達の国なら大体の人が持ってるくらい当たり前の物だから、レーラさんも手に入れるのは難しくないよ。
もちろんお金はいるけどね」
「お金ね。そっちの世界でも価値のある金属を持っていけば問題ないのよね?」
「まあ換金すればお金を手に入れられますしね」
レーラにもぎ取られたスマホについて説明しながら、竜郎達は認識阻害魔法を使った上で、念のためにと人気のないとこまでやって来た。
上位種である天魔であるのなら、見破れる者もいるかもしれないと警戒しての事だ。
そして誰も見ていない事を確認した後で、竜郎は転移魔法を発動させて拠点地下まで移動した。
「転移魔法なんて、これだけ生きてきても初めて見たわ……。
やっぱりタツロウ君たちに協力することは正解だったわね」
「えーと。そろそろスマホ返してほしいんだが」
「ああ、ごめんなさい。また後で貸してくれると嬉しいわ」
「まあ、それくらいならいいですよ」
ニコニコご満悦なレーラに苦笑しながら、これから行く場所について竜郎は聞いてみた。
「私が知っている記憶と、これから行く場所は一番近い所で大陸二つ分くらいの所だけど大丈夫よね?」
「うん。こっちにはジャンヌちゃんがいるから、どんなとこにも行けるからね!」
「ヒヒーーン!」
愛衣に頭を撫でられて、子サイ状態のジャンヌは勿論!とでも言うように嘶いた。
それにほんわかした空気になりつつ、いよいよ大規模な過去転移の時となる。
今回は恐らく竜郎一人では厳しいという事なので、カルディナ達の竜力も使わせてもらう。
そしてレーラを転移魔法の主軸に置いて、これから行く時代を明確に思い浮かべて貰う。
時空魔法の魔力がレーラに絡みつくように渦巻いていき、竜郎達の方にも伸びてくる。
そうして全員を包み込み終わると、竜郎達を連れて遠い過去へと旅立った。
目の前に広がるのは赤茶色の地面剥き出しの荒野とその先に見える海だけだった。
周囲を見渡しても建造物のかけらも見当たらず、探査をかけても魔物一匹見当たらない。
「えーと……ここは?」
「ここはイルファン大陸の南西に位置する島のはずよ。
確かこの島にしかない金属の研究のために、この時代はここに入り浸っていた記憶があるわ。だから記憶にも残っていたの」
「この島にしかない金属ですか? 私、気になります!」
「ふふっ。でもこの時代では珍しかったけど、後にありふれた金属になるから態々採取しなくても元の時代に帰れば普通に購入できるわよ」
「えぇ……」
でも念のためとリアがその金属の名前を聞いてみれば、竜郎達には馴染みはないが、リアにとってはありふれた金属であったらしくがっかりしていた。
そんな義妹の様子に小さく笑いながら、竜郎は現在時刻と現在地をシステムを使って確かめてみる。
すると現在時刻はヘルダムド国歴-39050年.7/3.水。9時42分1秒。
そして現在地は確かにオウジェーン大陸までの距離と比べて、二倍ほどイルファン大陸から南西に離れた所にあるブーメランのような形をしたやや大きめの島の中心辺りに立っているのが確認できた。
これより数万年後には人が住み始めるのだが、今はまだ誰もいない無人島である。
ちなみに年号がマイナスなのは、竜郎が特に設定を変えていないので、そのままシステムがヘルダムドを基準にして換算した様である。
「えーと、それでこの次に行くのはイルファン大陸でいいんだよな?」
「ええ。今はまだないけど、ヘルダムド国が出来る場所よ」
「あ、そっか。この時代にはまだないんだ」
「約4万年前というと、あの大陸のあの辺りには先住民がいるくらいでしょうからね」
「そして、その先住民の一部族に接触するという事ですの」
「なら、こんなとこにいてもしょうがないっすから、さっそく行くっす」
「そうだな」
まさしくアテナの言う通りなので、さっそくジャンヌに空駕籠を背負って貰い皆で乗り込んでいく。
その際もレーラがあれこれ聞いてきたが、適当に応対しておいた。
そうして海を渡り空路を突き進んでいると、外で魔物を狩っていたカルディナが、そこそこ強い魔物を見つけたので半殺し状態で竜郎の元へと持ってきてくれた。
それは鮮やかな空色をした恐竜と鳥のミックス──言うなれば始祖鳥に似たフォルムの1メートルサイズの魔物だった。
この魔物が大空を飛んでいれば、さぞ見栄えがいいだろう。
──だが、今や全身に魔弾で穴をあけられ、翼は両方へし折られ足も妙な方向に曲がっている。
長かったであろう細い舌も千切れており、これが魔物という生命力の強い生き物でなければ、とっくに死んでいてもおかしくない程の有様だ。
そんな始祖鳥をカルディナは足でつかんで竜郎の前に差し出してきたので、ありがたく《レベルイーター》を発動してスキルレベルを頂いていく。
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レベル:41
スキル:《飛翔 Lv.6》《水中飛翔 Lv.4》
《かみつく Lv.5》《毒牙 Lv.3》
《水翼刃 Lv.5》《強酸弾 Lv.2》
《舌突き Lv.6》
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(おっ、ほんとうにソコソコ強いな。というか水中と空中両方いける口なのか。
素材も取っておいて、何かの創造に使ってみようかな)
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レベル:41
スキル:《飛翔 Lv.0》《水中飛翔 Lv.0》
《かみつく Lv.0》《毒牙 Lv.0》
《水翼刃 Lv.0》《強酸弾 Lv.0》
《舌突き Lv.0》
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そうして《レベルイーター》を使い終え、カルディナに止めを刺して貰っていると、ふと視線を感じ竜郎は振り返る。
するとレーラの好奇心に染まった目と目が合った。
「えーと……何だ?」
「今《レベルイーター》を使っていたのかしら?」
「あ、ああ。SPを稼ぎたいからな」
「また取りたいスキルが増えたからね」
「ちなみにそれはどんな感覚がするのかしら? 痛みとかあったりするの? それとも気持ちがいいとか、体が熱くなるとか気持ち悪くなるとか。他にも────」
まさに好奇心の塊とでも言うのか。リアも好奇心旺盛な方ではあるが、それは鍛冶師として役に立ちそうなものが主で、何でもかんでも興味を示すわけではない。
けれどこのレーラという女性は、初めて見た物聞いた物にはとにかく何でも興味を示す。
しばらく質問攻めにあいながらも、特に忙しいわけでもないので答えていくと、やがて満足げに頬を上気させてメモを取っていた。
これで満足したなと竜郎が始祖鳥モドキを《無限アイテムフィールド》に入れようとしたとき、ふとレーラがその魔物について思い出したかのように呟いたので、その手が止まる。
「そう言えば……ソレってニギミニ鳥ね。もう現代では絶滅しているらしいから、久しぶりに見たわ」
「──え? この鳥って絶滅してるの?」
「ええ。この時代の魔物は現代よりも平均的に強いから、この程度の魔物じゃ生き残れなかったんでしょうね」
「ってことは、こいつはここでしか手に入れられない魔物なのか。
他にもこいつみたいな魔物ってこの時代にいたりとかはするのか?」
「いるわよ。怪神は気に入った魔物じゃない限り、滅んだらそのままで種の復活はしないってケースが多いみたいだし。
一万年単位でなら結構な種類が滅んだり生まれたりしているわ」
「そうなのか、ふむふむ」
「あ。滅んだ種を現代に生み出すのもいいかもなって顔してる」
「愛衣よ。君はエスパーか?」
「顔見りゃそれくらいわかるよ。だって、たつろーの事だもん」
「そうか。俺も愛衣の事なら大体何考えてるか解るしな。そう言うもんか」
「そう言うもんだよ」
──と。なんの脈絡も無く見つめ合い、手を握り、唇を寄せ合いだした竜郎と愛衣に、レーラは目を白黒させて何事かとうろたえ始めた。
そんなレーラに対し、すっかり竜郎と愛衣のイチャつき耐性が出来たリアが肩に手を──乗せようとして届かなかったので腰に手を当て。
「レーラさんも一緒にいれば直ぐに慣れますよ」
「えーと、本当に慣れるかしら……?」
「はい。所構わずこうですから」
「そ、そうなのね……」
菩薩のような悟りきった笑顔のリアにそう言われてしまえば、もうレーラには何も言い返す事も出来ず、そう言うものなのかと納得する他なかったのだった。
そんな一幕がありながらも竜郎一行は順調に空を進んでいき、たまにカルディナが持ってきてくれる魔物からレベルを頂きながら目的地に着くまで過ごしていった。
「ここに将来ヘルダムド国が築かれるんですね」
「ええ、そうよ。初代国王の一族がこの大陸にやってきて、先住民と幾度か戦いを繰り返して国土を広げていった末に、あの国は出来たの」
「そう聞くと先住民の人が可哀相だね」
「ああ。けれど地球だって似たような所はいくつもあるからな。
人間のやる事は異世界でも大して変わらないって事だろうさ」
「異世界の歴史ね! 興味があるわ! もう少し聞かせ──」
「今はそれよりもやる事がありますの。そちらを先に済ませて欲しいですの」
「あ──そうね。ごめんなさい。それにそういうのは自分で調べていった方が面白そうだし、楽しみは後に取っておくわ」
「そうしてくれると話が進みやすいっす」
今現在竜郎達は、広大な草原地帯に佇んでいた。
見渡す限りに緑が広がり、野生の四足動物や魔物がちらほらと確認できた。
中には竜郎達を警戒して逃げていくものもいる中で、一匹の大きなゾウほどもある巨大牛が突っ込んで来るのが見える。
そこで竜郎がさくっとレーザーで倒そうかと杖を構えようとすると、レーラが前に出てその動きを制止させた。
「ここは私に任せてくれる? そっちもどれくらいの戦力になるのか、私の実力が気になるでしょ?」
「それはそうだが…………精霊眼で観る限り、あれじゃあ試金石にもならないと思うが?」
初めて会った時は精霊眼は無かったので当時と比較する事は出来ないが、それでも今見えるレーラのエネルギー量はハウルやアーレンフリートとも比較にならない程に強大だった。
それに対してあの巨大牛は、確かに一般的に見れば強い魔物と言えるだろう。
レベルにして60はいっているかもしれない。
だが──レーラと比べたらアリとゾウにすらならないであろう。
そんな存在でどうやって実力を示すと言うのだろうか。
「安心して。アレはただの的に使うだけだから」
竜郎の疑問を打ち消すようにレーラは優雅に歩みを進め、手には以前見たことのある──サファイアの様な輝きを放つ石が天辺部に嵌められ、その下の杖の部分は氷の鱗のような物で覆われている杖を取りだし、魔力を込めていく。
するとレーラの体の周りに氷の強烈な魔力が密集してきたかと思えば、一瞬で氷のドレスと王冠を身に纏った。
「きれい……」
思わず愛衣がそう呟いてしまう程美しいドレスの裾をはためかせ、杖を軽く振るうと一瞬で巨大牛の足元が凍りついて動けなくなった。
「ブモーーー!」
けれど巨大牛は諦めない。頭を突き出すような動作を連続でし、頭の角から気力の突撃を放ってきた。
それに対してレーラは何もしないで突っ立っているだけ。
牛は決まったとばかりに「ブモモッ」と息を漏らした。
「何がおかしいのかしら?」
「ブモッ!?」
けれどその突撃はレーラに当たる前に凍りつき、動きを止めた。
「気力の塊まで凍らせることが出来るのか……」
「この氷のドレスには《絶対零度》というスキルが籠っていて、魔法であろうと武術だろうと、あらゆるものを凍らせて自動で私を守ってくれるの。
クリアエルフとして目覚めてないと、さすがにここまでの事は出来ないけれど、今の私ならこの程度の事は造作も無いわ。
そして──こんなことも出来るわっ」
レーラはそう言って空中を蹴ったかと思えば、銃弾のようにすっ飛んで、ピンボールのように空中をジグザグに飛びながら牛の周囲を飛び回る。
かと思えば、直ぐに元の位置に着地した。
「凄いね」
「ああ」
竜郎も愛衣と手を繋いでいたおかげで、今のあの一瞬でレーラが牛に対して何をしたのか目でしっかりと追うことが出来た。
けれど牛はまだ自分が何をされたのか気付いてすらいない。
なので何も考えずに体を動かそうとした瞬間──体中がバラバラと均一なブロック状に崩れていったのであった。
「──お粗末様でした」




