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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第十章 東奔西走編

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第410話 約束とプチ観光

「は?」



 レーラのその発言に、竜郎は思わず間抜けな声が零れた。

 それにレーラは目を輝かせながら、もう一度同じ言葉を口にする。



「だからね。私を異世界に連れてって♪」

「レーラさんは私たちの世界に来たいって事?」

「その通りよ! だって異世界! 未知の場所! 私が何一つ知らない言葉や土地歴史! 最高じゃない!」



 前にあった時のように落ち着いた大人の女性像は欠片も無く、テンションが高すぎて竜郎達は無意識に背中を後ろへと反らしてソファの背もたれにぶつかった。



「えーと……それは観光的な意味での来訪ですか?」

「いいえ。せっかくだから私が住めるように協力してほしいわ。

 そのためならどんな事でも協力してあげるから!」



 魔神が言っていた好奇心が強いというのはこう言う事かと、今更ながら竜郎は思い知る。

 だがこの条件は悪くないとも同時に思う。

 レーラの人となりは少ししか一緒にいなかったが、魔竜退治に単身乗り込んできてくれたことからも悪人ではないと断言できる。

 竜郎達の世界をいたずらに混乱に陥れようなどとは思っていないだろう。


 それならリアも異世界に住めるようにするのだから、一人や二人増えた所でどうって事はないのだ。

 けれど確認として、とりあえずこれだけは聞いておこうと竜郎はレーラに真剣な眼差しを送った。



「念のために聞いておきますが、僕らの世界に混乱を招くような事はしませんよね?」

「勿論よ。ありのままの異世界を堪能したいのに、そんな事をしたら興醒めだわ」



 竜郎の真剣みが伝わったのか、レーラも真面目な表情でそう言葉を返してくれた。

 そこに嘘の色は感じられず、竜郎は愛衣へと──そして皆へと視線を送ってどうかと問いかけてみる。

 すると一様に頷いてくれたので、満場一致でレーラに協力してもらい、竜郎達はレーラを異世界──というより竜郎達の住まう世界に連れていき、生活できるようにサポートをする。

 そんな約束事が取り決められ、お互いに握手を交わした。



「そうとなればタツロウ君も堅苦しいのは止めましょう。いつも通りの口調で構わないわよ。

 現に私はもうそのままだしね」

「えっと、そうですね。いや、そうだな。これからよろしく、レーラさん」

「よろしくね! レーラさん!」

「ええ、よろしくね。皆」



 こうして竜郎達のパーティに新たにレーラ・トリストラ──セテプエンリティシェレーラが加わったのだった。



「ところで何でレーラっちは名前を変えていたんすか?」

「レーラっち? 面白い呼び方ね。初めての感覚だわ。

 ──と、それはいいとして、名前?」

「おとーさまや、おかーさまに名乗った名前と違う事に、純粋に疑問を抱いたんですの」

「ああ、そう言う事ね」



 何気に竜郎や愛衣も気になっていたので、少し前のめり気味にレーラの方を向いた。



「そんなに特殊な意味はないのよ。ただセテプエンは神に直接生み出された物がもつ名前だから、そのままだとまずいのよ。

 かといってリティシェレーラも長いでしょ? だからただのレーラにしたって訳なの」

「えーとそれじゃあ、家名を現すトリストラはどこからきたんですか?」



 そんなリアの質問に、レーラは懐かしむような顔で微笑んだ。



「クリアエルフには親と呼べるようなものも、家族と呼べるようなものもいないのよ。

 生まれた──というよりも、むしろ世界に発生したと言う方が適した生まれ方をするから。

 けど私は冒険者として仲間を得て、その人たちと初めてパーティを組んで、初めて家族のようなものを得たと感じられたの。

 だからトリストラは、その時組んでいたパーティの名前。

 もう私以外はみんな寿命やら何やらで死んじゃったから、せめて私の名前として──家族として残しておこうと思ってね」

「……すいません。気軽に聞いてしまって……」

「いいのよ、リアちゃん。確かに皆いなくなってしまったのは悲しいけれど、決してあの子たちの事を思い出すのは嫌な事じゃないのよ。

 だから私はいつでも笑ってその話が出来るわ」



 その時のレーラの顔は、何百年も何千年も生きてきた存在に相応しく、とても落ち着いた貫禄が垣間見えた。

 おそらく今までも、その無限の生の中で幾度となく別れを経験してきたのであろう。

 かといってそれに慣れたというでもなく、その彼女にとって一瞬とも言える時間を大切にし、その瞬間に関われた事を幸運だとすら思っているようでもあった。


 だから竜郎達はそれ以上は何も言わなかった。

 高々十数年しか生きていない小僧や小娘では、嘘でも解るなどと言えるはずもないのだから。


 やや雰囲気が盛り下がってしまったが、嫌な感じでもないので竜郎はそのまま話を進めることにした。



「えーと、それでレーラさん。これからの予定なんだけど、等級神たちからなんて聞いている?」

「確かまずは約4万年前──正確には4万と78年前の7月まで遡って、とある部族の儀式場らしき場所に溜まった世界力を散らして欲しいと聞いているわ」

「儀式場? なんでまたそんなとこに集まったのかな」

「基本的に世界力の流れや停滞は神々がチェックしてるけど、外的要因で集まった世界力に対しては気が付きにくいのよ。

 だから今回の他世界崩壊を招いた事象を事前に発見できなかったというのがあるんでしょうね」

「つまりその儀式場に世界力が集まったのは偶然ではなく、人為的にという事でしょうか?」

「ただの人間が狙ってそれをやるのは難しいわ。

 しいて言うのなら、たまたまやっていた事がたまたま噛み合ってしまったと言う方が可能性としては高いと思うの」

「つまりその儀式場で行われている事が、偶然噛み合ってしまったと考えるのが妥当か。

 それじゃあ、その儀式自体もやめさせた方がいいかもしれないな。

 また何らかの要因を作りだされても困るし」

「それを神たちも望んでいるわ。ただ力づくではなく、穏便に噛み合わない方向へと少しずらしてもらうように仕向ければ問題ないようだけれど。

 そうすれば部族たちも儀式をそのまま続けられるし、私たちも今後余計な世界力の集合を阻止できるって寸法よ」

「ああ、そこも曖昧にしていく方向なんだな。あんまり道筋を変えない様に変えていくっていう」

「その考えで合っていると思うわ」



 つまり奇跡的な確率で噛み合ってしまっているだけなので、ほんの少しその流れを変えるだけで簡単にずれてくれる。

 なので部族と軽く接触し、虐殺もしくは洗脳して原因を取り除くのではなく、何らかの儀式の工程をほんの少し変えて貰うだけで十分なのだ。

 後は竜郎が《レベルイーター+α》と《世界力魔物変換》で調整して散らせば、その時代でのミッションは終了という事になる。



「えーと、竜の女帝さんとはまだ会わなくていいの?」

「ええ。まだ未来に用はないし、さっき言った件が終わった次に世界力を散らすのに、どうせイシュタルに会いに行かなければいけないのよ」

「つまり竜の大陸内にも世界力溜まりがあると」

「ええ。その通りよ。そしてその場所は竜たちにとっては神聖な場所だから、どうしても皇帝の許可がいるの。

 だからそのついでに行った方が効率的でしょ?」

「それもそうだな。それで今更なんだが、レーラさんは何処まで俺達の事聞いているんだ?」

「えーと大体の事は聞いたわね。12番目の異世界から来た子達だとか。それから──」



 レーラの持っている情報がどこまでなのか確かめて、それから軽く今までお互いが離れていた期間についても話し合って情報の摺合せをしておいた。

 本当に大体の事は魔神やら氷神に聞かされていたようで、重要な事や秘密にしておきたい事などはちゃんと理解してくれていた。

 レーラはレーラであれから冒険者ギルドの職員を辞め、他のパーティに飛び入りしたりダンジョンに潜ったりして勘を取り戻しながら、力を戻していき、そのついでに竜郎達を探して仲間に入れて貰おうとしていたらしい。


 だが結果として竜郎達はダンジョンで数十年の時を過ごしていた事になったせいで、大分擦れ違ってしまっていたようだ。

 そうして見つからないからどうしようと頭を悩ませていた頃に、竜郎達について話を聞き、手助けする代わりに新天地へと連れていって貰う事にしたらしい。


 そうして情報の摺合せも済んだところで、竜郎はいよいよ本題について切り出した。


「よし、それじゃあいつ行けばいい? 俺達としては今からでもいいんだが」



 必要な物資はたんまりと《無限アイテムフィールド》に入っているので、今すぐに何処へでも出かける事が出来る。

 それにレーラは少し考えるそぶりを見せながら、人差し指を顎に当てる。

 その動作はそこいらの男なら思わず見入ってしまう程絵になっていたのだが、竜郎は何とも思わずにただ見つめる。



「ゼラフィムに来たのは初めてでしょう? ならここにしかない──とまでは言わないけれど、それでも貴重な素材を入手しておいてもいいと思うわよ?

 お金に余裕があるのなら、お店に売っているしね」

「貴重な素材ですか? それは何でしょう?」



 貴重な素材と聞いて、リアがずずいと前に乗りだしレーラとの距離を詰めた。

 それにリア以外の皆が苦笑している中、レーラは微笑みながらそれについて教えてくれた。



「それは勿論。ここは多くの天魔が長年暮らしている土地なんだから、あれしかないでしょう?」

「アレというと……もしかして天魔晶ですか?」



 天魔種が五人以上で何年も暮らした場所に生えてくるという不思議な水晶の事で、竜郎達のいたイルファン大陸では非常に珍しい素材だ。

 そんなものが普通に店で売られているわけはないと思いながらも、リアはそれしか思い浮かばなかったのでそう口にした。

 けれどそれは正解だったようだ。



「そう、天魔晶よ。確かに気軽に手を出せる値段で売られているわけではないけれど、それでも売っている所にはちゃんと売っているのよ。

 なにせこの国は天魔種が代々家を受け継いで住んでいる家族も珍しくないから、家の隅っこやら何かからニョキニョキ生えてくるらしいわ」

「そんなタケノコやキノコじゃあるまいし……」



 竜郎が呆れた声でそう言うが、実際そんなものらしい。

 天魔にとって自分の家で取れた天魔晶がもっとも相性がいいので、自分たちの家族の分は確保しておくが、それ以外の余剰分は売りに出してお金を稼いでいたりもするらしい。

 朝起きたら床や天井、庭先に──なんて事が年に何回かあるので、長く一所に住んでいる天魔にとってはお馴染みの素材の様だ。



「本当にお店で買えるなんて……」



 レーラの言葉を聞いた竜郎達は早速、値段の張る素材を売っている百貨店の一角に足を延ばした。

 すると、当然のようにケースの中に売り物として置かれていた。

 それにリアは口を大きく開けながらも本物かどうか確かめ、その中で最も品質のいい天魔晶を大金を払って手に入れていた。

 そんな小さな女の子の確かな目利きに、店員のおじさんは目を丸くしていた。



「後はせっかくここまで来たのなら、教会を見ていくのもいいかもしれないわよ?」

「そう言えば、門にいた人たちに見とくといいみたいな事言われたっけ。

 どーする? たつろー?」

「まあ、ちょっと寄り道するだけだし、いいんじゃないか?」



 そんなこんなで適当に買い物を済ませてから外に出ると、そのまま町の中心地にある教会を目指す。

 やがて一際大きな建物と広い芝生地帯が見えてきた。



「で、でかい……」

「何か遠近がおかしくなりそう……」

「何でも竜神様が入れるくらい大きなものでないといけないって事で、こんなに大きくなったみたいよ」

「「へぇー」」



 竜郎や愛衣と同じように、その教会の大きさにカルディナ達も目を丸くしていた。

 また目を引くのは大きさだけでなく、大理石のような質感の建材で作られた白と黒を基調にした教会で、竜や天魔の形をした彫刻や細かな模様が壁に施され芸術性の高さがうかがえた。


 だが、驚くのはまだ早かった。

 竜郎達は呆けた顔で教会を見上げながら正面入り口の前に立った時、突然それが現れた。



「「「「「──え」」」」」「ピィ!?」「ヒヒン!?」「「──!!」」

「最初はみんな驚くわよね」



 隣で竜郎達の反応を見てくすくすと笑うレーラにかまう余裕も無く、突如教会の後ろに現れた巨大な塔に見入っていた。

 それは虹色に煌めく幻想的で美しい塔で、高さは雲をも貫き何処までも伸びているかのように見えた。

 しかしここまで来る間に、そんな塔は見えなかったし、何より教会の後ろに収まる様な大きさでもない。

 だがそれは決して幻ではなく実際にそこにあるという事は、竜郎の解魔法でみても明らかだった。



「あそこは位の高い信者や教皇くらいしか入れない、特別な塔らしいわ。

 なんでも特殊な魔道具を用いて空間を歪ませて、そこに建てたようなの。

 だから通常の方法では入れない様になっているそうよ」



 そんなレーラの解説を耳にしながら、竜郎達はただただその塔を眺めたのであった。

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