第408話 マップ機能のその先は
伝説級の幽霊船を蹴散らした竜郎達一行は、それからは特に目立つものも見つからないままフライトを続け、レーラが待っていると言っていた天魔の国ゼラフィムがあるオウジェーン大陸が見えてきた。
こちら側の海は特に危険域とされていないのか港が築かれており、船の往来は活発だった。
とはいえ竜郎達がやってきたイルファン大陸の方向に、舵を切ろうとする船はいないのだが……。
このままジャンヌで乗り付けると色々注目を集めてしまいそうであるので、呪魔法で認識阻害をかけてから、着陸できる広いスペースがないかを確認していく。
別に港に降りずとも、そのままゼラフィムに向かってもいいのだが、どうせなら港にも転移ポイントを作っておきたい。
そんな考えから良い着陸ポイントが見つからなかったので、港より手前の海の真上に着水し、それぞれの方法で海面へと出て《無限アイテムフィールド》へ空駕籠をしまうと、《幼体化》したジャンヌを竜郎が抱っこしながら陸地まで歩いていった。
改めて周囲を見渡せば人や物資を乗せた船、はたまた漁船などなど様々な船が出入りし、往来も人の活気で溢れかえっていた。
潮風を鼻に言語の違う喧騒を耳に船着場から離れ、少し開けた場所にある電灯部分が魚の形をした街灯の前で立ち止まった。
「見て見て、お魚さんの形した街灯だよ! 写真とっとこっと」
「人通りが多いのは難点だが、転移先のポイントとしては覚えやすいな」
認識阻害はかけっぱなしなので、そのまま皆で魚の形をした街灯の前で記念撮影を撮った。
「それで、ここからゼラフィムまでは遠いんですの?」
「その国自体は遠くはなかったはずだ。……えーと」
「どうしたの?」
マップを見ながら難しい顔をする竜郎に、愛衣が首を傾げた。
「いやな。マップ機能ってのは地図を出してくれるのはいいんだが、表示範囲が限られているんだ。
それに縮尺も変えられないから不便だなと」
スマホで地図を見る様な感じで画面をスイングすれば地図も動いてくれるので、今までの行動範囲位なら別にいいかなと思っていた。
けれどこれからは色々な大陸を渡っていく事になりそうなので、これでは少し不便に感じてきたのだ。
となれば解決方法は一つしかない。
「拡張ですね、兄さん。幸い幽霊船でかなり稼げたんですよね?
先行投資だと思って使ってしまってはどうでしょう?」
「それもそうだな。どんな便利機能が付いていくかは気になるし」
「うーん。地図だから、ナビゲーション機能とかあったら便利だよね」
「いちいち開かなくても勝手に案内してくれるんなら、確かに便利そうっす」
そんな事を身内で話している間に、竜郎はマップの拡張項目を確認していく。
「現在SPは(363)と、さっきリアが言ったとおり幽霊船で稼いだから問題ないんだが、さてそうなると+2以降に期待だな」
「そうなの?」
マップ機能をこれまで拡張しなかった理由の一つに、+1の恩恵が竜郎にとって魅力的ではなかったと言うのもあった。
その恩恵は世界地図表示。そして表示された部分を指で突いて、同じ表示領域で地図を見る事が出来る様になるというもの。
一つの大陸内をうろついていた竜郎達からしたら、あまり必要のない機能だろう。
さらに時計機能の時は先に得られる恩恵を見る事が出来たが、マップ機能はアイテムボックスの時と同じく、開放してみないと次が何かは解らない様になっていた──というのもある。
だがこれからはあってもいいだろうと、竜郎は早速拡張していく。
「っと、+2は拡大と縮小が出来る様になって、地図に書き込みが出来るようになるらしい」
「拡大縮小は良いとして……書き込み?」
「ああ、見るだけじゃなくて自分で好きなように目印やメモなんかを書き加えられるようになるらしい。
消す事も自由にできるみたいだし、微妙に便利と言えば便利かもな」
「確かに凄く便利というわけではない様ですが、便利になる事には違いないですの」
という事で+2に拡張していく竜郎。そして+3以降も、その流れでどんどんと取得していく。
ちなみに、+3では表示画面拡大と二画面化が可能に。
+4で目標地点設定と、その目的地の方角を示す矢印ガイド追加。
+5で地図情報多画面化(際限無し)と立体地図機能追加。
+6では目標地点までのルートを音声ガイドしてくれる機能追加。
+7で表示地図詳細化(小)で、冒険者ギルド、店、宿などの公の施設が地図で解る様に。
+8で表示地図詳細化(中)で、何が売られている店なのかなど正確な種類まで表示可能に。
+9で表示地図詳細化(大)で、公の施設の間取りや、店舗別の商品一覧などの情報取得が可能に。
+10で上位スキルへの置換条件達成。
となっていた。
「勢いで10まで取ってみたんだが……マップ機能にも《アイテムボックス》みたいな上位スキルがあったんだな」
「なんてスキルがあるんですか?」
「完全探索マップ機能だってさ。効果は表示地図詳細化(最大)で、どんな場所でも──例えば個人の家の間取りとかダンジョンとかでも完全使用可。
特定の物質や人物、事象を探索しマップに表示だってさ」
「え? 何それ凄くない? 例えばお財布落としても、それを使えば何処にあるか表示してくれるって事だよね?」
「お財布だけじゃなく、人間も何処にいるか解るみたいだ。プライバシーも何もあったもんじゃないな」
「けれど必要SPはいかほどなんですの? 《無限アイテムフィールド》の時は(100)でしたの」
「こっちも(100)だってさ。まあ、効果的にはそれでもいい気はするが……どうする? 取ってみるか?」
その竜郎の問いに対しての皆の反応はイエス。特に幽霊船で大量に手に入れていたというのが大きい。
ならばと竜郎もSP(100)をポンと支払い、完全探索マップ機能を取得した。
《称号『地図中毒者』を取得しました。》
「地図中毒者て……。《無限アイテムフィールド》の時もそうだが、この称号考えている奴に悪意を感じるぞ」
「あはは。今度はそんな称号覚えたんだっ。でもきっと効果は凄いんじゃない?」
「まあ、《無限アイテムフィールド》の時のことを思えばそうだろうな。どれどれ──」
さっそく称号効果を確かめてみると──。
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称号名:地図中毒者
レアリティ:15
効果:リアルタイムのストリートビュー機能解放。
※ただし人は表示されない。
本称号の所持者とパーティメンバーでいる間に限り、その人物には
・《マップ機能》+5追加。
・地図画像送受信可能。
・矢印ガイド及び音声ガイド共有可能。
・互いの地図を任意の相手に可視化することが可能。
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「こっちもあたしらにも影響を与えてくれるみたいっすね。取得した覚えもないのに、マップ機能の項目が増えてるっす」
「ほんとだー。これならたつろーがいないときに迷子になっても、自力で帰って来れそうだね」
「ちょっと町を探索と言うのも楽になりそうですね」
こちらもパーティメンバーに影響を及ぼす称号で、さらに嬉しいストリートビュー機能まで追加され、今後道に迷う事もないだろう。
そんな事を考えながら竜郎も皆と同じように、自分のステータス覧を覗き込んでみた。
すると何か違和感を感じ、よくよく他のスキルを見てみれば身に覚えもないのにいくつか変化している事に気が付いた。
「なんか……知らない間に俺のスキルが、いくつか強化されているんだが……どういうことだ?」
「え?」
愛衣の疑問符と同様に、他のメンバーも何事かと竜郎のステータスを覗いていく。
すると確かにいくつか強化されているのが確認できた。
具体的には──。
《精霊魔法+5》。《強化改造牧場+1》。《魔卵錬成+5》。と、レベルの無いスキルにプラス値がつき強化され、他にも──。
《人形魔法 Lv.2→9》《捕縛魔法 Lv.1→9》。
《磁力魔法 Lv.2→9》《反射魔法 Lv.1→9》。
《封印魔法 Lv.1→9》《解毒魔法 Lv.1→9》。
《魔力質上昇 Lv.5→9》《魔法密度上昇 Lv.3→9》。
《魔法生成上昇 Lv.3→9》《魔力回復速度上昇 Lv.6→9》。
《集中 Lv.8→9》《連弾 Lv.2→9》《多重思考 Lv.1→3》。
《堅牢体 Lv.8→9》と、レベルが勝手に上がっているものも多々見受けられた。
「これは……恐らく兄さんがあの世界力の集合体へと《レベルイーター》を使った影響ではないでしょうか?
差支えが無いようなら、神様の誰かに聞いてみてはどうでしょう?」
「あ、ああ。それが一番手っ取り早いか」
ここであーだこーだと竜郎達だけで話し合うよりも、せっかくシステムの管理をしている存在と会話ができるのだから、そちらに聞いた方が確かに早い。
竜郎はリアの言葉に従って、等級神との会話を試みた。
(おーい。とーきゅーしんやーーい)
『………………なんじゃ、その呼びかけは?』
(いや、特に意味はないよ。それで聞きたいことがあるんだが、質問をしてもいいか?)
『うむ、よいぞ』
竜郎は簡潔に今見たこと話したことを等級神に伝えていくと、「ああ、その事か」とそれについて心当たりがある様子。
『実はあの時、お主がシステムが崩壊寸前まで吸ってしまったせいで、例えるのなら破裂寸前の風船のようになっておったのじゃ。
そんな状態で新たに《レベルイーター》を使ったらどうなるか、想像できるじゃろう?』
(それはヤバそうだな……)
竜郎の脳裏に、自分が破裂する映像が思い浮かび苦い顔をする。
『じゃから緊急措置として、そちらのレベル上げで消費させて貰ったのじゃ。
勝手にやった事とはいえ、お主にとっても悪い事ではないじゃろう?』
(あーそういう事か。むしろ礼を言いたいくらいだ。ありがとう。
何しろSP消費じゃどうしようもないスキルまで、パワーアップしてるみたいだしな)
竜郎は《精霊魔法+5》《魔卵錬成+5》《強化改造牧場+1》の三つのスキルを見つめながらそう伝えた。
『普通にレベルがあるスキルよりも、レベルが無いスキルの等級を上げる方が消費量も多いしのう。他のはあまりもので適当に上げただけじゃし。
まあその分便利になっておるから、良きように使ってくれ』
(ああ。解った。ありがたく使わせてもらうよ。それじゃあ、そろそろ──)
『うむ。じゃあのう』
(ああ、それじゃあまた──)
竜郎は今等級神から聞いた内容を皆に伝える。するとそちらも納得のいった顔で、何かしらのイレギュラーが発生したわけでもなかったのだと安心していた。
そのまま効果を調べていくと《精霊魔法+5》は、ただの《精霊魔法》よりもプラス分、込めた魔力以上の力を発揮してくれるように。
《魔卵錬成+5》はプラス分消費素材の減少──つまり、今まで十個必要だった素材が五個で良くなった。
「これはありがたいな。今までよりも魔卵が作りやすくなった」
「今までの二倍の効率で出来る様になったって事っすからね」
最後に《強化改造牧場+1》は、卵の状態から近縁種への孵化も選択できるようになり、雌雄の変換も出来る様に。
さらに取得させられるスキルの幅や強化力も、ほんの僅かだけだが上がったらしい。
「純粋に一個の魔卵から生み出せる魔物の種類が増えたと思っていいんですの?」
「だと思います。例えばペガサスの魔卵から、同じ馬系統の近縁種の魔物として孵化させることが出来る様になるという事でしょうから。
ペガサスですと……ユニコーンとかですかね?」
「可能性が横に広がったって感じだな。これは本当にありがたい」
とはいえ珍しすぎる魔物になると近縁種というものが存在しない為、別種に変化出来ないという事や、魔王種の魔卵などは逆に魔王科に属さない種へと変えてしまう恐れもあるので、その辺りには注意が必要との事。
そんな注意事項に頷きながら、竜郎は一旦この事を置いておくことにする。
今はとりあえずレーラとの邂逅が先だからだ。
その思いから、さっそく先ほど取得したばかりの《完全探索マップ機能》を起動した。
試しに世界地図を表示させ、現在地がこの世界の何処に当たるのか確かめてみる。
「うおっ。広いんだな、こっちの世界は」
「え? 見せて見せて」
首を伸ばして竜郎の目の前、何もない所を愛衣が覗きこんできた。
なのでさっそく称号効果にあった互いの地図を、任意の相手に可視化する機能を使い、さらに画面を拡大して皆の前に表示した。
するとそこに映し出されたのは地球よりも広い大地、広い海。
表面積ではこちらの世界の方がずっと大きいのだと、まざまざと見せつけられたのであった。




